2019年4月12日金曜日

皮質症状のでる皮質下の脳梗塞

脳梗塞を疑ったら、部位診断をするために、詳細な神経診察を行います

ポイントは3つです

①後方循環系(椎骨動脈)が支配している脳神経症状や視野障害があるかないか


②後方循環系の症状がなければ、前方循環の可能性があがるので、
 次は、皮質症状(失〇:失認、失語、失算や半側空間無視)があるかどうか


③上記がなければ、小さな梗塞の可能性が高く、ラクナ梗塞の可能性があります
 ラクナ梗塞には、pure motorやpure sensory、ataxic hemiparesis、
 dysarthria-clumsy hand、sensorimotorがあり、
 それぞれの病型で病変部位が限られてきます


原則は上記の流れにそって、部位診断を行います

ですが、例外もあります



先日、高齢男性が、運転中に

言葉が上手くいえなくなったり、言葉が出てこなかった

という主訴で来院されました

来院時にはすでに呂律不良や失語はなく、症状は30分で改善したようです

麻痺はその際にはみられなかったようです

症状は全く残っていなかったので、TIAと診断しました


「失語」ときくと、左のMCAが灌流する領域の梗塞で起こることが多いので

MRIの読影には、左のMCA領域の梗塞の有無の確認

と書いて、MRIをオーダーしたところ、、、

結果、右の基底核の脳梗塞でした


えー

でも失語は???

と思って調べると、基底核でも失語でてよいのですね

皮質下失語、線条体失語、視床性失語とよばれます

なので、原則②の皮質症状があれば、皮質がやられているかというと、

実はそう単純ではありません


基底核領域や視床を含む脳の中心部分が障害されても、

皮質症状はでることがあります


脳の中心部分は大事なためか、一つの血管で支配されているわけではありません

多くの動脈がひしめき合っています

ややこしいので、まとめてみました



知っておくといいのは、

外側線条体動脈の梗塞とアンコロの梗塞です

視床は大変なので、また今度にします






線条体内包梗塞

中大脳動脈からでる穿通枝の外側線条体動脈の梗塞です

穿通枝の梗塞ですが、ラクナよりも大きな梗塞であり、

心原性、アテローム性、Atoaのどれかが原因になっています

形は三角形型やコンマ型のことが多いです


基底核が障害されても無症状で終わる人もいますし、

ちょっと元気がなくなったかな、くらいの人もいます

内包までかぶってくると、麻痺がでて気が付かれます


基底核の障害だとどんな症状が出てくるか、

想像しにくいですが、

パーキンソンみたいな症状がすぐにでることはありません


失語や半側空間無視といった皮質症状がでることがあります


皮質ではないので、わざわざとらないかもしれませんので、

SCIをみたら、半側空間無視はチェックしましょう






前脈絡叢動脈の梗塞

いわゆるアンコロとよばれる動脈の梗塞です

内頚動脈の最終枝です

同名半盲、片麻痺、感覚障害の三徴があるとモナコ―症候群と言われることもあります


が、三徴そろうことは稀です

むしろ、他の皮質症状がでることもあります

やられる場所はとても小さいのですが、

非常に多彩な症状を呈してくるのが、この梗塞の特徴です


その原因は多くの部位を灌流するのですが、

他の血管との吻合も多いので、一人一人症状が異なります





まとめ
・脳梗塞の部位診断を考える時のポイントは、
 ①脳神経症状や視野障害の有無
 ②皮質症状の有無
 ③ラクナのどの病型か

・①、②には例外があり、
 失語や意識障害、自発性の低下、視野障害といった
 皮質症状の場合は、基底核領域や視床梗塞の可能性がある

・外側線条体動脈とモナコ―症候群を知っておく



2019年4月11日木曜日

神経診察の難しさ

神経診察は3つの難しさがあると思います

①神経診察が多すぎて、何をとっていいのか分からない
 ・脳神経、運動、感覚、小脳、歩行、認知機能、高次機能などいっぱいありすぎ

②診察の手技に自信がなく、うまく取れているのか分からない
 ・腱反射が上手く出せていないのか、それとも本当に出ていないか判断できない

③とった所見の解釈ができない 
 ・rigidityっぽいが、力が入っているだけなのか、よくわからない


今回は①について個人的な考えを述べたいと思います



神経診察は、ケースバイケース

と誰かが言っていました

その通りで、患者さん毎にとるべき所見は、ばらばらです

ですが、時間のない時は、重要性の高い所見は落とさずに診察することが大事です

脳梗塞を疑っている人に、嗅覚検査は重要度が下がるでしょう

ですが、パーキンソン病を疑う人には嗅覚検査は重要です


時には、疾患特有の所見を取りに行く必要があります

例えば、ALSを疑うのであれば、下顎反射や線維束攣縮などです


このように、症例ごとにとるべき神経診察は異なります


では上級医の先生はどのように、

症例ごとにとるべき神経診察を選んでいるのでしょうか


自分としては、このような感じです


症状とTPOTPと鑑別疾患が重要です






神経診察は時間がかかります

そのため、TPOがかなり重要です

これが他の診察との大きな違いです


なので、自分が診療をしている状況を、一歩引いて見なおします


診察している時間は、発症して何時間経っているのか

日中や夜間帯か、

場所は診療所なのか、救急外来か、病棟か、

状況は時間をかけて診察できるか、できないか

応援をよべば誰か来てくれるのか、来てくれないのか

人(患者)は神経診察に協力できるか、脳梗塞リスクはあるか


といったように、

TPOにP(person もしくはpatient)を加えたTPOPと、

症状とPをもとにした鑑別疾患から、

とるべき神経診察は変わってきます


例えば、左上下肢の脱力という主訴でも、発症して一時間であれば、

すぐにNIHSSをとったり、応援をよんだり、画像評価にすぐに行きます






一方で、同じ主訴でも

発症して、1日たっていれば、

すぐにNIHSSをとったところで、tPAに行けるわけではないので、

じっくり診察して、病変部位やetiologyを明確にする必要があるかもしれません





しかし、状況が混んでいる外来となると、



そんなに細々、診察していたからといって、

大きく治療方針が変わらないのであれば、ざっくりとした診察でもよいかもしれません


年齢によっても疑う病気は変わってきます

疑う病気が変われば、とるべき所見も変わります




両下肢の脱力が高齢に起きたら、まずは普段のADLや認知機能を確認したいですよね




このように疑う疾患が異なれば、

とるべき所見は変わります

ですので、疑えないと診察できません



例えば、めまいです

小脳やBPPV、メニエールとかは思いつくかもしれません

そして、それらを疑った所見をとります

しかし、これではワレンベルグ症候群は診断できません

狙って神経診察をする、

つまり○○眼鏡をかけて診察する必要があります



このようにcase by caseで神経診察が異なるのは、

TPOPと鑑別疾患が毎回異なるからだと思います



最近、自分がとった神経診察はどのような状況で、

どんな鑑別疾患を想起して、

神経診察をしていたのか、

思い返してみると、

とってなかった神経診察や

とったけれど、あまり必要なかった診察が見えてくるかもしれません




2019年4月6日土曜日

石の裏のダンゴ虫サイン

子供の時に、大きな石をめくると、石の裏にはたくさん虫がいました

石の裏には、何がいるんだろう?

とワクワクした記憶があります


何だかそれに近い感覚です

何が言いたいかというと、

宝物は隠れたところにあるということです

診断に大事な所見は、いつも隠れたところにあります



症例

先日、寝たきりの超高齢女性が、発熱で救急受診されました

熱源は身体所見やCTでははっきりせず、

膿尿を認めたことから、腎盂腎炎として入院となっていました


担当になって、会いに行って診察しました

寝たきりの人なので、もちろん布団かぶっています

布団をとって、診察します

寒いので、靴下もはいています

もちろん、靴下も脱がして観察します

すると、パンパンに張れた足先が出てきました

何だか紫斑もあって、危なそうな足でした

壊死性筋膜炎にはいたっていませんでしたが、

血培から連鎖球菌が検出されました


寝たきりや認知症の人は、足がパンパンで明らかに痛そうでも、

訴えが乏しいので、こちらが見つけてあげなければなりません

そこでズボンめくって、はい大丈夫

としてしまうと、「靴下脱がし忘れ事件」が起きます



事件を起こさないために、

上級医に言われた言葉が印象に残っています

「靴下まで脱がせて診察してくれるお医者さんって、

なんだかいいお医者さんに見えるよね」


確かに・・・


もちろん、いいお医者さんに見られようと思ってやっているわけではありませんが、

そんなところまで診察してくれるんだ・・・

と家族からすると、好感度はあがる診察です


靴下脱がす一手間を惜しまないでください

熱源も分かって、家族の好感度もあがるとても大事な診察です



靴下以外にもこういったサインはたくさんあります

よくあるのは、湿布サインです

痛いところに貼ってあるので、痛い場所がすでに見える化されています

湿布をみたら、申し訳ないですが、とりあえずはがしてしまうことが多いです



ご高齢の人は

痛い場所=湿布でお茶濁す

の関係になっているので、帯状疱疹も隠されていることがよくあります


その時は、湿布でかぶれただけか、帯状疱疹かの見極めが大事です



もう一つ、マスクサインというのがあります

これは外来やっていると、半分くらいの患者さんは、呼吸器症状なくても

マスクしているのではないでしょうか


マスクしていると、表情が読み取りにくく、

年齢やsick感もわかりにくいです

マスクしたまま診察や病歴をとっていると、

診断能力が圧倒的に落ちます


なので、マスクは必ずとって診察しましょう


入院してからもずっとマスクをしている高齢の女性がいました

蜂窩織炎で入院していたので、口の中をみることもなく、

数日が経過していきました


なぜマスクをいつもしているのか

確かに疑問ではありましたが、特に何の症状もなかったので、

あまり気にしていませんでした


ある時、口腔ケアで口をみてくれた看護師さんから


「なんだか、舌にできものがあります」


と言われました

見てみると、完全な舌癌でした


よく聞くと、舌が乾燥すると痛いから、

マスクをずっとしていたそうです




こういう失敗をして、みんな学んでいきますが、

失敗をしないに越したことはないので、

隠れている場所があったら、そこを見に行く努力をしましょう