2020年3月26日木曜日

ボス回診 ~きれいなプレゼンにはご注意~

T「お願いします、診断に困っている症例です」
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症例 40台 男性 主訴:歩行障害
(※症例は一部、修正・加筆しております)

Profile:アルコール多飲歴あり

現病歴:半年前に転倒し、その後からだんだんと歩行が難しくなってきた
    ここ数日の間、転倒を繰り返し、救急や整形外科を受診しており、
    肋骨骨折や打撲の診断が何度かされており、痛み止めが処方されている

    トイレ歩行時に何とか伝い歩きできる状況であり、
    家で生活するのが困難になってきたため、家族につれられて来院


妻より:お酒ばっかり飲んで、もう歩けなくなってしまいました
    トイレいくのも大変で、お風呂も入っていません
    お酒はこの2週間は飲ませていません


ROS:呂律不良あり(本人はもともとこんな話し方だという、8年前くらいからあり)
   嚥下障害なし
   歩行困難(左足が突っ張って歩きにくい、数年前からあるが半年前から緩徐に悪化)
   日内変動あり(明らかに朝が悪い)、たまに複視あり
   痺れは左手に漠然とあり、足には痺れなし
   便秘気味、たまにふらつきを自覚する
   頭痛なし、頸部痛なし、腰痛なし

既往歴:なし

内服:なし

生活:飲酒 日本酒4合、喫煙40本 20歳から
   ADL もともとフル、仕事 もともと介護職だが、すでに退職
   食事は最近は1食程度でしっかりはとらない

家族歴:特記すべきことなし


身体所見
バイタル 問題なし
一般診察問題なし

神経学的診察
脳神経 瞳孔 3/3 対光反射 +/+
わずかに眼瞼下垂様にもみえる
enhanced ptosisなし
眼球運動 全方向に動くが、saccadic様 over shootする
複視なし 眼振なし
輻輳できず
顔面 知覚異常なし
表情筋の左右差なし
カーテン徴候なし 軟口蓋の挙上良好
パタカはしっかり発語できるが、呂律不良あり 
開鼻声が目立つ
ナ行が鼻に抜ける

舌萎縮なし 頬を押す舌の力は問題なし
舌の線維束性収縮なし
胸鎖乳突筋や僧帽筋 筋力OK

高次脳 失語なし
失行なし 左右失認なし
短期記憶障害なし

運動
バレー陰性
MMT 上肢、下肢ともに5/5
腱反射 上肢、下肢すべて亢進している
異常反射 
バビンスキー 底屈 / 左は底屈せず、逃避様の動きで左右差がある)
チャドック -/-
クローヌス 陰性
下顎反射 陽性、口輪筋 +/+、眼輪筋 +/+
筋トーヌス rigidityなし
   
筋委縮 両側の大腿四頭筋のみ萎縮軽度あり
split handなし
線維束性収縮 なし

小脳
指鼻指 企図振戦あり
回内回外 肘がぶれる
膝踵 問題なし

歩行
wide base gaitあり
歩いていると左側の下肢が突っ張って歩きにくそう
タンデム 不能

感覚
左手から左上肢の漠然として痺れあり
知覚や痛覚の左右差なし
ロンベルグ 陰性
振動覚 両側内果で10秒以上あり


神経診察まとめ
・開鼻声が目立つ
・顔面含めた腱反射の亢進が目立つ
・両側大腿に筋委縮はあるが、筋委縮の割に筋力は落ちていない
・小脳失調がみられる
・歩行はwide base
・左手に痺れあり


血液検査 Hb12、肝酵素上昇なし、Alb低下なし、腎機能正常
電解質異常なし、甲状腺異常なし、CK上昇なし、アルドラーゼ上昇なし
ESR 80、CRP 0.5
ビタミンB1低下なし、B12低下なし、葉酸低下なし、銅低下なし

自己抗体 ANA陰性、抗TPO抗体、サイログロブリン抗体陰性
補体低下なし、抗AchR抗体陰性
M蛋白血症なし、FLC 比 異常なし

MRI 頭部異常なし、頸部異常なし

全身CT 異常なし
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診察までで考えたこと

T「アルコール多飲の方が自宅で生活できなくなっているので、
  先生どうにかしてくださいとワーカーさんに言われて、僕の外来を受診された方です

  前情報として、アルコール多飲歴があることと歩行ができなくなってきていることを
  聞いていたので、アルコール多飲にまつわるエトセトラだと思っていました。
  →参考:アルコールの問題


  でも診察してみるとビックリしました。
  
  神経診察でいろんな異常が出てきて、これはアルコールが問題ではない!
  というのが、最初の印象です


  アルコールは確かにたくさん飲んでいるようだったので、
  小脳系や感覚系の問題はアルコールでもよいとは思いましたが、
  圧倒的におかしかったのは、開鼻声と腱反射亢進でした。
  
  会話していると、あれ?もしかして開鼻声?という印象はありましたが、
  正直あまり気に留めていませんでした


  ですが、腱反射が亢進していた時点で、

  あれ???という感じででした

  アルコール多飲に伴う末梢神経障害からの腱反射消失を考えていたので、
  とてもびっくりしました。


  痺れもみられたので、最初は転倒に伴う外傷性の脊髄症や頚椎症という印象でした

  ですが、もしや・・・と思い、
  下顎反射や口輪筋、眼輪筋反射をとってみると、
  すべて出てしまったので、とても驚きました。

 何らかの理由で、首より上も下も一次運動ニューロンがやられている。


  あー・・・・・これは頸ではない

  多発の脳梗塞やMSでもなければ、
  そんな病気はALSしかないと思いました
 →参考:ALSの身体所見

  
  そこで、筋委縮がみられた大腿四頭筋の線維束性収縮をひたすら探しました
  
  ですが、1分くらいずっと観察したのですが、全く出ないんです。
  そもそも筋委縮がある割に筋力でMMTが5とれているのがかなり違和感がありました
  
  そしてsplit handもないのが、ALSにしては変だなと思いました

  結局、診察では筋委縮以外に二次運動ニューロンがやられている証拠がなかったんです

  なので1st インプレッションでは、
  ALSもしくは一次運動ニューロン障害だけが起きている
  タイプのALSの亜型であるPLSかなと思いました。

  
  でもそうすると、合わないんですよね。
   
 小脳失調と日内変動が。。。



ボス「どう?」


学生「え?何がですか?」


ボス「今のプレゼン。珍しくいいプレゼンだったよね。」


T「それ、全然ほめてないですよ(笑)傷つきます。」


ボス「何がいいかって、ちゃんと系統だって神経診察を述べていて、
   さらに一次運動ニューロンの障害や二次運動ニューロンの障害を意識して、
   プレゼンできているのが伝わるんだ。
  
   ちゃんとALSを狙ったフィジカル、例えば下顎反射とかがとれていて、
   その上でALSに合わないところもしっかり検討されている。

   
   ぼーっと聞いているとよくわからないけど、ALSを疑って聞いていると、
   とても、すっと入ってくるんだ。


   開鼻声とかもプレゼンであると言われればそうなんだろうけど、
   実際、開鼻声を所見としてとるのって難しいんだ
  
   ほわほわほわ~って鼻に抜ける感じね。
   

   フィジカルってそういうものなんだ。
   
  ○○徴候が大事なんじゃなくて、
  何かこの所見おかしいな?というのに気が付いて、
  それを解剖学的・機能的な異常にどう落とし込めるか。


   それを頭の中で変換していくのが、フィジカルなんだ。」



T「(はい、ここから落とされますね)」



ボス「プレゼンの内容はとてもよかったんだ。

   でも!でもだよ。
   
   
  プレゼンしている人が、何を言ったかではなくて、
  何を言っていないか?

   ということの方がはるかに重要なんだ。


   それはプレゼンの内容だけでディスカッションしていても意味がなくて、
   患者さんに直接会いに行かないと分からない。

   実際にあうと全然違うじゃん、ということはよくある。

   
   そして、

  きれいすぎるロジックには気を付けたほうがいい

   聞き手にすっと入ってくるプレゼンの時は、筋道が立ちすぎていて、
  プレゼンしている人はそのロジックから抜け出せないんだ。

   回診する側からすると、
 どうやってそのロジックを覆せるかということを
   常に考えているんだ。


   ある仮定をたてて、そのロジックにあう他のロジックがないかを考える
   そしてその仮定には明るい希望があった方がいい


   医者の言動というのは非常に重いんだ

   
   医者の仮定が暗いと、スタッフや患者さん、家族も暗くなっていく


   だからなるべく、仮定は明るい希望があるものにした方がいい

   今回であればプレゼンだけ聞くと、確かにALSっぽいとは思う。

   でもALSは残念ながら治療は難しい
   できれば可逆的で介入が可能な疾患を探したいよね。


   プレゼンの時からALSっぽいというロジックをくずしたかったけど、
   今回は難しいそうだ。
   
   だから実際に患者さんに会いに行こう。」


学生「はい」
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ボスの診察

ボス「うーん、足の色が黒っぽかったね

   あまり日に当たらない場所が黒いというのは、
   色素沈着を考えなければならない

   この状況で色素沈着と言われると何を考える?」

学生「・・・わかりません」

ボス「アルコール多飲歴があるから、ペラグラだね。
   あとは末梢神経障害という感じではなかったけど、
   POEMSを含めたM蛋白血症からの神経障害も頭をよぎるんだ

   でもやっぱり全体像が合わない

   M蛋白血症もすでに検査では否定されているしね」


T「データでいうと、赤沈が促進しているんですよね
     なのでM蛋白探しにいったというのもあります。」


ボス「Ht補正しても赤沈は促進してるの?」


T「はい、CRP陰性なのにESRだけ高いんです」


ボス「それはSLEなんじゃない?高齢男性のSLEって本当に変な症状で来るんだ」


T「そう思ったんですけど、ANA40未満なんですよね」


ボス「うーん・・・・」


T「あ、あとはHbA1cが4台で低めなんですよね。
  まあ、お酒のんでご飯食べなかったらそうなるかなと思って、流してました。」


ボス「それは確かにおかしいね。

   本当に低血糖が周期的にあるんじゃない?

   謎の日内変動、特に朝の調子が悪いのは、実は低血糖症状かもしれないよ。
  

   全体像は説明つかないかもしれないけど、低血糖による脳症からの後遺症という説もある。
   それが解決されれば今後悪くはならないかもしれない


  低血糖があるかもしれないという仮説は、
  可逆性でもあり明るい仮説になるね


T「確かにそうですね、今はしっかり食事もとれているのでこれで低血糖があれば、
  絶対に異常ですね。
  
  そうなれば、低血糖側から攻めていくことができます

  手掛かりになるかもしれません。血糖定期的に計ってみます。

  ありがとうございました」

まとめ
・すっと入ってくるきれいなプレゼンやロジックには注意
→プレゼンしている人は、そのロジックから離れられていない


・仮説は明るく希望のあるものを立てる努力をする
→どれだけALSだと思っても、治療可能なものはないか探し続けることが重要


・フィジカルをとる上で大事なことは、○○徴候をとることではない
→ちょっとした違和感を拾って、それが解剖学的・機能的にどう異常があるのかを頭で変換することがフィジカルをとるということ


    
    

2020年3月25日水曜日

昼カンファレンス ~Everybody lies, but vital don't lie.~

症例 57歳 女性 主訴:発熱、腹痛
(※症例は一部修正・改変しています)


Profile:コントロール良好な糖尿病あり、手術歴なし

現病歴:来院の1日前の朝からなんとなく右側腹部痛あり
    食欲なく朝食と昼食はとれず
    市販の痛み止めをのむと軽快
    夕食は少し食べることができた

    来院当日、朝から立つとふらつきあり
    腹痛は消失していた
    熱が38度あり、救急受診

併存症:高血圧、糖尿病
内服:ARB、CCB、DPP4阻害薬、αGI

バイタル
意識清明 BP116/76、P140、T39.0度、RR20、SPO2  94%(RA)

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ディスカッション①:1st インプレッションは?

司会「さあ、ここまでの情報で第一印象はいかがですか?」

学生「胆管炎」


司会「いいですね、他はどうですか?」

学生「消化管出血とか、膵炎とか」


司会「うんうん、いいね。研修医の先生はどうですか?」

研修医N「胆嚢炎や腎盂腎炎も考えます」


司会「そうだね、他には何かありますか?」

研修医Y「虫垂炎も鑑別になると思います。
    痛みがなくなったのは、穿孔してしまって腹腔内に膿瘍形成している可能性もあるかと思いました。」


司会「いいね!自分もまずは虫垂炎を鑑別の軸に置いて考えるかな。
   虫垂炎って便利な鑑別疾患ですよね?  
   みなさん、そう思いませんか?」


研修医Y「え?とりあえずカンファで虫垂炎と言っておけば、丸く収まるからですか?」

司会「そういう便利さじゃないよ(笑)

   虫垂炎を考えると、自動的に他の疾患も鑑別しなければならないよね

   pivot and clusterでpivotを虫垂炎におくと、
   例えば、憩室炎や回盲部炎も鑑別だし、尿路結石や胆嚢炎といった疾患も
   鑑別だなあーっていう思考が頭にインプットされているので、
   鑑別のあげ方として便利なんだよね。

   ここでpivotを胆管炎とすると、他の鑑別があげにくいんだ
   だから1stインプレッションで何を軸に置くかはけっこう大事なことなんです。」

  →参考:鑑別疾患のあげ方
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追加病歴

来院の1日前まではいつも通り仕事もできており、元気であった
朝に痛みで目が覚めたというわけではないが、朝からなんとなく右側腹部全体に痛みがあった
ずしーんという痛み
波はなかった

その後、痛み止めをのんで徐々におさまったが、夜にも少し痛かった
来院日は痛みは消失していた

ROS
黒色便なし、血便なし、下痢なし、嘔吐なし、吐き気なし、生ものの摂取なし

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ディスカッション②:他に聞きたいことは?

学生「尿の濁りはありましたか?」

発表者「尿の濁りですか?それは聞いていなかったです
    今まで帯下の性状とかは聞いていましたが、尿が濁っているかは聞いていなかったですが、どうなんですか?」


司会「尿が濁るというよりは、いつもと比べて何か変わった感じはなかったですか?
   と聞くようにしています。

   例えば、この症例だったら赤かったり濃かったりしませんでしたか?
   の続きで、いつもと違った感じはありませんでしたか?みたいに聞きます


   でもどうして尿の濁りを聞いたのですか?」


学生「尿路感染症も鑑別だったので、聞きました」


司会「ありがとうございます。そうですね、尿路感染症も鑑別ですね
   
   代表的な尿路感染には膀胱炎と腎盂腎炎がありますが、
   よくある勘違いとして膀胱炎の進化バージョンが腎盂腎炎だと思っている人が
   けっこういます
 
   膀胱炎を放っておくと腎盂腎炎になる印象がありますが、実はそれはほとんどありません。
   腎盂腎炎と膀胱炎は別物です


   腎盂腎炎を狙って膀胱炎の症状を聞いても、まずひっかからないので、
  それで腎盂腎炎を除外できるわけではないということは知っておいてください。


   実は、腎盂腎炎を疑った時に他に聞いてほしいことがあります。」



学生「・・・」


司会「悪寒戦慄です。腎盂腎炎を疑った時は吐き気や悪寒、悪寒戦慄があると、
   腎盂腎炎らしさがUPしますね。ありましたか?」


発表者「ありませんでした」

司会「ありがとうございます。他に何か聞きたいことはありますか?」


研修医Y「まず、右の側腹部から痛みがあったんですか?
    その時は吐き気はなかったのですか?」


発表者「そうですね、痛みで発症してちょっとして食事しようと思ったけど、
    食欲がなくてとれなかったという感じです

    嘔吐から始まったというわけではないです」


司会「それはどうして聞いたのですか?」


研修医Y「虫垂炎の症状は順番が大事だからです」


司会「ほう・・・
   では虫垂炎の典型的な症状の順序をみんなに教えてあげてください」


研修医Y「まず心窩部痛がきて、その後に吐き気や嘔吐がみられます。
     そして徐々に右下腹部に痛みが限局してくるようになり、発熱が出てきます」


司会「その通りですね。
   心窩部痛の前になんとなく食欲が下がると言っている人もいます。

   ①食欲がなんとなく低下
   ②心窩部痛
   ③嘔吐、吐き気
   ④右下腹部痛
   ⑤発熱(穿孔していなければ、微熱程度)

   これらの症状が半日から2日くらいの期間で出現するのが、虫垂炎の典型的なプレゼンテーションです。

   この順序はとても大事です。

   吐き気や嘔吐から始まって、その後に腹痛がでるのが、感染性腸炎ですね。cope先生が非常に重要視している病歴です。


   症状の順番は虫垂炎の病歴をとる時にかなり注意してとります。  




   そう考えると本症例はどうですかね?」


研修医Y「いきなり、右側腹部で来ているのは虫垂炎にしては変です。
     高熱が1日で出てきているのも早い印象です
     高熱まで出ている割に右下腹部痛もないので、典型的な虫垂炎とは言い難いです

     かといって下痢もないですし、嘔吐もないので、 
     感染性腸炎とも言い難いです」


司会「おっしゃる通りです。ありがとうございます。
   ただ、虫垂炎は非常にプレゼンテーションが多彩なので、
   病歴で除外はできませんが、この病歴でrule inすることもできませんね。」




司会「さてこの後、身体所見になるのですが、その前にどなたか、

   「俺流の腹痛の診かた」があれば教えていただけますか?」


研修医N「俺流というのはありませんが、腹部の場所で臓器を考えていく方法をよく使います」


司会「そうですね、9分割にして平面で場所を分ける方法ですね」


研修医N「あとはsudden onsetとか、acute onsetかで病態を考えます」


司会「ありがとうございます。time course analysisという方法ですね  
   
   suddenであれば、血管のトラブルを考えますし、
   hyper acute であれば、管腔臓器が詰まったり、捻じれたり、破裂したりの病態ですね
   acuteであれば、炎症の病態を考えます

   


   大事な考え方です。素晴らしい


   自分流としては、平面の次元、深さの次元、時間の次元の3次元を意識して
   腹部診察を行っていきます。
   →参考:腹部診察は三次元で

   でもこれは「俺流 腹部診察」です


   「俺流 腹痛の診かた」はずばり、
  腹痛と言われたら、腹部以外から考える!

    という事です。
    
    好きな食べ物があったとして、一番最後にとっておきますよね?」


聴衆 シーン・・・


司会「え???みんな好きなもの一番最後に残さないの?」


研修医Y「残します!」


司会「(笑)ありがと。

   えーっと、何が言いたいかというと、
  いきなり原因がありそうなところに飛びつかないというのが大事です。
   
   心電図のST上昇とかは飛びついてくださいね(笑)
   そういう急ぎじゃない時に限ります。

    
   腹痛だからといって腹部臓器一直線になってしまうと、そこに原因がなかった時に焦ります
   もしくは、何か(例えば便秘)を見つけて腹部臓器のせいにして、
   他の原因が考えられなくなってしまいます。


   ですので、最初から腹腔内臓器以外が原因かもしれないと思うことが
   見落としを防ぐこつです。


   多分ですが、この症例は腹部に所見がないと思います。
   そうなった時にどう考えるかです。


   腹腔臓器以外の病気で腹痛を来す疾患には、どういう病気がありますか?」


学生「心筋梗塞とかですか?」


司会「素晴らしい!腹腔内臓器の周辺を考えるのも大事です

   他はどうですか」


研修医E「精巣捻転とかも周辺臓器ですね。
    あとはDKAやIgA血管炎、ポルフィリアも腹痛でくることがあります。」


司会「その通り、素晴らしい。
   症例に戻りつつ考えてみると、この方は糖尿病がありましたね

   コントロール良好とはいうものの、途中で薬を退薬される人もいます
   多いのは経済的な理由ですね。

   DKAは大事な鑑別だと思います

   あとは高Ca血症の腹痛も有名ですね」







   他にこの症例で考えなければならない
  腹腔臓器以外で腹痛を来す疾患はなんですか?」


研修医「うーん・・・」


発表者「伝染性単核球症!」


司会「うーん・・・ちょっとなあ・・・

   では質問をちょっと変えましょう

   この方のバイタルみてどうですか?

   何か違和感ありますか?」


バイタル
意識清明 BP116/76、P140、T39.0度、RR20、SPO2  94%(RA)


学生「酸素化が少し低いです」

司会「いいね。そこも大事な視点です。
   でももっと違和感をもってほしいところがあります」


学生「脈が速すぎますか?」

司会「その通り!頻脈すぎるんです。
   熱が上がった時に脈が上がるのはみんな知っていますよね?

   39度ならこれくらい頻脈でもよいでしょうか?


   一応、計算式があります。
   0.55度上がると、脈が10上がると言われていますので、
   計算すると、まあだいたい100-130くらいですかね

   やっぱり計算しても、140だとちょっと早すぎる印象です。


   まずは、この頻脈に違和感を持って欲しいんです!

  その上で、敗血症や大量出血を来しているかもしれない、急がないとまずいかもしれない
  という危機感を持って欲しいんです。」


発表者「実際はそこまで頻脈に違和感や危機感は持てていませんでした」


司会「はい、実際の見た目もありますから、難しい所ですね。
   でもバイタルは嘘はつけません。


   僕の1stインプレッションは、腹痛+あまりに早い頻脈があったので、
   実は甲状腺クリーゼが最初に思い浮かんだ疾患でした

   なぜなら最初から腹腔内臓器以外で考えていたからです。
   甲状腺の検査ださないと絶対に診断できませんよね。」


発表者「なるほど・・・」


研修医E「すいません、話は少しそれますが、この方の脈はregですか、iregですか?
     頻脈性の不整脈の可能性も考えたほうがよいですか?」


司会「素晴らしい!
   
   そうなんです。この症例で伝えたい大事な事の二つ目がそれです。

  腹痛の症例では必ず脈がregであるかiregであるかを確認してください

   自分で脈をとって確認することが大事です。

   これはこの後の昼カンファレンスで100回くらい口を酸っぱく言われることです。

   Afの人が腹痛でやってきた場合、まず考えるのはSMA塞栓症です
   腹痛が強いわりに、腹部所見に乏しく、造影CTをしないと見逃してしまいます。


   動き方が全然変わってくるので、 腹痛の人の場合、
  バイタルの中で一番注目しなければならないのは、
  脈が不整かどうかです

   実際はどうでしたか?」


発表者「regでした」


司会「ありがとうございました。では身体所見を教えてもらいましょう」
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身体所見

見た目  お元気そう 
眼瞼 黄染なし 甲状腺腫大なし
発汗なし

呼吸音 左右差なく清
心雑音なし
腹部 平坦 軟 圧痛なし 右腎把握の際に軽度の痛み
CVA叩打痛なし 肝叩打痛なし
マーフィー徴候陰性 マックバーネー徴候陰性
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ディスカッション③:さてどうするか?

司会「身体所見ではやっぱり、何もありませんでしたね
   となると、検査や画像に頼らないといけない。


   胆管炎と腎盂腎炎は残念ながら、病歴や身体所見で詰めることは難しく、
   検査に頼ってしまう疾患です。」


発表者「はい、原因がよくわからなかったので血液検査や血培とりつつ、
    CTに行きました。」
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血液検査 
WBC2000 台、NET80%
肝胆道系酵素 上昇あり  腎機能増悪
CRP17

尿検査 膿尿なし、細菌尿なし、潜血2+

血培 採取済み
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ディスカッション④:原因は?

司会「血液検査みると白血球、めっちゃ低いね
   まずい状況ですね

   あとは、肝胆道系酵素が上昇していますね。
   胆管炎なのでしょうね。

   ドレナージしなければならないので、閉塞起点をさがしましょう
   超音波検査やCTはどうでしたか?」


発表者「はい、超音波検査では胆道系の拡張はありませんでした。
    水腎もはっきりしませんでした

    肝叩打痛もなくて、CVA叩打痛もなくて、
    いったい何なんだろうとは思っていました。
   
    でもCTとると・・・」


CT 右に軽度の水腎所見あり、右尿路結石あり
   右腎周囲の脂肪織濃度上昇あり
   肝内胆管拡張なし 胆石なし 胆管に結石なし
   他に腹痛の原因となるものなし


司会「えーーー!そっち???

   いやあ、びっくりですね」


発表者「はい、びっくりしました

    ぜんぜんCVA叩打痛もなかったですし、膿尿や細菌尿もなかったので、
    あんまり疑っていませんでした。
  
    本当に尿路結石が嵌頓していると、出てこないんだなあというのが、
    よくわかりました。」


司会「なるほど、そうでしたか。
   肝胆道系酵素というのは本当に非特異的で、敗血症でももちろん上がります。
   ウイルス感染症やレプトスピラ感染症とかでも上がります。

   肝胆道系酵素が上昇しているからといって、肝胆道系に飛びついてはいけないですね。
   さっき自分で言ったばかりなのに飛びついてしまいました(笑)」



発表者「CTから帰ってきた後は、急に血圧が70台まで低下しました。
    補液やカテコラミンで支えつつ、泌尿器科で処置を行って軽快したという症例です。
    後日血培から大腸菌が検出されました。

   やっぱり閉塞起点のあるGNRの感染症は急激に悪化するというのが、怖かったです」


脳外科医「やっぱり最初からこのバイタルはプレショックだったてことなのかな?」


司会「その通りですね、いわゆるバイタルの逆転という現象です。」


発表者「この症例は本当に重篤感がなくて、ずっとケロッとされていました。
    ですので、見た目の元気さに騙されてしまって、バイタルを重視できなかったのが反省です」


司会「糖尿病は重症感とfocusを隠すとはいうけど、まさにですね。
 
   やっぱりコントロール良好な糖尿病でも隠れてしまうんですね。
   勉強になりました。ありがとうございました。」


まとめ
・腹痛の原因は、腹部以外の原因や臓器から考える
→でないと逆戻りするのが大変


・バイタルは嘘をつかない
→バイタルが崩れている時は、見た目は元気でも体のホメオスタシスは破綻している


・腹痛の症例のバイタルでは、脈が整(reg)か不整(ireg)かどうかに気を配る
→Afがあって抗凝固されていなければ、SMA塞栓症が鑑別の上位になる

2020年3月23日月曜日

コリン作動性クリーゼ ~常に狙っていないと見逃す疾患~

当直中、病棟から電話・・・・

Ns「すいません、尿路感染症で内科で入院している80歳の男性が、
  夕方から酸素化が低い状態です。

  酸素を開始していますが、なかなか上がってきません。
  痰をとってもとっても湧き上がるようにでてきてしまう状態で困っています。
  誤嚥性肺炎だと思うんですけど、どうしたらいいでしょうか?

  バイタルは血圧140/80、脈110、SPO2 90%(5L)、RR24、体温37.0です。
  意識状態はややぼーっとしています。汗もじっとりかいています。

  既往は認知症と前立腺肥大症があります。」
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ディスカッション①:どうやって返事しますか?

研修医「酸素をあげてください、今からすぐ行きますと返事します!」

T「ありがとうございます。理想的な答えですね

  他に何か聞きたいことはありますか?」

研修医「意識が悪そうなので、血糖も測ってもらいます
    汗もかいているので、低血糖は鑑別です。
    心筋梗塞の可能性もあるので、心電図も用意してもらいます。」

T「素晴らしいですね。」
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経過

T「わかりました、すぐに行きます。
  ところで最近、この方、泌尿器科に対診が入りませんでしたか?」

Ns「泌尿器ですか?

  あ、今週のはじめに、尿カテ抜去後に尿が出にくいということで、
  泌尿器科に対診が入っています。」


T「そこで、新しくお薬が出ていませんか?」

Ns「臭化ジスチグミン(ウブレチド®)が新しく処方されています」


T「では、瞳孔をみてください。縮瞳していませんか?」

NS「瞳孔ですか?

  あ、1/1mmととても縮瞳しています。」


T「コリン作動性クリーゼですね。」
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上記はボスから(5回くらい)聞いた本当にあった話(のよう)です

コリン作動性クリーゼ

忘れた頃にやってきます


コリン作動性クリーゼはコリンエステラーゼ阻害薬によってアセチルコリン活性が過剰になり、副交感神経優位の諸症状が出現し、重症となると意識障害、痙攣、呼吸筋麻痺からの心停止になる病態です


副交感神経優位になるので、徐脈になると覚えている人も多いと思いますが、
実際はニコチン受容体優位になると頻脈になる症例もあり様々です

呼吸不全は痰がらみから換気不全やそこからの肺炎でも起こりますし、
呼吸筋の筋力低下からのⅡ型呼吸不全になる症例もあります


臭化ジスチグミン

臭化ジスチグミン(ウブレチド®)はアセチルコリンエステラーゼ阻害薬であり、AChEにカルバミル基を結合させて可逆的にAChEを失活させます

そのため、自律神経系、神経・筋接合部、中枢神経系の神経終末でアセチルコリン(ACh)濃度が上昇し、ACh受容体への刺激が増強されます

ムスカリン性受容体への作用により平滑筋の収縮を強める効果は排尿筋の筋力を増強させ、排尿障害の治療に使用されています


臭化ジスチグミンによるコリン作動性クリーゼの発症頻度は服用例の0.2%といわれていますが、ほとんどの症例が診断されていないと推測されます
0.2%の発症した症例をみてみると、発症例の91%が61歳以上です

発症例の多くが服用して2週間以内に発症しています
しかし、長期処方例でも発症例はみられますので、処方中は常に注意が必要です


服用直後はだれしも注意していますがが、慢性的にDO処方されていたり、
引き継いだ症例では注意が散漫になっていることが多いので、
ウブレチド®の処方薬をみつけたら、常に緊張することが重要です





海外でも臭化ジスチグミンは使用されていますが、コリン作動性クリーゼの報告は少なく、日本からの報告がほとんどです。
理由としては、海外では5mgからの投与開始や頓用といった使用法が多く、
投与期間が短いことが推定されています

国内では2010年3月より添付文書が改訂され、排尿障害への投与時には投与量は5mgまでに制限され、製造販売元もホームページや添付文書にて、注意事項やクリーゼの特徴を積極的に提示して注意喚起が行われました。


企業の努力によって、10年前に比べればほとんどお目にかかることはなくなった疾患です
ですので、今の臨床医のほとんどはコリン作動性クリーゼを経験したことがなくなってしまいました


コリン作動性クリーゼの初期は診断は非常に難しく、
クリーゼ症例の中には、誤嚥性肺炎として対応されている症例も多くあると思われます。


実は目の前にコリン作動性クリーゼの患者さんはいるのに、気が付いていないだけかもしれません



自分も一例だけ経験しましたが、
その時の印象は「いつもと違う違和感」です

いつもの誤嚥性肺炎にしては、何かおかしい・・・
いつもの心不全にしては、何か変・・・


「さらさらの痰」+「じっとりした汗」+「呼吸不全」
→ま、そういう誤嚥性肺炎もあるよね
→心不全も合併していて、交感神経賦活の状態かな

ではだめです


「さらさらの痰」+「じっとりした汗」+「呼吸不全」
→これってもしかして、コリナージッククライシス?
→瞳孔みよう
→縮瞳している!
→AChE活性測定しよう
→低下している!!!(ほぼ確定)


臨床の違和感をないがしろにしてはいけません
その違和感は、いつも正しいです

違和感をもった時は、その違和感の正体が何であるかを突き止める努力をしなければなりません



2010年から2016年の235人のコリン作動性クリーゼの症例報告です
日本からの報告です


2010年から前述のとおり、添付文書が改訂されましたが、その後も散発的にみられています
この報告ではなぜか、コリン作動性クリーゼを引き起こした薬剤の内訳がかいてありませんでした

ただ基礎疾患で多いのは、神経因性膀胱(14%)、脳血管性疾患(15%)、認知症(12%)、重症筋無力症(11%)となっており、泌尿器科や神経内科から処方されるアセチルコリンエステラーゼ阻害薬が多いのであろうと思われます

コリン作動性クリーゼはひとたび起こすと、
20%に人工呼吸器管理が必要になり、
20%にカテコラミンが必要となり、
6.4%は死亡するという疾患です



コリン作動性クリーゼに気が付くには、トキシドロームを理解する必要があります

トキシドロームとは、中毒の原因物質が不明な場合にバイタルサインや身体所見、症状などの組み合わせによって、中毒物質を推定する方法です

中毒物質の系統でグループ化されています


コリン作動性クリーゼは薬で起こるとは限りません


定期的に何の薬も飲んでいない人がコリン作動性クリーゼの状態できた場合は、


①農薬(有機リン)で自殺しようとした
②サリンのような事件に巻き込まれた

可能性があります
その時は、まずは自分を守る努力からしましょう



薬の場合は泌尿器科や神経内科、精神科から出ている薬に注意しましょう

コリン作動性クリーゼの初期症状の多くは消化器症状といわれています

重篤なクリーゼが起こる前に、嘔吐や下痢といった消化器症状があり、
その時点で服用を中止することができれば、クリーゼは防ぐことができます

そのため、臭化ジスチグミンや抗認知症薬を内服している人で嘔吐や下痢があった場合、安易に「感染性腸炎」といってはいけません


そして、その人が痰がらみが出現し、
肺炎を起こした場合も安易に「誤嚥性肺炎」といってはいけません





コリン作動性クリーゼのまとめ
・以前より症例が減った分、診断経験がある臨床医が減っている
→もともと診断が非常に難しい病気。トキシドロームの概念を知っておく


高齢者の感染性腸炎や誤嚥性肺炎には、薬剤性のコリン作動性クリーゼが隠れている
→いつも心に「薬」と結核


・定期薬がない人のコリン作動性クリーゼはやばい
→自分の身を守ることから始める。事件か事故か自殺しかない。


参考文献:
日呼吸会誌 49(12).2011
日臨救医誌 2015;18:599-604
日集中医誌 2011;18:176~177.
ICUとCCU Vol.43(3)2019
J.Med.Toxicol.(2018)14:237-241



2020年3月18日水曜日

赤痢アメーバ ~コミュニケーションとってますか?~

症例 60歳 男性 主訴:薬が欲しい
(※症例は修正・加筆を加えています)

Profile:精神疾患あり、精神科通院中、肺結核の既往あり

現病歴:3か月前から下痢と血便があった
    大腸内視鏡検査が施行され、盲腸と直腸にびらん・潰瘍がみられた
    腸結核が疑われ、抗酸菌のPCRと培養検査が行われたが、陰性だった
    病理所見は非特異的な炎症であり、何らかの感染性腸炎が疑われた

    その後症状は改善し、感染性腸炎として対応された

    しかし、たまに血便があるとのことで、止血剤を希望され、
    内科外来を受診

ROS:下痢はないとのことだが、便汁が出てくることがあるとのこと
   たまに血混じりの便が出る
   腹痛なし、発熱なし、体重減少なし


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ディスカッション①何を考えますか?

研修医「サイトメガロ!」

T「ぶー」

研修医「UC!!」

T「ぶー」

研修医「クローン!!!」

T「ぶー」


外科医「性交歴は?アメーバじゃないの?」


T「はい、その通りです。この症例は直腸と盲腸に病変がスキップして認められ、
  赤痢アメーバ赤痢だと第一印象で思いました。
  なので性交歴を聞いてみると、やはりMSMの方でプロテクションもありませんでした。
 ということで、赤痢アメーバのお勉強です」



赤痢アメーバ

赤痢アメーバ原虫は寄生虫です

寄生虫は好酸球が増えることが有名ですが、
好酸球が増多する寄生虫感染の原因は蠕虫(多細胞)です
IL5を介して好酸球増多を起こします

寄生虫すべてが好酸球増多を起こすわけではありません
赤痢アメーバは単細胞なので、好酸球増多は起こりません


赤痢アメーバ原虫は栄養型と嚢子(シスト)の形態があります

シストを経口摂取し、それが腸管内で脱嚢して栄養型になります


盲腸で最初の病変を作り、びらん・潰瘍を形成します
そこから血行性に肝、肺、脳へ膿瘍を形成することもあります



感染する状況として3つが有名ですが、近年は4つ目があります

①海外渡航後、輸入感染症として発症するパターン

東南アジアでよくみられます
食物に汚染しているため、飲食物から感染することが多いです


②性行為感染症としてみつかるパターン

男性の場合は、MSMの方が多く、疑った場合は性行為の5Pを聴取する必要があります

効率にHIVの合併もみられるので、
赤痢アメーバを疑った場合は、性行為感染症全てのチェックとパートナーのケアも必要です

とくに無症候性の保菌者の場合は、感染を周囲へ広げてしまうことと
1年で4-10%で症状が出現してくるため、積極的に治療をする必要があります


近年増加傾向なのは、女性の感染です
風俗店で働いているようなCSWの方で感染が流行しているようです


③知的障害者施設での流行でみつかるパターン

時折、みられます
性行為と糞口感染の両方が考えられます


④新しいパターン

赤痢アメーバは感染しても多くは無症候です
最近は康診断の便潜血陽性で、大腸内視鏡検査にてみつかる例が増えているようです



赤痢アメーバは無症候例が多いのが特徴です
まるでクロストリジウム・ディフィシルみたいな感じで、
腸管内に住み着いて、あるとき症状を出してきます


そして、ステロイドが入ったり、免疫不全状態になると劇症化します
劇症化した場合は、中毒性巨大結腸症や腸管壊死を来し、腸管穿孔を来すこともあります

劇症型の赤痢アメーバ大腸炎は鑑別になかなかあがらないので、術前の診断率は非常に低いのが特徴です

メトロニダゾールを早期から投与していた症例では死亡率は低いですが、
投与されていなかった症例では死亡率はとても高いです


赤痢アメーバは無症候例もあれば、急性の赤痢のような症状できたり、
慢性化してUCやクローン、腸結核と鑑別を要したり、
中毒性巨大結腸症のような激烈な状態できたり、
多彩なプレゼンテーションで我々の前に現れます



診断に大事なもの

診断に大事なのは、大腸内視鏡検査でも便の顕微鏡検査でも抗体検査でもありません


赤痢アメーバ大腸炎を診断する一番大事なのものは、
コミュニケーションです


「赤痢アメーバも鑑別なので、その目で大腸内視鏡検査をお願いします」
内視鏡施行医に伝えること


「赤痢アメーバも鑑別なので、その目で病理をみてください。できればPAS染色も追加してください」
病理医に伝えること


「赤痢アメーバを疑っているので、その目で便をみてください」
細菌検査技師さんに伝えること


一つ一つ検査をポチポチとオーダーするだけでは診断できません
コミュニケーションをとらなければ、スルーされてしまうことが多い疾患です


閾値低めに疑い、いろんな人に協力してもらうことが大事です
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本症例は3か月前の病理結果を再度、病理医に確認してもらったところ、
2匹、虫らしきものがいました


まとめ
・赤痢アメーバの感染が判明するのは4つのパターン
→①海外渡航後の輸入感染症、②性行為感染症、③施設での感染、④健康診断で便潜血陽性例


・赤痢アメーバのプレゼンテーションは多彩
→無症候から急性、慢性、劇症型まである
 UC、クローンと間違えてステロイド入れると大変なことになる


・抗体検査ができない今、診断に必要なのはコミュニケーション
→その目で見れば、診断できる疾患!


参考文献:uptodate
日本大腸肛門病会誌 71:494-505,2018
日本大腸肛門病会誌 71:482-493,2018
Lancet 2003;361(9362):1025-1034
IASR Vol.3 37p.246-248:2016年12月号
臨床と微生物 Vol.41 No.4 2014.7.
第71巻第10号 2018年10月



2020年3月12日木曜日

新型コロナウイルス感染症 説明書(第2版)

新型コロナウイルス感染症が発生してから、もうすぐ3か月を迎えようとしています

100年前に流行したスペイン風邪が地球を一周するのに、一年かかりましたが、
今回のコロナウイルスは、アジアから始まり、中東→ヨーロッパへと渡り、
アメリカでも感染が拡大しています

3か月で、もう地球一周してしまいました
感染の拡大が桁違いに早くなっているのがよくわかります


自分は新型インフルエンザが流行した時に医師ではなかったので、
パンデミックは初体験です

今回のコロナのパンデミックが、今後どうなっていくのかが、やはり不安です

不安だからこそ、臨床と情報の最前線にいたいと思っています

感染対策については、感染症の専門医の先生が頑張ってくれていますので、
自分にできることは、それを分かりやすく発信するくらいだと思っています

PDF版









コロナが難しいのは、症状が何でもありということです
極論、今となりにいる人がコロナ感染している可能性すらあるということです
もしくは自分自身が実は感染しているかもしれません


プレゼンテーションが幅広く、他の呼吸器症状と病気と見分けがつかず、
コロナのゲシュタルトが描きにくいのが今回の病気の特徴です

「倦怠感を強く訴える」というのは、一つのkey wardですが、絶対的なものではありません

インフルエンザみたいな特徴的な症状であれば、分かりやすいですが、
熱が出ないことも多く、軽症な人が多いので封じ込めが非常に難しいのです



武漢からのチャーター便やクルーズ船の時の全例PCR検査の副産物として、
PCR陽性でも無症状者がかなりいることが、分かりました

クルーズ船では697人の人がPCR陽性になりましたが、
328人は無症状でした



ただ、無症状の人の中には、
その後、各病院に搬送された後に症状が発生している人もいるので、
潜伏期の人も拾い上げてしまっている可能性もあります


ですが無症状の人がたくさんいることを示唆する情報でした



初期の症状は「いつもの風邪」や「花粉症の症状」、「のどがいがらっぽい」、
「インフルエンザみたいな感じ」と区別がつきません

症状だけではお手上げですが、風邪と新型コロナを見分けるヒントはあります


それは時間経過です

時間で他の疾患をふるい分けることが重要です


風邪やインフルエンザであれば、4日あれば完全に治らないまでも
ピークは越えてきます(もちろん例外はあります)

ですが、コロナの特徴は症状が長引くことです


重要なのは、PCR検査をかたっぱしからすることではなく、
時間を有効に使う事です




Roは一人の感染者が何人に感染を伝播させたかの数字です

新型コロナは2-2.5となっていますが、
状況と時期と対策によって変わってきます

ただ、麻疹は12-18、百日咳は12-17、水痘は8-10、SARSは2-3であり、
他のウイルス性疾患に比べれば、あまり感染力は強くないことがわかります


パンデミックが起こると、スーパースプレッダーという存在が話題になりますが、
ホスト(宿主)だけの問題ではなく、環境にもかなり影響されているようです

宿主(咳が出やすい、ウイルス量が多い、マスクしていない、活動範囲)

×

環境(閉鎖環境、人が密集している、接触感染機会が多い)


ですので、感染した人みんなが2人にうつすわけではなく、
感染しても8割の人は誰にも感染させていません

残りの2割の人達が、二次感染の原因となっています
かなり環境の要素が大きいのではないかと思われます


実は中国での死亡率はかなり減っています
武漢市内では6%弱の死亡率ですが、湖北省以外の地域では0.22%です
(中国国内:人民日報より、2020年2月1日)

これが示唆することは、

致死率=ウイルスの毒性の強さ

ではないということです


致死率=ウイルスの毒性の強さ×医療資源

ということです


そして日本国内でECMOが使われている症例では、まだ一例も亡くなっていません
(2020年3月12日)






中国が抑え込めた理由として、この4つを徹底したからと言われています

早期発見、早期隔離、早期診断、早期治療




PCR検査が保険適応になり、民間の検査会社でも解禁となりました

そのためPCR検査の件数は格段に増えました

ですが、実は陽性者は増えてはいません

(https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/ 2020年3月12日アクセス)




次からは物議をかもしたPCR検査についてです



PCR検査に限らず、検査の特性を理解していないと、
検査の結果を解釈できません

その検査の感度も特異度もわからないのであれば、
その検査は使うべきではありません

そしてゴールドスタンダードを何にしているかも知っておく必要があります


PCR検査の感度はさんざん話題になりますが、せいぜい70%くらいといわれています
ですが、PCR検査のゴールドスタンダードっていったい何?ということになります

中国では、ゴールドスタンダードは臨床診断のようです
凄いですね


PCR検査は国ごとでも違うので、中国と韓国と日本で行っている検査はすべて別物です
ですので、他の国のデータを鵜呑みにもできないのです



PCR検査自体も非常に専門的な手技で、バイトで入った人が明日から急にできるというものではありません
高度な技術が必要ですので、時間と労力とお金がかかっています

もちろん人の手で行っているので、キャパシティというものがあります


それでも検査してほしいという時はあります



感染症の専門の先生数名にも見てもらいましたが、皆さん上記のような思考で
検査に踏み切っているようでした

中でも社会へのダメージというのも非常に重要で、
院内のスタッフの場合はかなり閾値を低めに検査する必要があるということを学びました




おかれた状況(流行状況・物品の在庫・病院としての役割・ハード面)によって、
防護のレベルをどこまで行うかは、各施設ごとで異なります

なので一律にこうすればいい。というものではなく、
各施設ごとで感染対策を考えなければなりません

今後はいつまでもこの対応は続かないので、どれだけ段階を下げていけるかが問題になってくると思われます

例えばN95の使用を延長するということは実際に行われています




ここからは感染予防です


感染の流行が拡大することは間違いなさそうなので、
いつかは自分も含めて感染することが予想されます

もっと感染が拡大してしまった時に
自分が感染してしまうのは、致し方ないかもしれませんが、
一番懸念するのは、自分がスーパースプレッダーにならないかどうかです


誰もスーパースプレッダーになりたくてなっているわけではありませんが、
ならないように、意識しておくことは重要かと思います


マスクがなければ咳エチケットが大事です

腕の内側の服に向かって咳をします

手で覆うのは、その手にウイルスがつきまくるのでよくありません


マスクをつけずに咳をしている人に対して白い目が向けられいる毎日ですが、
腕の内側に向かって咳をしている人がいれば、その人は咳エチケットを非常に理解している人です



ちょっと鼻水があった時にいきなり仕事を休むのは、現実的ではないので、
まずは上司に相談したり、かかりつけの医師に相談することが大事かと思います

「ちょっと鼻水が出てきたんですけど、仕事に出勤してよいか?」
「咳が昨日から出ているが、どうしたらよいか?」


大事なのは自己判断で行動しないことです

誰にも相談せず、自己判断で出勤して実は新型コロナに感染していた場合、
その会社・施設・病院は14日間の封鎖・営業停止になります

その責任を一人で負うのはリスクが高すぎると思いませんか?




休んだ後にいつ出勤するかも非常に問題で、一番よくわからないところです

まずコロナであった場合、どれくらい感染力があるかというのがよくわかりません
14日くらいまではウイルスが検出されるといわれていますが、
感染力があるかは、別問題です


今の時期、新型コロナ以外の風邪もひきますし、花粉症も出てきています
ですので、
風邪の症状があった時にいつから出勤していいか?というのは非常に難しい問題です
医師に相談しても、明確に答えられる人はいないでしょう


まだどこにも指針は出ていなかったと思います
理想は、全例コロナかもしれないと考え、14日間のお休みです
ですが、それは現実的ではありません


ここはケースバイケースしかありません

いつもの風邪っぽければ4日間は休み、症状なくなれば出勤
インフルエンザっぽければ5日間は休み、解熱して2日間たったら出勤
いつもより咳がつよい風邪であれば、7日間くらい休み、咳がおさまりつつあれば出勤

新型コロナが確定している人、もしくは濃厚接触した人は14日間のお休み


上記のような漠然としたイメージはありますが、
自分が相談されたら、
その人の臨床診断と新型コロナの検査前確率と社会へのダメージを考えて決めると思われます

決してPCR検査をすればいいというものではありません


新型コロナの影響は全世界に広がり、あらゆる職種を巻き込み、
そして人の営みを変えつつあります

数年後にはあの時期が転換期であったと言われるのでしょう
5Gがテレワークやネット会議を加速させ、
医療分野での在宅診療もVRの導入が増えてくると思われます

ですが、その前にこの危機を乗り越えられるかが問題です


経済のことは何もできませんが、メンタル面のサポートは医療者が考えなければならないことです



一つだけ言うとテレビのワイドショーやニュースだけで情報を手に入れるのは危ないという事です

自分が医療者であるので、今回のことで再認識しました
テレビは数字をとる必要があるので、例外を大々的に報道します

今回の髄膜炎もそうです

ウイルス性の疾患なのだから、いつかは髄膜炎や心筋炎が起きても全くおかしくありませんでしたが、それをセンセーショナルに報道するのはただ不安を与えるにすぎません



ファクトフルネス

これにつきます

テレビの情報に惑わされてはいけません
「毎日死亡した人が何人です」と報道されますが、
中国で死亡率がどんどん低くなっていることは報道されません

安心を与えるニュースより、不安を与えるニュースの方が視聴率が高いので、
テレビは偏った悲劇的な情報が多いのです


じゃあ、何から情報をとればいいかというと、

信頼できる感染症の専門医(忽那先生、大曲先生、高山先生、岩田先生)が発信している記事や信頼できる学会や機関(WHO、感染症学会、環境感染学会)が発信している情報をもとにしましょう



今回のウイルスは分からないことが多いと言われていますが、
何が分からないのかを整理することも大事かと思われます

その疑問を解決すべく、たくさんの医療者が論文を日々投稿してくれています
臨床で忙しいながらも論文を作成してくれている現場の先生方には感謝感謝です





新型コロナウイルスに最初に真剣に向き合っていたのは、
感染症の専門家と政府でした

次に向き合いだしたのは、国民です

ですが一人一人の感染努力では抑えきれないフェーズに差し掛かっています


この後、真剣に向き合わなければならないのは、地域です

当地の人口は5万人ちょっとですので、
高山先生が紹介してくれた計算式にあてはめると、
ピーク時において1日あたり新たに新型コロナウイルス感染症を疑って外来を受診する患者数は189人、入院治療が必要な患者数は103.6人
重症者として治療が必要な患者数は3.5人となります

今の病院の患者数に上乗せですので、どう考えても無理です


そのため、地域で取り組むしかありません
病院ごとではなく、病院同士が手を取り合って感染対策を行っていくフェーズになっています
そして施設をどう守るかが今後の命題です

高齢者施設における新型コロナウイルス感染症への対応指針






今後、我々医療者が暴露した時の指針です



Where is the answer ?

吉田松陰先生を彷彿とさせるような先生達が集う 勉強会で症例提示させていただきました ※症例は一部修正・改変しております  

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