2021年10月12日火曜日

臨床での一コマ 〜君が押すのはそれじゃない〜

 症例 80歳 男性 主訴:嘔吐

(※症例は一部加筆修正を加えてあります)


Profile:脳梗塞でバイアスピリン内服中 ADLフル

現病歴:来院当日の昼食後から嘔吐が出現

    何度か嘔吐があった後に発熱もあり、救急受診

    下痢はみられず、腹痛もなし

内服:バイアスピリン、ブロプレス、リピトール、ネキシウム


来院時、酸素化低下あり。2Lで開始

呼吸音 背側でcrackleあり

CVA巧打痛なし 前立腺に圧痛や熱感なし

四肢の動きは良好


CXR、CTにて背側に肺炎像あり

消化管には特記異常なし、膵腫大や胆嚢腫大なし

頭部には出血や血腫なし


血液検査にてWBC上昇あり

尿検査にて膿尿、細菌尿あり


〜救急でのアセスメント〜

嘔吐後に肺炎像があり、誤嚥性肺炎が疑われる

しかし嘔吐の原因は不明

膿尿や細菌尿があったことから尿路感染症か?

CTRXで治療開始


その後、入院担当医に引き継ぎ

入院後は嘔吐はみられず、食事摂取良好

神経学的にも新規の異常所見はみられず

血液培養は生えてこず

入院担当DrがPSAを追加で検査提出


〜夕方のカンファにて〜

T「今日、入院になった患者さんの嘔吐の原因って何かな?」

S「いやあ、それが入院後は嘔吐がないので、今のところ尿路感染症かと思っています」


T「そうなんだね。確かにCT見ても嘔吐の原因になりそうなところないしね。

 血液検査も問題ないし、あとは延髄や小脳の脳梗塞かなあ・・・

 まあ、治っているし、神経症状ないなら焦ってMRI撮らなくてもいいかな。

 

 ・・・というか、PSAナンデダシタノ?(別にオコッテナイヨ)」


S「前立腺炎を疑ったので出しました!(どや)」


T「ふーん。。。でも前立腺痛いの?」


S「圧痛はありません!」


T「ふーん。。。自分で押したの?」


S「押してません!

 昨日のカルテにそう書いてありました!」


T「(かちん)

  自分でとっていない身体所見を信じちゃいけないよ。

  一手間かけるのが診断への唯一の近道です。

 

  前立腺炎を疑うのであれば、前立腺は自分で押しましょう。


  君が押すのは、電子カルテのPSAのタグじゃない。

  前立腺だ!(怒)」


S「すいません!」


T「・・・じゃあ、また明日、前立腺は自分で押しておいてね。

  ちなみに尿のグラム染色は何がいたの?」


S「見てません!」


T「コラー(笑・怒)」



今日のまとめ

・PSAの項目を押す前に前立腺をおせ

・人のとった身体所見をもとに診断しようとしない

・怒る時は怒った方がいい時もある



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