2020年12月15日火曜日

ある日の当直 〜今があるのはあの時のおかげ〜

 ある日の当直の出来事 (※症例は一部加筆・修正を加えています)


82歳 女性 尿路結石からの腎盂腎炎で抗生剤投与のため入院中

という人が当直に申し送られました


この症例は3回ショックの評価を求められます

自分だったらどうするか?という視点でお読み下さい


82歳 女性

元々ADLは自立しているものの認知症がありそうで、

いわゆるポリファーマシー・ポリDr状態

不安神経症でベンゾジアゼピン、HTで降圧薬などを内服中

心疾患の指摘はなし


経過としては、2週間前から左腰痛が出現し、

10日前に当院受診し、CTにて左尿管結石あり

その後、痛みどめ(カロナール)で様子を見ていたが、改善せず

本日、救急受診


BP110/70, P80, SPO2 98%, T 37.8

見た目 お元気そう

左腰背部痛とCVA巧打痛あり

尿検査にて膿尿・細菌尿あり

血液検査にてWBC30000、Hb 11、Plt 6万

Cr 1.3 (元々Cr 0.6)、肝胆道系酵素 上昇なし    CRP 9

心電図 ST-T変化なし、CXR  心拡大なし、肺野に浸潤影なし

血液培養・尿培養がとられ、第3世代セフェムの抗生剤点滴が開始となり、入院中


痛みが辛そうだったので、ロキソニンで鎮痛中

入院後、病棟で血圧が70/40と低下あり

補液負荷にて100/70まで改善あり

補液は6時間で1000mlくらい入っています


その後の対応をお願いしますと、夕方に当直帯に申し送られました

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①さあ、どう対応しますか?


まあ、まず見に行きますよね(笑)


見に行きました


すると、けろっとしていてとてもお元気そう

お腹へったと言っている

ロキソニンの影響か、何ともないとのこと

CVA巧打痛も見られず

血圧は90/50、脈は90台


T「ショックの診察でとても大事なことがあります。

 2つだけ身体所見とっていいですよと言われたら、何をとりたいですか?」


Y「うう・・試されていますね・・・」


D「頸静脈と末梢を触りたいです」


T「その通りです。頸静脈と末梢はすぐに診察できて、とても有用です

 もちろん、心音聞いたり、直腸診して黒色便を見たりすることも重要ですが、

 頸静脈と末梢を触れるだけで、ショックの分類がかなりできるので、大事にしましょう」


頸静脈 外頸静脈は臥位ではやや張っているように見える

    ベッドUPしても少し張っている

末梢 とても暖かい


T「ショックの分類はみなさん、知っていますよね。

 血液分布異常とか、hypovolemicとか、心原性とか・・・

 それでわかる人はそれでいいですが、自分はshockの頭文字で覚えるやり方で育ったので、

 そちらを使うことが多いです。


 S Septic , spinal(本当はneurogenicですが)

    H   Hypovolemic

    O   obstructive

    C   cardiogenic

    K   アナフィラキシーshock(のKというかなり無茶な覚え方)    


 僕が考えたのではなく、救急の有名な先生が言っていました

 もちろん、他にもいろいろありますが、臨床で出会うショックの多いものが、

 ここに挙げられたものです。

 ショックはスピードが大事ですので、悠長に考えている暇はありません。

 反射的に動けるようになりましょう。


 今回は末梢がとても暖かく、普通に考えると敗血症性ショックで矛盾ないと思われました。

 輸液で反応しているので、このまま血圧落ちなければ良いですが・・・


 さて、この患者さん、この後、どうマネージメントしましょうか?」


D「尿路結石があると分かっているのは、今回の入院時のCTではなく、10日前のものですよね?

 だったら、他の熱源があるかもしれないですし、

 今後ステント留置になる可能性があるので、尿路結石がどこにあるかも含めて、

 再度、CTで画像評価したいです。

 あとは尿のグラム染色を行い、抗生剤をもう少しエンピリックに広げたいです。

 ESBLや緑膿菌のカバーも含めて、MEPNにするかなと思いました。」


T「はい、ありがとうございます。

 そうですね、ドレナージの適応を考える上では、CTを再検するのは大事ですね。」


CT 10日前は結石は尿管の中間付近にありましたが、移動していました

  左膀胱尿管移行部に4mm大の結石が嵌頓し、水腎症をきたしていました

  溢尿所見は認めませんでした

  他に特記すべきことはありませんでした


抗生剤はMEPNに変更しました

尿のG染色はGNRが多数いました


T「CTではあと、もう少し!というところに、引っかかっていますね。

 石が落ちるのが先か、血圧が落ちるのが先か・・・・

 さて、次はどうしましょうか?」


D「やっぱり、ステントを入れてもらうしかないのではないでしょうか?」


T「そうですね。

 感染症の治療の原則はドレナージです。

 抗生剤投与ではありません。


 血圧落ちてからでは後手後手なので、ドレナージしてもらいましょう。

 

 休日の夜ではありますが、

 泌尿器科の先生に頼んでステントを留置していただくようにお願いしましょう。


 ・・・電話しましたが、本日は残念ながら対応が困難なようです。

 さあ、どうしましょう?」


Y「隣の病院に電話します」


T「そうですね、電話しましょう。


 ・・・電話しました。


 ステント入れてくれるそうです!

 ですが、ステント入れたらまた戻ってくるそうです!


 もちろん、全然OKです。あとは内科で管理します。


 尿路結石のuro sepsisは泌尿器科の病気ではありません。

 ステントが入れ終わった後は、HospitalistやIntensivistの病気です。


 ステントを入れてくれるだけで、とてもありがたいのです。」



D「でも、バイタルがよかったり、炎症反応が上がっていないと、

  あまりステント留置を積極的にしてくれない時もありませんか?」


T「そんな時もありますね。

 大きな声では言えませんが、専門家を動かすコツがあります。

 

 それは、悪目のバイタルを伝えることです。

 バイタルが悪いアピールをすると、専門家は動いてくれます。

 嘘はつきませんが、プレゼンに工夫は必要です。


 相手を本気で動かすためには、こっちも本気です。

 だって、患者さんの命がかかっていますから。」



今回は快く引き受けてくださり、救急車に揺られて転院

途中、血圧は90-100/40-50と安定していたが、到着直前で患者さんが嘔吐

その後、ステント留置術へ


T「帰りの救急車は、結構しんどかったです・・・

 車酔いの状態で戻ってきました。

 

 その後、程なくしてステントが入れ終わったと連絡があり、救急車で戻ってきました。

 戻ってきた時のバイタルは、案の定、BP70/40,P 90と下がっていましたので、

 そのままICUへ行きました。」


現状、輸液が100ml/hrで繋がっているだけです

レベルは良くて、けろっとしています

酸素は1L吸って、SPO2 98%です

呼吸数は早くて、24回/分です

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②さあ、どう対応しましょうか?


T「勘違いしてはいけないのは、

 ステント入れた、ドレナージしたからもう安心!ではないです。

 炎症の暴走は遅れてやってきます。


 ステント入れた後にすぐ良くなるわけではありません。


 さあ、ショックに対応しましょう」


末梢 暖かい

頸静脈 相変わらず、臥位で外頸静脈しっかり張っている

著明な外出血なし(尿カテ内にはわずかに血尿あり)

心電図 著変なし

UCG     EF60%弱ほど、よく動いている、sever な弁膜症なし、心嚢水なし、D shapeなし

IVC    13mm、呼吸性変動あり

腹水なし、胸水なし

血ガス 乳酸 2と軽度上昇



T「こんな状況でした。どうしましょうか?」



D「末梢が暖かいのであれば、敗血症性ショックとして輸液をもう少し負荷したり、

 ノルアドを使って血管をしめにいくと思います。」


T「なるほど。では、Aラインとりますか?CVとりますか?」


Y「とります。」


T「CVはダブルですか?トリプルですか?ビジレオモニターつけますか?」


Y「・・・わかりません。ダブルで・・・」


T「はい、今回はダブルのCVにしました。

 たくさん、薬剤投与するときはトリプルがいいですが、

 まだ輸液とNAだけだったので、ダブルでいいかなと思ってしましました。


 ビジレオモニターは色々な数字を見ることができるので、

 実際はつけるべきだったと思いますが、この時はつけませんでした。」


Aライン留置

C V留置


その後、NA(ノルアド)をどんどん上げてもMAPは65 keepできず

NAが0.2γ超えてきたので、ピトレシンも併用

輸液速度もUP(200ml/hr)


上記で何とかMAP65 ギリギリkeepできる状態

乳酸は2台を推移


何とかMAP保てるようになったので、一安心


深夜の当直中なので、Go to で当地に来て、泥酔した救急車対応におわれる・・・・


陰性感情を押し殺しながら、笑顔で対応中に、今度はICUから電話


Ns「冷や汗かいて、末梢が冷たくなっています。

 バイタルは変化ありません。どうしますか?」



T(えええ・・・せっかく落ち着いたと思ったのに・・・

    あとはステロイド持注くらいしかないぞ・・・)

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③さあ、どうしましょう?


T「こういう時は当たり前ですが、まず見に行きましょうね。

 どんなに眠くても、電話で対応してはダメです。」


見に行きました


そうすると、さっきとはうって変わって、末梢が冷たい状態です


NAが0.3γ弱、ピトレシン併用中、輸液200ml/hr、酸素は2LでSPO2 98%、呼吸数 28回 

MAP 65前後、P 90前後(整)

意識 ややソワソワしている

今まではなかったが、急にベッドから起き上がろうとしている


「ここは変なコタツだねえ〜

 さっきは暑かったけど、今は寒いよ。

 うんちしたい、うんちしたい。」


と言っています



あ〜何だ、うんちしたいだけか


とか思ってはいけません


M「うんちしたいは、ヤバイですよ。


T「その通りです。

 不穏になった人がこの言葉を発したら、

 やばい、心停止する一歩手前かもしれない。と思ってください。


 ですので、パパッと評価して現状を改善させなければなりません。

 血圧は変化ないですが、ここでもショックの評価が必要です。」


末梢 冷たい 冷や汗ひどい

頸静脈 相変わらず、臥位で外頸静脈しっかり張っている

著明な外出血なし(尿カテ内にはわずかに血尿あり、変化なし)

心電図 著変なし ST-T変化なし

UCG     EF20-30%!全然動いていない! diffuse hypo!心嚢水なし

右室は張っていない

IVC    15mm、呼吸性変動なし

血ガス 乳酸 3と上昇傾向、低血糖なし



今度は心源性ショックが強く疑われる状況でした

そのため、ドブタミンを開始しました

そして心不全の治療目的や呼吸努力を軽減したかったので、挿管する方針としました


挿管はこの状況ではかなりリスクが高い状況です

そのため、まずはブリーフィングが重要です

参考:気道管理


ABCの順番に自分の考えていることをみんなと共有します

A アセスメント(MOANS,LEMON,HOP)

B バックアッププラン(挿入できなければ、GEB使用したり、筋弛緩を考慮)

C コーディネーション(チームメンバーと共有)


挿管担当:〇〇、右の人は介助(チューブ、吸引)、左の人は挿管チューブの確認

外回りの人は記録と薬剤投与、バイタル伝える係


T「いつでも心停止する可能性があるので、

 左の人は心停止したら、すぐに心臓マッサージしてください。と伝えておきました。

 何があっても慌てないようにするのが大事です


 起き得ることをみんなで共有することで、パニックにならずに済みます。」



バイタルを安定化させるために、MAPが65とギリギリだったので、

一時的にNAを上げて少し、MAPを上げておきます


酸素化もよくしておきます

2LでSPO2 98%くらいだったので、リザーバー15Lに変えておきます


DAMカートを用意し、吸引はヤンカーを準備します

頭にタオルを敷き、気道が一直線になるように気道確保します


鎮痛(前投薬としてフェンタニル)は少量ずつ投与し、血圧低下がないことを確認しながら行います


鎮静はこういう場合は、ケタラールが血圧を下げないので、望ましいですが、

ある程度、血圧保たれていたのでミダゾラム少量で鎮静しました

筋弛緩も使っても良かったですが、挿管困難な要素もなかったので、

筋弛緩は使わず、マックグラスを用いて挿管しました


幸い一発で挿管でき、途中の急変もありませんでした


DOBを投与し、挿管後はまた心臓が動き出していました


その後、順調に乳酸も下がり、MAPも安定し、翌日には尿も出だしました

今はday3ですが、NAも中止できて、ピトレシンも順調に減量できています


この患者さんに今があるのは、あの時ドレナージを行っていたからです


ドレナージがあと数時間遅れていたら、この患者さんの今の回復はなかったでしょう

泌尿器科Drに感謝ですね

→day5で抜管し、食事摂取も良好で、スタスタ歩けたので、自宅退院になりました



まとめ

・尿路結石による閉塞性の腎盂腎炎は急にバイタルが崩れる

→なぜか来院時は大丈夫で、入院してから血圧が落ちることが多い。


・ショックに出会ったらショックであると認識し、早急にショックの評価と対応を行う

→そのために重要な身体所見は頸静脈を見て、末梢を触る


・一度、ショックの治療を始めて、うまくいかなかった場合は、ショックの再評価が必要

→敗血症性ショックには色々なショックが合併する



(おまけ)

敗血症の治療中にショックになった場合、他のショックを合併することはよくあります

抗生剤投与中のアナフィラキシーショックや

実はTSS(トキシックショック症候群)だったとかもあります


凝固異常合併していることが多く、出血性ショックには注意が必要です

敗血症に伴う心筋症やvolume over loadに伴う心不全、

心筋梗塞やタコツボ型心筋症を併発することも多く、

この患者さんも心源性ショックを途中から合併してしまいました


トロポニンは微増で、BNPは著明上昇していました

もちろん、ACSは鑑別になりますので、迷ったら循環器Drへ相談しCAGも考慮です

今回は心電図フォローしてもST-T変化はなく、トロポニンも横ばいであり、

心筋梗塞の可能性は低いと思われました



今回の患者さんは、輸液負荷に心臓が対応できず、

いわゆるフランク・スターリング曲線の山を超えてしまったのだと反省しました

ビジレオモニターでSVVやPPVをみたりしていれば、防げた可能性があります


いや・・・


モニターはつけなくても、身体所見でも実は気がつけた可能性があります

最初から頸静脈がかなり張っていたので、違和感は最初からありましたが、もっと注意すべきでした



このようにvolumeは入れれば良いというわけではありません


目の前の患者さんにvolumeを入れれば、CO(cardiac output)が増えるかどうかを見極める必要があります

MAPや血圧が指標ではないことに注意が必要です


その方法はいくつかありますが、fluid challenge testやPLR(Passive Leg Rasing、受動的に足を挙上)が有用です

よくないのは、ダラダラと輸液を入れ続けることです


敗血症の治療では輸液は少ないに越したことはありません

過剰な輸液はグリコカリックスを障害します


グリコカリックスの障害によって、さらなる血管透過性を生みます


グリコカリックスとは・・

血管内皮グリコカリックスは血管内皮細胞に結合するプロテオグリカンに陰性電荷を帯びた

グリコサミノグリカンが結合し,ヒアルロン酸やヘパラン硫 酸がそれらの構造物を

つないで血管内皮表面を覆うような形で存在している

血管内皮グリコカリック スの生理的役割は多岐にわたり,

微小血管のトーヌ スや透過性の調節,白血球の接着や遊走の調節,

血 管内血栓の抑制など血流の制御において重要な役割を果たしている


血管内皮グリコカリックスが障害されると, グリコカリックスが血管内皮より剥離し,

ア ルブミンや液体成分が血管内から間質に流出するよ うになる

グリコカリックスの障害は血管の透過性 亢進に伴い間質への体液貯留を引き起こすとともに 

血管トーヌスの低下,凝固活性の亢進そして持続的 な微小血栓の形成などを引き起こす 

外科と代謝・栄養542号 20204グリコカリックスについて









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