2020年1月28日火曜日

昼カンファレンス ~鑑別疾患のあげ方~

症例 30歳 男性 主訴:右下腹部痛

Profile:既往のない元気な30歳男性

病歴:2日前 寝ている時に右下腹部痛が出現してきた
       痛みは強くなかったので、経過をみていた
   来院当日、痛みが増強してきたため、開業医受診
   虫垂炎かもしれないと言われて、痛み止め処方され帰宅
 
   夕方、痛みが持続するため、再度近医受診し、
   血液検査施行され、炎症反応高値であり、虫垂炎疑いで紹介受診

痛みは最初は右側腹部くらいだったが、今は右下腹部
嘔吐なし、下痢なし

既往:なし、薬:なし

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ディスカッション①:病歴までで何を考えますか?

司会「はい、病歴は以上ですね。みなさん他に何か聞きたいことはありますか?」

学生「痛みの性状はどうでしたか?」


発表者「ずしーんとした痛みということでした。筋肉痛のような痛みとも言っていました」

学生「何か筋肉痛になるような運動はしましたか?」

発表者「そこまで聞いていなかったです」


司会「はい、ありがとうございます。
   大事ですね。筋肉痛っぽいというなら、筋肉由来かもしれませんよね

   よくあるのは、子供がお腹の上でジャンプしていて、
   腹直筋血腫になってしまったというのが、有名ですけど。

   他に何か聞きたいことはありますか?」

研修医「食欲はありましたか?」


発表者「はい、普通に食べています」


司会「なるほど、それは変ですねえ

   今回の症例は虫垂炎で紹介になっていますが、
   みなさん何を考えていますか?」

学生「虫垂炎です」


司会「そうですね、右下腹部痛といったら、虫垂炎ですよね。

   では、虫垂炎の病状はどのように進行していくか知っていますか?」


専攻医「まずは心窩部痛が出現し、次に吐き気や嘔吐が出てきて、
    右下腹部に限局した痛みになり、白血球上昇や発熱がみられる

    と覚えていました。」


司会「はい、その通りですね。この順番は非常に重要です。

   吐き気や嘔吐の後に腹痛が来た場合は、腸炎を考えます。


   ですが注意点があります。

   虫垂炎は心窩部痛の前に実は食欲低下がみられるといわれます。
   吐き気ではないんですが、なんとなく食べたくない程度ですね


   なので虫垂炎の場合に食欲がある人は稀にいますが、
   食欲があるというのは、虫垂炎らしくはないのです


   虫垂炎を疑った時には、
         CPR(clinical prediction rule)としてAlvarado scoreというものもありますね

   MANTRELSで覚えます

   Migration of pain:心窩部、臍周囲から右下腹部への移動(1)
   Anorexia:食思不振(1)
   Nauzea:吐き気、嘔吐(1)
   Tenderness in RLQ:右下腹部痛(2)
   Rebound tenderness:反跳痛(1)
            Elevated tempreture:発熱37.3度以上(1)
   Leukocytosis:白血球上昇1万以上(2)
   Shift of WBC :白血球の左方移動、好中球75%以上(1)


   7点以上で虫垂炎を強く疑うとされており、
   4点未満の場合は虫垂炎の可能性は低いとされています。

   この症例はすでに2日経っていて、食欲低下も吐き気もない事や
   最初は右側腹部だった事は虫垂炎っぽくはないですね

   では虫垂炎以外にどんな鑑別がありますか?」


シーン


司会「では、学生の皆様に鑑別疾患が自然と生まれる魔法を伝授します

   みなさん、Dual process theoryを聞いたことがありますか?
   システム1とシステム2と呼ばれるものですね

   臨床推論に限らず、我々は物事を考える時にまずは直感的に考え、
   そしてじっくり考えるという、二つの思考プロセスを持っていると言われます

   それは臨床推論でも同様に考えられています

   今回の症例をシステム1で考えると、虫垂炎ですよね。

   では、システム2で考えてみましょう。
  
   システム2で考える時は、ABCで考えます。

   Aはanatomy:解剖です
  
  BはVINDICATE:病態で考えます。
  Bの発音とVの発音が似ているので、Bになっています

  Cはcommon,curable,criticalの3Cで考えます。


  AとBで広げた鑑別疾患を、3Cで狭めていきます

   病気を思い浮かべることが難しくても、解剖や臓器は分かりますよね?
   そうすると、AとBの交点に病気が生まれます。」






司会「こんな感じですね。
   
   さて、今回の症例は病歴で特徴的なところがありますね。

   それは寝ている時に発症していることです。
   寝ている時に痛みで目が覚めるといった時は、絶対病気です

   このまま寝ていたら、死んでしまうという体からのサインだと考えましょう。
   
   朝方発症するような腹痛には何がありますか?」


専攻医「尿管結石です」


司会「その通りです!
   誰もが経験ありますよね。

   でもそれだけじゃないんですよね。朝方に起こる腹痛の鑑別って。
  
   もう一つあります」


専攻医「もう一つですか? 分かりません」


司会「それは精巣捻転です

   なので若い男性が早朝に腹痛できた場合、尿路結石と精巣捻転を考えて、
   眠い眼をこすって診察に入ることが多いです

   USで水腎がなければ、精巣をみましょう

   
   では診察に行きましょう」
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バイタル 体温36.5度、血圧114/74、脈75
すたすた歩いて入室
元気そう

腹部 平坦 軟 圧痛は右下腹部に手のひら大
筋性防御なし、反跳痛なし、tapping painなし、ひざ踵試験陰性
CVA叩打痛なし

腸蠕動音 やや亢進
直腸診 していない
陰嚢 みていない

血液検査 炎症反応軽度上昇


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ディスカッション②:診断は?

司会「はい、ありがとうございます。
   診察まで終わりましたが、診断は何でしょうか?

   虫垂炎でしょうか?」


学生「あまり虫垂炎らしさがない気がします。
   腹膜刺激徴候もないので・・・」


司会「その通りですね。
   では何でしょうか?」

学生「そこまでは分かりません」


専攻医「カーネット徴候は見ましたか?」

発表者「陰性でした」


司会「圧痛は右下腹部に手のひらサイズだったんだよね。
   最強点とかはなかったんだよね?」


発表者「そうです」


司会「どうでしょうか?皆さん診断はつきましたか?」


専攻医「憩室炎か回盲部炎か尿路結石か・・・かなあと思います」

司会「はい、ありがとうございます。
   
   そうですね、この症例はずばり尿路結石でしょう!

   理由は右側腹部から移動している点ですね。
   尿路結石が上から落ちてくると、痛みの部位が変わります。
   
   最初は腎盂尿管移行部でつまると、腰背部痛になりますが、
   大動脈との交差部や膀胱尿管移行部で詰まると、下腹部痛になってきます

   痛みの範囲も明確ではないですし、腹膜刺激徴候もないのであれば、
   それは後腹膜由来の痛みを想起したいです

   ということで、僕の診断は尿路結石ですが、どうでしたか?」


発表者「・・・なるほどね。

    えーっと、CTをとりましたが、尿路結石はありませんでした。
    
    虫垂炎もなかったです」


司会「あ、そうなの」


発表者「回盲部が炎症を起こしていて、周囲に腹水もみられました
    読影では憩室炎という診断でした」


司会「そうなんですね、憩室炎にしては腹膜刺激徴候がない点は不可解ですね。

   確かに虫垂炎を疑って食欲がある場合の鑑別は、
   憩室炎と腹膜垂炎と相場は決まっていますので、
   病歴の時点ではかなりの上位ではありました。

   commonな疾患なので、いろんなプレゼンテーションがあってもいいとは思います。

   
   今回は腹痛を通して、鑑別疾患のあげ方を学んでいただければ幸いです。

   司会が間違える姿も勉強になるとは思います(笑)

   勉強になりました。ありがとうございました。」









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