メトヘモグロビン血症のゲシュタルトは前回の症例のような感じのことが多いです
もしくは、手術前のSPO2が低下していることで偶然気が付かれることもあります
メトヘモグロビン血症の診断は遅れやすいと言われています
理由1:自覚症状が乏しくまれな疾患である
理由2:診断に至るまでに一手間(ガス分析)必要
理由3:医師が疑うことができていない
診断が遅れることで患者さんのQOLは著しく下がります
労作時の呼吸苦が出現することで、歩くことが少なくなり、フレイルが進行したり、
心臓に負担がかかり心不全が進む可能性があります
そのため、メトヘモグロビン血症を早期に診断することができれば、
患者さんにとって、多大なメリットがあります
メトヘモグロビン血症かもしれないと、気がつけば診断は超簡単です
ガスを取れば一発で診断できます
ややこしいシンチやカテーテル検査は無用です
そう考えると、
なんと診断しがいのある病気なのでしょう!
メトヘモグロビン血症を想起するシチュエーションがいくつかありますので、
そこをおさえておきましょう
疲れやすくなった、歩くと息切れがする、歳のせいかな?
的な訴えを毎回の外来でお話しされている方の場合、
メトヘモグロビン血症を疑い、薬の見直しから始めましょう
原因
今日的にはメトヘモグロビン血症のほとんどは後天性です
そして、後天性の多くは薬剤性です
メトヘモグロビン血症を起こす薬は限られています
スルホンアミド類(サラソスルファピリジンなど)や亜硝酸塩、ダプソン、バクタを内服されている方の場合、常にアンテナをはっておくことが重要です
特に長期間入っている薬でみられますので、医師も薬が原因だとは気が付きにくいのが現実だと思います
病態
メトヘモグロビンは酸素運搬能のないヘモグロビンの機能不全構造であり、
血液の酸素化を低下させ、組織の低酸素血症を誘発します
健常人では、血中メトヘモグロ ビン濃度は低く、通常血中総ヘモグロビンの 2%未満です
メトヘモグロビン濃度が上昇すると全身に酸素を運搬する機能的ヘモグロビンが減少します
メトヘ モグロビンは酸素解離曲線を左方移動させ、
正常ヘモグロビンの酸素解放を阻害するるため、「機能性貧血」を 誘発します
このため、メトヘモグロビ ン血症は、血液と組織双方の酸素化に影響を及ぼします
メトヘモグロビンは組織へ運搬する酸素量を減少させ、
組織においては正常ヘモグロビンの性質に作用して正常ヘモグロビンと酸素の 結合を強固にするため、組織へ供給される酸素が減少します
疑うきっかけ
狙って診断することができれば良いですが、偶然気がつくパターンもあります
それが、SpO2とSaO2(PaO2)の解離です
SaO2(動脈血酸素飽和度)とPaO2は血液ガス分析装置から計算された値で、
こちらが低ければ低酸素血症と呼ばれます
一方、SpO2はパルスオキシメーターを用いて間接的に測定された動脈血酸素飽和度です
そのため、低酸素血症でSpO2は低下しますが、
低酸素血症以外の状態でもSpO2は低下します
臨床でよくあるのは、プローべがズレていたり、
寒冷に伴う末梢循環不全でうまく脈波が取れていない場合でしょう
それ以外には若年者であれば、爪にマニュキュアを塗っていたり、
高齢者であれば、爪白癬がひどい場合は、うまくSpO2が測れないことがあります
メトヘモグロビンは酸化Hbとも還元Hbとも異なる吸光度を示すため、SpO2が低下します
理論的にはメトヘモグロビンの濃度が上がれば、SpO2は85%に近づくとされています
PaO2とSpO2にはある程度の相関があり、
60-90
55-88
50-80
といった具合ですが、この相関に当てはまらず、
SpO2とPaO2(もしくはSaO2)の間に解離がある場合は、
異常ヘモグロビン血症を疑うことができます
治療
疑った後は、血液ガスを取ることでメトヘモグロビン血症を診断することができます
診断の後は、症状と値によって治療方針が異なります
%と症状の相関表が教科書的に書いてあることが多いですが、
あまり当てにしない方が良いと思われます
背景の心疾患や貧血、呼吸器疾患によって、低い%でも症状が強く出る人がいますので、
低いから大丈夫とも言えません
このあたりはCO中毒と似ています
軽症や無症状であれば、被疑薬の中止や酸素投与で対応し、
重症であれば、メチレンブルーを投与し、メトヘモグロビンを還元して正常なヘモグロビンに戻す必要があります
まとめ
・メトヘモグロビン血症は原因不明の労作時の呼吸困難や息切れの人の中に紛れている可能性がある
→メトヘモグロビン血症を起こしやすい薬を飲んでいる人が「疲れやすい」「歩くと息切れする」といった訴えがあった場合、一度、ガス(Vでも可)で評価を
・メトヘモグロビン血症は診断しがいのある疾患
→精査のための無駄な医療費が必要なくなり、簡単に治療もできて、患者さんのQOLも上がる
・疑ったら血ガスですぐに診断できる
→いかに閾値を低く疑うことができるか、アンテナを常にはっておくことが大事
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