2021年6月17日木曜日

昼カンファレンス 〜名言が渋滞中〜

今回の症例は救急外来での動き方がディスカッションポイントでした

終盤で怒涛の名言ラッシュがありました


 

83歳 女性 主訴:意識障害
(※症例は一部修正や加筆を加えてあります)

昼に救急車で来院された症例です

救急隊より
83歳 女性の方

嘔吐と意識障害の主訴で救急搬送お願いします

バイタルはBP156/84, P 120, SpO2 95%, T 38.8 JCS 1, RR 20で

昼ごはんは食べられたようですが、
昼過ぎからぼんやりしていて、嘔吐が2回ありました
訪問診療してくれた先生に相談があり、救急搬送となりました

10分後に到着予定です
家族が一緒に行きます
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救急隊からの連絡を受けて何を考えますか?
何を準備しますか?


まず、救急隊に絶対に聞いて欲しいことは、
当院受診歴があるか?かかりつけはどこか?です


当院受診歴があれば、来院までにカルテをチェックして、
どんな既往や薬を飲んでいるか、画像や検査データをチェックすることができます



当院かかりつけでない場合は、
かかりつけのDrに電話をして情報を得ることも時には必要です

特に心筋梗塞を疑う場合は、
過去の心電図を手に入れることが救急隊が来るまでのミッションになります


この方は1年前に脳出血で当院で治療歴があるみたいですね
水頭症になり、ドレナージが行われ、
そこからMRSEの髄膜炎になった既往があるようです

その後は近医の訪問診療を受けているという背景です



さて、意識障害があるようですが、どんなステップで考えますか?



意識障害の教科書的な記載としては、

①Do don't
②AIUEOTIPS

が書いてあることが多いのではないでしょうか


AIUEOTIPSは意識障害の最初の型としては重要な語呂合わせです
AIUEOTIPSを覚えた人は、次なるステップに進みましょう


「意識障害」と一言で言っても、
暴れていて混乱状態にある人も意識障害(意識変容ともいいます)です

逆にちーんと静かで傾眠の人も意識障害です


なので、意識障害の人をみたら、
暴れているのか、ちーんと静かな状況なのか分けてみましょう


暴れている系の場合は、足りない系のことが多いです
つまり血圧や血糖、酸素、薬やアルコール(離脱)が足りていないかもしれません


急に生きていくための何かが足りなくなった場合、落ち着いていられません
カテコラミンが出て、混乱・興奮状態になります


交通事故で大量出血している人を見たことがある人はわかると思いますが、
どんどん不穏になって暴れていきます
本当に怖いです


ある時、若い女性が統合失調症様の幻覚が見えて、
失禁して混乱状態で救急搬送されました

診断はCO中毒でした
酸素が低くて、頭がパニック状態になっていたのですね



ちーんと静かな人の場合は、何かが溜まっている可能性があります

臓器不全に陥ると、何かが溜まります
溜まったものによってnatural sedationがかかり、穏やかに亡くなっていきます

人間の体はよくできていますね

薬(麻薬、BZ)やアルコールが溜まってもちーんとなります


そのため、意識障害の人を見たら、
まずはトキシドロームの観点で診察を始めることをお勧めします


ポイントは瞳孔と脈と末梢の発汗です


瞳孔はルーチンでみていると思いますが、
瞳孔所見に救われたことがある経験ありますか?


自分が瞳孔所見に救われたことは、
pinpoint pupilだった時が多いです

pinpoint pupilがきっかけでコリナージッククライシス、麻薬中毒、CO2ナルコーシスを診断できたことがあります


意識障害の人はうまく病歴を話せないことが多いので、
口ではなく目に語ってもらいましょう




あくまで上記は傾向であり、逆のことももちろんありますので、過信は禁物です
どちらとも言えなければ、網羅的にAIUEOTIPSで考えてみてください



では意識障害の人の次のステップにいきます


③〇〇対応、〇〇チャレンジです

髄膜炎対応、tPA対応、セルシンチャレンジテストのどこに進むか検討します

片側の麻痺や脳神経の異常があれば、脳梗塞の可能性があり、
時間が許せばtPA対応が必要になります



意識障害の時に原因不明で落ち込んでいく先は、
NCS(非痙攣性てんかん)と敗血症性脳症のことが多いです

NCSは脳波でもとらえるのが難しく、
脳波のアクセスが悪ければ治療を優先しても良いと思います



今回の症例は発熱があり、髄膜炎対応をするかどうかが議論になります


では、髄膜炎対応ってなんでしょうか?



髄膜炎対応のポイントはできるだけ早く抗生剤を投与することです


抗生剤の選択に関してはNarrow is beautifulとよく言われますが、
敗血症診療において抗生剤投与は、The sooner, the betterです


重要度としては、The sooner, the better>>>Narrow is beautifulです



熱があってレベルが悪くて、バイタルも頻脈で呼吸数も早いので、
qSOFAで敗血症が強く疑われますが、
focusがわからないので、抗生剤投与を何にすれば良いか迷っています・・・

→なんでもいいので早く広域の抗生剤を投与してください 笑



でも、グラム染色まだなんです

→血液培養とれていればOKです
 忙しければ、検体のグラム染色は抗生剤投与後でいいです

 早急にグラム染色ができるのであれば、
 グラム染色の結果をみて抗生剤を選択できればベストです


忘れないで欲しいことは、

 診断がつかないと抗生剤を投与してはいけないわけではありません
 グラム染色しないと抗生剤投与してはいけないこともありません
 敗血症、特に髄膜炎においては、The sooner, the betterなのです



そういう意味では髄膜炎対応は最速です
いち早く抗生剤投与をすることができるのが最大のメリットです



ということで、迷ったら髄膜炎対応して良いと考えています
大は小を兼ねます


注意点としては、上記の髄膜炎対応でカバーできていない菌がいることは、
忘れないでください

ESBLや緑膿菌が疑われる場合は、CTRXをMEPNにしましょう
レジオネラやマイコを疑うのであれば、ジスロマックを使いましょう
リケッチアを疑うならMINOを使いましょう
脳炎を疑うなら、ステロイド投与するかは慎重に検討しましょう
脳炎疑いならアシクロビルは投与しましょう


というように、髄膜炎対応にはルーチンの抗生剤に加えて、
臨床状況に応じて足し算が加わります



皆様ならこの症例、髄膜炎対応しますか?





身体所見では傾眠傾向ですが、指示は入るようです

明かな麻痺はありません

会話もできます

頭痛はなくて、項部硬直もありません


診察上は明かな熱源もないようです


さあ、どうしましょうか?髄膜炎対応しますか?



自分ならしません

「発熱と意識障害」の段階で、髄膜炎対応するかどうかのスイッチが頭に浮かびます

ですが、そのスイッチを押すためのもう一歩がこの症例ではありません


ここは言語化が難しいところですが、

例えば、

・頭痛がある

・意識障害の程度が強い

・項部硬直がある

・免疫抑制状態である

・バイタルが悪い など


もう一押しがない気がします


実際はどうでしたか?

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発表者「はい、実際は髄膜炎対応をしました。

   自分としては既往に髄膜炎があったので、それを重視しました。


   自分が髄膜炎対応をしたのは・・・


  髄膜炎対応をするかどうかディスカッションするな。

  ディスカッションするべきところは、

  髄膜炎対応をした後の抗生剤をどう引くかだ!


   というM先生の言葉を思い出しました。」



T「髄膜炎対応の足し算と引き算ですね」



M「ちなみにここでどういう引き算のプランを考えていたの?


  自分がもしこの症例で髄膜炎対応をするとしたら、

  デカドロンもCTRXもVCMもビクシリンは入れますね。


  だけど、髄液検査で細胞数が上がっていなければ、抗生剤は中止します。

  他の熱源をみてCTRXだけは残すかもしれません。それ以外は全て中止します。


  おそらく、この症例は熱源が他にあって、

  熱せん妄で意識障害になっている可能性が高いと思います。

  なので、髄液の培養は待たずにビクシリンやVCMは中止します。」


発表者「僕も同じプランでした。

    おそらく、CTや血液検査、尿検査で他の熱源がわかるんじゃないかなと思っていて、

    他の熱源がわかればそれに応じた抗生剤にしようと考えていました。」



M「なるほど、気が合うね。笑」


発表者「あとこの時、N先生の言葉を思い出しました。


   髄膜炎対応っていうのは、下が声をあげて上が乗っかるもんだ!


   っていう言葉が頭にあったので、髄膜炎対応として進めていきました。」



T「なるほど〜、髄膜炎対応するかどうかは上が決めるもんじゃないんだね。


  上になると、なるべく楽な方、楽な方になりがちだから、

  研修医の先生から積極的に声を出してもらった方がいいですね。


  でも最初の抗生剤でビクシリンまで入れるか迷いますね」


発表者「その時、上級医の先生もCTRXとVCMでいいんじゃない?

    と言っていました。


    髄膜炎対応するにしても、ビクシリンまではいらないんじゃない?

    と言われました。

   

    その時には、T吾先生の言葉を思い出しました。」



T「回想シーン多くない? 笑」


発表者「決まったお作法を崩す時には崩すだけの理由がいる。

   その崩し方にもお作法がいる。

   それを理解していないものにお作法を崩す権利はない。


    という言葉を思い出して、今回はお作法通りに投与しました。」



M「すごいね、名言が渋滞してるよ 笑」


M「この症例も髄膜炎だーと進んだわけではなくて、

  他の熱源だと思って進んで行ったんですよね。


  髄液検査陰性で髄膜炎対応を止めるつもりで進んでいったと思います。

  それはすごく安全で、とてもいいことです。」



T「その通りです。


  ですが逆はよくない。

  

  誤嚥性肺炎だと思っていたら、実は髄膜炎でした。だけは避けたい。


  髄膜炎対応は100発100中で当てるものではなくて、

  10回中1回当たればいいかな?くらいでやるものです。

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経過


CTにて胆嚢腫大があって、血液検査で肝胆道系酵素が上昇していました

胆管炎と胆嚢炎の診断で、ERCPが行われました


診断:意識障害と高熱のプレゼンテーションできた胆石性胆管炎に伴う敗血症


名言まとめ

・髄膜炎対応をするかどうかディスカッションするな。

 ディスカッションするべきところは、

 髄膜炎対応をした後の抗生剤をどう引くかだ!  by M 


・髄膜炎対応っていうのは、下が声をあげて上が乗っかるもんだ!  by N


・決まったお作法を崩す時には崩すだけの理由がいる。

 その崩し方にもお作法がいる。

 それを理解していないものにお作法を崩す権利はない。  by T go  

  

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