2021年2月19日金曜日

メトヘモグロビン血症 〜アンテナはれてますか?〜

 メトヘモグロビン血症のゲシュタルトは前回の症例のような感じのことが多いです

もしくは、手術前のSPO2が低下していることで偶然気が付かれることもあります





メトヘモグロビン血症の診断は遅れやすいと言われています

理由1:自覚症状が乏しくまれな疾患である

理由2:診断に至るまでに一手間(ガス分析)必要

理由3:医師が疑うことができていない



診断が遅れることで患者さんのQOLは著しく下がります

労作時の呼吸苦が出現することで、歩くことが少なくなり、フレイルが進行したり、

心臓に負担がかかり心不全が進む可能性があります



そのため、メトヘモグロビン血症を早期に診断することができれば、

患者さんにとって、多大なメリットがあります


メトヘモグロビン血症かもしれないと、気がつけば診断は超簡単です

ガスを取れば一発で診断できます


ややこしいシンチやカテーテル検査は無用です


そう考えると、

なんと診断しがいのある病気なのでしょう!


メトヘモグロビン血症を想起するシチュエーションがいくつかありますので、

そこをおさえておきましょう


疲れやすくなった、歩くと息切れがする、歳のせいかな?

的な訴えを毎回の外来でお話しされている方の場合、

メトヘモグロビン血症を疑い、薬の見直しから始めましょう



原因

今日的にはメトヘモグロビン血症のほとんどは後天性です

そして、後天性の多くは薬剤性です


メトヘモグロビン血症を起こす薬は限られています


スルホンアミド類(サラソスルファピリジンなど)や亜硝酸塩、ダプソン、バクタを内服されている方の場合、常にアンテナをはっておくことが重要です


特に長期間入っている薬でみられますので、医師も薬が原因だとは気が付きにくいのが現実だと思います



病態


メトヘモグロビンは酸素運搬能のないヘモグロビンの機能不全構造であり、

血液の酸素化を低下させ、組織の低酸素血症を誘発します

健常人では、血中メトヘモグロ ビン濃度は低く、通常血中総ヘモグロビンの 2%未満です


メトヘモグロビン濃度が上昇すると全身に酸素を運搬する機能的ヘモグロビンが減少します

メトヘ モグロビンは酸素解離曲線を左方移動させ、

正常ヘモグロビンの酸素解放を阻害するるため、「機能性貧血」を 誘発します


このため、メトヘモグロビ ン血症は、血液と組織双方の酸素化に影響を及ぼします


メトヘモグロビンは組織へ運搬する酸素量を減少させ、

組織においては正常ヘモグロビンの性質に作用して正常ヘモグロビンと酸素の 結合を強固にするため、組織へ供給される酸素が減少します



疑うきっかけ

狙って診断することができれば良いですが、偶然気がつくパターンもあります

それが、SpO2とSaO2(PaO2)の解離です


SaO2(動脈血酸素飽和度)とPaO2は血液ガス分析装置から計算された値で、

こちらが低ければ低酸素血症と呼ばれます


一方、SpO2はパルスオキシメーターを用いて間接的に測定された動脈血酸素飽和度です

そのため、低酸素血症でSpO2は低下しますが、

低酸素血症以外の状態でもSpO2は低下します


臨床でよくあるのは、プローべがズレていたり、

寒冷に伴う末梢循環不全でうまく脈波が取れていない場合でしょう

それ以外には若年者であれば、爪にマニュキュアを塗っていたり、

高齢者であれば、爪白癬がひどい場合は、うまくSpO2が測れないことがあります


メトヘモグロビンは酸化Hbとも還元Hbとも異なる吸光度を示すため、SpO2が低下します

理論的にはメトヘモグロビンの濃度が上がれば、SpO2は85%に近づくとされています




PaO2とSpO2にはある程度の相関があり、

60-90

55-88

50-80

といった具合ですが、この相関に当てはまらず、

SpO2とPaO2(もしくはSaO2)の間に解離がある場合は、

異常ヘモグロビン血症を疑うことができます



治療

疑った後は、血液ガスを取ることでメトヘモグロビン血症を診断することができます

診断の後は、症状と値によって治療方針が異なります


%と症状の相関表が教科書的に書いてあることが多いですが、

あまり当てにしない方が良いと思われます

背景の心疾患や貧血、呼吸器疾患によって、低い%でも症状が強く出る人がいますので、

低いから大丈夫とも言えません


このあたりはCO中毒と似ています


軽症や無症状であれば、被疑薬の中止や酸素投与で対応し、

重症であれば、メチレンブルーを投与し、メトヘモグロビンを還元して正常なヘモグロビンに戻す必要があります



まとめ

・メトヘモグロビン血症は原因不明の労作時の呼吸困難や息切れの人の中に紛れている可能性がある

→メトヘモグロビン血症を起こしやすい薬を飲んでいる人が「疲れやすい」「歩くと息切れする」といった訴えがあった場合、一度、ガス(Vでも可)で評価を


・メトヘモグロビン血症は診断しがいのある疾患

→精査のための無駄な医療費が必要なくなり、簡単に治療もできて、患者さんのQOLも上がる


・疑ったら血ガスですぐに診断できる

→いかに閾値を低く疑うことができるか、アンテナを常にはっておくことが大事


2021年2月18日木曜日

息切れ・呼吸困難の病態 〜組織に酸素が届くために〜

呼吸困難の原因は低酸素血症・低酸素症を起こす病態か、それ以外か、

というのがスタート地点です


息切れや呼吸苦は脳内で感じているため、低酸素をきたしていなくても息切れを自覚することはあります

よくあるのは、パニック障害や過換気発作でしょう

バセドウ病のように代謝がUPしている時も息切れを自覚することがあります



ですが、息切れ・呼吸困難の原因の多くは低酸素血症・低酸素症に伴う病態です


そのため、息切れや呼吸困難の鑑別疾患の挙げ方としては、

頻度の多い心疾患、肺疾患、貧血から考え、

次に神経筋疾患や不安症の病態を考えていくのがよいと思います


 

息切れを訴える人のほとんどは労作時の息切れで発症します


安静時には赤血球が肺胞の毛細血管を1/3ほど進んだ段階で、血液のPaO2は肺胞気とほぼ同じレベルに達します

安静時、血液が毛細血管を通過する時間は0.75秒です


運動時にはそれが0.25秒になり、拡散障害が背景にある場合は、

酸素化が完了しないまま毛細血管を通過してしまう可能性があります

                           参考:ウエスト呼吸生理学入門


これは拡散障害がある場合の労作時の息切れの病態ですが、

それ以外にも運動によって末梢での酸素需要が高まるため、酸素供給量を上げる必要があります



酸素供給量は心拍出量とヘモグロビン濃度と酸素飽和度によって規定されています


酸素需要が高まり、それに答えるために酸素供給を上げる体の代償の過程で感じるのが息切れです

息切れの際には、心拍出量を上げるため、脈が早くなって動悸を感じることが多いです


ヘモグロビンが少なくなってしまう貧血では、酸素の運び屋がいなくなるので、

酸素供給が需要に追いつかず、他で代償しようと心臓や呼吸への負荷がかかり、

息切れ・呼吸困難を自覚します


ヘモグロビンの濃度は正常でも、ヘモグロビンが機能障害を起こし、

酸素を結合・運搬できなくなってしまうことがあります

働かなくなったヘモグロビンのことを異常ヘモグロビン(COHbやMetHb、鎌状RBC)と呼びます


異常ヘモグロビン濃度が上昇してしまうと貧血と同様の病態となり、末梢の組織や細胞に酸素が供給できなくなります

こういった病態を機能性貧血と呼びます


なので貧血には量と機能の問題があることを忘れないでおきましょう

(まさに、満たされているけど足りないのです)



酸素飽和度を上げるために、呼吸回数や一回換気量が多くなり、

その結果、呼吸仕事量がUPします


もともと神経筋疾患が背景にある場合、呼吸仕事量UPにより呼吸困難を自覚する可能性があります


まとめ

・息切れや呼吸困難の原因の多くが低酸素血症や低酸素症、つまり酸素運搬を障害しうるものが多い

→心臓疾患、肺疾患、貧血から考える

 だが、低酸素がなくても息切れ・呼吸困難を自覚する病態(バセドウ病、パニック障害など)もある


酸素供給量は心拍出量とヘモグロビン濃度と酸素飽和度によって規定されている

→血ガスのPaO2に目を奪われすぎない


・ヘモグロビンの異常は量の異常だけではなく、機能の異常もある

→異常ヘモグロビン症:満たされているけど足りない病態


2021年2月17日水曜日

東京GIMカンファレンス(後半) 〜満たされているけど足りない〜

 (前半まとめ)

潰瘍性大腸炎に対してサラソスルファピリジンを長期内服中の68歳男性


1年前からの労作時呼吸苦があり、半年前から安静時でも呼吸苦や低酸素を認めるようになった

これまで色々精査されたが、原因不明

SPO2 92%と低下しているものの、呼吸数は早くも浅くもない

心不全徴候はなく、呼吸音は清で心雑音はなし


原因不明の低酸素血症になりやすい肺高血圧やシャント疾患、

二型呼吸不全を呈する神経筋疾患の可能性が疑われるが・・・

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血液ガス所見(室内気)

PH 7.4, PCO2 37,  PaO2 105,  HCO3 24,  Lac 1.2

⇨AaDO2 =-1.5(開大なし)


血液検査

Hb 10と軽度低下、MCV 110と大球性変化あり、Reti  5.5% 

LDH 360と上昇

その他、肝酵素上昇なし、腎機能障害軽度(Cr 1.3)

甲状腺機能正常、BNP上昇なし、尿酸正常


前医で施行された検査

CXR  特記すべき異常なし、異常陰影なし

造影CT 肺動脈末梢に器質化血栓あり ⇨DOAC内服した時期もあったが、効果なし

ECG  洞調律、ST-T変化なし、正常軸

肺機能検査 異常なし

UCG    EF良好、弁膜症なし、右室負荷所見なし

肺血流シンチグラフィ 特記すべき異常なし

心臓カテーテル検査 特記すべき異常なし


Problem List

# 労作時呼吸苦

# SPO2の低下(PaO2低下なし)

# LDH上昇

# 大球性貧血

# 肺動脈末梢の血栓

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ディスカッション②:診断は?


N「CTは本当に何もないのかは確認したいですね。

  一応、肺動脈血流シンチはしたいですね。

  あ、やってますね。。。


  右心の負荷所見はないってことですね。

  ただ、右心負荷がないけど、肺の血管の病気ってありますよね。

  シャント性疾患もまだ考えるので、肺動脈造影はやってみたいですね。

  スワンガンツで一応、PCWPはみておきたいですね。


  かなり稀ですけど、肺静脈閉塞症(PVOD)みたいな病気があります。

  この人は自己免疫性疾患ありましたよね、

  そういう全身性疾患、特に強皮症とかがあると考えますね。」



K「PaO2が正常で、SPO2が低めっていうのは、

 異常ヘモグロビンがないのかは気になりますね。

  

  ニトログリセリンとか飲まれていないですよね?」


発表者「飲んでいないです」


K「サラソスルファピリジンでもなるんですかね?

 メトヘモグロビン血症・・・

 血液が黒くなったりするんでしたっけ?


 あとは貧血に関しては、LDHも上がっているので、

 溶血の要素はあるのかなと思います。ハプトとかもチェックしたいですね。」



T「はじめは、造影CTで末梢に血栓があったので、

  慢性的に肺動脈血栓みたいな病態があるのかなと思いましたが、

  SPO2 とPaO2の解離があるのであれば、メトヘモグロビン血症を一番疑いたくなりますね。

  

  SPO2 とPaO2の解離というのは、国試的なkey wordであり、

  メトヘモグロビン血症を覚えている人も多いと思いますが、

       SPO2 とPaO2の解離で一番よくあるのは、爪のマニュキュアや寒冷などの末梢の血流不全でしょう。

   文脈が大事ですね。

  

  今回は「SPO2 とPaO2の解離」があることを教えていただきましたが、

  実臨床では、SPO2 とPaO2の解離に気がつくかどうかが勝負だと思います。


  気がつけば誰でも診断できるかもしれませんが、

  気がつかなければ診断できません。

  

        おそらく、前医でも血液ガスはとられていたと思いますが、

  気がつかなかったのでしょう。


  自分も言われなかったら、気がつかなかったかもしれません・・・

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経過

血液ガス Met Hb 5!

ハプトグロビンが10以下


サラソスルファピリジンを休薬した後はSPO2上昇し、

MetHbも改善していった

貧血も改善

それに伴い症状も軽快していった


診断:サラゾスルファピリジンによる

   後天性のメトヘモグロビン血症と溶血性貧血

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メトヘモグロビン血症


病態:異常ヘモグロビンの一つであるメトヘモグロビンの濃度が2%以上となる状態です

メトヘモグロビンとは、ヘモグロビンの2価の鉄イオンが酸化されて、3価に変化したものです


症状:

〜30%:労作時呼吸困難感、チアノーゼ

30〜50%:頭痛

50〜70%:痙攣、意識障害

70%〜:死亡


メトヘモグロビンが15%未満の場合、無症状のこともありますが、

4%でも呼吸困難感が強く入院した例もあります


メトヘモグロビンの%と症状の相関は絶対ではありません


特に基礎疾患(心臓、肺疾患、貧血)がある場合は、症状が出やすいとされています

本症例も溶血性貧血が存在したため、メトヘモグロビン血症の症状が顕在化したのだと思われます


原因:ほとんどが後天性、薬剤性が多いです。稀に化学物質や職業関連があります


 循環器:亜硝酸塩

 皮膚科:ダプソン

 麻酔科:リドカイン

 PCPを予防する科(膠原病科・腫瘍内科・感染症):バクタ、ダプソン


職業関連(化学物質):アセトアニリド、アニリン色素などの染料、農薬、クロルヘキシジン



今回はサラソスルファピリジンが原因でした

本症例では潰瘍性大腸炎に対して、サラソスルファピリジン4.5g/日という高用量を内服されていました


関節リウマチで使用するアザルフィジンは1000mgが保険適応のMaxであり、

小生も他の膠原病科のDrもアザルフィジンでのメトヘモグロビン血症は、経験したことはありませんでした


理由はサラソスルファピリジンの用量にも関係しているようです


サラソスルファピリジンでの有害事象(血液:溶血性貧血)は

高用量で使用している症例に多く、用量依存性で認められるという報告もあります


今回はサラソスルファピリジンによるメトヘモグロビン血症と溶血性貧血というダブルパンチでした



メトヘモグロビン血症の診断のきっかけは、

SpO2とPaO2(やSaO2)の解離!


PaO2は動脈血ガス装置を利用して酸素分圧を測定しています


SaO2 は、動脈血ガスによる PaO2 と pH、そして体温から計算により求められるもので、[HbO2]/([Hb]+[HbO2])を反映しています


SpO2は酸化・還元Hbにおける赤色光(660 nm)と赤外光 (940 nm)のそれぞれの吸光度の比率から算出し、間接的に酸素飽和度を測定しています

メトヘモグロビンはこれら2波長を同程度の割合で吸収するため、

理論的にはSpO2 85%付近で収束し、SaO2との 間に乖離が生じます


そのため、SpO2と SaO2との間に5%以上の乖離(O2 saturation gap)を認めた際は、メトヘモグロビン血症を疑う契機となります


そして、その際にとられた動脈血液ガスの色がチョコレート色であることがヒントになります


動脈からとったはずなのに、静脈からとったように血液が黒い時は、

メトヘモグロビン血症を疑いましょう



診断:施設によっては、COオキシメーターがあればメトヘモグロビン濃度を測定できますが、

一般の施設には置いていないことが多いと思いますので、ガスの値を確認することが重要です


ルーチンで血液ガスにメトヘモグロビンが記載されている施設と、記載されていない施設があります

記載されていても、馴染みがないのでスルーされていることもありますので注意が必要です


治療:20%以下で無症状であれば、支持療法+被疑薬の中止

   20%以下で症状あれば、被疑薬の中止±メチレンブルー考慮

   20%以上であれば、被疑薬の中止+メチレンブルー


本症例は20%以下で症状がありましたが、被疑薬の中止で事なきを得られました


感想

前回に続いて、薬害は多いですね

やっぱり、病気の鑑別をあげる前に、薬の副作用で鑑別をあげることが重要ですね


メトヘモグロビン血症を診断したことは1例しかないので、

たくさん見逃している気がしてきました・・・


メトヘモグロビン血症を引き起こす薬や化学物質がこれほど多いとは思わなかったので、

注意しようと思います



「薬を隠すなら薬の中」という名言通り、

薬害もポリファーマシーがあると見つけにくくなってしまいます


自分への戒めも込めてですが、

医師は足し算が好きですが、引き算が苦手です


自分が意識していることとしては、

何かの薬をinする時は、何かの薬をoutするように心がけています


日々の生活で断捨離や片付けが苦手な医師は、ポリファーマシーの傾向がありそうですね(笑)

どなたか研究テーマにいかがでしょうか



まとめ

・労作時の呼吸苦の原因は心臓か肺か貧血にあることが多い

→忘れがちなのは、二型呼吸不全を呈する神経筋疾患や右左シャント疾患


・貧血には2種類ある

→ヘモグロビンの絶対量が足りなければ、普通の貧血

 足りているが働いてくれなければ、機能性の貧血(異常ヘモグロビン血症)


・メトヘモグロビン血症は疑わないといつまで経っても診断できない

→症状が非特異的であり、アンテナを張っていないと見逃してしまう。血ガスの色とSaO2(やPaO2)とSpO2のギャップに注目

  

  

2021年2月13日土曜日

東京GIMカンファレンス(前半)  〜満たされてるけど足りない〜

 93回目の東京GIMカンファレンスに参加させていただきました


前半はシステム2で解剖や病態生理を考えますが、それらが全て除外され、

後半はシステム1で一発診断という、とても勉強になる症例でした

普段からあまり注意していなかったですし、

見逃している気がしてきましたので、改めて復習しようと思います

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68歳 男性 主訴:呼吸困難

(※症例は一部、修正・加筆を加えてあります。

 発表者やコメンテーターの先生の許可もいただいております。

 当日は緊張して発言できなかった追加コメントものせております。)


Profile:潰瘍性大腸炎に対してサラソスルファピリジンを長年内服中


現病歴:来院の1年前から労作時の呼吸苦を自覚

    半年前から安静時の呼吸苦や動悸が出現してきた

    新型コロナウイルス感染が不安であり、

    自分でSPO2モニターを購入し測定していた

    安静時はSPO2 90%、労作時は80%台に低下、就寝時は60%まで低下することもあった

    複数の医療機関で精査が行われたが、原因は不明であった

    その後も症状の改善がみられないため、受診


既存症:潰瘍性大腸炎

内服:サラソスルファピリジン

アレルギー:なし

生活:喫煙never、アルコールなし、仕事は会社員


バイタル 血圧140/70、脈 80、SPO2  92%(室内気)、呼吸数 16回/分

見た目 しんどそうだが、呼吸様式は浅くも深くもなし

身体所見 眼球結膜 蒼白なし

頸静脈 怒張なし

呼吸音 左右差なく清  心雑音 なし

腹部 特記すべき所見なし

下肢 浮腫なし

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ディスカッション①追加でとりたい病歴や身体所見、検査は?


N「まあ、この状態だと色々な病気がありますよね。

 もちろん、肺の器質的な疾患や血栓などもあり得ます。


 でも、SPO2 60%まで下がるのって相当ですね。

 ここまでの経過だとシャント性疾患があるのかなと思いました。」


K「これまでの医療機関で診断がされていないということは、

  単純な病気ではないんだろうなとは思います。

  原因不明の呼吸苦や動悸で酸素化が下がっていなければ、

  精神的な要因でしたね、ということは普段からよく経験します。

  

  ですが、今回は酸素化が下がっているので、

  何かしらの身体的な病気があるのだと思います。


  おそらく一般的な検査ではわからない病気なのだと思いますが、

  まずは一般的な疾患を検索していくのは大事だと思います。


  例えば、COPDの変化がないかを身体所見で簡単にとりたいですね。

  胸鎖乳突筋の肥大や気管短縮、胸郭の変形、口すぼめ呼吸などはすぐにとれるので、チェックしたいです。


  あとは、志水太郎先生が

  息切れは、肺か心臓か貧血に問題があると仰っていましたね。

  今回は息切れと言っていいかはわかりませんが・・・

 

  まあ、貧血でSPO2 は低下しないと思うので、この段階では肺か心臓の問題を考えたいですね。」


T「酸素化が低下する原因として、

 肺胞低換気、拡散障害、換気血流不均衡、シャントという病態がありますが、

 ここで前医での検査で診断がついていないということは、

 CTは異常なかったということだと思います。


 そうすると、

 CTが正常で原因がはっきりしない低酸素血症というジャンルに落とし込めると思います。

 

参考:低酸素なのにCTがきれい      


    

  単純CTが正常ということは、

  COPDや心不全、間質性肺炎といった拡散障害の可能性は低くなり、

  肺胞低換気、換気血流不均衡の病態、シャント疾患の可能性を考えます。


  まずは肺胞低換気、つまりAaDO2が開大しないタイプ、

  CO2が蓄積するような二型呼吸不全をきたしていないかが気になります。

    

  例えば、ALSの人は夜間に低酸素になって頭痛をきたしたり、

  不眠になることがあります。

  今回の症例では夜間の低酸素が目立つので、

  SASのこともあるので、睡眠状況は確認したいです。


  あとは全身の筋力低下や体重減少がないかを確認したいです。


  血液ガスをとってAaDO2の開大かあれば、シャントや換気血流不均衡の病態を考慮するので、

  造影CTにて血管系の問題(肺塞栓、シャントなど)がないかどうかを考えます。

        シャントや肺静脈血栓症はその目で疑ってみないと見逃すことが多いです。」


N「シャント疾患って本当に難しいんですよ。

  割と見逃されていることがあって。」


H「シャント性疾患だとplatypneaがあるかは気になりますね。」








参考:Cathet Cardiovasc Interv 1999; 47: 64-6.

仰臥位になると呼吸困難が増強するため、起坐で呼吸 している状態を起坐呼吸(orthopnea) と呼び、

逆に立位や坐位では呼吸困難が増強するため仰臥位で呼吸している状態を扁平呼吸(platypnea)といいます

扁平呼吸(platypnea)は立位にて動脈の酸素飽和度が低下するorthodeoxia ために起こると考えられており、platypnea-orthodeoxia syndrome(POS)と呼ばれます


さらに、POSはCardiac POSとnon cardiac POSに分類されます

・Cardiac POSは解剖学的な心内シャント(PFO、ASD)に加え、体位変換で右左シャントを増強させるような機能的異常があることが多い

・non cardiac POSは解剖学的な肺内シャント(肺動静脈奇形、換気血流不均等)に加え、体位変換でシャントを増強させるような機能的異常があることが多い

Cardiology 2012;123:15-23

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前半の感想

1stインプレッションは、肺高血圧か、右左シャント疾患?

労作時の呼吸苦のプレゼンテーションは肺高血圧っぽいが、

安静時でも酸素化の悪化が目立つのが、違和感がある

一応、膠原病(特に強皮症やMCTD)らしさがないかはチェック


心内のシャント疾患であれば、心雑音があって欲しいが、ないのでこれも可能性は下がる

あるとすれば、肺内シャントか

造影CTが見たい


造影CTで見逃す可能性があるとすれば、

慢性肺動脈血栓塞栓症や肺静脈血栓症、PTTM、IVLのような肺の血管が閉塞するような病態はあってもよいかもしれないが、

PTTMやIVLだったら途中の検索で悪性腫瘍が見つかっているか、途中で亡くなっているであろう


心不全は労作時の呼吸苦を呈するcommonであり、一番最初に想起するが、

診断できない病態ではない

心不全の中では、収縮性心膜炎からの右心不全は見つけにくい疾患なので考慮するが、

あまりに心不全兆候がないので、違いそう

ただ、体重変化がないかは気になる


夜間の低酸素が目立ち、二型呼吸不全を低する疾患群も疑わしいが、

呼吸数が少なく、呼吸様式が浅くないので、これも違和感が残る


日内変動や眼瞼下垂、enhanced ptosisがあれば、MGをググッと疑う

体重減少があれば、バセドウ病やALSを積極的に疑うであろう


UCGと血ガスで進む方向が変わってくる

二型呼吸不全側で行くか、肺の血管のトラブル側を詰めに行くか



だが、あまり病態的にバチッとハマるものがない・・・

なんだろう、この違和感・・・ 

何か見逃しているような気がする


(前半終了)


2021年2月8日月曜日

日本一朝早いカンファレンス 〜木を隠すなら森の中〜

82歳 男性 主訴:嚥下後のつかえる感じ(※症例は一部修正・加筆を加えてあります)


Profile:ACOに対してICS吸入中、OMIとCHF、Afあり、近医通院中


現病歴:2週間前に左前頭部の帯状疱疹に対して、

    皮膚科よりバルトレックス処方された

    2日前から嚥下後にのどからみぞおちにかけて、つかえる感じがあった

    固形物も液体もつかえる感じあり

    内科外来を受診


既往歴・既存症:ACO、OMI、CHF、頸椎の椎間板ヘルニア、便秘、糖尿病、高血圧

        脂質異常症、前立腺肥大症


内服:ラニラピッド、ブロプレス、ネキシウム、アミティーザ、ジャヌビア、

   リピトール、プラザキサ、アムロジピン、タムスロシン、アレジオン、

   エビブロスタット、プルゼニド、ハルナール、アボルブ、フルタイド


生活:喫煙 20本を毎日、現在は禁煙中 飲酒 なし、独居

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ディスカッション①他に聞きたいことはありますか?


T「急性に出現した嚥下困難ですね。他に何を聞きましょうか?」


こういうのははじめてですか → はじめて

吐き気や嘔吐は? →  なし

慢性咳嗽はあり

しみる感じは? →  不明

呑酸は? →   不明

魚食べた?骨刺さった?  →   不明

咽頭痛は?  →   なし

嗄声は?   →   なし

筋力低下のエピソードは?  →     なし

日内変動は? →   なし


T「いいですね。だいたい聞きたいことは聞けましたか。

 急性の嚥下障害の枠組みで考えるのが良さそうです。

 まず嚥下障害を大きく、咽頭の問題か、食道の問題で分けるのがいいですね。

 

 そのためには、

 どこでつっかえる感じがあるかを手で示してもらうのが、一番早いですね。


 今回はどの辺でつっかえる感じがあるのでしょうか?」


M「そうですね、喉仏よりも下の首のあたりから、みぞおちのあたりまで

  広範囲にわたってつっかえるような仕草をします。」


T「わかりました。それは、食道の問題っぽいですね。

 食道の問題らしいなと思ったら、今度は物理的な閉塞か、機能的な閉塞を考えます。




 よくある質問は固形物と液体で何か違いがあるか?ですね。


 今回は液体でもつっかえるとのことで、アカラシアをはじめとした機能的な疾患を考えたくなりますが、絶対ではありません。

 参考:治せる可能性のある嚥下障害


では身体所見をお願いします。」

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バイタル

T 36.5   BP  130/79   P   90    SPO2   95%   

見た目 お元気そう 

頭頸部 咽頭 発赤なし 白苔なし

頸部LN触れず 甲状腺 腫大なし

呼吸音 清  心雑音なし

腹部 心窩部に軽い圧痛あり

下腿 浮腫軽度あり


神経診察 

脳神経 軟口蓋の左右差なし、嚥下問題なし

眼瞼下垂なし

筋力全てMMTは5/5

小脳失調なし 固縮なし

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ディスカッション②さてどうしましょうか?


T「身体所見ではパッとしませんね。

 他にとりた所見ありますか?」


N「開鼻声はありましたか?」


M「なかったと思います。開鼻声って僕みたいな声のことですか?」


T「逆だね。笑

 俺もだけど、鼻詰まっている声だね。

 開鼻声はその耳で聞かないと見逃してしまうことが多い。


 狙っていないと、まあこんな声かな〜と思ってしまう。


 開鼻声を自分で真似したかったら、

   まず鼻の下にipadやiphonの黒い画面をセットします。

 そして、普通に何か話してみてください。

 鼻息が少し出て黒いところに白い鼻息がうつると思います。


 その鼻息を広げるように何か話してみてください。

 それが開鼻声の声です。



T「さて、

 緊急性が高い嚥下障害の代表は重症筋無力症やGBSの亜型、ALSです。

 なぜなら、それらは急速に進行して2型呼吸不全を呈したり、

 食事で窒息することがあるからです。

 

 咽頭レベルでの嚥下障害であれば、強く疑い血ガスをとるべきですが、

 今回は問題は食道レベルのようなので、必要ないかもね。


 そういえば、國松先生の「くにまつリスト」の本の嚥下障害にはどんな鑑別載ってるんだろう?」


N「えーっとですね、

  食道癌、強皮症、多発筋炎、アカラシア、ALSですね。」


T「なるほど。そうなんだ。

 自分だったら、アカラシア、重症筋無力症、ギランバレー、帯状疱疹、ALSかな。


 嚥下障害だけでくるMGとGBSと帯状疱疹とALSって鑑別大変なんだよね。

 詳しくはこれ読んでください。笑



臨床雑誌内科 126巻5号 (2020年11月)pp.997-1004



 まあ、今回は嚥下障害といっても食道レベルなので、

 これ以上は画像や内視鏡検査が必要そうですね。」

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CT 

中部食道レベルは食道が拡張しており、その遠位に食道壁の肥厚を認めた

噴門部や胃壁の肥厚は認めず

周囲のLN腫脹はなかった

大動脈の蛇行は強かった

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ディスカッション③診断は?


T「食道が拡張して、その先の食道壁が肥厚していて、そこに何かありそうだね。

 これは内視鏡検査してもらうしかないね。

 他に何か気がつくことありますか?」


N「食道壁の肥厚がありますが、癌にしては縦に長すぎる気がします。

 どちらかというと、癌よりは炎症性の病態を疑いますね。」


M「僕もICS吸入していたので、カンジダ食道炎だと思っていました。

 そして、上部消化管内視鏡検査を予約しました。」


内視鏡検査 

食道胃接合部には炎症なし

食道裂孔ヘルニアなし


中部〜下部食道に縦に走る白苔を伴う潰瘍あり

腫瘍性病変は見られず

アカラシアを疑う所見なし


T「んー??

  なんだこの白苔がついている縦に長い潰瘍は?

  

  普通のGERDじゃなさそう・・・

  みんな診断はわかったかな?」


N「GERD」


Y「カンジダ食道炎」


K「GERD」


Y「薬剤性の食道炎」


T「!!!

   あーーー、それだ!!


 プラザキサだ!!!!そういえばのんでたね。見落としてたー。


 GERDにしては、接合部がきれいすぎて、場所が変だなあ〜って思ったんだよね。

 カンジダっぽくもないし、縦走潰瘍だからクローンかなと思ったけど、

 この年で?って感じだし、

 何か変な食道潰瘍だなあ〜って思ったけど、プラザキサの食道潰瘍なら納得だね。」

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病歴を聞き直すと、

プラザキサに関しては、以前から内服しており、最近始まったわけではなかった

薬は少量の水と一緒に飲む

薬をのんだ後はすぐに横になることが多い


その後、プラザキサをリクシアナ®︎に変更し、服薬指導を行った


・薬はたくさんの水分(少なくとも100ml:コップ一杯程度)と一緒に飲むこと

・薬をのんだ後はすぐに横にならず、立位でいること

・それが難しければ、食事中に内服してもOK



プラザキサの変更と服薬指導にて、症状は軽快した


診断:ダビガトラン(プラザキサ®︎)による食道粘膜障害

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ダビガトランによる食道炎

薬剤性食道潰瘍の自覚症状は薬剤服用後数日で突然発症する嚥下時の胸痛が典型的

 胸焼け、嚥下困難、持続する胸痛など非典型的な症状を呈する場合もあり、

 内視鏡検査を含めた各種検査により他疾患との鑑別が必要

・ダビガトランによる食道炎は、剝離性食道炎やダビガトラン起因性食道炎(dabigatran induced esophagitis:DIE)と言われる

・日本からの報告例が多数

・よく引用される文献 ↓


ダビガトラン服用中 91 例の内視 鏡像を検討し、
約 20%に白色膜様物の付着を認めたと報告
有症状ではさらに頻度が高かった


Okada らが報告しているダビガトラン起因性の食道潰瘍の内視鏡像も同様に

中部食道に膜様物が付着した潰瘍性病変


 Journal of Gastroenterology and Hepatology 31 (2016) 610614




機序:ダビガトランによる直接の細胞障害性の機序や

   酒石酸との相互作用等は現時点では不明


原因:薬が食道に停滞することは原因の一つ

 ①服用方法:服薬時の飲水量や服薬後の体位

 ②背景の解剖学的問題:食道癌、食道裂孔ヘルニア、左房や大動脈からの圧排

 ③背景の機能的問題:アカラシア、抗コリン薬


治療:ダビガトランの中止と制酸剤および粘膜保護剤の投与が一般的   

  だが、服薬指導だけで改善するケースもあり、薬剤の中止は必須ではない

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本日の学び

・プラザキサでこんな副作用があるなんて知らなかった

・プラザキサによる食道粘膜障害は知っていたが、こんな嚥下困難のプレゼンテーションで来るとは思わなかった

・プラザキサが、たくさんある薬の中に埋もれてしまっていた



まとめ

急性の嚥下障害の人を見たら、咽頭か食道の問題かに分けて考える

→どこで詰まった・つかえる感じがあるか、手で触ってもらう


・急性の嚥下障害の緊急疾患は、2型呼吸不全や窒息を起こしてしまうような疾患

→MG、ALS、GBSの亜型


・プラザキサ®︎(ダビガトラン)内服している人の場合、食道粘膜障害は常に疑う

本日のパール「薬を隠すのは、薬の中」

Where is the answer ?

吉田松陰先生を彷彿とさせるような先生達が集う 勉強会で症例提示させていただきました ※症例は一部修正・改変しております  

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