発表者(学生さん):よろしくお願いします
司会:はい、お願いします
発表者:症例は78歳男性の方で、主訴はめまいです
ProfileはADLフルな方です
現病歴です。来院当日の昼から少し体調が悪かったようです
午後、買い物に外出にでかけました
買い物途中で回転性のめまいを自覚しました
その後、自宅に帰った後もめまいが持続しており、
一人で歩行ができない状態であったため、家族につれられて
自家用車で当院救急外来を受診されました
司会:はい、ありがとうございます
救急なので、バイタルも教えてください
発表者:血圧は182/89、脈は63、体温は35.5、SPO2 96%でした
司会:はい、ありがとうございます
皆さん、こんな人が救急にきたら、どうしますか
何か聞きたいことはありますか?
研修医E:吐き気や嘔吐はありますか?
発表者:吐き気は強くあります、嘔吐はなかったようです
学生さん:胸部の絞扼感とかはありますか
発表者:なかったです
司会:どうして胸部の絞扼感を聞いたのですか?
学生さん:めまいが、実は前失神とかだったら、心原性の可能性もあるかなと思いました
司会:なるほど、確かにそうですね。患者さんがいう「めまい」は
あくまで「 」かっこ書きですから、実は前失神かもしれませんね
一応、今回は回転性ということらしいですね
浮動性でも回転性でもあまり鑑別は変わらないということにはなっていますが、
お作法的に聞いてしまいますね
他に何か聞きたいことはありますか
研修医N:めまいはずっと持続していたのですか?
0にはならないですか?
発表者:めまいは持続していました。0にはなりません
頭位変換で悪化するようでした
吐き気もずっとありました
司会:はい、大事な質問ですね
みなさん、病歴とる時にOPQRST2とか、色々語呂で覚えると思います
否定はしませんが、なぜその問診が必要かということを考えましょう
結局は、時間経過の図を描けるかどうかです
これは痛みでも、何でも描けます
当院ではN-Tの図と呼んでいます
今回はこんな感じでしょうか?
司会:めまいの時に吐き気はつきものなので、吐き気があることで、
「めまいはずっとあります」
といってしまう人がいるので、鵜呑みにしてはいけません
吐き気とめまいは明確に分けて問診が必要です
まあもちろん、難しいときはありますけどね
めまいと吐き気のダブルパンチの状態に、正確な病歴をこたえられる人は少ないと
あらかじめ思っておいたよいでしょう
なので、めまいの人に最初にすることは、「つらいですね」と労う事です
ではN先生。なぜ、めまいが持続するかということが大事なのでしょうか?
研修医N:はい、それは、急性重度の持続するめまい、つまり急性前庭症候群なのか、
発作性の頭位変換性のめまいなのか、反復性のめまいなのか
の3つに分けたかったからです
司会:はい、ありがとうございます
そうですね、この3つにわけて、あとはそれぞれで中枢性VS末梢性の戦いですね
司会:今回は病歴をもとに作った図が正しければ、急性前庭症候群の範疇です
司会:よくある間違いで、頭位変換を重要視しすぎてしまう人がいます
頭位変換で悪化しているから、BPPVだ!
というわけではありません
小脳梗塞でも、前庭神経炎でも、頭を動かせばめまいは悪化します
なので、頭位変換で誘発されるかどうかよりも、
頭位変換をしなければ、完全にめまいがなくなるかどうか、
ということに注目しましょう
司会:他に聞きたいことはありますか
学生さん:難聴とか耳鳴りはありますか
発表者:はい、この方、突発性難聴の既往があるので、聞こえはもともと悪いです
学生さん:ありがとうございます
司会:いい質問なんだけど、もう一声
いつ突発性難聴になったんですか?
発表者:来院の2か月前です
右の突発性難聴になってステロイド治療が耳鼻科で始まりました
そしたら、その1か月後に左のC2-3領域の帯状疱疹になってしまいました
それに対してカロナール、リリカ、ロキソニン、テグレトール、メチコバールが
始まっています
かなり痛かったようです
今は皮疹は名残程度です
研修医E:他の既往歴を教えてください
発表者:はい、前立腺肥大があり、タムスロシンを
2型糖尿病があり、ジャヌビアを内服しています
A1cは6台です
膠原病科Dr:今回は難聴や耳鳴りが悪化したわけではないんですよね
発表者:はい、以前と変わりないようです
研修医E:頭痛や頸部痛はありますか
発表者:ありませんでした
司会:はい、では診察しますか?
何に注目して診察したいですか?
つまり、どんな鑑別を考えていますか?
学生さん:えっと、中枢性か、末梢性を分けれたらいいなと思います
司会:では、どんな所見があれば、中枢性と言えますか?
研修医E:HINTsPlusですか?
司会:そうですね、大事です
他は?
研修医S:vascular risk
司会:そうですね、ではまだ問診で聞いていないのは?
研修医S:喫煙歴と家族歴はありますか?
発表者:ex smokerで、40本を20年吸っていました
家族歴は脳梗塞や心筋梗塞はありませんでした
司会:はい、ありがとうございます
実際の感覚をいうと、問診や診察で
中枢性:正一
末梢:一
みたいな感じで、票が追加されていくイメージです
圧倒的な票を中枢に入れることができるのが、
vascular riskと中枢パターンの眼振、脳神経学的な異常、歩行困難です
これらがあれば、中枢に大きく傾きます
なので、めまい診療の実際は早めに眼振を確認します
中枢パターンの眼振であれば、そこで決まってしまうからです
あとは中枢といってもどこやねん、ということになります
どこがやられるとめまいがしますか?
研修医N:後方循環です
司会:もう一声
研修医N:PICA,AICA,SCA
司会:はい、そうですね。
ではPICAの支配領域に何があるか
AICAの支配領域に何があるか
それを知っていれば、診察しやすいですよね
めまいしかない脳梗塞は実はとても稀です
なので狙ってPICAやAICA領域で支配されている
脳神経の異常を取りに行くことが大事です
発表者:脳神経ですが、眼球運動はフルでした
複視はありません
眼振は右への水平方向固定性眼振がありました
他の脳神経は異常はありませんでした
手足の麻痺はなく、感覚異常もありませんでした
研修医E:ホルネル徴候はありましたか
発表者:とっていません
司会:はい、ありがとうございます
ホルネルとか、カーテン徴候とか、三叉神経の玉ねぎ状の異常とか、
絶対狙わないと拾えない所見ですよね
発表者:HITは右がやられる末梢性パターンでした
歩行はできませんでした
司会:・・・ということです
眼振もしっかりある急性重度のめまいで、歩けないようですね
どうしましょうか⁇
中枢といっていいですか?
研修医N:脳梗塞の可能性は否定できないので、入院させて経過によってはMRIをとりたいです
膠原病科Dr:自分だったら、かなり中枢性が悩ましいので、
バイアスピリンを入れるか迷いますね
あとはこのタイミングですぐにとっても偽陰性の可能性も
脳幹ならあるので、MRIで否定してよいものかと、悩みます
司会:はい、皆様ありがとうございます
では実際どうなりました?
発表者:実際は頭部CT撮影されて、入院となっています
入院後、MRIをとりましたが、脳梗塞はありませんでした
その後は徐々にめまいは残存しておりましたが、軽快傾向でした
めまいがおさまっているのに、眼振はずっと残っていて変だなと思っていたら、
この眼振は実ははるか昔からあるということでした
奥様にも見てもらって、この眼振は今に始まったものではないと
覚えてないくらい以前からあるとのことでした
司会:なんと・・・
そんなことがあるのですね、先天性眼振?
すごい目くらましですね
眼振があてにならないなんて・・・
勉強になります
さて、この症例の診断は何でしょうか?
聴衆:・・・・・・・・
司会:実はみんなが間違えるように誘導していました
高齢者のめまいは、この3つのカテゴリーに入れると間違えるかもしれないのです
もう一つのめまいの考え方の方がよい時もあります
司会:高齢者のマルチシステムはそれぞれ落ちていることが多いです
そのため、高齢者のめまいは、「病気」で片付けられないことがあります
その場合、介入できるか、できないかで考えるという方法があります
一番、我々が落としてはいけないので、薬によるめまいです
今回のめまいの原因はずばり、テグレトールだと思っています
テグレ酔いってやつですね
入院後この症例はテグレトールが中止となり、その後、1,2日で軽快していきました
血中濃度はあがっていなかったので、本当かどうかはわかりませんが・・・
脳外科Dr:テグレトール飲み始めたら、すぐにめまいや吐き気訴える人もいます
今回の人はテグレトールとたくさん飲んだとか、飲んだり飲まなかったり
していなかったでしょうか
発表者:そこまでは聞いていませんでした
脳外科Dr:血中濃度あがっていないくてもテグレトールの副作用出る人はいます
司会:ありがとうございます
真相はわかりませんが、テグレトールかもしれないと疑い、
中止すること、血中濃度を測定することは重要ですね
今回の症例は、
突発性難聴になって、帯状疱疹になって、さらにめまい・・・
そして、眼振がもともとある・・・
なんと目くらましが多いことでしょう
とても勉強になる難しい症例でした
ありがとうございました
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