2020年7月2日木曜日

ボス回診 〜見えている世界が違う〜

Y「お願いします。
  コンサルテーションポイントは、
  現在、肺炎・心不全に対して治療を行なっているのですが、
  酸素化が改善しないので、今後の治療方針について相談させていただきたいと思います。」

S「OK」
----------------------------------------------------------------------------------------------------
82歳  男性 主訴:呼吸苦(症例は一部修正・加筆を加えています)

Profile:認知症あり、施設に長期入所中、ADLはほとんど寝たきり
    会話は可能、もともと多量喫煙者

現病歴:1ー2週間前からSPO2 が90%を下回ることがあったが、
    本人の自覚症状がなかったので、経過をみられていた
    発熱や湿性咳嗽はみられず

    受診の4日前に転倒し、腰痛が出現
    嘱託医の診断で腰椎圧迫骨折と診断された
  
    受診の前日、酸素化低下あり。SPO2 80台になっていたが、
    呼吸苦の訴えなく、様子がみられていた
    受診日当日、SPo2 70%台になり、本人の呼吸苦もあったため、
    当院受診し、心不全・肺炎疑いで入院となった

既往歴:小児期よりてんかん、COPD、前立腺肥大症

バイタル:BP 140/80, P 89, SPO2 82%(RA)→90%(2L)、RR18、T 37.3
意識 会話できるが、なんだか呂律が回っていない印象
指示は入る

見た目 顔面含め全身の浮腫みがありそう 苦しそうな様子はなし
頸静脈 短頸で観察不良
呼吸 全肺野からcrackle聴取
心雑音なし
腹部 ぼってり 軟 圧痛なし
四肢 下腿浮腫著明 上肢にも浮腫あり

血液検査 CRP1、Hb17、腎機能問題なし、BNP 80
血ガス CO2 41
CXR    心臓の後ろの透過性低下あり、下降大動脈のシルエットアウトあり
CT   両側の下肺背側で浸潤影あり、全体的に気腫性変化あり、気管支壁は軽度肥厚
    他、特記事項なし
心電図 洞調律、ST-T変化なし

痰はでず
--------------------------------------------------------------------------------------------------------
Y「・・・という状況でした
  体重が1年前から5kg増えており、まずは心不全と考え、利尿剤の投与を行いました
  また肺炎もあると判断して、CTRXで治療を開始しました

  入院後、体重は減少傾向ですが、1週間経過してもまだ酸素が外せない状況です
  今後はCOPDの合併もあるので、SABAの吸入を行おうと思っています」

S「ありがとう。

  ところで、薬は何飲んでいるの?」

Y「あ、すいません
  アレビアチンとウルティブロです。」


S「なるほど、ウルティブロって何だっけ?」

Y「LABA,LAMAです」

S「了解。じゃあ行ってみよう」
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
ボス回診

S「こんにちは〜」

Pt「ガーガー、むにゃむにゃ・・・(眠そう)」

S「やたら眠そうだね。目は開きますか?」

Pt「うーん、先生が○×▲□ むにゃむにゃ・・・」


S「・・・?いつもこんなに呂律は悪いの?」

Y「はい、施設の方に聞いてもいつもこんな話し方のようです」


S「なるほど。全然目が開かないね。

 すいませんが、診察させてくださいね。深呼吸してみてください・・・・」


Pt「スーハースーハー」

口元に聴診器を持っていき、early inspiratory crackleを聞いたが聞こえず・・・




:DOI: 10.2169/internalmedicine.46.0455


S「どこか痛いですか?」

Pt「痛くない」


S「ここ(腰)はどうですか?」

Pt「アイタタた」

S「やっぱり痛そうだね、リハビリの様子はみたかな?」

Y「いえ、しっかりとはみれていないです。」


S「これだと、座ったりするのも大変そうだね。」


他の診察・・・
バチ指なし
末梢はやや冷たい
浮腫ないが、全身がややぼってりしている

神経
指示は入る 会話できる
眼瞼下垂なのか、なかなか目が開かない
呂律不良は目立つ
粗大な麻痺はなし
指鼻指はぶれてしまう
-------------------------------------------------------------------------------------------------------
ディスカッション①何を考える?

S「パッとみてどう思った?」


学生「うーん」


S「明らかにblue bloaterだね!」


Y「blue bloater??」

S「blue bloaterっていうのは、COPDの慢性気管支炎型のタイプの人だよ。

  青太り型だね。
  全体的に青白くて、ぼってり浮腫んでいるような体型なんだ。

  もう一つのパターンは肺気腫型のpink puffer(赤ふぐ)パターンだね。

  少し赤ら顔で口すぼめ呼吸をして、フグのように口が膨らむでしょ。


  COPDの身体所見って色々あるけど、こういうパッと見の印象ってとても大事なんだ。」





T「日本ではpink puffer型が多いと思っていました。
  あんまり最近の教科書には強調されていないように思えます。」


S「そうなんだ、だからこそblue bloaterは見落とされてるんだ。
  気がつかないでしょ、一見、COPDだって。


  大事なのは、呼吸機能検査で1秒率がうんたらかんたらで、GOLDの分類が〇〇で・・・
  っていうことではなく、その前段階。


  この人に呼吸機能検査しよう!
  
  って思えるかどうかは、パッと見ただけでわかる。


  pink pufferは日本人に多いから、分かりやすいけど、
  blue bloaterのパターンもあるから、覚えておこうね。

  
  今回の症例は多量の喫煙歴があったし、そりゃあCOPDでしょ?
  って思って、early inspiratory crackleを聞いたけど、聞こえなかったね。
  early inspiratory crackleあがあれば、%1FEV1は40%以下と言われる。

  つまり重症ってことだよ。


  でもなかった。

  その時点で、本当にCOPDが悪さをして酸素化が低いのかが疑問だったんだ。


  それでだ。


  他に何か感じた?」


学生「いや・・・なんだか・・・話すのが、、、
   ゆっくりでした・・・・」


S「そうだね。
 
  あと、目が開かなかったよね。
     
  呼吸状態がなかなか改善しない時って、肺の問題も考えるんだけど、
  次に考えるのは、筋骨格系の問題じゃないか?ってことなんだ


  だからそういう時は、常にMG(重症筋無力症)を疑っている。
  その中で、目が開かないというのは、もしかしたら眼瞼下垂なのかもしれないよね。

  入院後、ガスはフォローした?」


Y「いえ、していません」

S「そうだね、一回、酸素をoffにしてみて、AaDO2を測定してみるといいね。
  まあ、肺炎や心不全、COPDがあるから、解釈は難しいかもしれないけどね。

 ただ今回の場合、MGっていう鑑別診断は実は高級な議論なんだ。

  
 実際はなんだと思う?」


Y「・・・」



S「多分、痛いだけだね。


 痛くてあんまり呼吸が吸えていないんじゃないかな?

 もともとCOPDで酸素化がギリギリな人が、圧迫骨折になってしまって、
 うまく呼吸ができていないんじゃないかな?」


Y「なるほど・・・
 確かに今回、プレゼンの準備をしていて、
 そういえば圧迫骨折って言われてたなあ、って改めて気がつきました。
 
 入院中は寝ていれば、痛みはないというので、気が付きませんでした。」


S「そうだね。

 この人は酸素化の低下という表現で、痛みを訴えていたんだ。


  大事なのは、HOTではなく鎮痛だね。」


Y「わかりました。ありがとうございます。」



-----------------------------------------------------------------------------------------------------------
ディスカッション②眠そうな原因は?

S「あと、やたら眠そうだよね?

  それはどう?」


T「COPDもあるので、cO2ナルコーシスだったら嫌だなあと思いました」


S「そうだね、それをみるのもあって、末梢をみたんだけど、赤くはなかったね。

 この人の指鼻指どうだった?」


Y「ぶれていました」


S「そうだよね。
 
  この人はアレビアチンを長期に飲んでいる。
  つまりフェニトインね。


  フェニトインの血中濃度って線形に比例して上がっていく感じじゃないんだ。
  急激にあるところから上昇してしまう非線型関係(non-linear saturation kinetics)なんだ

  治療域がとても狭くて、血中濃度が上がると副作用が出やすい


  血中濃度測った?」


Y「測っていないです。」


S「測ったほうがいいね。血中濃度によって出てくる症状もわかっている

 10ー20が至適濃度で、
 30くらいで眼振が出て、
 40くらいで小脳失調が出て、
 50くらいで意識障害が出てくる。

 
 フェニトインは今はあまり使われなくなったけど、昔はよく使われていた薬だね。
 長期投与されると小脳萎縮がきたりすることもある

 だから呂律が回っていないのは、もしかすると小脳症状かもしれないね。」

----------------------------------------------------------------------------------------------------
ディスカッション③:プレゼンの意味は?

Y「わかりました、ありがとうございます。

  今回も全然、だめでした。」


S「そんなことないよ。

  あ、でも薬をプレゼンで言わなかったのは、ダメだね 笑。
 
  なんで薬をプレゼンで言ってなかったか、気がつけたかというと、
  いつも薬が原因じゃないかって疑っているからなんだ


  いつも心に・・・?」


Y「薬と結核」


S「知ってるでしょ?

  みんなわかっているのに、薬が原因ということに気が付けないんだ。


  プレゼンをすることで、たくさん気が付くことがある。
  今回の圧迫骨折にだって改めて気がついたでしょ?

 
  医者がプレゼンする最大の目的は患者さんのアウトカムをよくすることなんだ。


  プレゼンは八方美人のようなプレゼンでなくていいんだよ。
  拙いプレゼンでいいんだ。

  
  ディフェンシブで、あれもこれも考えています。
  みたいに言われてしまうと、議論が進まない。


  だからこそ、ツッコミどころがあった方が、議論は盛り上がる。

  それが患者さんにとっていいアウトカムにつながる。

  
  今回だって、アレビアチンのことわかってますみたいな感じでプレゼンしてたら、
  ここまで盛り上がらなかったでしょ?」


Y「そうですね。笑

  これからもめげずに頑張ります。」


S「そうだね、プレゼンはたくさんしたほうがいいよ。

 プレゼンをすることで、患者さんのプレゼンテーションが頭にストックされるんだ。


 症例を自分の中の棚みたいなところに入れてストックしていく感じ。
  外付けのハードに貯めても意味がないんだ。
 
 すぐにアクセスできない時もあるしね。
 
 ストックがたくさんできてくると、照らし合わせることですぐに診断できるようになる。

  
 これからも、議論が盛り上がるようなプレゼンをたくさんしてね。」


Y「はい、頑張ります」
----------------------------------------------------------------------------------------------------
まとめ
・COPDのblue bloater(青太り)型を見逃さないように

・圧迫骨折後に酸素化低下することはよくある
→低酸素でしか、痛みを表現できない人もいる

・プレゼンは八方美人は盛り上がらない、拙いプレゼンでいい
→内容よりも気持ちが大事

0 件のコメント:

コメントを投稿