症例 68歳 男性 主訴:胸痛、呼吸苦、酸素化低下
深夜2時の当直中、うとうとしている時に・・・
ピロリロリン♪
救急隊より
「68歳男性、1時過ぎからの胸痛、呼吸苦を訴えています。
酸素化は10Lで60%、血圧は測れません、脈は140回です。
全身の冷や汗が著明です、あと5分で搬送します!!」
(心の中)まじかよ・・・絶対本物やん・・・
医師は2人、看護師2人の状況です
点滴の準備や超音波、ポータブルXpの準備をしていると、
すぐに救急車が到着しました
同僚の人が付き添ってくれていました
病歴(同僚の人より。本人は会話できず)
同じ会社で働いている
寮生活をしている
前日の21時まではいつも通り、普通であったことを確認している
夜の1時くらいに胸痛と呼吸苦の訴えがあり、救急車を要請してほしいと訴えていた
内服なし、既往なし(というか不明)
身体所見
起座呼吸で搬入
全身の冷汗著明、末梢は冷たい
四肢の末端はチアノーゼ出現あり
橈骨触知良好
やや不穏様で、かなり苦しそう
呼吸数30回以上 会話できず
SpO2 測定できず 血圧測定できず 脈はモニターでQRS波がwideで140前後
呼吸音 wheezesや痰がらみの音が著明
心雑音なし
頸静脈は張っている
四肢浮腫なし
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ディスカッション①:さてどうしましょう?
司会「やばい状況ですね、さてみなさんどうしましょう?」
研修医「まずは心電図をとりたいです。あとルートも」
司会「そうですね、胸痛なので4killer chest painを考えないといけないですね
何がありますか?」
研修医「ACSや大動脈解離、肺塞栓、緊張性気胸ですか?」
司会「そうですね。そういった疾患を念頭にまずは心電図をとりたいですよね」
発表者「はい、ありがとうございます。
普通ならそれでよいのですが、この症例はそんな暇はありませんでした
原因検索よりも救命優先です
この症例でまずしようと思ったことは挿管です
実際の様子が伝わらないので、難しいですが、
印象としてはCPA直前といった感じでした。
なので実際は、現場のスタッフにもうすぐCPAになるよ!と伝え、
心の準備をしてもらっていました
救急隊の人もかえさず、心マ要員として残ってもらいました。
起座呼吸の状態であったので、気道確保をしようと臥位にしたら、
目が上転し、上肢がかくかく動き、右に目が偏移しました
(これは反省です)
呼吸は喘ぎ様になり、頸動脈が触れなくなりました
ということで、CPRが開始となりました
モニター上は140くらいのwide QRSであり、VTかPEAか迷いましたので、
パッドの用意をしてもらいましたが、
CPR数秒で声が出たり、痛がる素振りをみせたのですぐに中止しました
頸動脈がその時点ではしっかり振れたので、
DCはかけずとりあえず挿管しようと思いました
この症例は明らかに、A・Bがおかしかったのでいち早く、
A・Bを助けないと、命は助からないと思いました
まずマッキントッシュの喉頭鏡でトライしましたが、
喉頭蓋谷に泡状の唾液なのか、痰なのかが大量に溜まっていました
全く声帯が見えなかったので、まずは吸引だけで1トライ目は終了しました
時間もなかったので、次はMacグラスを使って行いました
相変わらず泡沫状の痰は多かったですが、すぐに挿管できました
チューブを入れると、ピンク色の泡沫状の痰が湧き出るように噴出してきました
なので、自分はずっと頭側にいて吸引する係になりました。
CPAになったので血圧は低いものだと思い、ノルアドを用意してもらいましたが、
血圧を測ると、なんと200を超えていました。
鎮静や鎮痛するためのルートすらなかったので、痛みのためかと思い、
すぐに鎮静や鎮痛を開始しましたが、やはり血圧は200超えた状態でした。
このピンク色の痰やwheezes、血圧著明高値であったことから、
いわゆるCS1の電撃性肺水腫であると判断しました」
司会「ありがとうございます。
ちなみにエコーと心電図はどうでしたか?」
発表者「挿管して、ルートをとってから心電図やエコーをしました。
心電図は左脚ブロックがありましたが、洞性頻脈でした。
ST-T変化は左脚ブロックのため判断が難しかったです
エコーはhyperdinamicに動いていました
心嚢水は著明なものはなかったです
著明な弁膜症もありませんでした」
司会「はい、ありがとうございます。
急性の心不全は原因を調べないといけないですよね
虚血の関与があるかが一番大事です
他には不整脈が起きたり、Afterloadが上がったとか、
急性の弁膜症が発症したとかを考えなければなりません
今のところ、虚血はあるかもしれないのと、
Afterload mismacth、不整脈あたりを考えるのでしょうか?」
発表者「そうですね、実はこの症例は救急隊がくる直前にしていたことがあります。
それは何だと思いますか?」
司会「何だろう。みんな分かりますか?」
外科医「・・・自己紹介した?」
発表者「まだ来てませんって(笑)
深夜2時ですよ。
胸痛ですよ、冷や汗ですよ、酸素化めっちゃ悪いんですよ
明らかにACSや心不全を、肺塞栓を考慮する状況です。
なので僕は、救急隊が来る前に循環器の待機の先生をコールしました。
こんな人が今から来ます。多分本物ですと。カテになると思いますと。」
司会「早いね(笑)
そうかー、俺はそこまで攻められないかもなぁ」
発表者「なんでかというと、深夜だったからです
いざ、STEMIだと分かって緊急カテ!だとなって、循環器Drをよんでも、
もしかしたら、深夜で寝ているかもしれないですよね。
皆さんがいうとおり、結局ACSの否定ができないのですぐにカテしてほしいんです。
循環器Drが律速段階になるのは、明らかだったので、
今回は先制攻撃させていただきました
間違っていたら、循環器の先生には謝るだけですから」
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経過
上記の流れだったので、すぐに循環器の先生は来てくれました
左脚ブロック波形の頻脈であったため、VTのようにもみえる波形であり、
循環器Drの指示でDC施行しましたが、全く心電図に変化はみられませんでした
その後、ニトロ製剤で血圧を落とし、血圧のコントロールを行いました
CXRでは明らかに肺野のうっ血像と浸潤影がみられたので、
利尿剤の投与も行いました
挿管後は人工呼吸器管理でFiO2 100%でPEEPは高めに設定し、SPO2 90%以上とれるようになっていましたので、
バイタルが落ち着いていることを確認し、CTをとってからカテにいきました
CTでは肺野の著明な浸潤影とうっ血あり
それ以外に解離や特記すべき異常はなし
結局、カテでは冠動脈に有意狭窄はありませんでした
著明な弁膜症を疑う所見もなかった
EFは50%以上はあり
循環器Dr「こんな劇症な肺水腫や心不全なんて、
腱索断裂とか急性の弁膜症のような病態がないと説明がつかない。
なにかおかしいなあ・・・
なんだと思う?」
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ディスカッション②:原因は?
司会「さて心収縮が保たれているタイプの心不全ですね。
この症例はフォレスター分類でいうとどこにあたりますか?」
研修医「wet and warmもしくはcoldでしょうか。」
司会「そうですね。CSでいうと1になるのでしょうね。
なので利尿剤よりも降圧が大事な病態ですね。
ですが実際はかぶっていることが多いので、利尿もかけることが多いです。
あとは高拍出性だったという観点で考えるとどうでしょうか?」
研修医「ベリベリとか甲状腺中毒症とかですか」
司会「そうですね、ということでこの症例はお酒を飲んでいるかは気になりますね」
発表者「同僚の方かた聞いた話では、お酒はけっこう飲んでいたようです。
なのでVb1の補充はwernicke doseで投与していました。
ですが、VB1の投与で著明に改善したという雰囲気はありませんでした。」
上司「甲状腺はみといた方がいいんじゃない?」
発表者「はい、問題なかったです
実際は原因まではよくわからず、カテ後はICUにあがりました」
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経過
翌日・・・・
天才循環器Drがある診察をして、自分は驚愕しました
その診察とはなんでしょうか?
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ディスカッション③:原因不明の電撃性肺水腫を見たときに行う診察は?
司会「えー、なんでしょうか。みなさん、わかりますか」
研修医「うーん・・・」
発表者「ヒントはCTです」
研修医「この石灰化はなんですか?」
発表者「それは膵石です。たしかにアルコールは飲んでいたのだと思います。
でもそこではないです。」
専攻医「腎動脈に石灰化がありますね。」
発表者「その通り、ということで腹部の血管雑音を聞いた。が答えです
すると、シューシュー♪と血管雑音が聞こえました」
研修医「へー」
発表者「これは両側の腎動脈狭窄症に伴う電撃性肺水腫を疑うプレゼンテーションなのです
格好いいですよね。
でも残念ながら、この症例はその後に腎動脈超音波やカテまで行いましたが、
腎動脈狭窄はありませんでした。(笑)」
司会「なかったんかーい!」
発表者「はい、でも学ぶことは大変多い症例だなと思いました。
両側の腎動脈狭窄症はこういう原因不明のCS1で来ることがありますので、
アンテナをはって注意しましょう。
治療は腎動脈の血行再建が必要になります。」
両側腎動脈狭窄に伴う電撃性肺水腫
(Flash pulmonary edema)
この病態には実は名前があります
Pickering syndromeといいます
日本語で調べても全然、ヒットしませんが、英語だとたくさんヒットします
まさにこの症例のように、夜間に急性・突然に発症する左室収縮能が保たれたタイプの電撃性肺水腫が典型的なようです
この病態は繰り返すというのが特徴的で、
予防のためには、腎動脈の血行再建を行う必要があります
腎動脈狭窄はコモンな病態ですが、片側と両側で全く病態が異なります
両側の腎動脈狭窄や機能片腎の腎動脈狭窄があると、
電撃性肺水腫を起こす人がいます
片側の場合はあまり起こりません
なので両側というのがポイントです
治療は急性期は急速に降圧することが大事ですが、
血圧低下に伴い腎機能が増悪する症例も多いです
もう一つの注意点として、RASS系を抑える薬を肺水腫が改善したのに続けていると、
AKIを惹起してしまうということです
肺水腫が安定したら、腎動脈の血行再建を検討します
原因不明の電撃性肺水腫や心不全をみたらこの疾患を一度は考えましょう
まとめ
・救急はいつでもABCの順に守る
→挿管のタイミングを逸してはいけない
・急性の心不全をみたら、原因疾患を考える
→1に虚血、2に虚血、3に虚血、他:不整脈、急性の弁膜症、心筋炎
・原因不明の電撃性肺水腫をみたら、両側の腎動脈狭窄症を疑う
→血管雑音を聞いて、CTで腎動脈の石灰化をみて、USで確認する
参考文献:Heart View Vol.20 No.10,2016
European Heart Journal(2011)32,2231-2237
冠疾患誌 2013;19:43-47
Hospitalist Vol.6 No.4 2018.12
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