2019年2月28日木曜日

癌患者の複視

複視ががん患者で起きた場合を考えてみます

がんがある場合、

普段考えない鑑別が出てきます


それは、頭蓋骨底への転移やがん性髄膜炎です

脳転移は誰でも考えますが、

頭蓋骨底への転移は忘れがちです


脳梗塞を疑って、MRIをとられることもあるとは思いますが、

MRIをとっても見逃してしまいます


そして、後日、読影レポートをみて、

ショックを受けます


自分も一度、ありました


頭部のMRIで骨まで狙って、

見ている人はどれくらいいるでしょうか


がん患者さんで脳神経症状があって、

MRIをとったら、骨をしっかりみましょう

骨メタがあると、頭蓋底がDWIで光っていることもあります


患者さんが複視を訴えた場合、

分かりにくければ、enhanced ptosisをしてみると

はっきりすることがあります

enhanced ptosisは、反対側を指で持ち上げると、

眼瞼下垂がはっきりしてくる所見です

重症筋無力症に特徴的といわれますが、

実際は微妙な例があったり、難しい印象です

ですが、すぐにできるので、やってみるのはありだと思います




頭蓋骨底へのメタは

肺癌や乳がん、前立腺がん、リンパ腫、大腸がん、腎臓がんで多いです


そして、頭蓋骨底の部位は錐体骨や斜台で多く、

外転神経麻痺を引き起こすことが多いとされています



単独、もしくは多発している脳神経の異常を見た場合は、

頭蓋骨底への転移の他にも、

帯状疱疹や脳底を侵すタイプの髄膜炎や肥厚性硬膜炎を考えます

なので、最初からMRIは造影で撮影し、

矢状断があると、診断に近づくと思われます

重症筋無力症患者の呼吸苦

重症筋無力症患者が苦しいといって、

やってきたら、相当困ります


きたよ、クリーゼ・・・困った・・・


と考えるのが、普通でしょう


クリーゼだったら、まず何をするんだ??

と頭が真っ白になりそうですが、

とりあえずやることは、気道の確保です

ステロイドパルスとか、IVIGとか、血漿交換とか、

難しい話は抜きにして、

まずは気道をどうやって守るかだけに専念すればよいです


分泌物が多ければ、挿管しかないと思いますが、

分泌物が多くなければ、NPPVでもよいと思います


なので、MG患者さんが苦しいといってやってきたら、

人工呼吸管理が必要かどうかを

すぐに判断します


そして、待てそうであれば、病態を考えます

クリーゼには二種類あるのは、

国試でもよく出てくることです


重症筋無力症のクリーゼと、コリン作動性のクリーゼです

実際はどちらもかぶっていたり、

難しいことがあるので、

コリンエステラーゼ阻害薬は基本的には中止します

診察で両者を分けるために、

ムスカリン作用のチェックや

線維束攣縮のチェックを行います


そして、クリーゼに至った背景や他の病態を考えます

MGの人もインフルエンザや普通の細菌感染症にかかります

さらに免疫抑制剤使用中であれば、PCPやレジオネラといった、

免疫不全者にかかりやすい肺炎にもなるかもしれませn

そして、ADLが落ちていて、下肢に浮腫があったりすれば、

肺塞栓を起こしているかもしれません


重症筋無力症の人の呼吸苦だから、クリーゼでしょう!

で、思考をとめると、背景にある疾患を見落とすことがありますので、

注意しましょう


クリーゼにいたる原因で多いのは、

薬の飲み忘れや感染症、そしてMGを悪化させる薬を処方されている

手術、外傷などです








複視

複視は嫌な主訴です

特に眼球運動が正常な複視が一番困ります

あれ?

しっかり動いているじゃないか・・・

でもダブって見えるっていうし、どういうこと???

となります

複視の症状の出だしは眼球運動が普通に動いていることもあり、

他覚的に異常をとらえるのが難しい時もあります


医者になって、一番最初に出会った複視の人の主訴は、

20歳代の女性の「物の焦点が合わない」とのことでした

物が二重に見えることはないが、

両目で見た時だけ焦点が合わないということで、

眼球運動はしっかり動いていたので、

よくわからず、帰宅としました

そしたら、

翌日に呂律不良、複視、ふらふらして歩けない

ということで再診して、ミラーフィッシャーでした


複視をみたら、もちろん他の神経診察をしますが、

ここでは複視単独の異常
(つまり眼瞼下垂や眼球突出など、見た目では異常がない)

であった場合を考えてみます



その際の複視のチェックの仕方は、

①まずは単眼性か、両眼性かどうか

両眼性で見て複視があって、はじめて両目のコーディネーションの問題になります

忘れがちですが、必ずチェックしましょう


②眼球運動はどうか

これが、また難しい

動きがおかしいと感じた場合は、

あとで見返すことができるように、動画で撮影させてもらうのがベターかと思います

眼球運動は4方向ではなく、6方向で確認します


③どこで一番複視が強くなるか

二重に見えますか? → はい

ではだめです

二重に見えるといっても、

どれくらい重なっているか

どれくらい離れているか

上下なのか、横なのか

を確認します

そうすることで、他覚的な眼球運動以外でも

やられている外眼筋を特定することができます


④眼球運動で痛みはあるか

ミラーフィッシャーも時に眼痛を伴います

眼窩蜂窩織炎も痛みがあります

実は、糖尿病も痛みを伴うことがありますが、

やはり糖尿病患者の動眼神経麻痺で眼痛があった場合は、

他の疾患を考慮した方がよいと思います








複視をみたら、それぞれの目を動かす筋肉と支配神経に思いを馳せます


特定の神経の障害であれば、話は簡単で、

それぞれの神経麻痺の鑑別を進めていきます


その際には、それぞれの神経走行の解剖を頭にいれて、考えることが重要です



2019年2月26日火曜日

抗生剤関連脳症

抗生剤関連脳症


これが一番問題になるのは、ICUです

敗血症性ショックで意識障害あり

抗生剤投与している

バイタルはよくなったけど、なぜか意識が改善しない

髄膜炎があるかもしれない

しかし、ルンバ―ルしても、異常なし

ならば、よくいわれるNCSE(非痙攣てんかん重責)か

と思って脳波とるが、

なんだか非特異的な徐波ばかりで、何らかの脳症としか言えず

しょうがないから、セルシンやホストインチャレンジテストしてみるが、

あまり効果はみられない


残るは薬剤性の脳症ということになりますよね


そこで、抗生剤を疑えるかどうか、です


メトロニダゾールやアシクロビル、セフェピム脳症は有名になりましたが、

それだけではありません


ピペラシリンでも、セフトリアキソンでも、カルバペネムでも、

キノロンでも、マクロライドでも 起きます


原因不明の意識障害の時に、大事なのは、

いかに早く抗生剤関連脳症を疑い、

他の抗生剤に変更できるかです


治療はやめるしかありません

もしくは抗生剤の種類によっては、透析という手もあります


血中濃度を測定して診断するのは、現実的ではないので、

抗生剤を変更して経過みて、改善するようなら、

そうだったのかもしれないね

で終わることが多いと思います


抗生剤関連脳症が起きやすい人がいます

ポイントは、

薬の要因 × 患者の要因です

・薬要因

脳症を起こしやすい薬があります

薬のdoseが多すぎるとなりやすいです

長期に及ぶと起こりやすいものもあります

併用薬にも注意が必要です

キノロンとNSAIDS

カルバペネムとバルプロ酸などです


・患者要因

注意しなければならないのは、腎機能の見積もりです

どうしても、重症な感染症だと、

doseが少ないために、治療が上手くいかないという

可能性を消したいので、やや多めに投与してしまいがちだと思われます


腎機能が悪化した場合にも、漫然と抗生剤の量を変えていない場合には、

注意が必要です


ピットフォールとして、

ICUに長くいると、ICU-AWになってしまい

筋肉がなくなってきて、

Crでみると見かけ上は腎機能が保たれているような人がいます

そのような場合は、腎機能はCrでみるよりももっと悪いかもしれないので、

注意しましょう



抗生剤関連脳症を診断するには?

臨床的な診断につきます

経過を年表にかいて、いつから意識がおかしいか

薬を入れて何日目か

などを愚直にまとめあげるしか、気が付けないと思われます


中止して、どれくらいで改善してくるかは、症例によって様々ですが、

投与期間が長くなったり、半減期の長いもの、

組織中に溶け込んでしまっているものは、

改善してくるのに時間がかかるものと思われます


MRIや脳波は決めてにはなりません

どちらかというと、除外の上に成り立つ疾患なので、

他を除外するという意味合いが大きいと思われます




・抗生剤関連脳症は3つのタイプに分けられる

type1

ミオクローヌスや意識障害、痙攣するタイプ

おそらく起きていることは、非痙攣性てんかんや複雑部分発作、

もしくは、普通の痙攣発作なのだと思われます

こういうタイプはMRIが正常なことが多いです


type2

精神異常が強いタイプです

精神科疾患や離脱が鑑別になるかもしれません


type3

メトロニダゾールによって起こる脳症です













抗生剤を使うことは日常茶飯事です

ですが、

抗生剤関連脳症に出会ったことがあるという人は、

少ないのではないでしょうか?


それは、診断が難しい

というのもそうですが、

おそらくは見逃しているのだと思われます


自分が初めて経験したのは、外科からのコンサルトの患者さんでした

消化管穿孔の手術後、メロペン®使用中で、

入院して数日後から急にレベル300になる時が、

数時間続くようになった

ということでコンサルトがありました


見に行っても普通に会話できて、何の症状もありません

とりあえず、またレベルが悪化したら呼んでもらうようにしていると、

確かに、レベル300になっている時があり、

そしてその日のうちには、また意識清明になっていました


これはメロペン®によって誘発されたのでしょう

ということで、他の薬剤に変更すると

意識が悪くなることは、パタリとなくなりました


この症例を通じて、抗生剤関連脳症は確実にある

と思いました


病棟でやたらと寝ている高齢者をみて、

低活動性せん妄を疑ったら、

一度は抗生剤関連脳症を疑ったほうが良いかもしれません



抗生剤関連脳症のまとめ
・起こりやすい人の見積もりをする
→薬要因×患者要因

・疑ったら、早期に中止する
→漫然と投与し続けると、回復に時間がかかる

・ICUで原因不明の意識障害の場合に、
 NCSと共に鑑別に上げる

・病棟の低活動性せん妄の鑑別に、
 抗生剤関連脳症を鑑別に上げる

肺炎球菌予防接種後の蜂窩織炎様反応

予防接種後に起きた生体に起きた不利益な反応はすべて有害事象と呼ばれます

なので、予防接種とは全く関係ないことも多く含まれます

偶然のけがとか、ウイルス感染とかです


これとは別に副反応は予防接種によって起きた本来の目的以外の反応の総称です

つまり予防接種をしなければ、絶対に起きなかったことです


肺炎球菌予防接種後の副反応で、注射した部分が腫れることは有名です

注射部位の疼痛、紅斑、硬結を指す局所反応(Arthus反応)です

けっこうひどい人は上腕全体から、前腕にまで及ぶこともあります

ピークは2.3日で局所を冷やしたり、抗ヒスタミン薬の塗布などで消退します

筋注の方が発生頻度は低いとされています


2.3日たっても改善しなかったり、全身の反応(発熱、嘔吐、寒気)が強い場合には、

蜂窩織炎になってしまった可能性を考えます




肺炎球菌予防接種後に腕がパンパンになった人をみたら

①ただの局所反応

冷却や抗ヒスで治るのを待つ


②蜂窩織炎合併

かきむしったり、注射した時に細菌を押し込んだ可能性

抗生剤投与が必要かもしれない


③壊死性筋膜炎ばりに、全身状態悪化

ベーチェット病が背景にあるかもしれない

もしくはMDSのトリソミー8を考える


ベーチェット病が背景にあると、

ニューモバックス®投与にて、

蜂窩織炎様の反応と強い全身症状や炎症がでることが知られています


ベーチェット病の検査として、針反応は有名です

なるほど

予防接種が針反応のようになったのか

と考えたくなるのですが、

どうやらそうではないようです

針反応が陰性でも、この反応がでるようです


ベーチェット病患者さんは口腔内の細菌の関与が病態の発症に影響しているのではと

考えられており、口腔内の連鎖球菌に過敏であることが知られています

日本のベーチェット病の診断基準の参考となる検査所見にも

「連鎖球菌ワクチンによるプリックテスト」としっかり書いてあります



そのため、連鎖球菌に過敏なベーチェット病患者さんに、

連鎖球菌を皮膚に投与することで、

TLRをトリガーとして、インフラマソームを活性化させ、

炎症を惹起させると推測されています


ということで、

ベーチェット病やMDSのトリソミー8が背景にある人に、

ニューモバックスを打つ時は、ひどい蜂窩織炎様の反応や

全身の炎症が強くでる可能性があると覚えておきましょう