2021年1月31日日曜日

日本一早いカンファレンス 〜するかしないか、それが問題〜

通称、「 日本一朝早いカンファレンス」を毎週やっています

このカンファレンスのおかげで、

朝早く当直で呼ばれても、いつもと同じパフォーマンスを発揮できるようになりました 笑


さて、今日も朝早くからいい議論ができました

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50代 女性 主訴:発熱(※症例は一部、改変・修正を加えております)

Profile:ADLフル、不眠でBZ内服中

経過:(数年前の症例:コロナは考えてなくていい時代)

   1週間前から発熱が出現

   近医にてインフルエンザ迅速は陰性で、アセトアミノフェン処方あり

   その後も高熱が続き、近医受診

   尿検査にて膿尿あり、尿路感染症としてフロモックス処方

   その後も高熱が続き、救急車でA病院を受診

   意識はややぼーっとしている

内服:デパス、レンドルミン

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ディスカッション①1stインプレッションは?


学「まずは1週間続いている発熱なので、感染症を軸に考えていきたいと思います」


T「感染症の中では何を考えますか?」


学「まだそこまでは、考えきれていませんでした」


T「感染症を考えた場合、

  例えば、感染部位、原因微生物、治療を考えていかなければなりませんね。


  現時点だと、尿検査で膿尿があったくらいで、

  明らかなfocusは分かりませんね。

  ただ、ぼーっとしている感じがあるというのが、

  意識障害とすれば、髄膜炎を疑うべきかどうかですね。

  みなさん、髄膜炎対応しますか?」


参考:髄膜炎対応


Y「中年女性の発熱と意識障害で、他に代替診断がなければ、

 自分だったらするかなと思います。」


R「加えてアシクロビルまで入れるかどうかは、本人を見てから決めたいと思います」


T「はい、ありがとうございます。

  もちろん、最終的には来院して本人を見てから決めることですが、

  心の準備をしておく、

  場合によっては物と人の準備をしておくことは大事ですね。

  

  髄膜炎対応を本気でする場合、

  一気に血液培養を2セット取って、抗生剤を溶かして、すぐにivするので人手が入ります。」


D「自分は髄膜炎対応まではあまり考えないかなと思いました。

  発熱で消耗してぐったりしているだけでも、ぼーっとしているようにも見えますし、

  ベンゾのんでいるので、最初からは髄膜炎までは考えないかなと。」


T「はい、ありがとうございます。

 カンファレンスの文字だけだと、難しいですね。

 やはり、実際の本人の様子をみて決めることになりそうですね。」

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来院後

BP 120/70, P 80, SPO2  94%, T 39.5  

意識 E3V4M5 JCS10

項部硬直なし ケルニッヒ徴候なし

咽頭 発赤なし

頸部LN腫脹なし

心雑音なし、呼吸音 なし

腹部 平坦 軟 圧痛は下腹部に軽度

四肢 浮腫なし

関節 腫脹や圧痛なし 皮疹 なし

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ディスカッション②さて、どう対応しますか?


T「いつも言っていますが、意識レベルはなるべく文字で現した方が良いです。

 E3V4M5とかE2V1M6とか見て、この人の様子がパッと目に浮かびますか?


 もともとGCSの表記は外傷領域で使われます。

 8点以下や2点以上の低下で切迫するDとか言いますね。


 外傷でない人の意識レベルを表す場合は、文章で表すことを心がけてください。


 この症例の場合は、呼びかけないと閉眼してしまうが、

 呼びかけで開眼。指示は入ったり入らなかったりする。

 発語はあるが、受け答えがゆっくりで見当識障害あり。


 みたいな感じの表記の方が分かりやすいです。


 國松先生が言っていましたが、JCS 0.5みたいな症例ってありますよね

 見当識障害はないんだけど、なんとなく意識変容がありそうで正常とは言えないレベルの時は、

 特に文章での表記が望ましいと思います。


 さて、身体所見まで取りおわって、髄膜炎対応しますか?」


学「やっぱり、感染症の軸で考えて、まずは髄膜炎として対応した方が良いのかなと思いますが、分かりません・・・」


Y「頭痛や発熱がなく、項部硬直もなかったので、いきなり髄膜炎としては対応せずに、

  まずはしっかり熱源を探す方を優先します。

  

  外来でよく出会う異形肺炎や副鼻腔炎、EBVらしさをもう少し詰めます。

  あとは下腹部痛があるので、腎盂腎炎や子宮留膿腫、腹腔内膿瘍を疑って、

  超音波検査をして、CTで画像評価したいと思います。」


D「自分もやっぱり、経過がやや長く細菌性髄膜炎は疑わないかなと思うので、

  髄膜炎対応ではなく、どちらかというとNPSLEやNMDAR脳炎を疑う経過かなと思います。」


N「自分は髄膜炎対応するかなと思います。

 もちろん、NPSLEや他の自己抗体関連脳炎も鑑別になりますが、

 最初に細菌性髄膜炎として対応して治療しておかないと、

 あとで必ず鑑別に残ってしまうからです。


 今回の症例は

 抗生剤の先行投与もあるので、無菌性髄膜炎だったとしても

 細菌性髄膜炎は鑑別に残ってしまいます

 なので、髄液所見から細菌性は除外できないので、治療をはじめてしまうと思います。

 その上で、治療してうまくいかなかった時に、足し算としてステロイドを加えたり、

 マイコプラズマやリケッチアといった通常の髄膜炎対応ではカバーできていない

 微生物のことを考慮します。」


T「そうですね。

  カンファレンスの字面だけではわからない臨床の臨場感が最後の決め手だとは思いますが、

  この情報だけなら細菌性髄膜炎として対応しても良いかと思います。

  髄液のG染色で菌が見えない場合は、ヘルペス脳炎もカバーしてアシクロビルまで投与して良いと思います。


 実臨床もこんな感じで、細菌性髄膜炎対応する?しない?が議論になります。


 髄膜炎対応はtPAのような感じで禁忌もありませんが、どういう状況ではすべきという明確な指針もないので、個々の臨床医の判断になってしまいます。


 ただ細菌性髄膜炎は治療を限りなく早くした方が予後がいいですし、

 後遺症も少なくて済みます。


 細菌性髄膜炎は内科のemergencyということはわかっていても、 

 どのタイミングでスイッチを入れるかは人によって異なりますね。

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経過

細菌性髄膜炎対応とはならず、経過観察目的で入院となった

入院後、意識障害の進行が見られ、MRIにて側頭葉海馬の高信号がみられた

ヘルペス脳炎が疑われ、高次医療機関へ転院搬送となった

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本日の学び


T「はい、ありがとうございました。

 結論ははっきりしませんでしたが、ヘルペス脳炎でよかったのではないでしょうか。」

 

学「発熱が続く症例で、

  ウイルス感染や腎盂腎炎とかも鑑別に上がる中で、何を優先させるべきかが難しかったです。

  

T「そうだね。たくさん考えることがあるよね。


 優先させるべき疾患は、命に関わる病気と後遺症が残る病気です。


 腎盂腎炎であれば、閉塞性の場合は早めにドレナージしないと亡くなる可能性があります。

 PIDは治療しないと不妊につながります。

 ヘルペス脳炎や細菌性髄膜炎は高次脳機能障害や記憶障害、難聴、失語などの

 後遺症が残る病気なので、早めに診断治療することが大事です。


 こういった疾患は疑うことももちろんですが、overに治療して良い疾患です。


 治療するためには、まず閾値を低く疑うことが重要です。

 誰が見てもわかるような状態ではかなり進んでしまっているので、

 後遺症が残ってしまう可能性があります。


 国試の細菌性髄膜炎や脳炎は、

 頭痛も発熱も意識障害もありますが、臨床ではありません。

 


R「自分はまだ髄膜炎対応の実感がないです。


 救急の現場で意識障害と発熱の高齢者を見て、すぐに髄膜炎対応をしようとしていたら、

 上級医にそこまではしなくていい。

 と言われることがよくあります。」


T「確かにね、長年の臨床医の勘みたいなものもあるし、

 高齢者の場合、圧倒的に感染症になると意識障害を伴う人が多いから、

 他の代替診断があればしっかり細菌性髄膜炎対応はせず、

 なんちゃって髄膜炎対応をすることの方が多いかもしれないね。

 

 結果的にしなかったとしても、議論することが大事です。

 誰も口に出さず、流れていくよりは。」


Y「自分もまだ本物の髄膜炎や脳炎の人を見たことがなくて、

 髄膜炎対応をしたことがありません。

 

 どういう人ですべきが、よくわかっていません。」


T「そうだね、あえて言語化すると、

 (特に若年者の)急性の意識障害±発熱±頭痛で、

 他に代替診断がなければ、髄膜炎対応は閾値低くすべきです。


 髄膜炎対応で髄膜炎や脳炎を百発百中で当てる必要はありません。

 自分の感覚では、10回やって1回当たればいいんじゃないか、くらいの感覚でやっています。


 細菌性髄膜炎対応したが、結局腎盂腎炎だった。

 実は、敗血症性脳症だった。は大きな間違いではありませんが、


 ウイルス感染症だと思っていたら、細菌性髄膜炎だったは、大きな間違いです。


 そして、しなかった場合、どういう経過であれば髄膜炎として再度、対応し直すか?

 まで考えておく必要があります。」



N「ST先生は今回の細菌性髄膜炎対応のように、

 本来あるべき対応をしない場合は、

   どうしてしなかったか(根拠)と、

 どうやって崩すかを説明できないといけない。

 とよく言っています。」


T「そうだね。

 今回の症例のように髄膜炎対応する人としない人がいたけど、それでいいんだと思います。

 議論することが大事です。


 そして実臨床では、

 自分の頭の中で、する派としない派の小人を作って議論させるのが一番いいです。

 

 そのディベートをしておけば、髄膜炎対応をした場合もしなかった場合も、

 理由を説明することができます。


 ただ、髄膜炎対応は誰かが、「髄膜炎対応」と口にした時点で、

 髄膜炎対応しても良いと思います。


 結核も一緒です。


 なぜなら、確実に違うとは明言できないからです。」


N「理想の形は、研修医が声をあげて上級医が乗っかるくらいがいいと思います。」


E「そうですね。この症例は自分の学生時代の症例ですが、

 学生であっても、

 患者さんに一番いいことは何かを考えて行動していけばよかったと思いました。


まとめ

・発熱と意識障害の症例では、一度は髄膜炎対応するかどうかを議論する

→議論する相手は、誰でもいいし。

 自分の頭の中の小人でもいい


・優先すべきは早く治療しないと致死的な疾患や後遺症が残る疾患

→over treatmentは許容される

 閾値低めに疑って、治療すべし


・患者さんにとって最善を尽くすのは、上級医だけではない

→研修医であっても、学生さんであっても、

 正しいと思う事なら声を上げる



 

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