2022年3月21日月曜日

亜鉛欠乏 〜味覚障害以外で考える時は?〜

味覚障害といえば?

治らない褥瘡や原因不明の皮膚炎といえば?

透析でEPOに反応しない貧血といえば?


そうです、亜鉛欠乏です


昨今、なんでもかんでも亜鉛のせいになりがちです 笑


亜鉛は簡単に測定でき、補充できるため、
医者にとっては安易に「容疑者」にされやすいのです

まずは亜鉛欠乏を疑ったら亜鉛欠乏以外の原因を探る努力をしなければなりません



個人的には、亜鉛欠乏は疾患概念としてかなり微妙だと思っています

亜鉛を測定するとほとんどの症例で低下しています


長野県の村民数千人規模の調査では、

①村民の約20%が亜鉛欠乏症であった
②60歳以上の高齢者の半数以上が潜在性亜鉛欠乏症あるいは亜鉛欠乏症であった
③加齢とともに亜鉛が低下していった

という報告もあります
Biomed Res Trace Elements,16:61-64,2005


亜鉛欠乏が真の原因であるかは、よくよく吟味しなければなりません


亜鉛欠乏症を疑って補充を開始するのはよいですが、
どこかで治療効果判定が必要です


ただし、自然軽快するような湿疹や味覚障害に亜鉛が補充され、
さも、亜鉛が効いた!と誤って解釈されることが非常に多いと思われます


そうなると、亜鉛の中止するタイミングがわからなくなり、漫然と投与されることもあります

亜鉛の漫然とした補充によって起こる銅欠乏の方がよっぽど嫌ですね


亜鉛の補充は成人50~100mg/日が推奨されています
亜鉛を補充している患者さんでは定期的に血清銅の測定が必要です



正直、亜鉛欠乏症の症状には懐疑的ですが、
deficiency dermatitisや壊死性遊走性紅斑では亜鉛欠乏が重要な役割を果たしているらしく、
調べてみました


亜鉛の役割

亜鉛は300種類を超える酵素の構造維持や機能に関与するとともに、
2000以上の転写調整因子の発現や機能にも関与しています

また細胞内シグナルのセカンドメッセンジャーとしても機能することで細胞の増殖及び発生、文化あるいは免疫応答に重要な役割を果たしていると言われています


人体には1.4~2.3gの亜鉛があり、そのうち約8%は皮膚に存在します

そのため、他の必須微量金属の欠乏と比べて、皮膚に症状が出現しやすいと考えられています



亜鉛欠乏になると、アミノ酸の吸収障害が起こり、亜鉛とアミノ酸欠乏は併存することがあります


亜鉛が欠乏する原因は偏った食事が原因であることが多いです

スナックやインスタント食品の添加物(ポリリン酸カルシウム)の過剰摂取も亜鉛欠乏の原因になります
食品添加物の中には亜鉛の吸収を妨げるもの(タンニン、フィチン酸、食物繊維)が入っており、注意が必要です



偏った食事によって亜鉛だけでなく、
VB1,VB12,ニコチン酸,アミノ酸など多くの物資が同時に欠乏している可能性があります


そのため、亜鉛欠乏を疑ったら、他の欠乏も同時に疑わなければなりません
ここはクラスターで考える必要があります


        


亜鉛が欠乏して皮膚炎や口角炎が起こる理由が最近解明されてきました

一言で言えば、「皮膚の易刺激性」が原因の一つとされています


皮膚の刺激性が亢進し、外界からの刺激で皮膚炎が起こります
一次刺激性接触性皮膚炎(irritant contact dermatitis : ICD)と言われています



機序としては、
皮膚の炎症の火消し薬であるランゲルハンス細胞が亜鉛欠乏により減少するため、
火消しがうまくいかず炎症が惹起されます


亜鉛欠乏患者の皮膚炎の病理組織検査でも、
免疫染色でランゲルハンス細胞の消失や欠乏が確認されています



外界からの刺激はなんでもありです

眼脂、食べ物、唾液、尿、便、カンジダ、化学物質(化粧品、洗剤、薬品)などが刺激となり、ICDが引き起こされます



そのため、おむつ皮膚炎、よだれ皮膚炎、口なめ病、主婦手湿疹、ズック靴皮膚炎などの個別の呼称が生まれてきました


これは、なるほどな〜という感じです


亜鉛欠乏だけで症状が出るわけではなく、このようにセカンドヒットセオリー的な感じであれば、
症状がある人ない人、亜鉛で治る人治らない人がいるのも納得です



白癬やカンジダの治療や陰部の洗浄をしっかりしているにもかかわらず、陰部湿疹が持続する症例や
難治性の褥瘡の患者さんには積極的に検索・治療を検討しても良いと思われます



まとめ
・なんでもかんでも亜鉛欠乏のせいにしない
→安易に測定でき、補充できてしまうので、思考停止になりがち

・亜鉛欠乏を疑った場合は、他の栄養素の欠乏も一緒に考える
→アミノ酸、ビタミン、ニコチン酸

・亜鉛欠乏による皮膚炎は一次刺激性皮膚炎
→治りが悪い、再発しやすい皮膚トラブルを見たら、背景に亜鉛欠乏がないか疑う


参考文献:皮膚臨床61(7);1083~1091,2019

0 件のコメント:

コメントを投稿