2021年3月14日日曜日

日本一朝早いカンファレンス 〜Radiologist ring〜

高齢者の診療って難しいですね・・・

何でもありじゃないか、と思うことはしばしばあります
そんな症例です


ですが、諦めて思考停止になるのではなく、考え続けることが重要です
高齢者の診療は難しいということを自覚することが、高齢者診療が上達するための第一歩です


高齢者診療にはヒントやコツがありますので、
症例を通じて学んでいきましょう
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95歳 男性 主訴:便秘?(※症例は一部加筆修正を加えてあります)

問診票:先週まで大腿骨転子部骨折で入院
    その後、排便なく経過し、本日受診

状況:救急のwalk in

バイタル:BP106/85, P 76 reg, RR24 , SPO2 100%, T 36.0度、意識 JCS1
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ディスカッション①問診票を見て、何を考える?

T「さあ、こんな問診票だったら、みんなはどう考える?」


学「高齢なので大腸癌が原因で、器質的に閉塞していないかが心配です。
  腸閉塞の可能性があるので、排ガスや排便の有無を確認したいです。」

T「なるほど」


学「薬が原因で便が出ないことも多いので、薬が気になります。
  骨粗鬆症が背景にありそうなので、活性型VDが処方されていれば、
  高カルシウム血症になって、便秘になっても良いかと思いました。」


T「すごいね! 笑。その通り!
  高齢者診療のコツは、薬が原因でないかと疑うことだね。
  
  高齢者が具合が悪くなって外来に来た時は、すぐに薬を確認した方がいいです。
  病気の鑑別をあげる前に、薬が原因でないかと考える癖をつけましょう。」


学「他には、痛み止めで弱オピオイドとかも処方されていれば、
  便秘になるかなと思いました。」


T「その通り、トラマドールとかよく出されているからね。
  
  物理的に腸が閉塞していたら、腸閉塞といいます。
  物理的な閉塞起点がなくて、薬で腸が動かなければ、イレウスといいます。
  
  じゃあ、みんなは腸閉塞や薬が原因じゃないかと疑っているわけだね。いいね。
  でも、もう一つこの状況で考えないといけないことがあるんだけど、どう?」


O「膀胱直腸障害の有無を確認したいです。

  問診で尿がしっかり出ているかどうかや、
  身体所見で直腸診をして、膀胱直腸障害の有無を確認したいです。」


T「素晴らしい!

  この人は多分、転んで骨折しているよね。
  ということは、他の部分も骨折しているかもしれない。
  
  最初は転子部骨折の部位が目立ってしまって、
  骨盤骨折や胸腰椎圧迫骨折が見落とされている可能性もある。

  実は脊椎の破裂骨折で脊髄を圧迫して、膀胱直腸障害が出てきているのが、
  一番嫌なストーリーだね。


  ということで、この患者さんには、これまでの画像やカルテがある。
  その歴史を紐解くことから始めよう。



  高齢者診療のコツは、いきなり診察を始めないということ。

  
  いきなり診察するということは、
  ヒントなしで、激ムズ問題を解くようなもの。
  過去のカルテや画像をみておくというのは、診断のヒントになります。


  ただ、カルテをじっくり何分も見なさいというわけではありません。
  せめて、既往、内服薬、ADL、直近の血液検査、CT検査だけでもさらっと目を通します。
  
  
  特にCT画像があれば、今回の主訴に関係なさそうでも、
  頭部、胸腹部は全てザーッとみてしまいます。


  頭の萎縮が強ければ、認知症がありそうだな・・・とか、
  前から便秘あるな・・・とか、かなりの情報がわかります。」
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診察前にカルテチェック


T「処方にはいろいろツッコミどころがありますね・・・

 ・NSAIDsが入っているのに、PPIが入っていない
 ・β遮断とβ刺激が入っている
 ・カルシウム拮抗薬で便秘の副作用

 いわゆるポリファーマシー状態です
 薬が原因でも不思議ではありませんね

 では現病歴です」



T「現病歴をとると、問診票にはなかったことがたくさん出てました
  せん妄?状態で幻視がずっとあったようです

  当日は息苦しさや痛みを訴えていたようですが、
  どこかが明確に痛いということではなかったようです」

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ディスカッション②どのカテゴリーで考える?

T「便秘というか、他にもいろいろな症状があるね。笑
  どのカテゴリーに入れて、鑑別を進めていきましょうか?」


学「何だか、いろいろな症状があってよくわかりません・・・」


T「そうだね。まず、せん妄って施設の人は思っていたみたいだけど、
  そのまません妄として考えていいかな?」


学「幻視があるので、良いかなと思いました。
  幻視の程度にもよりますかね・・・」


T「そうだね、幻視は実はどっちでもいいんだ。
  
  まずは、せん妄という言葉の定義からおさらいしよう。


  せん妄というのは、
 急性に発症する意識・注意・知覚の障害で、
 かつ日内変動を示す精神症候群です。


  つまり、意識障害や変容、注意障害や記憶障害があるんだけど、 
  いつも通りの状態に戻ったり、変動があるのが重要です。


  なので、施設ではずーっと幻視があっていつもと違う状況だったのか、
  それとも、たまには普通に会話できたりすることもあったのかを聞かないといけない。


  この患者さんを「せん妄」というカテゴリーで考えるか、
  「意識障害」というカテゴリーで考えるかを決める作業です。」






Y「施設では、ずーっといつもと様子がおかしくて、普通の状況はなかったようです。
  もともと入院するまでは認知症もなく、元気な方でした。」


T「ということは、せん妄で考えてはいけないね。
 意識障害として考えるべきかな。


   高齢者診療では病歴が詳細に取れず、
 ブラックボックスの時間が多いというのが特徴です。
 自ずと、診察が重要になってきます。

 では身体所見をとっていきましょう。」

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身体所見


T「身体所見では、眼球結膜や体に黄染がありました。
  黄染には、施設職員さんも1日前くらいから気がついていたようですね。

  意識障害というカテゴリーで考えれば、肝性脳症も鑑別に入ります。
  黄疸があるのであれば、かなり疑いたくなりますね。


  羽ばたき振戦は、みておいてもよかったですね。
  羽ばたき振戦は意外に知られていませんが、negative ミオクローヌスです。
  (※専門家に言わせると諸説あり)


  両手を前に突き出し、手関節を背屈してもらいます。
  その時に、力が一瞬抜けてしまいます。

  ポイントは左右非対称であるということと、
  ある程度、指示が入らないとできない、ということです。
 

  これを知っていれば、手関節の背屈以外の診察でも応用がききます。」

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ディスカッション③さて、鑑別と次のプランを考えましょう





T「皆様、素晴らしいですね。

 黄疸が明らかにあるのであれば、肝性脳症の可能性が高く、
 血液検査や画像検査が必要ですよね。


 熱はなくても、意識障害でくる感染症はよくあります。
 この状況では胆管炎の可能性もあり、血液培養をとることも大事ですね。


 あとは、黄疸に飛びつきたくなりますが、
 高齢者でよくあるCSDHも忘れないところが素晴らしいですね。
 
 高齢者診療のコツは、オッカムよりもヒッカムです。
 ある一つの異常に飛びつくと、他の異常を見落とす可能性があります。

 一つ異常を見つけても他の鑑別疾患の可能性が、それほど下がらないのがポイントです。


 つまり、胆管炎+CSDH(慢性硬膜下血腫)の可能性は十分あるので、
 胆管炎があるからといって、頭部CTを撮らなくていいというわけではありません。
 

 実際はどう動きましたか?」





T「何と!解離ですか・・・
  それは、きついです。
 
  高齢者の具合が悪いは、本当に何でもありですね。
  何でもありだからこそ、致死的な疾患をとりあえず、除外することが救急では大事ですね。」






Y「自分は黄疸や肝巧打痛があると思って、閉塞性の胆管炎を疑ってCTをみましたが、
  肝内胆管の拡張はなくて、原因がよくわからないなあ、と思っていました。


  そしたら、上級医の先生が上行大動脈が新たに裂けていることに気がついてくれました。
  もともと腹部しかCTは撮っていなかったのですが、
  ギリギリで一番上に写っていました。

  
T「あー、それはRadiologist ringだね。」


Y「Radiologist ring?」


T「高齢者診療では、病歴があてにならず、
 診察や検査が重要になってくることが多いです。

 今回のように、画像検査で診断がつくこともよくありますので、
 しっかりCTを読影できるようにならなくてはいけません。


 自分の中で読影の見逃しが劇的に減った魔法の言葉があります。

 それが、Radiologist ringです。


    画像を撮るときは、みたいものがあります。
 みたいものが中心にあって、それ以外はあまり見えていません。

 見逃すときは、注意してみた部分ではなく、
 注意を傾けることができなかった、思考の外側に原因があることが多いです。


 そして、それは画像の辺縁(端っこ)にあることが多く、Radiologist ringと呼ばれています。

 例えば、今回のように腹部CTでたまたま写った上行大動脈解離や、
 精巣捻転で捻転して、傾いている陰嚢
 原因不明の腹痛になることがある硬膜外血腫や膿瘍

 いずれも辺縁ですね。





 自分はこの言葉を放射線科のDrから教えてもらって、とても感銘を受けました。

 以来、画像を読むときは、Radiologist ringを強く意識して読影するようになり、読影力が飛躍的に上がった気がします


 心構えだけで、こんなに見逃しが減るんですね





まとめ
・高齢者診療はいつも通りのアプローチが通じにくい
→高齢者診療は難しく、ヒントやコツがあることを知る

・ヒントは歴史に聞くこと
→いきなり診察するのではなく、カルテや画像をチェックしてから診察を始める

・コツ①薬が原因のことが多い、②病歴よりも診察や検査が大事になることが多い、③一つの原因ではなく、複数の原因が存在することがある
→画像を撮らざるを得ないことが多いが、撮るならしっかり読影する
 Radiologist ringを意識しながら読む

多剤耐性菌に出会ったら 〜保菌 or 感染症〜

ピロピロピロ♪

研修医「はい。」

細菌検査室「細菌検査室です、〇〇さんの痰からMRSAが検出されております。 
      あと、△△さんからの尿からESBL産生の大腸菌が検出されています。
       以上、報告いたします。よろしくお願いいたします。」


研修医「はあ〜〜〜、まじかーーー。
    二人ともCTRXでうまくいっているのになあ・・・
    VCM足すか・・・抗生剤変更するか、どうしよう・・・。」


こういうやりとりは、日常茶飯事です
多剤耐性菌に出会った時の対応を考えていきましょう
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多剤耐性菌が検出されたら

多剤耐性菌だとしても、感染症診療の原則に当てはめるだけです
微生物が、多剤耐性菌になっただけです



大事なポイントは
保菌状態を治療してはいけません
治療対象とするかは、患者背景と臓器診断に基づき、
感染症かどうかを見極める必要があります


そのためには、
臓器と微生物の関係を理解しておく必要があります

皮膚や鼻腔であれば、MRSAが定着しています
痰からMRSAが検出されたとしても、すぐに治療するかどうかは、立ち止まって考える必要があります
MRSAが肺炎を起こすことは稀だからです
一方、皮下膿瘍を切開して膿からMRSAが検出された場合は、間違いなく原因微生物でしょう


尿からESBL産生大腸菌が検出されたとしても、無症候性細菌尿のこともあります
他に熱源があれば、こちらを治療対象とはしません
ただし、腎盂腎炎の徴候がある場合は、治療対象になります


このように患者さんの背景(免疫状態・全身状態)と感染臓器を考えて、
ケースバイケースで治療するかを見極めます






シンプルなケースなら簡単ですが、こじれてくると保菌か感染か判断が難しいことが多いです
その場合に頼りになるのは、患者さんの全身状態です


例えば・・・
85歳 男性 膵臓癌に対してPD術後の方

吻合部が離開し、腹腔内膿瘍を合併
創部に皮膚膿瘍も合併
皮下膿瘍は切開ドレナージし、膿瘍からMRSAが検出
バンコマイシン投与中
血液培養は陰性

腹腔内膿瘍に対してメロペネムを使用し治療していたが、膿瘍は拡大
膿瘍に対してドレーンを留置
毎日洗浄して対応
最初のドレーンの腹水からは、ESBL産生の大腸菌が検出
そのままメロペネム継続

1週間後、患者さんの状態に大きな変化はなかったが、
ドレーンを入れ替えた際にとった腹水から、CRE(カルバペネム耐性菌)が検出
CREをカバーすべきかどうか・・・


悩みますね〜


そんな時、えいや!と判断する根拠は患者さんの全身状態で決めることがほとんどです


バイタルやデータが悪かったり、画像評価で膿瘍が縮小していない場合は、
治療せざるを得ないと思います

一方、全身状態が上向きでバイタルもデータも何も困っていない時は、
治療は見送る可能性もあります



ですが、その時点での決断が正解かどうかは分かりません
自信満々で絶対大丈夫!なんてことは言えませんので、
謙虚にフォローすることが重要です


大事なのは、最初の判断を間違えないことではなく、
判断を間違えた時に速やかに間違いに気がつき、軌道修正できるかどうかです



自分のプラクティスが正しかったかどうかは、「時間」が教えてくれます
治療対象としなかったが、どんどん患者さんはよくなっていったのであれば、
それは保菌だったのでしょう

適切な経過観察も感染症診療の大事な原則の一つです


ということで、多剤耐性菌に出会ったからといっても心配いりません
原則に沿って考えれば大丈夫です


多剤耐性菌診療のポイント


多剤耐性菌に出会った時に考えるのは、
①治療対象とすべきかどうか
②感染対策をどうするか

です

保菌者の場合、(特殊な例をのぞき)治療対象にはなりませんが、
医療感染対策上は重要です


院内での感染対策は比較的受け入れられやすいですが、
その患者さんが、在宅や施設に帰った時、どのような感染対策が落とし所かを悩むことがしばしばあります


例外はもちろんありますが、
・家族には無理な感染対策を要求することはしないが、標準予防策はお伝えする

・MRSAやESBLの場合は、市中でも増加傾向であり、
 在宅や施設では接触感染対策まではしない
 その代わり標準予防策を徹底してもらう(施設職員や訪問看護など)

・MRSAやESBLの場合、施設では隔離まではしない(人権問題にもなる)

・VREやCREの場合は、一段階あげて感染対策する
 訪問看護は標準予防策ではなく、接触感染対策を行う
 施設では隔離などの感染対策をしないと、容易に広がるので個別に相談


以上、AMRの専門家の先生にご教授いただきました





薬剤耐性(AMR)対策はCOVIDに隠れていますが、非常に重要な問題です
COVIDの副産物は色々ありましたが、感染対策について考える良いきっかけになったと思います

このまま感染対策を風化させず、AMR対策に繋げられるといいですね


まとめ
・多剤耐性菌に出会ったら、すぐに治療というわけではない
→立ち止まって考える必要がある

・保菌か感染症かを見極めるのが重要だが、難しい時もある
→感染臓器、患者背景を元に治療対象とするかを決断し、
 適切な経過観察により、その判断が正しかったかを見直す必要がある

・多剤耐性菌の保菌者は治療対象ではないが、医療感染対策上は重要である
→院内であれば簡単だが、退院する時にはケースバイケースで考える必要がある


参考文献:レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版
     国立国際医療研究センター病院
     AMR臨床リファレンスセンター 具先生レクチャー

2021年3月9日火曜日

超高齢者の診療シリーズ 〜痛み編〜

超高齢者とは、2017年に日本老年医学会と日本老年学会が合同で定義しており、
90歳以上の方を指しています

当たり前ですが、90歳以上で寝たきりの人もいれば、畑をやっているくらい元気な人もいます


超高齢者診療シリーズと銘打っていますが、
どのような人の診療かというと、フレイルが進行し、寝たきりに近いようなADLで、
認知機能低下も目立ち、意思疎通が困難になっている人をイメージいただければと思います



今回は、超高齢者診療シリーズの「痛み」編です


いくつか超高齢者の痛みの特徴を挙げていきます


①そもそもそんなに痛がらない

歳を重ねると、痛みに鈍感になるためか、強くなるためかはわかりませんが、
痛みの訴えがそもそもない時があります

心筋梗塞の場合、痛みというよりは呼吸苦が主訴だったり、
大腸穿孔しているのに、腹痛の訴えが乏しかったり、
痛みが軽そうでも、重症だったということはよくあります


一方で、痛みの閾値が低くなっている人もいます
慢性的に疼痛に曝露されていると、疼痛閾値が低くなり、
常に痛みを訴える方もいて、診察が非常に難しくなります


そういう方を多くみていると、医療従事者もだんだん麻痺してきて、
「痛い痛い」といっている人に対して、鈍感になってしまうことがあります


施設入所中の認知症の人が、1ヶ月前から「痛い痛い」と言っていたけれど、
「どこを痛がっているかよくわからない」、「すぐに痛い痛いという人」ということで、様子をみられていました

結局、往診したDrが診察して大腿骨頸部骨折が疑われ、診断されたという症例もあります



歳をとることで、痛みに鈍感になることは致し方ありませんが、
我々が痛みを訴える人に対して、鈍感になることは許されません


痛みを訴える人には真摯に向き合って、鎮痛を開始したり、
痛みの原因を探す努力をしましょう



その時に痛み以外に注目するというのがポイントです

痛みは主観的な訴えであり、客観的なものも合わせて判断することが大事です

例えば、食事量、バイタル、意識、ADLです

これらが痛みの訴えと同時に下がっているようなら、
本当に病気があると思った方が良いでしょう


②病歴が曖昧だったり、正確にとれないことが多い

超高齢者の場合、四六時中、家族がそばにいることは稀です
一緒に住んでいても、食事以外は顔をみなかったり、
DSに行くことが多く、家族でさえ普段の様子を知らないことがあります


その時、一緒にきた家族から病歴をとる努力は必要ですが、
家族から病歴をとる時に必ず確認することがあります

それは「どのくらいの頻度で、この患者さんとあっていますか?」ということです

この答えが、「月に1回」「週に1回」「毎日」では、病歴をとる意気込みが変わってきます


月1回しか会っていない人に、多くの病歴は期待できません


それよりも毎日会っているヘルパーさんやDSの職員さんの方が、
日常の様子を知っている可能性があります

乳幼児の場合の病歴は、一緒にきている両親(もしくは祖父母)からとれば十分です

しかし、超高齢者の場合、一緒に来た家族からの病歴では不十分のこともあります
その場合、普段をよく知る人に電話をしてでも、病歴をとることが重要です


このように本人や家族からの病歴に限界があるのが、超高齢者診療の共通するところです
自ずと、診察や検査の役割が重要になってきます



③歴史があるので、歴史に聞く

既往歴ではなく、あえて歴史と言っているのには訳があります


例えば、意識を失って救急搬送されて、意識は元に戻っている
そんなことが、過去に3回あった・・・
でも一度もしっかり、診断を受けたことはない


こういった「既往にならない既往歴」というものがカルテに埋まっている可能性があります


それ以外にも、画像歴、カメラ歴、入院歴、細菌歴、ACP歴など
その患者さんの歴史を紐解くことで、診断へのヒントが見えてきます


例えば、背部痛を主訴に超高齢者が受診した場合、圧迫骨折かな?と考えたくなります
ですが、以前のCTで腹部大動脈瘤があれば、大動脈瘤の切迫破裂を疑いますよね

診察をする前に、患者さんのイメージを膨らませてから診察に臨むことが重要です




診察のコツ

もちろん、ケースバイケースですが、
超高齢者診療では病歴よりも診察が大事になることが多い印象です


ですが、認知症があって意思疎通が十分とれない人の場合、
痛みの局在がはっきりしないことが多く、普段の診察よりも丁寧な診察が求められます


「痛くない」と言えることは、実はとても重要です

どこを触っても「痛い」と言われた場合、
「痛くない」診察方法(触るだけ)や「痛くない」場所からまず探しましょう


他の診察のコツとして
・表情を見る
・再現性をみる:時間を変えて、深さを変えて、人を変えて
・比較する:左右、胸と腹、手と足
・普段を知っている人と一緒に診察する
・別のどこかに集中させて、診察する

などが挙げられます

皆様は自分の中で大事にしているコツはありますか?



四肢の痛みの場合、まずは痛い場所をみます

帯状疱疹であれば、すぐに診断がつくためです
ですが、チラ見だと見逃します
虫眼鏡で見るような感じで、じっくり探してください


じっくり、皮疹がないかを確認した後は、
腫れているか、赤くないかを確認します

次に触ってみて、熱感があるかを確認します
そして、押して痛みがあるかを確認します
まずは大雑把に触って痛いと言われたら、細かく触ります

最後に動かしたり、ストレスを加えて痛みがあるかを確認します

これらの診察で、炎症が存在しているかどうかを評価します

主観的な「痛み」から、
客観的な「炎症による痛み」に変化させることができれば、
鑑別が大きく変わります



最後に診察してもよくわからない時には、
リウマチ性多発筋痛症(と同時にIE)、骨メタ(と同時に白血病)、多発骨折(と同時に夜間にいつのまにか痙攣発作)、薬剤、内分泌(甲状腺、副甲状腺、副腎)を考えましょう



まとめ
・超高齢者診療の極意
「歴史に聞く(既往、既往にならない既往、画像、入院歴、カメラ歴の確認が大事)」
「いつもの状態を知っている人に聞く(食事量やバイタルなどの客観的な異常がないかどうか)」
「身体に聞く(診察が大事)」









2021年3月8日月曜日

超高齢者の診療シリーズ 〜意識障害〜

 超高齢者の場合、意識障害がそもそもあるのかどうかの判断が非常に難しいです


そこで有用なのは、もともとのベースとの比較です


小児診療の時に大事なフレーズがここでも生きてきます

「いつもと比べて、どうですか?」


これが超高齢者の診療でも非常に重要です


超高齢者の場合、認知症や脳梗塞の影響で意識レベルのベースは色々です

今、目の前の患者さんが、もともとの意識レベルなのかどうか我々にはわかりません


なので、「意識障害」の有無を確認するために、普段をよく知る人から話を聞きますが、

普段を知る人は、家族とは限りません


月に1度しか会わない家族よりも、ケアマネや訪問看護、ヘルパーさんの方が、

普段の状況をよく知っていることもあります


普段をよく知っている人から、「いつもと様子が違う」ということを聞き出せたら、

今度は具体的に「何が違うのか」を聞き出します

特にADLや食事量、行動、発話量に注目します






「いつもと様子が違う」=「意識障害」ではありません

高齢者の場合、「意識障害」というカテゴリーで考えた方が良いのか、一度立ち止まる必要があります


私たちは、目の前の患者さんのプロブレムを「あるカテゴリー」に入れることで、

そのカテゴリーの中で、診断までアプローチしていきます


胸が重苦しい・・・と言っている患者さんの場合、

我々は「胸痛」というカテゴリーで考え、「心筋梗塞」まで診断していきます


ここにピットフォールがあります


「失神」のカテゴリーで考えていたら、実は「意識障害」だった

「意識障害」のカテゴリーで考えていたら、実は「失語」だった

「認知症」のカテゴリーで考えていたら、実は「高度難聴」だった

「急性の意識障害」のカテゴリーで考えいてたら、実は「慢性の意識障害や認知症(そもそも変化なし)」だった


というように、

「カテゴリー」を入れ間違えてしまうと、我々は診断を誤ります


超高齢者の場合は、意識障害に見えて実は違うカテゴリーのものがたくさんあるので、
実は〇〇じゃないか・・・と自問自答してみてください


よくあるのは、失語や視野障害、難聴の場合に、意識障害と間違えてしまいます




超高齢者の意識障害はかなり非特異的な所見です
正直、これで診断に迫れるかというと難しいです


なぜなら、老年症候群の一症状として出現していることも多く、
脱水や感染、消化管出血、薬、心筋梗塞などでも意識障害が前面に出てくることもあります


つまり、意識障害だけであれば、なんでもありな状態です


そのため、超高齢者の場合の意識障害では特に、+αを探す必要があります


頭か頭以外かを見極めるためには、focal signを探します
arm dropや筋の収縮、トーヌスの左右差を見ることで、軽微な麻痺を見つけることができます


感染症による意識障害かを見極めるためには、発熱に注目しますが、
発熱がないことも多いので、原因不明の意識障害の場合は、感染症を隅々まで探す努力が必要です

そして、他に原因がなければ、血液培養は必ず採取します
抗生剤まですぐに投与するかは、ケースバイケースです


発熱+意識障害で、頭をよぎるのは、髄膜炎や脳炎です
頭の中に思い浮かべるだけでよく、全例に髄膜炎対応をする必要はありません

ただ、どうなったら髄膜炎をより積極的に疑い検査や治療するかは考えておく必要はあります




超高齢者の意識障害で、救急外来のセッティングで行き着く先は、非痙攣性てんかんです

非痙攣性てんかんはよく見ると、小さな震えやぴくつきがみられることが多く、

その目で見ることが重要です



実際の対応


超高齢者診療で大事なことは、結局、よくわからなかったけど、

時間が経ったら治ってしまうことが多い、という事実です


救急外来の対応としては、

①〇〇対応(tPA対応、髄膜炎対応、緊急カテ)や敗血症のような緊急で処置や治療が必要になる疾患を除外する

老年症候群としての意識障害の場合、

胸痛がなくて心筋梗塞だったり、発熱がなくても敗血症ということはよくあります

やや網羅的になるかもしれませんが、緊急事態でないということは確認しましょう


②緊急で対応が必要な疾患ではない場合は「時間」に身を委ねる

緊急で処置や治療が必要な疾患ではなければ、

軸足をどこかに置いて、ゆっくり腰を据えて待ちます


例えば、尿路感染症疑いで脱水傾向もあり、意識障害を起こしていると思われるので、

輸液と抗生剤をして、明日まで待とう

老年症候群の一症状としての意識障害なら、明日には今日よりもよくなっているはずだ

もし、意識障害が遷延するようなら、髄膜炎も考慮して髄液検査も考慮しよう

あとはfocal signは目立たない視床梗塞の可能性もあり、MRIを検討しよう

それらが問題なければ、非痙攣性てんかんの可能性もあり、脳波やセルシンをトライしよう


みたいな感じで待ちます


ただ入院させて時が過ぎていくのではなく、これは時間が解決してくれるはず!という感じで、

受け身の姿勢で待つのではなく、積極的に待つイメージです



まとめ

・超高齢者の意識障害を認識するためには、普段をよく知る人から「いつもと様子が違う」ということを聞き出すことから始める

→次に、普段のADLや行動、食事量、会話内容、発話量が、元々と比べて、何がどう違うかということを聞く


・超高齢者の場合、意識障害だと思ったら、実は〇〇ということがある

→実は失語だった、実は視覚障害や半側空間無視だった、実は難聴だったというのは、

 実は詳細に診察すればわかる


・超高齢者の意識障害の診療は「時間」を意識する

→救急外来では、タイムリミットがあるもの、緊急で対応が必要なものをとりあえず除外する

 入院後は「時間」が経つと、見えてくるものがあり、積極的に待つ


2021年3月6日土曜日

日本一朝早いカンファレンス 〜行き着く先は?〜

 95歳 女性 主訴:意識障害(※一部、症例は修正・加筆を加えています)

Profile:DMで近医かかりつけ

現病歴:前日、デイサービスに行って、帰ってきてからぐったりしていた

来院当日、朝からいつもと様子が違うため、救急搬送となった


既往:高血圧、糖尿病、胆管炎

内服:ジャヌビア、メトホルミン、グルメピリド、アムロジピン


バイタル BP 120/75, P 80 , SPO2 95%, T 36.4, 意識 JCS3 

自発開眼している、名前を言ってもらおうとしても言えない

自分で発語はしない、追視はしてくれる

離握手もできない、指示は入らない

粗大な麻痺はなし



普通の意識障害の鑑別はどう考える?

1、教科書的にはAIUEOTIPSで網羅的に

2、実際のアプローチ

 ①血圧をみて、頭蓋内病変か全身疾患かを考慮

 →血圧高めであれば、頭蓋内から考える

  広範囲な脳梗塞を想起する場合、大動脈解離も忘れずに!


 ②全身疾患であれば、足りない系か、溜まっている系か

 暴れていると足りない系(低血圧、低血糖、低酸素)の可能性を 

 →すぐに血圧と血糖チェック

  

 ちーんとしていれば、溜まっている系(CO2、尿毒症、高アンモニア、電解質異常)を

 →血ガスや血液検査をチェック


3、意識障害の人の神経診察

 

意識障害で指示が入らなくても、神経診察は重要です

もし、focal  sign(失語、失行、失算、視覚障害、軽微な麻痺など)があれば、
脳梗塞や脳出血、CSDHを強く疑います

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スモールグループディスカッションにて:この後どうしますか?


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4、自分の手札をきるイメージで考える

意識障害の実際の考え方は、「時間」が限られているものから考えます

・tPA適応で動くか
・髄膜炎・脳炎対応で動くか

focal signがあれば、tPAの時間内であれば、tPA対応として動きますし、
項部硬直や発熱があれば、髄膜炎・脳炎対応で動きます


この二つの可能性が低いことがわかれば、じっくり原因検索を行います

自分の手札(検査や治療)を駆使して、意識障害の原因を調べていきます


簡単ですぐにわかるものから → 侵襲的・時間のかかる検査へ

・病歴
・既往・薬物・中毒
・神経診察
・血液ガス:CO,CO2,糖
・血液検査:内分泌系、NH3、コルチゾール、電解質
・血液培養
・頭部CT
・各種チャレンジテスト:セルシン、VB1、麻薬中毒疑いであればナロキソン
・MRI
・髄液検査
・脳波
・神経内科Drの診察
・特殊検査

・診断的治療:
原因不明の自己抗体関連脳症・脳炎(橋本脳症、NMDA受容体、抗GAD抗体関連、抗VGKC抗体関連、MOG抗体関連、パラネオ)や膠原病関連の脳症・脳炎(神経ベーチェット、神経ループス、神経sweet)、脱髄疾患(MS、NMO、ADEM)、中枢神経原発血管炎、中枢神経原発悪性リンパ腫、ビッカースタフ型脳幹脳炎が鑑別だが、まだ診断が確定していない時のステロイドパルスや血漿交換、IVIG治療
結核性髄膜炎以外ありえない状況で、point of no returnに差し掛かっている時の抗結核薬



AIUEOTIPSのような病態で考えるのもありですが、
検査ごとにわかる病気で考えた方が実践的です




これらの手札をどの順番で切るかには、病歴や診察も重要ですが、
疫学を知っておくことも重要です


自己抗体関連脳症は、とても稀な疾患で最初から考える疾患ではありません

高齢者の意識障害で、commonな疾患は非痙攣性てんかんです

しかも診断しにくい・・・


検査で判明しにくい疾患群の場合は、チャレンジテストで診断します

その代表が、NCS(非痙攣性てんかん)とVB1欠乏です


ただし、超高齢者にセルシンをうつのは、
呼吸のサポートがしっかりできる状態で行いましょう



そして、全ての手札を切りきった後に何が残るか・・・


この患者さんの行き着く先は何か・・・


そこを押さえておくと、検査が空ぶった時でも焦りません

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結局、本症例は・・・


左被殻の急性期の脳梗塞でした
視床かと思っていましたが、被殻でした

「視床梗塞を鑑別に入れたら、被殻梗塞もクラスター的に考える」というのが、自分の中のパールとして生まれました



被殻梗塞で意識障害???


詳しくは・・・


top of basiler  をご参考ください


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学び

・意識障害は鑑別がたくさんあって、総合的に考えないといけない

・意識障害と聞いて、ぼんやりと考えていたが、明確に一つずつ鑑別を消していく作業が必要

・自分の手札を切った時に、何が残るかを考えたことがなかった

 国試では必ず、どこかに行き着くが、現実の臨床ではどこに行き着くかわからないのが、難しい


まとめ

・意識障害のアプローチはケースバイケース

→AIUEOTIPSは実はあまり実践的ではない・・・


・自分の持っている手札(検査や治療)が何かを考え、どの順番で手札を出すかを考える

→手札を出す順番は病歴や診察で決める

 網を投げるようにルーチンに検査を出しまくって、何か引っかかるかな?という診療では、

 診断力は向上しない


・最終的に手札を切りきった後に残る疾患が何か、行き着く先を考える

→検査だけでなく、診断的な治療が必要な場面もある


2021年3月5日金曜日

超高齢者の診療シリーズ 〜発熱編〜

92歳 女性 主訴:発熱(※症例は一部、修正・加筆を加えてあります)

Profile:2日前まで入院していた

    ADLは全介助、寝たきり、認知症ありコミュニケーションは簡単な会話のみ

HPI:9日前に胆石性の胆管炎で入院

   ERCP・ESTが施行され、抗生剤治療にて2日前に退院

   抗生剤は7日間投与された

   その後、自宅に帰ったが、来院日、38度の高熱あり

   救急受診

ROS:自分から苦痛を表現することはない

   嘔吐なし 下痢なし

既往:スタンフォードAの大動脈解離(保存治療のみ)、胆管炎

   高血圧、糖尿病、認知症、圧迫骨折・骨粗鬆症、偽痛風

内服:アムロジピン、カンデサルタン、ジャヌビア、ワンアルファ、抑肝散


バイタル NP 145/80. P 90, T 38.0, SPO  96%

意識 いつもよりややぐったり、発語はあり

心雑音 拡張器雑音あり

呼吸音 左右差なく清

腹部 平坦 軟 圧痛なし 肝巧打痛なし

左膝に軽度熱感と圧痛あり 腫脹はわずかで穿刺できるほどではない

皮膚 皮疹なし 静脈炎を示唆する所見なし

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診断は?


まあ、無理です 笑

無理ですが、考え方は色々あります


まずは少し前まで入院していたので、入院中の発熱の考え方で考える方法です


1、入院になった疾患に関わるもの:今回であれば、胆管炎です

 実は胆管炎じゃなかった説や治療不良だった説

 肝膿瘍になってしまったなどです


2、入院後の治療介入によって起こったトラブル:今回であればERCPや抗生剤投与です

 入院自体のストレスも偽痛風を誘発することがあります

  CDIや静脈炎には注意が必要です


3、その他

 全く関係ないことです

 実は腫瘍熱だったとか、同室者がインフルエンザにウイルス感染していたとか 



外来であれば、5+1と、15+1(4つのシリーズ)で考えます



これらの考え方はとても有用ですが、

超高齢者の場合は、考え方を変える必要があります


超高齢者の発熱には若年者や高齢者とは異なる10の特徴があります


①認知症や脳梗塞後遺症のため、

コミュニケーションがうまくとれないことが多い


結果として、他の施設職員や家族の話が重要になりますが、

常日頃、一緒にいるわけではないので、病歴があまりとれないことが多いです


病歴の重要性が下がってしまい、逆に身体所見の重要性が上がるのが超高齢者の発熱の特徴です


そして、検査や画像に頼らないといけない場面も多々あります


②これまでの歴史がある


これまでに入院歴や治療歴、培養歴がある人が多いです

誤嚥性肺炎や腎盂腎炎、胆管炎、蜂窩織炎を繰り返す人は大勢いますので、

そこから考えるというのがリーズナブルです


そして、これまでの尿培や喀痰培養は、治療を進めていく上で参考になりますので、

必ず目を通すようにします


抗生剤の治療歴も多く、抗生剤のアレルギーや薬剤熱を起こしたこともあるかもしれないので、要チェックです


③薬をたくさん飲んでいる


免疫抑制剤(ステロイド)を飲んでいたり、解熱剤を飲んでいたり、

近医でこっそり抗生剤が出ていたりします


超高齢者が具合が悪くなって、病院にきた場合に、

まず考えることは、薬が原因でないか?ということです



④弱っている臓器がある

喫煙によって肺がボロボロの人やBPHがあって尿が出にくい人、

胆石があり、胆管炎になりやすい人・・・

このように局所免疫が弱り、感染しやすい臓器があることが多いです


そして、ダメージを受けやすい臓器があります


例えば、腎盂腎炎になったら、すぐにイレウスになってしまう人や

意識障害のプレゼンテーションでくる人など・・・


感染臓器以外の症状がメインでくる人もいるので、とても診断が難しいことがあります


そういった場合も過去の歴史が重要になります


⑤BioよりもPsycho,social,ACPが治療方針に関わる

本当は入院適応だけど、認知症のせん妄が強すぎて、

入院自体にデメリットが大きい人や

寿命があまりない人で、できるだけ自宅で生活したい場合は、

広域の抗生剤を処方し、外来で治療することもあります


「その患者さんが何の病気を持っているかよりも、

 その病気を持っている患者さんが、どんな患者さんか、ということの方が大事である」


という言葉があるように、病気の診断も大事ですが、

目の前の患者さんの家族や置かれた環境も非常に大事になります


⑥余力がない人が多い


90歳代の人が発熱を主訴にきた時点で、ほぼ間違いなく入院を考えます

入院できない理由がない限りは、入院させた方が無難だと思います


数時間後に、何があってもおかしくない方々ですので、慎重に対応した方が良いです



⑦処置が必要になることが多い


解剖学的な異常や閉塞起点を伴う感染症が、若年者よりは多く、

処置が必要になることも多いです


ただ、侵襲的であったり、認知症で本人からの意思疎通がとれない可能性もあり、

家族との話し合いが必要になるケースが多いです

感染症の処置は可逆的な病態なことも多く、非常に悩みます


⑧オッカムよりもヒッカムが大事

蜂窩織炎だと思ったら、誤嚥性肺炎も合併していて、偽痛風もあった

とかはザラにあります


腎盂腎炎でぐったりしているなあと思ったら、脳梗塞にもなっていた

とか、感染症が加わることも多いですが、非感染症も加わることは多いです


⑨非感染症の割合が増える


発熱と聞いたら、普通は感染症を考えますが、

超高齢者の場合、外傷(骨折)や血腫、大動脈解離、腫瘍、薬剤などの

非感染症の可能性が若年者に比べると、高くなります


特に骨折は明かな外傷がなくても見られることがあり、

施設に入っているから大丈夫とは思わないでください


⑩原因が不明になることが多い


痰が少し汚いし、酸素化が少し悪く、C Tでは肺炎像が少しありそうで、

尿は膿尿や細菌尿で、皮膚も少し赤いところがあって、

肝胆道系酵素が少し上がっている・・・


これが、現代版不明熱です

抗生剤で治りますが、結局何だったの?という答えは不明なことが多いです


自分が何と戦っているのかを明確にしておくことが重要です




このように超高齢者の発熱は、他の若年者や高齢者とは考えることが異なります


ちなみに冒頭の症例の最終診断は、スタンフォードAの大動脈解離の再解離でした


病歴が全然とれず、これまでの歴史に注目する必要があり、
非感染症の割合が多いという特徴が当てはまった症例です


まとめ
・超高齢者の発熱の考え方は、特殊
→病歴がうまくとれず、診察や検査が重要になる場合が多い

・弱っている臓器や感染を繰り返している臓器があることが多く、まずはこれまでの既往をチェックする
→これにより、診療をスムーズに進めることもできるし、アンカリングされる危険もある

・感染症をとことん探して、何も見つからない場合は、非感染症も考える
→骨折、血腫、副腎不全、偽痛風、PMRなど

2021年3月4日木曜日

Road to POEMS 〜パズルのピースを集めよう〜

2018年の造血器腫瘍ガイドラインより

POEMS症候群では末梢神経障害によるPS不良,全身体液貯留傾向があり,無治療で自家移植を行うと,生着症候群を含む移植関連毒性が増加する。また,血清VEGF値は治療効果に対するバイオマーカーであり,移植後のVEGF値は再発に対する強力な予後予測因子となる。したがって,多発性骨髄腫と同様,適切な寛解導入療法を行い,血清VEGFの低下とともに全身状態を改善させた上で,より安全に移植を行うことが望ましい。これまで移植非適応・再発難治例において,サリドマイド等の新規薬剤の有効性が報告されており移植適応例においても寛解導入療法としてサリドマイド+デキサメサゾン療法の有効性が報告されている。サリドマイドは100 mg/日から開始し,効果・副作用により投与量を調節する。サリドマイド不応例については,デキサメサゾン併用レナリドミド,ボルテゾミブによる治療を考慮する。レナリドミドについては,幹細胞採取効率を低下させないように,3~4コースの短期間の治療にとどめなければならない。現時点では,これらの新規薬剤はPOEMS症候群に対し国内保険適用外である。

 

でしたが、ついに、、、

2021年2月にPOEMS症候群に対して、サリドマイドが保険適応になりました!

千葉大の先生方のご尽力のおかげです



ということで、一部の先生方にとっては朗報なのですが、

我々はまずPOEMSの治療の前に診断を頑張らなくてはなりません・・・


POEMS症候群は診断が難しいのですが、見るひとが見ればすぐに診断できてしまいます

このような疾患群のことをパズルのピース系鑑別疾患と名付けています


最初にまさにパズルのピースだなあと感じた疾患は、アミロイドーシスです


難治性の心不全で、腎機能が徐々に悪くなってきて、

貧血もあって、圧迫骨折も出現してきた

何だか消化器症状が多くて、起立性低血圧も見られる


普通に考えれば、

心不全に対して、利尿剤を使っていて、腎機能が悪くなったのであろう

ADLが下がってきて、骨粗鬆症になって圧迫骨折を起こしたんだろう

糖尿病もあるので、消化器症状や起立性低血圧もあるんだろう・・・

仕方ないよ・・・そりゃ・・・


で済ませるか、


全てはアミロイドーシスが原因ではないか?と思いつけるかどうかで、

患者さんの未来が変わってくるかもしれません


こういった患者さんの症状や兆候を虫の目のように、一つ一つ分析するのではなく、

鳥の目を使って、全体像を見ることができれば、診断に辿り着くことができます



気がついた時は、アハ体験のような感じです

一度、思いつけば、あとはパズルのピースを探して、埋めていくだけです
そして、最後のピース(アミロイドーシスであれば生検)を埋めることで、診断が確定します


アミロイドーシスがパズルのピース系鑑別疾患の筆頭ですが、
頭文字が並ぶ系はだいたいこの疾患群です
TAFROとかPOEMSとか

何だか全身の臓器にトラブルを抱えていて、診断が生検じゃないと難しいものは、
このカテゴリーに入ると思われます


Road to POEMS

実際にPOEMSを診断したことはありませんが、カンファではよく出てきます


カンファだと自分が当事者ではないので、「鳥の目」を使って聞いています
なので、患者さんの全体像が見えやすく、比較的POEMSには気がつきやすいです

ですが、実際に患者さんを見ている時は、虫の目で患者さんを見ている気がしていますので、見逃しているのかもしれません・・・


POEMSのゲシュタルトは
数ヶ月前から痺れが出現し、次第に力の入りにくさを自覚し、プライマリケア医が困って、
神経内科へ紹介するパターンや

全身の浮腫が出現して、病院を受診したところ、
胸水や腹水も溜まっていたが、色々調べても原因不明で循環器や消化器内科のDrが困っているパターンなどが典型的です



キーワードは原因不明の痺れや浮腫・胸水・腹水です

そんな時にPOEMSを疑うことができれば、皮膚をチェックしにいきます

皮膚をその目で見れば、異常が捉えられることが多いですが、
その目で見ないと、「まあ、こんな皮膚の人もいるよな〜」で終わってしまいます

POEMSメガネをかけて診察することが重要です



サリドマイドが保険適応で使えるようになりましたので、早期に診断をつけて、

専門家の治療につなげることがより一層求められる疾患になりました

まずは疑うことを閾値を低めにやっていきましょう


まとめ

・「パズルのピース系鑑別疾患」がある

→アミロイドーシス、POEMS、TAFROなど

 一つ一つの異常に目を向けるのではなく、一歩引いて全体をパズルのピースのように捉えると、

 ある疾患群が浮かび上がってくることがある


・POEMS症候群を疑う状況は、原因不明の痺れや脱力、原因不明の浮腫・胸水・腹水

→疑ったら、まずは皮膚のチェック:多毛、色素沈着、チアノーゼ、バチ指を探す


・POEMSにサリドマイドが保険適応になった


Where is the answer ?

吉田松陰先生を彷彿とさせるような先生達が集う 勉強会で症例提示させていただきました ※症例は一部修正・改変しております  

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