2019年8月6日火曜日

偽性アカラシア

前回の症例の続きです


98歳男性  主訴:嚥下障害


ここ数ヶ月で出現した嚥下障害に加えて、数日前からさらに悪化して、

食事をとっても吐き出してしまうようになりました

病歴からは食道期の問題であり、

2か月前のCTでは食道が拡張しているのが分かっていました

CTでは明らかに閉塞起点になる腫瘤はありませんでした


食道の拡張から、強皮症やアカラシアを疑い、

強皮症の診察をしましたが、皮膚硬化やNFCCはありませんでした


そのため、アカラシアが疑われました

そして高齢であること、急速に進行が進んでいること、体重減少も認めたことから、

偽性アカラシアを強く疑いました


偽性アカラシア

偽性アカラシアとは二次性とも言われます

前回の原因が分かっていないアカラシアがいわゆる一次性アカラシアです


アカラシアが疑われた人の100人に2-4人は偽性アカラシアと言われています


二次性の特徴は後述しますが、

①高齢(55歳以上の発症)

②症状がはじまった期間が短い
(→急速に症状が進行している)

③体重減少が顕著である

が病歴では重要になります



そして、二次性は悪性腫瘍由来かその他に分けられます

悪性腫瘍由来の場合は、直接下部食道の筋層に浸潤するもの

パラネオ的な神経異常として、出現するパターンがあります



直接浸潤型の場合、

上部消化管内視鏡検査(GF)で粘膜面に腫瘍がある場合

ない場合があります


粘膜面に腫瘍病変が確認できないと、

一次性アカラシアと言われてしまう可能性があり、注意が必要です


悪性腫瘍由来っぽいけど、初回のGFで悪性所見が得られなかった場合は、

造影CTにて食道下部の壁肥厚や超音波内視鏡検査を行うと、

粘膜下や筋層に病変が見つかることがあります


ですが、造影CTや超音波内視鏡検査で異常がなくても、

フォローしていると、悪性腫瘍が見つかったということはありますので、


リスクがある症例は初回のどんな検査よりもフォローが大事になります




一次性VS二次性アカラシア

偽性(二次性)アカラシアで多い原因は胃の噴門部の癌や食道癌です


本症例も同日、GFしてもらうと、

下部食道に食物残渣が大量に溜まっておりましたが、

食道内に閉塞起点はありませんでした


食道を超えると、噴門部に進行がんを認めました

そのため、噴門部の胃癌が下部食道に浸潤し、

神経叢を侵し、偽性アカラシアを呈したものと考えました


しかし・・・


入院後、ばくばくと食事をして問題ないたため、

ただ食物残渣が下部食道に詰まっていた説も残っています



Tucker's criteria

Tucker's criteriaは有用です

偽性アカラシアを示唆する3徴です


①高齢

②症状の持続期間

③著明な体重減少

1978年に報告された論文ですが、今でも使えるのだからすごいですね

(Annals of internal Medicine 89:315-318.1978)

元文献にはそれぞれのカットオフの記載はなく、

ここ数年の論文はそのカットオフを模索するような感じでしたが、

2017年の論文が一番症例数も多く、ひとまずこのカットオフでよいのかと思います


①高齢:55歳以上

②症状の持続期間:12か月以内

③著明な体重減少:10k以上


上記の情報や病歴に加えて、


上部消化管内視鏡検査にて、


④胃食道接合部を通過するのが難しい

というのも偽性(二次性)を示唆する所見のようです


施行してもらった内視鏡医とディスカッションしたほうがよいですね


ちなみにこの論文では、偽性(二次性)のアカラシアだった全例が、

初回のGFで悪性所見を認めなかったため、

一次性アカラシアとして、治療が何度もされています

そして、フォローで何度か検査をしていくうちに、

悪性腫瘍が発覚してきたという流れのようです

何か月後や何年後に見つかったまでは記載がありませんでした


これまでの報告では、バリウムの所見で、

偽性の特徴(狭窄部位が長い、食道の拡張が狭い、左右非対称)がありましたが、

(Indian J Radiol Imaging .2015 Jul-Sep;25(3):288-295.)

今回の報告では、あまり有用ではなかったようです






Eckardt Scoreはあくまで、重症度を調べるもので、

一次性と二次性の区別には使えません



上記、4つのリスクで一次性と二次性の割合を比較しています

一つもリスクがないと、偽性(二次性)の可能性は0ということです


一方、リスクが4つそろうと、特異度が99.7%で

二次性の可能性が高まります


今後、検証が必要ですが、

現状では、有用な情報かと思われます


偽性(二次性)アカラシア
・高齢(55歳以上)、症状持続期間が短い(12か月以内)、体重減少が顕著(10kg以上)、GF時に胃食道接合部を超えるのが困難
→一つでもあれば、偽性の可能性が高まる



・偽性で多いのは、噴門部の胃癌、食道がん。最初のGFで所見がないからといって、除外はできない
→リスクがあれば、いつか癌が出てこないかフォローしていく

参考文献:Annals of internal Medicine 89:315-318.1978
     Indian J Radiol Imaging .2015 Jul-Sep;25(3):288-295.
     Aliment Pharmacol Ther 2017;45:1449-1458
        up to date
        日臨外会誌 75(5),1223-1229,2014 
           日臨外会誌 69(11),2836-2841,2008
     

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