2020年2月4日火曜日

昼カンファレンス ~帯状疱疹の「型」~

症例 89歳 女性 主訴:帯状疱疹とインフルで紹介

Profile:内科的疾患なし、ADLは杖歩行レベル

病歴:2日前から家族内でインフルエンザが流行
   その頃から右顔面に発赤出現
   それ以外に症状はなかった

   来院当日、デイサービスで手の痺れがあったので、
   本人が病院に行きたいと言っていた
   近医受診したところ、右顔面に発赤があり、帯状疱疹と診断された  
   発熱と気道症状も認めたため、インフルエンザ迅速検査にてAが陽性となり、
   当院紹介となった
   意識レベルはちょっとおかしいかもしれない

   紹介の意図としては、眼科の診察をしてほしいとのことであった

ROS
(+):咳、痰、頭痛
(-):手の痺れ、視力低下

既往:大腿骨骨折で手術
内服:なし
生活:ADL杖歩行、要介護2、トイレはポータブル、入浴はDS



---------------------------------------------------------------------------------------------------------
ディスカッション①:他に聞きたいことはありますか?

司会「はい、ありがとうございます。何か聞きたいことはありますか?」

研修医「いつまで元気だったのですか?」


発表者「そういう聞き方はしていませんが、当日の朝までは食事がとれたようです

    ですが来院当日の昼からは食事がとれていません」


司会「大事ですね、いつまで元気だったかというのは。

   でも元気かどうかは判断が難しいことが多いので、
   できていたことができなくなったタイミングを聞くのが上手なとり方です

   生活リズムに沿って聞くのがいいですね

   仕事や学校に行っている人なら、行けたかどうか
   普段何とか立っている人なら、立てるかどうか

   車椅子に乗せると、うなだれてしまうかどうか

   という感じですね」


司会「ちなみに高齢者のインフルエンザの典型的な主訴は分かりますか?

   若者みたいに高熱や倦怠感で来ることはあまりありませんよね

   高齢者の場合、どういった主訴をみたら、インフルエンザを疑いますか?」


研修医「咳とかですか?」


司会「咳は普通ですね、確かに頻度は多いですが違います。

   ヒントは救急車でよくきます」


専攻医「動けなくなることが多いと思います」


司会「その通りです!

   高齢者がインフルエンザにかかると、
  動けなくなって起き上がれなくなることが多いので、
  救急車で来院されることが非常に多いです。

   別に横紋筋融解になっていなくてもです。」


専攻医「よくありますよね。熱がなくてもインフルエンザということもよくあります」


司会「その通りです。熱がないインフルエンザなんて何人もいます。

   特に高齢者は非典型的な症状で来ることが多いので、
   流行期であれば閾値を低めに検査するしかないと思います。

   他に聞きたいことはありますか?」

専攻医「結局この人は動けるのですか?」


発表者「そういえば、普段歩いているのですが、車椅子で来院されました」


専攻医「手の痺れはまだありますか?」

発表者「デイサービスの時の訴えだけで、来院時はありませんでした
    なので、あまり詳しくは聞いていません」

研修医「意識が悪いというのは、どういうことですか?」

司会「はい、ありがとうございます。ではその辺も含めて診察に行きましょう」


------------------------------------------------------------------------------------------------------------
バイタル
BP152/74、P84、T37.5、SPO2 93%(RA)
意識 受け答え可、開眼している、会話のテンポが少し遅い
車椅子で来院

右前額部に水疱を伴う発赤が散在
呼吸音 清
関節の腫脹はないが、肩やひじが痛む

項部硬直 少し硬かったかも


--------------------------------------------------------------------------------------------------------
ディスカッション②診察で加えたいことは?

司会「はい、ありがとうございます。他に診察で聞きたいことはありますか?」


研修医「意識状態はどうでしたか?」

発表者「確かに話してて、少し反応がゆっくりだなという印象はありました」


司会「はい、ありがとうございます。それは意識障害なのでしょうか?

   今の意識レベルが意識障害といえるかは、どうしたら分かりますか?


   例えば小児の場合、意識が悪いというのはどうやって確かめますか?」


学生「お母さんに普段と比べてどうかと聞きたいです」


司会「そうですね。ご高齢の人も同じです。
   普段と比べてでしか、私達は異常かどうかは判断できません。

   そうなると、普段の状況を知っている人に聞くしかありません!


   点で見ていても変化率は分かりません。

  私達が探るのは変化率です。

   変化率には、
   家族から見た点と点の変化や
  時間がたって見えてきた点と点の変化があります。」


発表者「家族からみても普段と比べて、少し受け答えが遅いとのことでした」

司会「では軽度の意識障害はあるのかもしれませんね

   他に何か質問はありますか?」


研修医「項部硬直はあったのですか?」


発表者「少し硬かったです」


司会「項部硬直はどうやってとっていますか?」


発表者「座っている状態で首を曲げてもらいました。」


司会「なるほど、横には動かしましたか?」


発表者「横には動かしていません。」


司会「項部硬直を見る時は必ず、横方向にも動かしましょうね

   横への回旋運動も硬かったり、痛みが誘発されるようなら、
   それはCrowned dense syndromeかもしれません

   さらに横へ縦の動きもすべてが硬ければ、それはパーキンソン病かもしれません。


   さて、意識障害が軽度あるかもしれないこの状況で皆さんは何を考えますか?」


研修医「うーん、インフルエンザ脳症ってこういう感じになるのでしょうか?」


司会「あってもいいとは思います。他には何を考えますか?」


研修医「帯状疱疹があるとのことなので、髄膜炎や脳炎は考えたいです」


司会「そうですね、ここではそれが一番心配ですね。
   では帯状疱疹について色々考えてみましょう。

  帯状疱疹はただぶつぶつがでて、痛いだけの病気ではありません!

   
   非常に多彩な症状を来します、何か知っていますか?」


学生「・・・CTR」


司会「よく覚えてくれていますね(笑)Cervico Trigeminal Relayですね。
       後頭神経痛かと思ったら、帯状疱疹だったという症例がありましたね。



   他にはどうですか?」

専攻医「手の痺れもあったので、脳梗塞だったらいやだなと思いました」


司会「そうですね、帯状疱疹は脳梗塞を起こすこともあります。
   他には脊髄炎やギランバレー、ラムゼイハント、下位脳神経障害なども起こしますね。

   ちなみに脳梗塞を起こすのはどうしてでしょうか?」


専攻医「血管炎が起こるからでしょうか?」


司会「そうですね、血管炎で血管が閉塞してしまうのが有力な機序ですね。
   ということで帯状疱疹ウイルスは血管への親和性も高いんです。

  なので小さな血管であれば、炎症を起こして詰まってします。
   
  ですが大きな血管であれば、どうなるでしょうか?なんの病気になるでしょうか?」


シーン


司会「なんとVZVは、巨細胞性動脈炎を引き起こす可能性があるといわれています。」
                    Neurology.2015 May 12:84(19):1948-55


司会「皆さん、三叉神経領域の帯状疱疹を見た時の動き方をとして持っていますか?」

専攻医「失明のリスクがあるので、目のチェックや眼科の診察が必要です」


司会「はい、ありがとうございます。
   今回の症例も紹介状の目的がまさに眼科への診察依頼でしたね。

   他にはどうでしょうか?」


研修医「口の中をみること? 顔面の筋肉のチェックですか?」


司会「口の中の硬口蓋に皮疹がでると、三叉神経の第二領域ということになりますね
   ラムゼイハントとかでも出てきますね。

   ラムゼイハントは顔面神経に起こった帯状疱疹で、顔面神経麻痺がでる病気ですね
   
   つまりそれは他の脳神経症状を調べているということです。


   帯状疱疹のウイルスは神経という線路に乗っかって色んなところに飛んでいきます


   なので近くの神経やつながっている神経が障害を受けるとういうのはよくあります。
   ですので、脳神経の診察や一般的な神経学的所見はとった方がよいでしょう。」


発表者「あまりそういう意識がなかったので、脳神経の診察はざっとしかとっていませんでした。」


司会「ありがとうございます。
   帯状疱疹を見つけた時に、もう一つやるべきことはなんでしょう」


シーン

司会「それは、全身の皮疹のチェックです。
   なぜかは分かりますよね。

   播種性帯状疱疹になっていたら、対応が変わるかです。


   では三叉神経領域の帯状疱疹を見た時の診察の型のまとめです。

   
  ①眼のチェック:眼科診察は必須、ハッチンソン徴候に注意

  ②脳神経や神経診察:脳梗塞の合併や他の脳神経障害を合併することがある

  ③全身の皮膚のチェック:播種性であれば、個室隔離が必要


発表者「全身の皮膚をみていなかったです。勉強になりました。

    この症例はインフルエンザに対して、ラピアクタが投与され、
    帯状疱疹にはアシクロビルが投与されて入院となりました。

    眼科にもみてもらいましたが、現状では問題ありませんでした」


司会「はい、ありがとうございます。
   インフルエンザを語る暇がありませんでしたが(笑)
   今日は帯状疱疹について勉強になりましたね。」




ハッチンソン徴候の意味

ハッチンソン徴候は有名ですが、どうして鼻尖部に皮疹がでたら、
眼科合併症が増えるのでしょうか?


それは三叉神経の第一枝の走行をみればわかります


三叉神経第一枝は、三つに枝分かれします

前頭神経と鼻毛様体神経と涙腺神経です

鼻毛様体神経はすぐに枝(長毛様体神経)を出します

この長毛様体神経が眼球へ分布します


鼻毛様体神経は結局また三つに分かれて、滑車下神経や後篩骨神経、前篩骨神経に分かれます

鼻尖部に分布するのが、前篩骨神経の終枝の外鼻枝です

ここまで炎症が波及している、つまり鼻尖部に皮疹がある=ハッチンソン徴候がある
といことは、鼻毛様体神経に炎症が及んでいて、
途中の分岐の長毛様体神経にも炎症は及んでいるであろう


ということが予測されるので、ハッチンソン徴候があると、
眼合併症が起きている可能性が高いのです





三叉神経痛と帯状疱疹

ちなみに帯状疱疹が起こるのは、三叉神経第一枝領域がほとんどです

一方、三叉神経痛が起こるのは、三叉神経第二枝領域がほとんどです



つまり、三叉神経第一枝領域の三叉神経痛を見つけたら、
皮疹がなくても帯状疱疹を疑った方がよいという事です


なんで三叉神経の中で疾患によって、こんな偏りがあるのだろうと思ったら、
どうやら答えは発生学にあるようです

三叉神経第一枝(眼神経)と第二枝(上顎神経)・第三枝(下顎神経)の発生の由来は異なります


三叉神経第一枝は鰓弓性の神経ではありません
つまり咽頭弓由来の構造を支配せず、傍軸中胚葉から発生する構造に分布します

一方、第二枝、第三枝は鰓弓性の神経であり、第一咽頭弓の構造を支配します


第一枝と他の三叉神経の交通は二次的なもので、おおもとは違う発生です
たまたま近くにあったので、手をつなぎあったような感じでしょうか


だからといって、疾患の分布に偏りがある説明にはなりませんが、
こういう発生学的な違いが理由の一つかもしれません



まとめ
・高齢者がインフルエンザにかかると動けなくなる
→熱がなくてもインフルエンザは考えていい


・帯状疱疹はただぶつぶつが出て、痛いだけの病気ではない
→麻痺や脳神経障害、自律神経障害、脳梗塞、脊髄炎、血管炎を起こす多彩なプレゼンテーションがある


・三叉神経領域の帯状疱疹をみた時の型を持っておく
→①眼のチェック、②脳神経・神経診察、③全身の皮膚のチェック
   



0 件のコメント:

コメントを投稿