2022年1月9日日曜日

この皮疹は興味深い 〜mottling VS rivedo〜

 70歳 男性 主訴:体動困難(※症例は加筆修正を加えてあります)


Profile:脳梗塞後遺症で左不全麻痺あるが、独居で生活

現病歴:最近、体調が悪く、食事摂取不良だった

    数日前からほとんど動けなくなっていた

    来院当日、ケアマネさんが見にいくと、

    ストーブが倒れており、足に火傷をしていた

    体動困難であり、救急車要請

既往:高血圧、脳梗塞

内服:アムロジピン、バイアスピリン、スタチン


バイタル:BP70/50, P 70, SPO2 100%, T 26度, RR 16

見た目 顔色悪い 会話はできるが、意思疎通とるのが難しい

末梢は冷たい

口腔内 う歯が目立つ

呼吸音 清、心雑音なし

腹部 全体的に張っている 全体的に圧痛あり 筋性防御なし

tapping painなし、全体的に鼓音、腸蠕動音 減弱

背部 腰椎全体に自発痛あり

CVA巧打痛なし

関節 腫脹なし

皮膚 紅斑はみられず 

両側大腿部に手のひらサイズの皮むけあり 痛みは感じる 

周囲に水疱形成あり

膝を中心に大腿部の1/2まで網目状の紅斑がある


血液検査では炎症反応高値あり AKIあり 

血ガス 乳酸上昇あり、CO上昇なし

CTでは感染源は不明

尿 膿尿なし 細菌尿なし


UCG  EF良好 心嚢水少量 sever な弁膜症なし

明らかな疣贅なし


考察

低体温で炎症反応も高く、敗血症性ショックであろう

focusは皮膚軟部組織感染からの菌血症か

しかし、火傷からの蜂窩織炎?にしては経過が早すぎる気もする

TSSでもいいようなバイタルだが、充血や下痢、皮膚の紅斑もないため、可能性は低いか


血液培養をとって広域抗生剤を開始する

低体温は型のごとく、復温開始

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ディスカッション:この皮疹をなんと表現しますか?


T「この皮疹は興味深いね〜。なんだと思う?」


N「網目状になっていて、まだらな紅斑ですね・・・

  リベドですか?

  でもリベドにしては赤いですし、網の一つ一つの輪が大きい印象ですね。」


T「その通りだね。」


A「mottlingだとすると、mottling  score的には3くらいですか?」


T「そうだね。mottling skinとも表現できるね。

 じゃあ、この皮疹はrivedo ?それともmottling skin?」


N「うーん、わかりません。」


T「じゃあ、その辺を解説しよう」

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mottling skin


循環動態の評価の際には、血圧や乳酸だけでなく、

皮膚所見が重要になります


循環障害の際には、重要臓器に血流が集中し、

皮膚や腸管、腎臓への血流は低下します


そのため、皮膚をみることで全身の循環障害を早期に捉えることが可能になります


取りに行く所見は、CRTやmottled skin(mottling skin)といわれるまだらの斑状の皮疹です

mottled skinは膝を中心に見られることが多く、膝をよく見ます


まずは視診で膝を見て、mottling scoreを確認します




膝の上から始まり大腿部に広がっていきます

scoreが上がるほど重症で、予後や乳酸値、腎血流と相関します




このmottled skin(まだらな皮疹)は、斑状皮疹や網状皮斑といわれます

網状皮斑と聞くと、rivedo でが有名ですね


ほぼ同義としてmottled skinとリベドは扱われていることが多いです


rivedoについて


rivedoはreticularis、racemosa、cutis marmorataに分かれますが、

このrivedoという用語はとても混乱が起きています


網目状の皮膚を見たら、多くの臨床家は「rivedoがある」と言いますが、

そもそもrivedoには網目という意味はありません


rivedoは、ラテン語のlividus(淡い青色)に由来します

reticularisは、ラテン語のreticulum(網)に由来します

racemosaは、ラテン語のracemus(枝)に由来します

 


ではmottled skinはrivedoなのでしょうか?


文献的にrivedoとmottlingの関係性について書かれたものはほとんどなく、

どのような関係性かは定まっていません


あくまで個人的な解釈ですが、

mottling skinは敗血症や循環障害の際に出現したrivedoということができるかと思います

mottling skinはrivedo racemosaとして出現することが多いとされています


rivedo は主に皮膚科や膠原病領域で研究が進んでおり、

mottling skinは主にICUや救急領域で研究が進んでいます


mottled skinの正確な機序はわかっていませんが、

近年では微小循環障害を反映した所見と言われています










使いどころが違うため、mottling skinとrivedoの用語を分けて理解しておくことが良いと思います


mottled skinの有用性はショックの覚知と重症度の把握、

治療効果判定に使えることです


rivedo reticularisは何かが起きていることのアラームサインになったり、

膠原病を疑うサインになります


しかし、rivedo reticularisは疾患特異的なサインではなく、

疾患を診断するヒントにすぎません

寒い環境や新生児では、生理的に出現することもあり疾患特異性は高くありません


rivedo racemosaは限局性の動脈の虚血であり、さらに鑑別を狭めることができます

APSや血管炎を強く示唆する所見であり、診断に寄与することが多いです




mottling やrivedoが六角形の理由


もともとの皮膚の微小血管構造のためです


六角形の中心には1本の動脈があり、辺縁は静脈系でドレナージされていきます

動脈側や静脈側の要素、または血管内の粘稠度によって血流速度が低下すると、

血液が静脈に鬱滞し、皮膚表面に赤〜青〜紫色に変色したまだらな皮疹を呈するようになります







なぜ膝に多い?


調べた限り、膝に多い理由を言及した論文は見つけられませんでした


解剖学的に考えると、膝上の皮膚は動脈からの血流が届きにくく、

ちょうど膝蓋骨上が分水嶺のような状態です


mottled skinは上肢や体幹よりも心臓からの距離が遠い下肢に起こりやすく、

下肢の中でもさらに血流が悪い膝上からmottled signが出やすいと推察されます





これは日常診療で膝関節を触診する際に実感できるのではないでしょうか


膝関節は血流が乏しいので、下腿や大腿部と触った時の温度を比較することで、

膝関節炎があるかどうか判断の材料になります


OAのTKAの手術の皮膚切開の際も膝上の皮膚の血流を意識して、

皮膚切開の部位を決めるそうです

適当に切開すると皮膚が壊死してしまいます



mottled skinがあれば、触ってみます


mottled skinは皮膚の血流障害の結果をみているとされており、

皮膚温も冷たいことが多いです



敗血症患者さんは普通、末梢は暖かいです

逆にじっとり冷たい皮膚をしていたら、

point of no returnにさしかかっているか、


他のショックを合併している可能性があります

どちらにせよ、早急に介入をしないと亡くなってしまう可能性が高いです


最後に膝を押してみます

膝の上の皮膚を押すことで皮膚の毛細血管の血流が途絶えます

そして、離すと再還流してきます

その時間をみているのが、CRTです


手の指や膝で見ることが多いですが、

手の指の場合は3秒以上、膝の場合は5秒以上で異常と考えます


指の場合、白癬や変形があるとうまく所見がとれないことが多いので、膝の方が便利です





最近でた研究では、治療効果のターゲットとして乳酸とCRTを比較して、
死亡率に差がなかったとされています

むしろ、CRTの方が多臓器不全や死亡率はやや低いかもしれないという解析です

実際は乳酸値とCRT、mottling scoreを合わせて総合的に評価していきます



mottling skinは皮膚の微小循環障害であるという証拠が揃ってきています

ですが、そもそも微小循環障害ってなんでしょうか?


次回解説します



まとめ


・敗血症の人をみたら、血圧だけでなく、皮膚所見に注目

①みて:mottling scoreを判定

②触って:皮膚温の確認(末梢VS中枢)

③押す:CRTの確認


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