2019年8月20日火曜日

昼カンファレンス 〜1%の鑑別疾患〜

昼カンファです

発表者 専攻医I:お願いします。症例のポイントは診断です

司会:はい、わかりました。お願いします


発表者I:症例は89歳 女性、主訴は発熱です
profileは脳梗塞とアルツハイマー型認知症で寝たきりの方です


司会:はい、ありがとうございます。皆さん、診断つきましたか?(笑)
   この前、東京GIMに行ってきましたが、これくらいの情報で志水太郎先生は
   30分くらい語っていましたよ


研修医N:そんなに語れません
     診断は肺炎だと思います!

司会:他には?


研修医N:尿路感染!!

司会:他には?

研修医E:胆嚢炎とか、偽痛風とか


司会:ありがとうございます。もう一声かな


専攻医N:褥瘡感染とか皮膚軟部組織感染ですか?


司会:はい、ありがとうございます。その通りですね
   肺炎や尿路感染症、胆管炎は検査が診断してくれます

   ですが、皮膚軟部組織感染や褥瘡は自分で診断しなくてはなりません


   研修医N先生!!
   この前あった靴下脱がし忘れ事件をみんなに共有しましょう!!

研修医N:靴下脱がし忘れ事件?なんでしたっけえ?


司会:以前、同じような背景の方が発熱で来られて、結局、尿が汚かったので、
   腎盂腎炎としてGNRターゲットに抗生剤が入っていました

   入院担当になったので、見に行って靴下を脱がせて診察すると、
   真っ赤に腫れあがった足が出てきました


   そして、血培からGPCが生えてきました
   連鎖球菌でした

   救急外来の初療医に聞くと、靴下は脱がした記憶はありませんとのことでした

   靴下を脱がすという一手間を惜しむと、こういうことになります


研修医N:なるほど~



司会:では症例の続きです

発表者I:はい、この方は施設入所中です  
    3か月前に当院で胆管炎の診断で、ESTが施行されています
    その後は元気になっています

    今回は、当日の朝の食事をとらず、昼も食事がとれなかったようです
    バイタルを測ると、SPo2 81%、発熱38度であり、
    施設の方に連れられてきました
     
    施設の方は見に行った時には帰られていて、
    詳細に経過や背景が書かれた情報提供書がありました
   
    本人とは意思疎通はとれず、指示も入りません 


司会:分かりました。ではもともとの背景をもう少し教えてください

発表者:はい、BADLはすべて全介助です
    手足の拘縮も強く、寝たきりの方です
    コミュニケーションはとれません



司会:わかりました
   では他に聞きたいことはありますか


研修医Y:既往を教えてください、あと薬は何飲んでいますか?


発表者I:既往歴は15年前に脳梗塞、9年前にアルツハイマー型認知症、
    変形性膝関節症、腰椎すべり、DM、HTです

    薬はジャヌビア、フルイトラン、ニューロタン、ラキソベロンです
    嘱託医が出していました




司会:ありがとうございます
   こういった自分で自分の症状を言えない患者さんの時は、
   こちらがくみ取ってあげなければなりません


   しかし、往々にして熱の原因が分からないことが多いです
   肺もちょっと汚いし、尿も濁ってるし、褥瘡もちょっとある
   肝胆道系も少し上がっている

   誤嚥性肺炎と尿路感染、他etcの区別ができない・・・・

   これが現代版不明熱です


   診察も呼吸音が浅く、手の拘縮が強く、しっかり聞けないことが予測されます
   腹痛の訴えも難しいでしょう

   
   なので診察で特に注意するべきは皮膚軟部組織感染症です
   そこだけは見逃してはいけません

   では診察に進みましょう


発表者:バイタルですが、   
    血圧127/87、脈110、体温38度、呼吸数22回/分、SPO2 81%でした
    
    頭頚部特記すべきことはなし
    胸部では、呼吸音はair入りが悪く、よく聞こえませんでした
    心雑音なし
    腹部 平坦軟 で圧痛もなさそうでした
    肝叩打痛もなさそうです

    関節の拘縮は強いですが、腫脹はありませんでした
    下肢 浮腫は足背に軽度ありました


    褥瘡はありませんでした
    おむつもはずしてみましたが、
    特に蜂窩織炎を疑わせるような発赤はありませんでした


司会:ありがとうございます
   さて、皆様診断つきましたか?
   
   無理ですよね 笑
   もはや現代版不明熱の範疇です


   皆様の頭の中で何を考えているか教えてください


研修医N:誤嚥性肺炎だと思います

司会:普通に考えるとそうですよね
    他には?

研修医E:ちょっと前に胆管炎を起こしているので、胆嚢炎や胆管炎でもいいと思います


司会:そうですよね、胆管炎でも全く矛盾しない
    他には?

専攻医Y:尿路感染症とか?

司会:そうですね、この三つが本命ですね
   この患者さんで本命をあげろと言われたら誤嚥性肺炎、尿路感染、胆管炎でしょうか


  では、ここからが本番です

  本命以外に考えることはなんでしょうか?
  
  つまり、みんなこのどれかに飛びつきたくなるけど、
  俺は飛びつかないぞ!
  しっかりこれも鑑別にあげてるぞ!!

  みたいなものです


聴衆:・・・・


司会:もっというと、脳内メーカーってありましたよね?
   あれで、99%はこの三つの疾患を疑っています
   でも1%で他の鑑別を考えています

   頭の片隅に置いておくっていう感じです

   これが後々きいてきます

   0か1かは大きな違いなのです


   さて、この1%で考えている疾患は何でしょうか?

聴衆:・・・・・


司会:では例をあげましょう
   実際にあった症例です

   ADLが保たれていた人が、ある時、広範な脳梗塞になって入院しました
   そのため、意思疎通も取れなくなってしまって、ずっとリハビリをしていました

   ある時、発熱を来し、誤嚥性肺炎と思われ治療されていましたが、
   3日たってもよくなりません
   主治医は抗生剤の変更を計画していました
  
   しかし、おもむろに指導医がルンバ―ルをすると・・・

   なんと細菌性髄膜炎になっていました

   という感じです


   元々、意識障害の人が発熱した時、みなさん、髄膜炎を疑えますか?


研修医N:あーなるほど、それならいつもの5+1で考えればいいってことですね
     なら、IEとか考えるので、口の中もよく見たいです


司会:そうですね、歯髄炎や顎骨壊死とかもよくみないと見落としますね


発表者I:口の中は何もありませんでした


司会:他はどうですか?
  
研修医Y:酸素化も悪いですし、あまり動いていないので、DVT-PEとかはどうですか?

司会:ありがとうございます。鑑別になりますね
   でも、寝たきりの人ってあまりmassiveなPEになることは少ない印象ですね

    他どうですか?  
    

研修医E:偽痛風とか?偽痛風は後々、腫れてくるといいますし・・・ 
    

司会:そうですね、その目で赤みや熱感を見るのは大事ですね

   皆さん、いいせんいっています。が、あと一歩です
   もう一つ、これは押さえておきたいというのがまだ出てきていません


聴衆:・・・


研修医Y:解離?


司会:うーん、解離も熱でますけどね。。。
   でもここで言ってほしいのは、解離ではないです

   ヒントはこの患者さんの移動はどうなっていますか?
   ベッドから車椅子にどうやって移動しますか?


   よっこいしょって、運ばれていることが想像されませんか?

   体幹や関節がこれだけ固まっている人なら、移動の際に何か起きるかもしれませんよ

聴衆:・・・・・


司会:ここで考えなければならないのは、骨折です
   そしてそこからの血腫吸収熱と脂肪塞栓です

   これが一番ピットフォールになります
 
   もちろん、最初からそこまで強くは考えません
   ですが、これでCTで肺がきれいであり、尿がきれいで、
   胆道系酵素が上がっていなかったら、
   1%の鑑別疾患の可能性が上がってきます


   実際はどう進みましたか?


発表者I:実際は血培、採血、ガス、レントゲン、CT、尿検査と進みました

司会:まあ、ルーチンになってしまいますよね
   ルーチンになると、思考が止まるのが怖いですね


発表者I:血液検査では肝胆道系酵素上昇はありませんでした
    腎機能はやや悪化していました


司会:はい、ありがとうございます
   ではCTを読んでみてください


研修医Y:CTでは目立った肺炎像はありません
    肝内胆管にはニュービリアがあり、胆嚢内にもairが入っています
    それくらいですかね?


研修医N:子宮の中の濃度がちょっと・・・
     うーん、わからないです


司会:そうですね、子宮瘤膿腫は確かに鑑別です
   他、何か気が付いたことはありますか?


聴取:・・・・・


司会:僕、骨折っていいませんでした?
   大腿骨折れてますよ


司会:おっしゃる通りです
   右の大腿骨転子部骨折と骨盤が折れていました

   その目で診ると右足の付け根が血腫で腫れていて、 
   Hbも下がっていました

   翌日も血培は陰性で、Hbはまた下がっていったので、今は輸血しています
   骨折に関しては、整形と相談し本症例は手術は保留となっています


(聴衆の冷たい目)


司会:当たり前ですけど、この症例の事、何も知りませんから!
   いやあーびっくりしましたね

   本当に骨折とは・・・


   でもよく気が付きましたね

発表者:思考の外というか辺縁というか、そこを考えろといつも言われていますので


司会:あー、radiologist ringと呼ばれるやつですね
   素晴らしいです
   
   寝たきりの方でも、骨折するということはpitfallになりやすいので、
   発熱で来た場合に1%でよいので、鑑別にあげておくといいかもしれません

   99%(本命)は誤嚥性肺炎、尿路感染症、胆管炎でしたが、
   それぞれの検査で可能性が下がりました

   そうすると、残りの鑑別の可能性が上がります


   大事なのは、もともと挙げた鑑別疾患にとらわれることなく、
   1%でも挙げておいた鑑別疾患を見直すことが大事です

  
   素晴らしいケースとプレゼンでした
   勉強になりました
   ありがとうございました
   

まとめ
・現代版不明熱だといって、何でもかんでも不明にしない
→皮膚軟部組織感染症は一手間あれば診断できる


・99%は誤嚥性肺炎や尿路感染でよいかもしれないが、1%は他の原因を考えておく
→忘れがちなのが、骨折


・寝たきり患者さんでも骨折する

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