臨床のパールや自分なりの考えをノートにまとめました。自分のポケットの中だけでなく、皆様にもみていただき、ご意見ご感想を頂ければ嬉しいです。実臨床への適応は自己責任でお願いします。
2022年6月23日木曜日
2022年6月21日火曜日
2022年6月19日日曜日
中年男性の不明熱
先日の症例は中年男性の筋痛と不明熱の症例でした
外来での不明熱のマネージメントは非常に悩ましく難しいです
初期研修医から専攻医になると、「外来」を学び始めます
外来の時間の使い方を学ぶことが専攻医の一つの目標になります
その上で今回の症例は時間の使い方が非常に悩ましい症例でした
今回は不明熱に関するパールや考え方がたくさん出てきて、楽しくディスカッションできました
佐藤泰吾先生の不明熱(感染症ver.)
①血管内感染症:IE、細菌性動脈炎
②胸腹部骨盤造影CTで見逃す膿瘍:耳鼻科領域、骨、皮膚、筋
③細胞内寄生:ウイルス、結核、血液培養陰性系
④特殊な状況を勘案すべき疾患:旅行、動物、環境
すぐに使えるリウマチ・膠原病診療マニュアル改訂版 岸本暢将/編
6.不明熱診療における感染症の考え方【佐藤泰吾】
不明熱のemergency
致死的な病態:弁破壊、PE、腹腔動脈瘤破裂、不整脈、血球貪食症候群
機能障害が残る病態:神経、失明
感染対策上重要:TB、HIV
外来不明熱のbig3
IE、亜急性甲状腺炎、CMV
などなど不明熱の切り口が色々ありましたね
今回の症例もまずは感染症として対応してみることが大事です
発熱診療のスタートは感染症から軸をずらさないことが重要になります
まずは感染症として精査を行いつつ、時間を使ってみたものの、
やはり感染症の経過ではないことを確認します
次のステップとして、腫瘍か膠原病にいくわけですが、
今回は筋痛があったので血管炎を強く疑うことができました
小血管炎を示唆する所見は何もなかったですが、
途中で痺れが出てきたので小血管炎か中血管炎に鑑別が絞ることができました
小血管炎はANCAが関連するAAVとそれ以外で考え、血液で出せるものは出します
血液のサロゲードマーカーがない場合は、生検に頼らないといけない時もあります
今回は大血管炎も鑑別でしたが、PETで可能性は下がりました
GCAにしては若く、高安にしては高齢であり、
今回の症例は大血管炎がmost likelyとは思っていませんでした
これくらいの中年男性の血管炎といえばPAN(結節性多発動脈炎)です
以前、膝の後が痛いという主訴できて、
膝窩動脈の血管炎からの動脈瘤ができていたというPN症例もありました
筋痛や痺れはよくきたすので、今回の症例はPNをmost likelyに考えました
PNは診断が遅れると、鶏歩になってしまったり、
中血管の動脈瘤が破裂してショックで帰ってきたり、
機能予後と生命予後を悪くする疾患なので、疑った場合は悠長にしてはいられません
ただし「PNはリウマチ科医にとっての結核」と言われるように、診断も除外も難しい病気です
PNは人にお願いしないと診断できないので、自分たちでできることは全て行ってお膳立てしておくのも重要です
あとはこれしかないんです!と処置する人にアピールして快く処置してもらう処世術も必要になってきます
血管造影(腹腔内と痛いところ:今回なら下肢)と生検(神経、筋、痛いところ)が診断には重要になります
結局、不明熱はどこを生検するか?に落ち着いてくることがほとんどです
どこを取るか?のために、診察を行い、USや造影CT、PETを行い、
取る場所を探しているイメージです
考え方としては、病気ごとに取る部分がある程度決まっています
GCAなら側頭動脈、EGPAなら鼻粘膜、MPAなら腎生検、PNなら神経や筋生検
そして症状や所見があるところから取ります
今回の症例はPNが疑われ神経・筋生検が行われました
神経と筋肉は一緒に取ることが多いです
高齢者はあまり痛がりませんが、若年者は強い痛みがでます
生検の結果はなんと好酸球浸潤があり、EGPAを示唆する所見でした
PNなのか、EGPAなのか、最後は悩ましくなってしまいましたが、小から中血管炎であることは間違いなさそうでした
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志水太郎先生のパール
「その患者さんの人生史に似つかわしくない主訴できた時は、toxinとvascularを考える」
今回の症例も、この患者さんには合わない筋痛や痺れであり、血管病変を示唆するものでした
まとめ
・原因不明の急性発熱をみたら、まずは感染症から軸をぶらさない
→リケッチア、レプトスピラ、レジオネラ、マイコプラズマなど血液培養で引っかからない感染症に注意
・中年男性の不明熱は、中血管炎(PN)を疑う
→リウマチ科医にとっては、結核的な存在であり、診断が難しい
・その患者さんの人生史に似つかわしくない主訴できた時は、toxinとvascularを考える
原因不明の腹痛〜答えはベッドサイドと巨人の肩に〜
70歳 女性 主訴:心窩部痛
(※症例は修正・加筆を加えてあります)
Profile:高血圧に対して降圧薬内服中のADLフルで元気な方
現病歴:来院の4日前までいつも通り元気
来院の3日前、朝から心窩部痛を自覚
心窩部痛は徐々に増強していった
痛みが強く食事摂取もできなくなってきた
痛みは波はなく、持続痛
排便はあったが、普通便
痛みが改善せず、救急外来を受診
ROS:吐き気あり、嘔吐なし、下痢なし、黒色便なし、体重減少なし
既往:高血圧
これまでの腹痛(2-3年に一度、腹痛で受診歴あり、診断はついていないが自然に軽快)
→今回の腹痛は以前よりも長く、強い痛み
内服:CCB
生活:夫と二人暮らし、主婦
バイタル:BP 130/70、 P90(reg/reg)、T 36.8、SpO2 98%、RR 20
意識 清明
見た目 痛みが強く、苦悶様「うーうー」と唸っている
末梢 冷汗なし
腹部 心窩部に自発痛あり
平坦 軟 圧痛は心窩部から両側季肋部に広範囲にあり
筋性防御なし tapping painなし
腸蠕動音 普通
下肢 浮腫なし 皮疹なし
背部 巧打痛なし CVA巧打痛なし
血液検査 WBC上昇なし Hb低下なし
炎症上昇なし 肝胆道系や腎機能、電解質、甲状腺に異常なし AMY上昇なし
造影CT 特記すべき異常所見なし
心電図 洞調律 ST-T変化なし
アセスメント
高血圧で降圧薬内服中のADLフルな70歳女性
これまでに同様の腹痛歴あるが、毎年繰り返しているわけでもなく、
以前の腹痛とは痛みや持続時間が異なり、繰り返す腹痛発作というわけではないであろう
血液検査や画像検査では原因が不明であり、胃潰瘍や十二指腸潰瘍疑いで入院精査加療となった
PPIのIVを行いつつ、鎮痛のためアセリオ、ソセゴンを適宜使用し経過をみた
EGDでは軽度の胃のビランのみで、強い腹痛を説明できる病変ではなかった
アセリオはほとんど効果なく、ソセゴン使用すると痛みは軽快していたが、
入院後も痛みは強く、「モルヒネを使って欲しい」と訴えるほど、痛みが持続していた
造影CTを再検するも、やはり痛みの原因は特定できず
大動脈周囲のLN腫脹は読影では読まれなかったが、1cm強で数個あり
CTでは軽度の便秘もあり、腸蠕動に伴う痛みも考慮し、ブスコパンを使用したが効果なし
診察しようにも「原因が分からないんだから、触っても無駄」と診察拒否
病院を変えて欲しいと訴えている・・・
さて、次なる一手は?
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臨床で原因不明の時
たまにありますよね
何がなんだか分からない時
とても焦ります
皆様ならそんな時、どうしますか?
・病院の中のご意見ばんに相談する
・病院を変える
・身体表現性として、精神科に相談する
色々あると思いますが・・・
こういう時だからこそ、一度立ち止まって深呼吸です
そして、ゆっくり鑑別疾患を考え直すことが大事です
基本に立ち返り、鑑別疾患を丁寧にあげていきます
次のplanの原則は
1、侵襲性の低い検査から
2、可能性の高い疾患の検査から
3、致死的な疾患の検査から
4、値段が安い検査から
で考えていきます
結局・・・
ポルフィリアを狙って、尿中PBG,ALA測定
IgA血管炎やIBDを狙って、CS
化膿性大動脈炎を狙って、血液培養
硬膜外膿瘍や血腫を狙って、MRI
となりました
ですが、どれもピンときません
一応の検査planをたてた後、
やはり答えはベッドサイドにあるはず!と思い、診察にいきました
ですが、患者さんは「お腹が痛い〜」と悶えています
心窩部から左季肋部が痛いと仰られます
痛みの細かい性状やこれまでの病歴は聞ける感じではありません
原因が分からないことへの苛立ちから、診察は拒否されます
そこを何とか説得して、服をめくってお腹を触ろうとしたら・・・・
そこにはターゲットサイン様の楕円形の丘疹や紅斑が、
体幹に数個出現していました
あ!これは・・・
薬疹だ!
PPIのせいか!?
とは思いません
帯状疱疹だ!
と確信しました
典型的な水疱ではありませんでしたが、帯状疱疹に違いないと思いました
皮疹の分布はバラバラであり、播種性帯状疱疹でした
なるほど〜
腹痛はzoster sine herpateを見ていたのか・・・
ただ納得できないのは、帯状疱疹の痛みであれば、普通は片側になるはずです
この方は終始、心窩部の痛みを訴えており、片側ではありませんでした
表面やアロディニアの様な痛みではなく、しっかりお腹を押すと痛がっていました
あの痛がり方は皮膚や体性痛ではなく、内臓の印象でした
これは普通の皮膚にできた帯状疱疹ではないのでは??と考えました
さらに、免疫抑制状態でもないこの患者さんに播種性帯状疱疹が起こるのはなぜか?
という疑問も生まれました
そうすると、造影CTにて大動脈周囲のリンパ節腫脹が気になります
リンパ腫や血液腫瘍が背景にあるのかもしれません
ただ、自分はそうは思いませんでした
このリンパ節腫脹も帯状疱疹で説明がつくのではないか?
よく見ると、傍大動脈周囲のリンパ節の周りの脂肪織濃度が上昇していました
いわゆるRetroperitoneal fasciitisが起きていました
むしろこれが痛みの原因では?
そうして文献を調べると、
「内臓播種性帯状疱疹」という疾患が見つかりました
これだ!
CT所見もこれまでの文献とそっくりでした
ゲシュタルトもまさに同じでした
後から振り返ってみると、内臓播種性帯状疱疹の典型的な経過でした
内臓播種性帯状疱疹について
まとめ
2022年6月11日土曜日
東京GIM 〜SAB(サブ)はサブじゃない〜
今回の症例は若い男性の急性の発熱や悪寒戦慄で来院された症例でした
となると、まずは感染症から考えます
感染症を考えたら、いつものように原則に沿って情報収集します
まとめ
・感染症を疑ったら、常に感染症の原則(三角形)に沿って考える
→患者背景では「免疫」「曝露」「余力」を意識する
・感染部位で多いのは、5+1。focus不明になりがちなのは、1(IE)
→他にもfocus不明になりやすい感染部位と原因微生物がいる
・SABやIEには続きがある
→適切な経過観察が求められる疾患。
毎日の丁寧な診察が重要
2022年6月8日水曜日
低血糖 〜インスリンとCペプチドの測定を忘れずに〜
低血糖について
まず、その低血糖に病的意義があるかを考える必要があります
いわゆる 低血糖と低血糖症の違いです
低血糖は検査値として血糖値が低いことです
低い血糖が全て問題というわけでもありません
健常者でも低血糖になることはありますが、普通は症状はありません
問題になるのは、低血糖症です
低血糖症はwhipple 3徴が揃う状態です
こちらは何らかの原因があり、原因検索を行う必要があります
無自覚性低血糖という状態もありますが、これは無症状の低血糖をいうわけではありません
無自覚性低血糖は自律神経症状がなく、いきなり中枢神経症状が出現する状態のことをいいます
無自覚性低血糖は非常に危険です
本人が気が付かないまま、意識障害に陥るため、場所や状況によっては命の危険があります
信号で例えると、自律神経症状は黄色信号です
このままだと危ないという注意喚起です
放っておくと、赤信号の中枢神経症状に突入します
進んではいけないところを進もうとしている状態です
高血糖は悪いのですが、すぐに命の危険が出ることは稀です
一方、低血糖はすぐに命の危険がありますし、後遺症のリスクもあります
高血糖は悪いのですが、低血糖はもっと悪いと覚えておきましょう
低血糖症を起こす疾患は、
インスリノーマ、薬剤、副腎不全、アルコール、肝不全、ダンピング・・・
鑑別がたくさんありすぎて、パニックになります
ですが、低血糖は原因検索が難しいわりに治療は簡単です 笑
グルコースのIVです
簡単なのですぐに治療したくなりますよね
それはもちろん正しいのですが、
グルコースを静注する前に採血をしていただきたいと思います
原因検索はその採血があれば、後からでも構いません
低血糖時のインスリンとCペプチドの値があれば、
鑑別疾患を絞ることができます
現実は状況や文脈で原因は明らかなことがほとんどです
・敗血症を疑う状況での低血糖
・アルコール多飲歴があり、食事摂取不足している人の低血糖
・肝硬変の人が、ご飯がとれなくなった時の低血糖
・血糖コントロールが改善してきているにも関わらず、DO処方されているSU剤
・食事量が低下しているにも関わらず、同じインスリン量をうった
・胃切除後の人の食後の低血糖 など
ですが、状況から原因は予測できても、その時点で確定することはありません
インスリンやCペプチドがあれば、後で自分の予想があっていたかを確認することができます
多くの場合、インスリンやCペプチドは低下していることが多いのですが、
高値であった場合が問題です
低血糖症にも関わらず、インスリンが抑制されていない病態は限られています
インスリン自己免疫症候群やインスリノーマ、ダンピング症候群、薬(SU薬、グリニド)、インスリンの注射などです
これらを鑑別するためには、
①インスリンやCペプチドの絶対値:
→著明高値の場合、インスリン自己免疫症候群が疑わしい
②インスリンとCペプチドの比:
→1以上の場合、インスリン自己免疫症候群が疑わしい
に注目することで、鑑別が進みます
2022年6月4日土曜日
The After-Dinner Dip 〜非糖尿病患者さんの低血糖〜
今回のNEJMも勉強になりました
内分泌や電解質の疾患が鑑別になると、OOPS!になりやすいと言われています
カルテはSOAPでかくように習いますが、
よくあるのは、O(Objective date)の検査・検査・検査があって、
アセスメントなきP(Plan)があって、ようやくSの病歴に戻る
という皮肉をアメリカでは、「OOPS!」というようです
今回は低血糖の鑑別をひたすら進めていくcaseでした
OOPSにならないように、どうしても病歴に戻りたくなりますが、
今回の症例はひたすら検査で終わりました 笑
タイトルのdipにひっぱられて、何か外からdipされた(盛られた)に違いない、
これは事件だ!
と思ってましたが、dip(下がる)とdip(つける)の意味でした
低血糖のアプローチを学ぶとてもいいケースでした
2022年6月2日木曜日
食べられない高齢者に食べてもらいたい時
症例 88歳 女性 椎体の圧迫骨折で入院中
内服はリセンドロン、ドネペジル、アルファカルシドール
本人は腰の痛みの訴えが強く、トラムセットを入院後から開始している
入院の初めは食事がとれていたが、入院後食事量が減っていった
さあ、食べられない高齢者に対して、
どのようにアプローチしていけばよいでしょうか?
食事がとれない原因がはっきりしない場合の治療法
どんな症状の治療も同じですが、提案するのは薬だけではありません
必ず非薬物療法についても提案します
そして薬物療法の場合は、西洋薬と漢方の両方を提示できるとよいです
非薬物療法
①環境調整
人:介助者を変えてみる、家族や知り合いなら食べる人もいるもの:スプーンや食器を変えてみる
場所:人がたくさんいる場所、スタッフのいる場所など
時間:覚醒がいい時間にしてみる、2時間くらいゆっくり時間をかける
最終手段であり、最も効果が高いと感じている切り札は、
自宅(施設)への退院です
病院では全く食べなかった人が、自宅に帰ったら食べられるようになる
というのは、誰もが経験していることではないでしょうか?
もちろん、そのまま食べられない可能性もあるので、
Plan Bも考えておく必要があります
②食事の変更
栄養士さんと相談して、本人の嗜好に合わせた食事を提供してみます
見た目や盛り付け、匂い、味などに気を配ります
③運動
ずっと寝たきりで食欲が出るわけがありません
リハビリの方と協力が必要です
体を動かすことで、消化管も動き始めます
朝の太陽の光に当たるとセロトニンが分泌されたり、睡眠の質の向上にもなるので、
窓の光に当たる場所に変更するのも一つです
④時間
何をしても食べなかったけれど、
いつの間にか食べられるようになってきた・・・
何が原因かはわかりませんが、時間が解決してくれたと感じる人もいます
中腰の姿勢で待つ意味はあると思います
薬物療法
非薬物療法はどちらかというと、
医師よりも他のコメディカルのスタッフの腕の見せ所です
医師の腕の見せ所は薬物療法になります
薬はここでも足し算と引き算を考えます
まずは引き算から考えることが重要です
吐き気や食思不振につながる薬をやめます
意識状態を落としたり、うつやせん妄を惹起するような薬もやめます
とことん、減らすことが重要です
引き算しても、やっぱり食べられないという時は足し算の出番です
薬の足し算の考え方は
①副作用が少ないものから順々に使う
②使うなら一つずつにする
③効果判定を必ず行う
闇雲に薬を出すのではなく、目の前の患者さんに当てはまる状態に応じて、
薬を選択します
日内変動がある意識障害があれば、せん妄かもしれないので、
クエチアピンを入れてみるとか
認知症が進行し、アパシーのような状態であれば、
アリセプトを入れてみるとか
CTで便秘がしっかりある場合は、
まずは排便コントロールをしっかり行うとか
食べると気持ち悪くなってしまって食べられない人は、
FDや消化管の動きの問題と考え、ガスモチンを入れてみるとか
うつ傾向が強い人にはリフレックスを入れみるとか
最も効果がありそうなところから順番に使っていくイメージです
治療に関しては、トライアンドエラーをするしかありません