2021年4月2日金曜日

おすすめClinical Problem-Solving 〜A Treacherous Course〜

自分の臨床力に疑問を持ったら、NEJMのCPSを読むようにしています

コメンテーターと自分の思考を比べて、自分の臨床推論の思考過程を見直します


先月の症例はめちゃくちゃ勉強になりました

オススメ度:☆☆☆☆☆(5/5)


10年医者をすると、1人出会う疾患です

経過を知っておかないと、ビビります

信じてやりぬく危険な経過を辿る病気です



 

N Engl J Med 2021;384:860-5.


33歳男性 主訴:発熱、嘔吐、腹痛、喀血

(COVID19が流行する前の症例)


Profile:スペイン語を話す移民


現病歴:来院の2日前から腹部全体の痛み、吐き気、嘔吐あり

    その後、発熱や倦怠感、寒気をきたした

    入院日、喀血がみられ、コーヒー様の吐物を嘔吐し、下血があった

ROS:呼吸苦あり


既往:特記事項なし

生活・社会歴:多くを語らず不明

喫煙:あり 多飲酒歴:あり


バイタル:T 38.7、BP 124/85、P116、RR16 、SPO2 95%(室内気)

頭頸部 口腔内や鼻腔 出血原なし

呼吸音 清

腹部 上腹部に圧痛あり 肝脾腫なし

皮膚 正常


CT multifocalに斑状陰影あり


救急医は上部消化管出血を疑い、PPIと輸液を行い、

肺炎を疑い、PIPC/TAZ、VCMの投与を開始した

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(自分の思考)

アルコールを多飲している33歳男性の倦怠感、発熱、嘔吐、腹痛、喀血


って主訴多いなあ・・・

吐血と下血があるから消化管出血はありそうだけど、

喀血もあるって、どういうこと??


食道や気管より上の咽頭・喉頭から出血して、それが両方に垂れ込んだ?

もしくは、大動脈瘤や血管奇形があって気管や食道に穿通した?

なんだかピンとこない・・・

高齢者なら腫瘍とか考えたくなるけど、若年者だからなあ・・・


例えば、osler病のように毛細血管拡張をきたしていれば、このような経過もありか

あとは、血友病のような出血素因があれば、あっても良いか・・・


もしくは、両方から出血というわけではなく、

消化管出血で血液を吸い込んで、喀血っぽくなっているか、

喀血を飲み込んで消化管出血っぽくなっているのであろうか


消化管出血だとすると、アルコール多飲なので、肝硬変からの静脈瘤破裂は心配

喀血だとすると、肺胞出血や心不全が心配




CTでは両側肺野に斑状陰影がみられる

COVID時代であれば、COVIDはチェックするであろう

普通の細菌性肺炎像ではなさそうではあるが、異形肺炎は鑑別

何かを吸い込んだように見えるが、

急性好酸球性肺炎やPCP、ウイルス性肺炎、肺胞出血は鑑別


画像だけでは鑑別は多岐にわたるので、原因検索のためには気管支鏡検査が必要

造影CTにて肺塞栓や異常血管の有無、消化管出血の原因検索を行いたい

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血液検査

軽度の低Na(131)、低k(3)、BUN16、Cr1.2

AST 107,ALT 67,ALP 115

Tbil 2.0,WBC 8000, Hb 11.8,plt 95000,INR 1.1

尿検査 血尿なし、円柱なし

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血液検査はびみょう〜

決め手にかける非特異的な異常ばかり

BUNがあんまり上がっていないので、消化管出血はそれほどでもないのか


Crが上がっているが、もともとなのか不明

肝酵素上昇は飲酒の影響もあるが、今回のイベントでも良いであろう

血小板低下があり、アルコール多飲からの肝硬変の影響か?


これだけでは鑑別は何も変わらない

もともと肝硬変になるような他の原因がないかはチェックする

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気管支鏡検査


血性分泌物あり、肺胞出血に矛盾せず


ドキシサイクリン追加

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消化管内視鏡検査ではなく、気管支鏡検査が実施され、

肺胞出血が確定した


肺胞出血の原因は様々


感染でも自己免疫疾患(グッドパスチャー、AAV、SLEなど)でも

心不全でもあり得る


今回はドキシサイクリンが追加となっているので、

レジオネラやレプトスピラ、リケッチアを念頭に治療されたようだ


BALで検体が取れたので、原因微生物の検索を行いたい

レジオネラを疑い尿中抗原をだし、PCR提出する

CMVやHSVも鑑別ではあるが、免疫正常と考えれば可能性は低い

HIVはチェックしておきたい

HIV陽性だと話がガラッと変わる

PCPもあり得る状況になる


HIV陰性であれば、血管炎としてステロイドパルスや血漿交換を検討することになるであろう

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レジオネラ尿中抗原 陰性

肺炎球菌 抗原陰性

HIV  陰性

インフルエンザやパラインフルエンザ、RS、ヒトメタニューモ、アデノウイルスのPCRは全て陰性

血清PCR バベシア、エーリキア、アナプラズマは陰性

血液培養 陰性  BAL検体 細菌培養陰性


その後、患者は急変

ショックになり、酸素化低下し、

肝障害(AS T ,ALT 4桁、Tbil 12)、腎障害(無尿)になった

Hbは横ばい、INRも横ばい

UCG  心収縮 良好

腹部US  肝臓や腎臓は問題なし


挿管し昇圧剤開始となり、腎代替療法が行われた

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えーーー急変!!

ブロンコのせい?


経過はよくわからないけど、急変してショックになってしまった

肝障害はショックリバーのせい?


ショックの原因探さないといけない

敗血症:ありうるが、ゾシン、バンコ、ドキシで治療されている

    しかも血液培養陰性

    あるとすれば、TSSか

    ドレナージしなければいけない病巣がどこかにあるのかも


心原性:超音波からは否定されている


閉塞性:詳細な記載はないが、Dshapeをきたすようなmassive PE示唆する所見なし


出血:Hb低下なく、大量出血したという記載もない


アナフィラキシー:経過からはありうるかもしれないが、

      流石にすぐ対応すればここまでならないであろう


ホルモン:褐色細胞腫のクリーゼのど重症の場合は心臓動かなくなるので、違いそう

     甲状腺クリーゼは鑑別だが、経過が急すぎるか、一応チェック


免疫:capiary leakみたいな病態であれば、ありうるか

   AAVやグッドパスチャーの血管炎でもショックにはならないであろう

   PNの動脈瘤破裂とからならありうるので、造影CTで出血ないかはチェック必要だが、

   流石にショックまできたしているので、USでわかるであろう


経過が急すぎる・・・

なんだこれは・・・???


肺胞出血、消化管出血、腹痛、発熱、血小板低下、突然の急変、重度の肝障害、腎障害・・・



!?


そういえば、以前に同じような症例に出会ったことがあった


この経過は、

レプトスピラのJarisch–Herxheimer 反応だ!


だけど、血管炎側として治療もしないといけない

ステロイド入れて、血漿交換はするだろう

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その後、ステロイドが入り血漿交換が実施された

提出していた自己抗体は全て陰性

腎生検 血管炎やSLE示唆する所見なし ICなし


血管炎やSLE病態が否定され、免疫抑制や血漿交換は中止となった

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自己免疫側は除外されたため、感染症が残る鑑別の上位に上がった

感染症であれば、曝露歴が非常に重要になる


本文の記載には、できるだけ早く最近の旅行歴や暴露歴を聴取せよと


A detailed history of recent travel and possible exposures is 

critical and should be obtained as soon as possible.


そういえば・・・


生活・社会歴:多くを語らず不明


だったなあ・・・


改めて家族から病歴を聴取すると・・・


数週間前にアメリカに到着する前のことである

リオグランデ川を泳いで渡り、荒野をハイキングして入国していた

入院の4日前にマサチューセッツ州に到着した・・・



これで確定ですね

これは、レプトスピラです

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血漿交換前に採取した検体のレプトスピラに対するIgM抗体の定性検査の結果は不明確であったが、1週間後に採取した検体で行った再検査の結果は陽性であった


解説

重症のレプトスピラ症にはペニシリンを7日間投与し、

軽度から中等度の疾患にはドキシサイクリンを投与する治療法が選択されます


この患者が受けた治療は、

ピペラシリン・タゾバクタムとドキシサイクリンであり、7日以上投与された

それぞれがレプトスピラ種に対して活性を持つことが予想されるため、

重症のレプトスピラ症は十分に治療されたと考えられる


レプトスピラ症は、長期にわたる二相性の経過をたどることがあるが、

第二の免疫介在性相は、

通常、レプトスピラのクリアランス後に起こるので、

抗生物質治療の長期化は望ましくない


抗生物質の投与開始時に細菌の抗原が放出されることで急性の免疫反応が起こる

Jarisch-Herxheimer反応は、20~40%の患者に発症する


抗生物質の投与開始から数時間後にショックと呼吸不全を起こしたこの患者の急激な臨床悪化の原因となったと考えられる

レプトスピラ症の病態には、抗体や免疫複合体が重要な役割を果たしているため、

グルココルチコイドなどの免疫抑制療法が提案されているが、

グルココルチコイドと血漿交換の有効性を示す証拠は限られている


汚染された水や土壌への曝露を避け、

都市部でのげっ歯類の駆除などによりリスクを軽減することが、

ヒトにおけるレプトスピラ症の予防の鍵となります


この患者さんは、米国とメキシコの国境にある荒野で危険な旅をし、

その間にレプトスピラにさらされたと思われます


生命を脅かす非特異的な症状と診断の遅れという危険な臨床経過をたどりました

この症例の診断のためには、渡航歴や曝露歴を含む詳細な病歴が重要でした

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いかがでしたか


興味深いですねえ〜


最後に病歴が大事っていうのが、いいですね〜


でもレプトスピラって、抗体はすぐに結果でないですし、

今回の症例でもそうでしたが、尿中のPCRが陰性のこともあります


診断したくてもすぐにはできない病気であり、

レプトスピラであることを信じ続けながら、他のケアもしていくという難しい治療が迫られます


レプトスピラの難しいところ3つ

1、診断が難しい:症状が非特異的、抗体やPCR提出にハードルがある

2、治療が難しい:抗生剤投与後の二相性の反応の時に、急変しわけが分からなくなる

3、鑑別が広い:血管炎やIVLといった病態も鑑別になるので、除外が大変


内科をしていると10年に一度くらい出会う疾患だと思っています

原因不明の黄疸と抗生剤治療後に急激に悪化していく時に疑います


参考:レプトスピラ


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