2021年7月15日木曜日

爪楊枝 vs 魚の骨

80歳代 女性 主訴:腹痛(※症例は一部修正加筆を加えてあります)


Profile:認知機能は年相応で、ADLは自立しています
内服は便秘薬と降圧薬のみです
手術歴はありません
お酒は飲みません


現病歴:腹痛は1日前から徐々に出現しました
腹痛の部位はお腹全体とのことです
嘔吐はありませんが、食欲低下はあります
下痢はありません
食事が取れなくなってしまったので、来院されました


身体所見:38度の発熱を認めますが、他のバイタルは問題ありません
見た目はお元気そうです
腹部は平坦軟で、圧痛は心窩部から臍周囲に軽度あります
筋性防御はありません

血液検査ではWBCが軽度上昇しており、
肝胆道系酵素やAMYは正常です
尿検査では膿尿・細菌尿を認めています

超音波検査では腸閉塞や胆嚢炎はありませんでした


一体なんでしょう・・・
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発熱、膿尿、細菌尿があるので、尿路感染症でしょうか
腎盂腎炎も吐き気や腹痛を訴える人はいます

超音波では原因ははっきりしないので、CTを撮りました


診断は???


胃の幽門部にキラーんと光る細いトゲが突き刺さっています
そして、胃壁の肥厚を認めます


なんだこれ???

爪楊枝? 魚骨? 他の尖ったもの?



果たして、何を間違って食べたのでしょうか・・・

病歴の時点で異物を誤飲したエピソードは全くありませんでした

異食をするような人ではありません
認知症もありません



爪楊枝を飲み込んだら普通わかるでしょ?


と思いたくなりますが、

他の症例報告を調べてみると、
びっくりするほど、自覚がないようです


衝撃です・・・・



改めて聞くと、2日前に鯉を食べたとのことでした


鯉は皆さん食べたことはありますか?


長野県の佐久地方で有名な郷土料理です
とっても美味しいので、一度食べてみてください


食べたことがある人はわかると思いますが、
骨だらけです 笑


ということで、今回は(おそらく)鯉の骨が胃に突き刺さっていたと思われます

その後、自然に胃から抜けてしまって、保存的に加療した症例です


ポイント

・異物誤飲による消化管損傷の人は病歴ではわからない


・原因不明の穿孔・穿通・消化管の炎症を見たら、異物(爪楊枝・魚骨)を疑う


・異物による消化管穿通や穿孔は、内視鏡で摘出し保存的加療で治る症例もある

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お腹の中でキラーんと光る細いトゲを見たら

      

魚骨誤飲


異物を誤飲しても消化管穿孔・穿通にいたることは稀です
1%前後と言われます

普通は間違って飲み込んでも特に問題になることはありません


ですが、太めの魚の骨や爪楊枝は消化管を損傷する可能性があります

異物の中で一番多いのは、日本なら魚骨です
消化管穿通や穿孔の半分は魚骨が原因とされています


アメリカでは鳥の骨が多いです(ケンタッキーの影響でしょうか・・・)


魚骨の場合は、鯛、鰈、鰤、鯉が多いです


魚骨も爪楊枝と同様に、飲み込んだ自覚がない人がほとんどです

そのため、病歴で誤飲のエピソードがなく、
急に腹痛を主訴に来院されます

そして、いきなり穿通や穿孔、腹腔内膿瘍で見つかります


急性の経過と慢性の経過でくる人がいます


消化管を突き抜けて、腹腔内に膿瘍を作ったり、
大血管を損傷したりすることもあります


      

爪楊枝の誤飲

爪楊枝も大体同じプレゼンテーションです

爪楊枝と魚骨の違いは、CTでの見え方が異なります

魚骨は高吸収になることが多いですが、
爪楊枝の場合、低吸収から高吸収まで様々です


爪楊枝は水分を吸収すると、高吸収になる傾向がありますが、
消化酵素などの影響で、高吸収にならず、
どんなに目を凝らしても爪楊枝がわからないことがあります


原因不明の消化管穿孔で手術が行われて、
はじめて爪楊枝が原因とわかる症例もあります


そのため、原因がわからない消化管の炎症や穿孔は、
異物誤飲による消化管損傷の可能性があります

axialだけでなく、矢状断や冠状断でも探しましょう
可能であれば、MPR像を作成して異物がないかを探してください



治療

魚骨や爪楊枝による消化管損傷の場合、
内視鏡による摘出で保存的に加療できる例が多いです


ただ、当たり前ですが、

病変(周辺臓器との関係、腹膜炎、膿瘍)と全身状態で

ケースバイケースに考える必要があります




まとめ

・異物誤飲による消化管損傷の人は病歴ではわからない

→CTで初めて判明することが多い


・原因不明の穿孔・穿通・消化管の炎症を見たら、異物(爪楊枝・魚骨)を疑う

→いろんな断面のCTを見直す


・異物による消化管穿通や穿孔は、内視鏡で摘出し保存的加療で治る症例もある

→ケースバイケースで判断する


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