2020年2月28日金曜日

新型コロナウイルス感染症 ~救急の現場~

コロナ疑いの患者さんが来る時に、一番大事なこと



→医療者がパニックにならないこと


これが守られれば大概のことは問題になりません
医療者がパニックになることが、一番問題なのです

患者さんの容態が悪化することが一番の問題ではないのです
医者がパニックになった時ほど、恐ろしいことはありません


では我々がパニックにならないためにはどうしたらよいのでしょうか?

①正しい知識を身に付けること
②検査前確率を意識すること

この二つだと思います
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①正しい知識を身に付けること

何が危険で何が安全か

それをきっちり理解しておかないと、何でもかんでも怖い・・・

となって、パニックになってしまいます



リスクを決定する際に、考慮すべき要素には次のようなものがあります

曝露期間(例:曝露時間が長くなると曝露リスクが増加する可能性あり)
患者の臨床症状(例:咳により曝露リスクが増加する可能性あり)
患者がフェイスマスクを着用しているかどうか
エアロゾルを生成する手技が実行されたかどうか
医療従事者に使用されたPPEのタイプ

※ ただし、2019-nCoVの感染リスクに関するデータは現在不完全です


ということで、上記を知っていれば診察前から大げさに対応する必要はありません
「咳している人」「肺炎の人」を漠然と怖がる必要は全くありません


患者さんが咳をしていても、ちゃんと患者さんがマスクをしていて、
自分もマスクをしていれば、感染するリスクはとても低いはずです

※ですが感染対策の対応が分からなければ、積極的に院内のICTに相談しましょう


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②検査前確率を意識すること

パニックにならないようにするには、COVIDの検査前確率を意識することです

今、流行している地域を除けば、COVIDの検査前確率はまだ低いと考えられます


検査前確率の検査とは、ここではPCR検査のことです


PCR検査の前にどれくらいCOVIDらしいか・・・
我々はPCR検査に踏み切るタイミングを探っています


なんとなく新型コロナかも・・・怖い・・・検査してすっきりしたい!

「検査お願いします!」で検査していたら、医者は必要はありません

陰性だから大丈夫!といえないのは、ニュースでたびたび出ている通りです
クルーズ船の症例のように、検査のタイミングで陰性や陽性が変わるのです


検査はあくまで診断ツールの一つにすぎません
診断するのは、検査ではなく医者です


検査するだけなら医者はいりません
検査結果の解釈に医者が必要なのです
そして我々が検査結果の解釈をするためには、病歴や診察、他の検査が必要なのです


国民が検査ができないことに不安が爆発しているのであれば、
韓国がやっているように「ドライブスルーで検査」するのがいいと思います

ただその結果をどう解釈するのかが、ポイントです
陽性の時は迷いませんが、陰性だった時の解釈がとてもとても難しいのです



検査前確率の上げ下げ

病歴や診察を行っている中で、自分の中で検査前確率を意識します

COVIDが疑われる症例の病歴聴取のポイントは、

①暴露歴、旅行歴:なくても否定はできないが、あればぐっと疑われる
②発症時期①とあわせて潜伏期間が分かる
③発症した症状:発熱、乾生咳嗽、倦怠感が多い、ただし腸炎のように発症する人もいる
④呼吸苦の有無:重症例では最初からみられることが多い
⑤ハイリスクかどうか:基礎疾患や内服薬の確認


例えば・・・

暴露歴なし×散発的な発生地域への旅行歴あり×潜伏期が合わない×症状が非典型的×他の代替疾患の可能性あり
→検査前確率5%
 →検査する必要なし!!


暴露歴あり×散発的な発生地域への旅行歴なし×潜伏期が合う×症状が典型的×他の代替疾患の可能性が低い
→検査前確率50-75%
 →かなり怪しいので検査してもよいかも

といった感じで、なんとなくの検査前確率を意識し、
怪しければCTとったり、血液検査をとり、さらに検査前確率を上げ下げする努力をします

ポイントはなんとなくでいいという事です


同時に他の疾患の可能性も考えているので、痰のG染色や培養検査、マイコプラズマ、インフルエンザ、尿中抗原の提出を検討します

銃弾爆撃的にすべての検査を出せばいいというものではなく、
やはりここでも他の疾患の検査前確率を意識することが大事です


実際にPCR検査にいくかどうかは、検査前確率だけでなく、
重症度とハイリスクかどうかの要素を検討します


まとめると、今、保健所にPCR検査をお願いしようという人は、この3つの要素の組み合わせで決めます

検査前確率×重症度×ハイリスク症例か



ですが今後、迅速検査の感度も特異度もよくわからないまま、見切り発車で保険収載されてしまいましたので状況が変わってくると思われます

迅速検査にはメリットとデメリットがあります

メリットとしては、診断例が確実に増えるでしょう
→ただ早期診断をしても重症化を防げませんし、治療薬もありません
 では、感染の拡大を防ぐことができるかというと、それはNoです(後述します)

保健所の負担は減るでしょう
市民の感染しているかどうか?という漠然とした不安を取り除くこともできるかもしれません

ですが、次に待っているのは、重症化するかもしれないという恐怖です


これは発症してから7日から10日目にならないとわかりません

検査して陽性ということがわかったとして、
漠然とした不安はとれても、
今度は重症化するのではないかという恐怖に変わるだけです


重症化するかもしれないという恐怖を取り除くことはできません
万が一の時のために、身辺整理したり、家族への手紙をしたため人もいるでしょう

そういう時間ができることをメリットと呼ぶかはわかりません


デメリットとしては、
せっかく自宅待機を勧めていたのに、ただの風邪の症状の人が外来に押し寄せます
そして、クリニックの中でただただ検査するだけの1日が始まります

もちろん、患者さんが集まってしまうため、クリニックは感染の危険の場になります
そして防護服やN95を着けずに検査する医師ももれなく感染するでしょう
もちろんスタッフも


一番厄介なのは、やはり解釈で悩むということです
感染早期にはウイルス量が少なく陰性になってしまうため、インフルエンザの検査と同じことが起こります

「今回の検査は陰性だったけど、インフルエンザかもしれません。
また明日、来て下さいね」

という、感染暴露の機会を助長するだけのプラクティスは避けたいものです

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落とし穴

ピットフォールとして新型コロナウイルス感染症にひっぱられて、いつもの臨床推論を怠ってしまう可能性があります

これはインフルエンザの時によく言われることです

冬に押し寄せるインフルエンザの人が、今年は新型コロナウイルスになった感じです


インフルエンザと新型コロナウイルスの違いは、

①インフルエンザは診断しやすいこと
②インフルエンザには迅速検査があること、
③治療薬があることです

インフルエンザは症状が典型的で、高熱がいきなり出てきて、寒気や節々の痛み、咽頭後壁のイクラ状のリンパ濾胞が見える、といった特徴的な病歴や所見があります

これに各地での流行が加われば、診断は容易であり、検査の必要はありません


ですが、落とし穴として、インフルエンザの人が多すぎて、
いろんな人がインフルエンザに見えてきてしまう事がよくあります
そのためとても誤診が増えます


今回のCOVIDも全く同じことが起きています
今、医療者は皆、呼吸器症状の人がみんなCOVIDにみえています

なので心の中で一度冷静になり、
COVIDがない時の自分に戻って冷静に鑑別疾患を考えなければなりません



COVIDを診断するためには、COVIDについてしっかり知っておかないといけないですし、
他の疾患にも精通していないといけません

これは想像以上にハイレベルなことです・・・


ですが、パニックにならず、着々と情報をあつめ、
知識をupdateし、冷静に対応していきたいものです


                                                                       ↑ 一般向けのパンフレットバージョンです
                     ご自由にお使いください



2020年2月26日水曜日

新型コロナウイルス ~臨床の現場~

症例 中年の男性 主訴:発熱

Profile:生来健康

現病歴:2週間前から鼻汁、咳が出現
    近医受診。インフルエンザ検査実施され、陰性だった

          10日前から発熱出現(38度前後)
    近医受診。インフルエンザ・溶連菌検査実施され、陰性

    その後も発熱持続
    7日前に発熱・倦怠感あり、当院受診
    酸素化低下はみられず、crackleはなし
    
    CTにて両側下肺野の気管支壁肥厚と肺炎像あり
    GGOはみられず
    痰のグラム染色にて、GNR(インフルエンザ桿菌)がみえたため、
    BLNARカバー目的に、LVFX処方し帰宅
  
    その後も発熱持続し、倦怠感あり
    本日、再診

    全身状態の改善がみられず、発熱や倦怠感は残存
    呼吸数は20回以下、SPO2低下はみられず
    画像上の悪化はみられず

    尿中レジオネラと肺炎球菌抗原は陰性
    痰培の結果はnormal flora
    抗酸菌染色は陰性


暴露歴:結核なし、子供が風邪ひいていた、渡航歴なし

上記経緯であり、肺炎としてLVFXで治療を行ったが、改善が乏しく、
新型コロナウイルス肺炎が疑われ、保健所に連絡し検査することになった
軽症例であり、入院はせず自宅待機で経過観察中
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ディスカッション

感染症科Dr「今回の症例に関しては、
    治療反応が悪く、経過が長い肺炎というパターン
      新型コロナウイルスの検査が行われた症例です。
      非定型の治療をしていましたが、1週間の経過で改善がみられておらず、
      他の代替診断もなかったので、保健所に相談して検査となりました。

      これはとても難しいパターンでしたが、保健所からは、
      検査しなくていいとはいわれず、検体を送ってくださいと言われました。」


担当したM Dr
    「今回はLVFXを使ったので、これで効かなかったら他に考えられる病原菌がないなと思っていました。
  でもオグサワで始めていたら治っていなかった時に、非定型のカバーが出来ていないので
  例えば今日はジスロ加えて・・・とかになっていたと思います。

  今後は暴露歴がない人が多く来ると思いますので、今回のような症例が多くなると思います。
  今回の人はご自分で保健所に電話しておりましたが、適応ではないといわれたようです。」


T「そうですね。こういう症例が増えてくると思います。

  普段の診療ではよくならない風邪は、肺炎かなと思って検査します
  そして今回もしっかり検査されて、肺炎の診断をつけられている
  
  痰からもインフルエンザ桿菌っぽいのが見えていたら、
  いきなり、新型コロナウイルスは疑わないし検査もしないよね

  対応としては全く問題なかったと思います。」


膠原病科Dr「こういう症例の場合、
      新型コロナウイルス感染症(COVID)らしさがどこまであるのかも考えないと、
      ウイルス性肺炎が疑われた症例全てで検査しないといけなくなりますね」


M「まだCOVIDの症例を経験したことがないので、
  COVIDらしさやCOVIDのゲシュタルトが分からない状況です。

  ですので今回のように
 除外していって残ったら検査に踏み切るしかないと思います。

 マイコのランプを出したり、レジオネラの検査などできる範囲でオーバーではありますが、検査していく必要があるかと思います。」


E「今回の症例は、検査というよりは治療で他の疾患を除外できた感じですけど、
 実臨床では痰も出ない人もいますし、外来では起因菌が不明でも軽症例であれば、
 検査せずジスロやオグサワで治療して経過をみることはよくあります。

 今の感染の流行状況では、
 肺炎治療の初手として普段よりもオーバーに検査をすることで、
 次の手が取りやすいのかなと思います。

 痰がでる場合は比較的検査しやすいですが、痰がでなかった場合、
 尿中肺炎球菌・レジオネラ抗原、マイコ、インフルといった検査は最低必要なのでしょうね。

 治療薬に関しても最初から定型・非定型をカバーして様子をみたほうがよいのでしょうか?」


M「今の感染のフェーズなら仕方ないかと思います。
  ただ肺炎のフォローをする時は、
  予約外来の場合、外来の診察室で待たせるのはよくなくて、 
 例えば車の中で待ってもらう方がよかったと思います」


感染症科Dr「いつもはよくなることを前提で非定型の微生物検査をせずに
      治療していることも多いと思います。

      ただ今は治療が上手くいかなかった時のために、
      微生物検査をしておいたほうがよいと思います。」
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実際の症例をディスカッションすることで、なんとなく検査に踏み切る流れが見えてきました。感染の流行状況によっては対応もまた変わっていくでしょう。

今回のディスカッションで感じたことは、
・マニュアルを作っても結局は個別の症例のバリエーションが多すぎて、あまり役には立たない

・コロナ対策チームに閾値を低めに症例相談していく

・肺炎に対して日頃のプラクティスではいけない

・経過観察という武器が使いにくくなった

・検査や治療がややオーバーになるのは致しかたないフェーズにいる

・肺炎のフォローの方法を変えないといけない
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新型コロナウイルス肺炎

コロナウイルスはエンベローブをもつRNAウイルスです
動物(哺乳類や鳥類)やヒトに感染し、呼吸器症状や消化器症状を引き起こします

コロナウイルスは世界中に広がっており、いるいわゆる「風邪」を起こすウイルスです
遺伝子的な多様性がとても大きく、遺伝子の再構成が頻繁に起こります

ヒトと動物との接触する機会が多くなり、
近年、動物からヒトへ感染し重症化するウイルスが新規に出現してきました
2001年、2003年にアウトブレイクしたSARSや2012年にアウトブレイクしたMERSです

そして今回のSARS-Cov-2によるCOVID-19です

基本再生産数は2.2とされていますが、暫定なのでもう少し増える可能性があります
コロナウイルスは院内で流行しやすいという特徴があり、
院内の基本再生産数はもう少し高いと思われます

院内感染を防ぐことが非常に重要になります


臨床像は暴露歴がなければ、ただの風邪です

発熱、倦怠感、咳といった普通の症状が初発症状として多くみられます
インフルエンザlikeな筋痛や頭痛、関節痛も起こります

なので毎年であれば、
「インフルエンザの可能性が高いですね。検査しますか、しませんか?」
の流れに持ち込んで、

「抗インフルエンザ薬はありますが、
 飲んでも1日から半日、熱が短くなるという効果しかありません、
 健康な人であれば自然になることがほとんどであり、
 タミフルは必須ではありません」という説明になります

普段なら検査しなくてもインフルエンザの可能性が高いという判断で、
タミフルを処方したり、しなかったりというプラクティスでよかったのですが、

今年はそれではだめです

ちゃんとインフルエンザの検査をして診断をつけたほうがよさそうです


今年の呼吸器感染症のプラクティスとしては、
出せる検査はしっかりだして、
微生物学的な診断をしっかりすることが大事だと思います


臨床像からCOVIDを疑うことはできますが、それ以上は詰め切れません

特徴的な症状や検査データ、CT所見がないため、
保健所にお願いしてPCR検査するしか診断方法がありません


極論、ただの風邪や気管支炎の人は全員、COVIDの疑いがあります
ですが、風邪や気管支炎の人を全例検査するメリットはありませんし、キャパもありません



私達ができるのは、
新型コロナウイルス以外の病原微生物による感染症であることを証明することで、COVIDの可能性は低いと証明することです

これは診断学において基本的な考え方です

COVIDの早期診断は、治療や予後という側面では現時点では意味がありません
治療薬がないからです

もちろん、全身状態のサポートという側面では意味はあるかと思いますし、
感染拡大を防ぐという側面においては意味があります

ですが感染拡大に関しては、検査をしなくても感染が疑われれば自宅待機していればいいだけです
なので2月25日に厚労省から「軽症例は自宅療養の指針」が出されたのは、とても良かったと思います





今、私達にできることは、
「治らない肺炎」「原因不明の肺炎」「重症な肺炎」をみたら、
COVIDを疑い、他の微生物による感染症を検査や治療によって否定し、
保健所に新型コロナウイルスの検査せざるを得ない状況を作っていくことが重要だと思います


閾値を低めに対応し、院内感染を防ぐことが最大の目標で、
ハイリスク患者や医療従事者への感染を減らすことが、
死亡率を減らすことにつながっていくと思います

病院・診療所・クリニックで置かれた状況が異なるので、各施設で対策を検討していかないといけないと思いました

追記:本症例の検査は陰性でした

参考文献:






2020年2月23日日曜日

新型コロナウイルス 〜これからは自分達が中心〜

新型コロナウイルスに対峙するために自分なりの考えをまとめました
誤りがありましたら、ご指摘下さい


毎日のように状況が変化する中で必要なのは、
正しい情報を収集する事と
それを基に自分たちに出来る対策を立てる事だと思います


今までのフェーズの中心は政府や感染症の専門家でした
これからは自分達が中心です

明日から出来ることを考えたいと思います



今後どうなるか

普段であれば、需要よりも供給が大きい状態であり、十分な医療を提供することができます

しかし今後、感染者が増え続けると、需要が供給を超えてきます
それが続くとどうなるかというと、

普段は助かった命が助からなくなってくるということです

新型コロナウイルス感染症(COVID)で亡くなる人よりも、他の疾患で亡くなる人が出てきてます

例えば、交通事故の多発外傷の患者さんが、救急車でたらい回しになったり、
ICUが満床で心筋梗塞の患者さんを受け入れられなくなったりする可能性が出てきます


そうならないためには、人とモノを大事にしていかなければなりません



目標をたてる

新型コロナウイルス感染症のニュースは連日TVでとりあげられており、非常に関心が高い状況です

関心が高いのはいいと思いますが、ニュースばかりにエネルギーや時間をかけるのはよくありません

自分の影響が及ばないことに労力を注ぐより、
自分の影響がでる範囲に労力を注ぐべきです


例えば、
集団をまとめる立場の人であれば、いかにして従業員を守るか
高齢者の両親と生活をしている人であれば、どうやって両親を守るか
開業医の先生であれば、どうやって自分と患者さんを守るか


影響力がある地位にいるにも関わらず、何の対策も目標も立てずにニュースばかりみて、政治家の悪口を言っている・・・というのが最もよくないパターンです



私達がすべきことは、
感染対策を人任せにせず、自分たちの目標を掲げることです


一人一人、家庭ごとに、会社ごとに、病院ごとに、
診療所やクリニックごとに、施設ごとに目標は異なります

そして時間とともに目標も変わります


いきなり具体的な感染対策を議論したり、実行しても成功しません
各施設で大事なのは、最初に自分たちの目標を決めることです


ニュースで流れてくるのは、あくまで一般論です
それをどう自分たちの目標に落とし込んでいくかが重要だと思います


感染対策を成功させるには、集団に属している人、全員の意思統一が必要になります

「我々は○○のために、△△をしているのだ!」

といった目標がないと、感染対策は失敗します


自施設で何を目標にするかをまず話し合うことが感染対策の第一歩だと思います

これは感染症の専門的な知識がなくても、毎日のニュースの知識だけでもできます



日本の目標

今、日本が目指しているのは、
新型コロナウイルス感染症(COVID)の重症例を減らし、
COVIDで患者さんを死なせないことです

そのために、今ある病院機能を最大限に活用することが重要です


この目標に向かって、日本中の臨床医が頑張っています



一般病院での目標

残念ながらCOVIDに対する治療薬がない今、重症化したら一生懸命治療するしかありません
その結果として亡くなってしまう症例もでてくると思います

いろんな薬が試されていますが、重症例や死亡例を減らすことは一般病院としての目標ではありません


我々が目指すのは、
院内感染を防ぐこと、あるいは最小限に抑えることです

そしてCOVID対策に割かれたマンパワーや暴露者の休職の不足をカバーし、
日常の診療の質を落とさないことが重要です


なので、COVID対策をしていても、重症例がICUを埋め尽くしても、
いつものように心筋梗塞の人が来たら、心カテを行い、
大腿骨頸部骨折の人が来たら、迅速に手術を行うことができるようにしなければなりません


クリニック・診療所の目標

最前線の現場であり、暴露の機会が非常に多く、
すでに開業医の先生が感染してしまったニュースが出ています

ということは、どのクリニックでも診療所でもそういう事態は起こり得ます


その事態を想定しておくべきです
起こるものだと思って対応するしかないと思います



ですので、院内感染は防ぎようがなさそうなので、そこを目標にするのではなく、
他の患者さんへの感染の機会を減らすことに力を注ぐべきだと思います


今、病院や診療所の中は日本でとても危険な場所になってしまっていることを、
患者さんへ発信し、正しい情報を提供することが重要です

定期的な外来フォローで薬だけもらいに来るような元気な人は、
わざわざ院内に来なくていいシステムを構築すべきです

今、政府もそれを推進しているところです




一般の人の目標

自分を守り、家族や自分の周りの人に感染を広めないことが重要です

そのためには
・正しい知識を持つこと
・自分は大丈夫だろうという考えを捨て去ること
・自分が感染したらどう対応するか真剣に考えること


関心は広く、正しい情報を手に入れ、
影響がある範囲で行動し、
最悪の事態に備えておくことが重要です







青木眞先生、大曲貴夫先生、矢野(五味)晴美先生、岩田健太郎先生、忽那賢志先生、高山義浩先生のコメント、ブログ、FB参照




2020年2月20日木曜日

ボス回診 ~レセプターを生やす~

症例 80歳 女性 主訴:頸部痛、後頭部痛

Profile:DM・DL・HTで治療中、OAによる膝の痛みはあるがADLフル

現病歴:来院の3日前から徐々に後頚部痛が出現した
    特にきっかけはなかった
    頸部痛はあったが、普通に生活できていた

    徐々に後頭部にも痛みが出現してきた
    左右差はなかった
    頸部痛が改善せず、救急外来受診

ROS:発熱なし、嚥下時痛なし

既存症:DM・DL・HTで治療中、OAあるが無治療
内服:メトグルコ、ジャヌビア、カンデサルタン、アトルバスタチン
生活:ADLフル
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ディスカッション①:ここまでで何を思い浮かべる?

ボス「ここまででどう考える?」

学生「後頚部痛や頭痛なので、SAHや髄膜炎、crowned dense syndromeを考えるかと思います」

ボス「そうだね。

   それも鑑別にはなるけど、もう一つは後頭神経痛だね
   後頭神経痛はとってもコモンな疾患なんだ

   後頭神経痛は外来やってるとたくさんいるよね?」


T「そうですね。

  後頭部や後頚部の筋肉の緊張が強いと、そこを貫通する後頭神経の絞扼が生じて、
  後頭神経痛に至っている人はたくさんいますね。

 後頭神経痛は筋緊張性頭痛と兄弟みたいな感じの疾患です。

  出世魚的な感じの疾患と言っていもいいかもしれません。

  筋緊張性頭痛→後頭神経痛合併→眼痛までくる(三叉神経痛:CTRを介して)」

  →CTRに関してはこちら参照


ボス「後頭神経痛と筋緊張性頭痛はいとこみたいってことだね。
   じゃあ、フィジカル聞こうか。」
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バイタル 体温36.8度、血圧140/80、脈88、SPO2 96%
見た目 痛みのため、ややつらそう

頭部や顔面は正中に固定されている
話しかけると眼球を動かして、応対される
普通にコミュニケーションとれて、意識は清明

少しでも頸部を回旋させようとすると痛みが生じる
後屈や前屈は回旋よりは可能だが、痛みはある

項部硬直やケルニッヒ徴候みられず

両側の後頭部から後頚部にかけて広い範囲で自発痛と圧痛あり
右の大後頭神経のトリガーポイントにも圧痛点あり

肩甲挙筋にそった圧痛もあり

頸椎正中に圧痛は目立たず

皮疹なし
心雑音なし
下腿浮腫なし

脳神経学的に異常所見なし


血液検査 WBC12000, CRP4
     Cr0.9, 他、肝酵素上昇なし、CK上昇なし、電解質異常なし、Mg正常

CT 頭蓋内出血なし 環椎軸椎関節に石灰化あり

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経過①
血培採取の上、CDS(Crowned dense syndrome)疑いにてNSAIDsとPPIが開始となった
痛みが強かったため、入院で経過観察となった

翌日には頸部痛は改善傾向であり、少しずつ回旋できるようになってきたが、
後頭部痛や後頚部痛は残存していた
同部位に皮疹の出現はみられず

入院3日目、回旋はほぼできるようになってきた

だが、やはり右優位に後頚部痛が残存していた

血液検査で炎症反応は改善傾向
ただし腎機能が軽度悪化したため、NSAIDsは中止
カロナールで対応
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チーム内ディスカッション②:次の一手は?

T「CDSの診断は難しいよね。

 画像で石灰化があったからといって、まったく確定診断にはならない
 穿刺もできないしね
  
 CDSは除外の上になりたつ疾患

 だから、最初は化膿性の脊椎炎や椎間板炎も考えないといけない
 それに硬膜外血腫や膿瘍も鑑別にあがる


 でも経過をみるとやっぱりCDSでよさそうだけどね
 さて、CDSとしてNSAIDsいれて改善傾向ではあるけど、まだ後頚部痛が残っている

 どうしようか?何が起きていると思う?」


学生「うーん
   やっぱりMRIとかで他の疾患を探しに行くべきでしょうか?」


T「それも一つの案だね

  経過が悪ければさらなる精査が必要だと思ったけど、経過からはCDSでよさそうだけどね

  CDSとしてまだ治療不十分の可能性があるから、NSIADsの代わりにステロイドを入れるかを考えないといけないね

  でも診察では、明らかに筋肉の圧痛点があって筋膜疼痛っぽい痛みなんだけどなあ」
 

膠原病科Dr(リリースの達人)
 「この人は、今回CDSになったことで後頚部の筋肉を動かすことができず、
 筋肉が緊張状態にあって筋膜疼痛症候群と後頭神経痛を引き起こしたんだろうね
 
  
  リリースしてみるのが一番効果あるんじゃないかな?」

T「そうしましょう」


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経過②

ということで・・・

僧帽筋と肩甲挙筋の間、肩甲挙筋と第一肋骨のファッシアが厚い部分にリリース
→頸部の回旋域がUP
 まだ回旋Max時に痛みあり

胸鎖乳突筋の後面にもリリース
→多少改善

下頭斜筋や頭半棘筋にリリース
→多少改善


注射にて明らかに可動域は上がった、痛みも軽減された
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ディスカッション③:ボスの回診

学生「・・・・という経過になります」


ボス「へえ、リリース凄いね。
   じゃあ見に行こう」



・・・回診・・・

患者さん「だいぶよぐなりまじた。ありがとうございます」


ボス「・・・??
   
   あれ、粗造性の嗄声があるね。

   嗄声に気が付いていた?」


研修医「え?嗄声なんですか?

    気が付いていませんでした」


ボス「でも声が明らかにがらがらだよね。
   
   僕の美しい声と比べてごらん(笑)」


T「(先生の声はうつくしいのではなく、うるさいだけですが・・・)
  
  確かに粗造性の嗄声ですね・・・

  気が付きませんでした。。。」


ボス「それに下腿の浮腫あるでしょ?non pitting edemaだよね?」

学生「・・・そうですね」


ボス「打腱器ある?

   ほら、腱反射の弛緩相の遅延があるでしょ?

   
   甲状腺機能低下症が偽痛風の背景にあるんじゃない?」


T「確かに・・・」


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ディスカッション④:レセプター

ボス「甲状腺はどうだったんだっけ?」


研修医「測っていません、明日チェックします」


ボス「見たでしょ?腱反射の弛緩?

   
   僕が外来やっていると、甲状腺機能低下症だなあって思う人にであうと、
   研修医の先生をよんで、これが腱反射の弛緩だよって伝えるんだ


   そして、この人は甲状腺機能低下があるに違いない!
   っていって採血するんだけど、


   今まで全員、甲状腺機能低下症じゃなかったんだ(笑)」


T「??? え??

  何の自慢ですか?」


ボス「なにが言いたいかというと、一つの所見だけじゃ診断できないんだ

   甲状腺機能低下症ってBillewiczスコアっていうのがあるんだけど、
   正直、ぜんぜんいけてない(笑)

   臨床の場面で○○スコアが出てきた時って、
  診断が難しいんだな・・・くらいに思っておけばいい


   そんなことより、この文脈において、
  あの患者さんの嗄声に気が付けるかどうかが大事なんだ


   明日の甲状腺の結果もどうでもいい


   診断力をあげるには、後出しじゃんけんでは絶対にだめ
   前向きに想定することが大事
   

   検査ばかりで診断していても、絶対に伸びない」



T「結局は身体所見って、レセプターの有り無しですよね

  先生はもちろん、偽痛風の背景疾患の一つに甲状腺機能低下症があるというのを知識で知っています

  だから、この患者さんのプレゼンを聞いた時点で考えなくても、
  無意識に自動的に体から甲状腺機能低下症の
  フィジカルをキャッチするレセプターが
     にょきにょき生まれているんだと思います

  
  僕らにはそのレセプターがなかった
  

  だから、嗄声に気が付けなかった


  この症例の嗄声に気が付けないということは、
 本当の甲状腺機能低下症の嗄声も見逃すという事です


専攻医「診断が上手な人は、たくさんレセプターをもっていて、
    患者さんに出会った瞬間に、僕らにはキャッチできない
    いろんな情報をキャッチしている
   
    僕らはまだまだ無意識でレセプターは生まれないから、
    意識的にレセプターを作ってフィジカルを取りに行くしかないんでしょうね」


T「そうだね、一歩一歩だね。

  はあ・・・でも魂抜けるほどショックだったね(笑)」




まとめ
・筋膜疼痛症候群は他の疾患に合併することがよくある
→今回はCDSに筋膜疼痛症候群が合併し、後頭神経痛まで至っていた


・身体所見のコツは全神経をすべての感覚に集中させること
→視覚だけではなく、聴覚も使う


・フィジカルレセプターをにょきにょき生やしてから、診察しよう
→最初は意識的に、だんだん無意識にいろいろ生えてくる