2022年4月30日土曜日

中年男性の長引く発熱と徐脈 〜NEJMのcaseで伝えたいこと〜


 



今回のNEJMも勉強になりました

NEJMのcase  recordsの使い方は、実際に同じような症例に出会ってからが一番活きます

今回のケースは殿堂入りしました


かなり難しいですが、曝露があった時の鑑別の広げ方が勉強になります




最初はインフルエンザlikeの症状があり、発熱が続く中年男性という情報です


インフルエンザlikeの症状を出す疾患は、
キャンピロが有名です

季節外れのインフルエンザと呼んでいます




この症例は4週間、発熱が持続しており、

「外来不明熱」といってもいい状況です


外来で不明熱化してくるということは、比較的元気で若者であるという状況が多いです


外来不明熱といえば、CMVと亜急性甲状腺炎とIEです

この辺は当たり前のようにチェックしていきます




発熱やインフルエンザ症状に加えて、徐脈や背部痛があるようです
血液では炎症が見られます

やはり、なんらかの感染症を疑いたくなりますね



怪しげな既往が目立ちますね・・・



この既往歴みただけで、アフリカから移住してきた人なんだな・・・ということがわかります



社会がグローバル化し、移民の受け入れも今後、日本で増えてくることが予想されます


そうなると、海外で有病率の高い疾患(鎌状赤血球症など)や
海外で流行している感染症(マラリア、寄生虫症、真菌症)の知識も身につけていく必要があります



NEJMのcaseは、ただの臨床検討会用の稀な症例提示ではなく、
国際的な社会情勢を反映した症例を提示してくれることが多いです



前回は戦争に行った軍人さんの症例でした


今のウクライナ情勢を意識しての症例提示だと思います


NEJMは症例を通じて、
その時々で、世界中の医師に知っておいてほしいような内容や
メッセージを伝えていることに感動します



そういった真のメッセージを読み解くことも、
NEJMを読む楽しみの一つです



さて・・・


症例に戻ると

徐々に徐脈が目立つようになってきました

ということで、徐脈の機序について考えてみます






この症例に関しては、まだ洞性徐脈か、AV ブロックかわかりませんが、
解剖学的なトラブルがありそうです


長引く発熱であれば、IEを考えます
そして、弁周囲膿瘍からのブロックを考えます



おそらく、感染症が原因であると思われますので、
感染症を疑ったら、いつもの三角形に入れ込みます


今回は曝露が多いので、鑑別が膨大です





大事なのは、野山や動物の曝露があった場合は、
芋づる的に全部考えることです

STIと似た感じです


例えば、猫の場合




猫引っ掻き病は奥が深いです

今回の症例も猫ひっかき病でも全くおかしくありません





ダニの場合


蚊の場合


海外渡航歴があった場合



この症例は感染臓器・部位の検索と病原微生物の検索の2つの道のりがあります


感染臓器は心臓の伝導系にまたがる心筋で良さそうです
ですが、なぜそんなところに・・・ということが問題です


普通に考えると、IEかなと思ってしまうので、
TTEとTEEの流れになるでしょう


ただし、TEEが問題なかった時にどうするかですね


病原微生物に関しては、血液培養はもちろん提出しますが、
この流れは血液培養陰性のIEを疑う流れになりそうです






この症例ではTEEで疣贅や目立った弁膜症はありませんでした


ですが、確実に心筋に問題がありそうです


次のステップとしてはCT、MRI、PETの流れのようです

これは今まで考えたことがなかったので、勉強になりました





結局、CTやMRI、PETで限局性の心筋炎が発覚しました

あとは、病原微生物が問題です



どうやって診断するか?ですが、
この症例はCTRXで効果がなく、DOXYで少し効果があったようです


そうなると・・・


レジオネラやリケッチア、マイコプラズマなどが鑑別です


「ラ行の問題」というテーマがありまして、

ライム、リケッチア、レプト、レジオネラのどこに軸足を置くかという問題です


詳しくはレプトスピラ




これらは血清学的にしか診断がつかないことが多く、
すぐに結果が判明しないものばかりです


そのため、診断がつかずに、MINOやDOXYで治療されている症例が実はたくさんあります






先ほどの動物や野山の曝露も同じような問題があります


長引く発熱や原因不明の肺炎、皮疹、リンパ節腫脹など
プレゼンテーションが似ており、もはや鑑別ができないこともあります


それぞれの疾患で、少しずつ治療が異なります


こんな時は、いつもどの感染に軸足を置くか悩みます







結局、この症例のアプローチ法としては、

血液培養陰性のIEの鑑別になりました


さらに、曝露歴から疑わしい病原微生物を片っ端から調べ、

最終的にはDNAシークエンスにて、リステリアの診断にたどり着きました


最終診断:リステリアによる限局性心筋炎



この症例の使い所


・動物や野山の曝露歴があった場合に

 どのような鑑別疾患を挙げれば良いか参考になる


・血液培養陰性のIEを疑った場合の

 病原微生物の詰め方を教えてくれる


・IEを疑って行ったTEEが陰性だった時、

 それでも心筋の異常を疑っている場合のアプローチの方法がわかる




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