2021年3月14日日曜日

多剤耐性菌に出会ったら 〜保菌 or 感染症〜

ピロピロピロ♪

研修医「はい。」

細菌検査室「細菌検査室です、〇〇さんの痰からMRSAが検出されております。 
      あと、△△さんからの尿からESBL産生の大腸菌が検出されています。
       以上、報告いたします。よろしくお願いいたします。」


研修医「はあ〜〜〜、まじかーーー。
    二人ともCTRXでうまくいっているのになあ・・・
    VCM足すか・・・抗生剤変更するか、どうしよう・・・。」


こういうやりとりは、日常茶飯事です
多剤耐性菌に出会った時の対応を考えていきましょう
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多剤耐性菌が検出されたら

多剤耐性菌だとしても、感染症診療の原則に当てはめるだけです
微生物が、多剤耐性菌になっただけです



大事なポイントは
保菌状態を治療してはいけません
治療対象とするかは、患者背景と臓器診断に基づき、
感染症かどうかを見極める必要があります


そのためには、
臓器と微生物の関係を理解しておく必要があります

皮膚や鼻腔であれば、MRSAが定着しています
痰からMRSAが検出されたとしても、すぐに治療するかどうかは、立ち止まって考える必要があります
MRSAが肺炎を起こすことは稀だからです
一方、皮下膿瘍を切開して膿からMRSAが検出された場合は、間違いなく原因微生物でしょう


尿からESBL産生大腸菌が検出されたとしても、無症候性細菌尿のこともあります
他に熱源があれば、こちらを治療対象とはしません
ただし、腎盂腎炎の徴候がある場合は、治療対象になります


このように患者さんの背景(免疫状態・全身状態)と感染臓器を考えて、
ケースバイケースで治療するかを見極めます






シンプルなケースなら簡単ですが、こじれてくると保菌か感染か判断が難しいことが多いです
その場合に頼りになるのは、患者さんの全身状態です


例えば・・・
85歳 男性 膵臓癌に対してPD術後の方

吻合部が離開し、腹腔内膿瘍を合併
創部に皮膚膿瘍も合併
皮下膿瘍は切開ドレナージし、膿瘍からMRSAが検出
バンコマイシン投与中
血液培養は陰性

腹腔内膿瘍に対してメロペネムを使用し治療していたが、膿瘍は拡大
膿瘍に対してドレーンを留置
毎日洗浄して対応
最初のドレーンの腹水からは、ESBL産生の大腸菌が検出
そのままメロペネム継続

1週間後、患者さんの状態に大きな変化はなかったが、
ドレーンを入れ替えた際にとった腹水から、CRE(カルバペネム耐性菌)が検出
CREをカバーすべきかどうか・・・


悩みますね〜


そんな時、えいや!と判断する根拠は患者さんの全身状態で決めることがほとんどです


バイタルやデータが悪かったり、画像評価で膿瘍が縮小していない場合は、
治療せざるを得ないと思います

一方、全身状態が上向きでバイタルもデータも何も困っていない時は、
治療は見送る可能性もあります



ですが、その時点での決断が正解かどうかは分かりません
自信満々で絶対大丈夫!なんてことは言えませんので、
謙虚にフォローすることが重要です


大事なのは、最初の判断を間違えないことではなく、
判断を間違えた時に速やかに間違いに気がつき、軌道修正できるかどうかです



自分のプラクティスが正しかったかどうかは、「時間」が教えてくれます
治療対象としなかったが、どんどん患者さんはよくなっていったのであれば、
それは保菌だったのでしょう

適切な経過観察も感染症診療の大事な原則の一つです


ということで、多剤耐性菌に出会ったからといっても心配いりません
原則に沿って考えれば大丈夫です


多剤耐性菌診療のポイント


多剤耐性菌に出会った時に考えるのは、
①治療対象とすべきかどうか
②感染対策をどうするか

です

保菌者の場合、(特殊な例をのぞき)治療対象にはなりませんが、
医療感染対策上は重要です


院内での感染対策は比較的受け入れられやすいですが、
その患者さんが、在宅や施設に帰った時、どのような感染対策が落とし所かを悩むことがしばしばあります


例外はもちろんありますが、
・家族には無理な感染対策を要求することはしないが、標準予防策はお伝えする

・MRSAやESBLの場合は、市中でも増加傾向であり、
 在宅や施設では接触感染対策まではしない
 その代わり標準予防策を徹底してもらう(施設職員や訪問看護など)

・MRSAやESBLの場合、施設では隔離まではしない(人権問題にもなる)

・VREやCREの場合は、一段階あげて感染対策する
 訪問看護は標準予防策ではなく、接触感染対策を行う
 施設では隔離などの感染対策をしないと、容易に広がるので個別に相談


以上、AMRの専門家の先生にご教授いただきました





薬剤耐性(AMR)対策はCOVIDに隠れていますが、非常に重要な問題です
COVIDの副産物は色々ありましたが、感染対策について考える良いきっかけになったと思います

このまま感染対策を風化させず、AMR対策に繋げられるといいですね


まとめ
・多剤耐性菌に出会ったら、すぐに治療というわけではない
→立ち止まって考える必要がある

・保菌か感染症かを見極めるのが重要だが、難しい時もある
→感染臓器、患者背景を元に治療対象とするかを決断し、
 適切な経過観察により、その判断が正しかったかを見直す必要がある

・多剤耐性菌の保菌者は治療対象ではないが、医療感染対策上は重要である
→院内であれば簡単だが、退院する時にはケースバイケースで考える必要がある


参考文献:レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版
     国立国際医療研究センター病院
     AMR臨床リファレンスセンター 具先生レクチャー

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