2022年6月19日日曜日

中年男性の不明熱

先日の症例は中年男性の筋痛と不明熱の症例でした


外来での不明熱のマネージメントは非常に悩ましく難しいです

初期研修医から専攻医になると、「外来」を学び始めます


外来の時間の使い方を学ぶことが専攻医の一つの目標になります



その上で今回の症例は時間の使い方が非常に悩ましい症例でした




今回は不明熱に関するパールや考え方がたくさん出てきて、楽しくディスカッションできました


佐藤泰吾先生の不明熱(感染症ver.)

①血管内感染症:IE、細菌性動脈炎

②胸腹部骨盤造影CTで見逃す膿瘍:耳鼻科領域、骨、皮膚、筋

③細胞内寄生:ウイルス、結核、血液培養陰性系

④特殊な状況を勘案すべき疾患:旅行、動物、環境

すぐに使えるリウマチ・膠原病診療マニュアル改訂版 岸本暢将/編

6.不明熱診療における感染症の考え方【佐藤泰吾】



       

       


不明熱のemergency

致死的な病態:弁破壊、PE、腹腔動脈瘤破裂、不整脈、血球貪食症候群

機能障害が残る病態:神経、失明

感染対策上重要:TB、HIV


     


外来不明熱のbig3

IE、亜急性甲状腺炎、CMV


などなど不明熱の切り口が色々ありましたね


今回の症例もまずは感染症として対応してみることが大事です


発熱診療のスタートは感染症から軸をずらさないことが重要になります


まずは感染症として精査を行いつつ、時間を使ってみたものの、

やはり感染症の経過ではないことを確認します


次のステップとして、腫瘍か膠原病にいくわけですが、

今回は筋痛があったので血管炎を強く疑うことができました


小血管炎を示唆する所見は何もなかったですが、

途中で痺れが出てきたので小血管炎か中血管炎に鑑別が絞ることができました


小血管炎はANCAが関連するAAVとそれ以外で考え、血液で出せるものは出します

血液のサロゲードマーカーがない場合は、生検に頼らないといけない時もあります


今回は大血管炎も鑑別でしたが、PETで可能性は下がりました

GCAにしては若く、高安にしては高齢であり、

今回の症例は大血管炎がmost likelyとは思っていませんでした


これくらいの中年男性の血管炎といえばPAN(結節性多発動脈炎)です


以前、膝の後が痛いという主訴できて、

膝窩動脈の血管炎からの動脈瘤ができていたというPN症例もありました


筋痛や痺れはよくきたすので、今回の症例はPNをmost likelyに考えました


PNは診断が遅れると、鶏歩になってしまったり、

中血管の動脈瘤が破裂してショックで帰ってきたり、

機能予後と生命予後を悪くする疾患なので、疑った場合は悠長にしてはいられません


ただし「PNはリウマチ科医にとっての結核」と言われるように、診断も除外も難しい病気です


PNは人にお願いしないと診断できないので、自分たちでできることは全て行ってお膳立てしておくのも重要です


あとはこれしかないんです!と処置する人にアピールして快く処置してもらう処世術も必要になってきます


血管造影(腹腔内と痛いところ:今回なら下肢)と生検(神経、筋、痛いところ)が診断には重要になります

       

結局、不明熱はどこを生検するか?に落ち着いてくることがほとんどです


どこを取るか?のために、診察を行い、USや造影CT、PETを行い、

取る場所を探しているイメージです


考え方としては、病気ごとに取る部分がある程度決まっています

GCAなら側頭動脈、EGPAなら鼻粘膜、MPAなら腎生検、PNなら神経や筋生検

そして症状や所見があるところから取ります


今回の症例はPNが疑われ神経・筋生検が行われました

神経と筋肉は一緒に取ることが多いです

高齢者はあまり痛がりませんが、若年者は強い痛みがでます



生検の結果はなんと好酸球浸潤があり、EGPAを示唆する所見でした


PNなのか、EGPAなのか、最後は悩ましくなってしまいましたが、小から中血管炎であることは間違いなさそうでした

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志水太郎先生のパール

「その患者さんの人生史に似つかわしくない主訴できた時は、toxinとvascularを考える」


今回の症例も、この患者さんには合わない筋痛や痺れであり、血管病変を示唆するものでした



まとめ

・原因不明の急性発熱をみたら、まずは感染症から軸をぶらさない 

→リケッチア、レプトスピラ、レジオネラ、マイコプラズマなど血液培養で引っかからない感染症に注意


・中年男性の不明熱は、中血管炎(PN)を疑う

→リウマチ科医にとっては、結核的な存在であり、診断が難しい


その患者さんの人生史に似つかわしくない主訴できた時は、toxinとvascularを考える

原因不明の腹痛〜答えはベッドサイドと巨人の肩に〜

 70歳 女性 主訴:心窩部痛

(※症例は修正・加筆を加えてあります)


Profile:高血圧に対して降圧薬内服中のADLフルで元気な方


現病歴:来院の4日前までいつも通り元気

    来院の3日前、朝から心窩部痛を自覚

    心窩部痛は徐々に増強していった

    痛みが強く食事摂取もできなくなってきた

    痛みは波はなく、持続痛

    排便はあったが、普通便

    痛みが改善せず、救急外来を受診


ROS:吐き気あり、嘔吐なし、下痢なし、黒色便なし、体重減少なし


既往:高血圧

これまでの腹痛(2-3年に一度、腹痛で受診歴あり、診断はついていないが自然に軽快)

→今回の腹痛は以前よりも長く、強い痛み


内服:CCB 

生活:夫と二人暮らし、主婦


バイタル:BP 130/70、 P90(reg/reg)、T 36.8、SpO2 98%、RR 20

意識 清明

見た目 痛みが強く、苦悶様「うーうー」と唸っている


末梢 冷汗なし

腹部 心窩部に自発痛あり

平坦 軟 圧痛は心窩部から両側季肋部に広範囲にあり

筋性防御なし tapping painなし

腸蠕動音 普通

下肢 浮腫なし 皮疹なし

背部 巧打痛なし CVA巧打痛なし


血液検査  WBC上昇なし Hb低下なし

炎症上昇なし 肝胆道系や腎機能、電解質、甲状腺に異常なし AMY上昇なし

造影CT   特記すべき異常所見なし

心電図 洞調律 ST-T変化なし


アセスメント

高血圧で降圧薬内服中のADLフルな70歳女性

これまでに同様の腹痛歴あるが、毎年繰り返しているわけでもなく、

以前の腹痛とは痛みや持続時間が異なり、繰り返す腹痛発作というわけではないであろう


血液検査や画像検査では原因が不明であり、胃潰瘍や十二指腸潰瘍疑いで入院精査加療となった

PPIのIVを行いつつ、鎮痛のためアセリオ、ソセゴンを適宜使用し経過をみた


EGDでは軽度の胃のビランのみで、強い腹痛を説明できる病変ではなかった


アセリオはほとんど効果なく、ソセゴン使用すると痛みは軽快していたが、

入院後も痛みは強く、「モルヒネを使って欲しい」と訴えるほど、痛みが持続していた


造影CTを再検するも、やはり痛みの原因は特定できず

大動脈周囲のLN腫脹は読影では読まれなかったが、1cm強で数個あり


CTでは軽度の便秘もあり、腸蠕動に伴う痛みも考慮し、ブスコパンを使用したが効果なし


診察しようにも「原因が分からないんだから、触っても無駄」と診察拒否

病院を変えて欲しいと訴えている・・・


さて、次なる一手は?

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臨床で原因不明の時


たまにありますよね

何がなんだか分からない時


とても焦ります 


皆様ならそんな時、どうしますか?


・病院の中のご意見ばんに相談する

・病院を変える

・身体表現性として、精神科に相談する


色々あると思いますが・・・



こういう時だからこそ、一度立ち止まって深呼吸です

そして、ゆっくり鑑別疾患を考え直すことが大事です


基本に立ち返り、鑑別疾患を丁寧にあげていきます




次のplanの原則は

1、侵襲性の低い検査から

2、可能性の高い疾患の検査から

3、致死的な疾患の検査から

4、値段が安い検査から 


で考えていきます


結局・・・


ポルフィリアを狙って、尿中PBG,ALA測定

IgA血管炎やIBDを狙って、CS

化膿性大動脈炎を狙って、血液培養

硬膜外膿瘍や血腫を狙って、MRI


となりました


ですが、どれもピンときません


一応の検査planをたてた後、

やはり答えはベッドサイドにあるはず!と思い、診察にいきました


ですが、患者さんは「お腹が痛い〜」と悶えています

心窩部から左季肋部が痛いと仰られます


痛みの細かい性状やこれまでの病歴は聞ける感じではありません

原因が分からないことへの苛立ちから、診察は拒否されます


そこを何とか説得して、服をめくってお腹を触ろうとしたら・・・・




そこにはターゲットサイン様の楕円形の丘疹や紅斑が、

体幹に数個出現していました



あ!これは・・・


薬疹だ!


PPIのせいか!?


とは思いません



帯状疱疹だ!


と確信しました


典型的な水疱ではありませんでしたが、帯状疱疹に違いないと思いました


皮疹の分布はバラバラであり、播種性帯状疱疹でした



なるほど〜


腹痛はzoster sine herpateを見ていたのか・・・


ただ納得できないのは、帯状疱疹の痛みであれば、普通は片側になるはずです


この方は終始、心窩部の痛みを訴えており、片側ではありませんでした

表面やアロディニアの様な痛みではなく、しっかりお腹を押すと痛がっていました


あの痛がり方は皮膚や体性痛ではなく、内臓の印象でした


これは普通の皮膚にできた帯状疱疹ではないのでは??と考えました



さらに、免疫抑制状態でもないこの患者さんに播種性帯状疱疹が起こるのはなぜか?


という疑問も生まれました



そうすると、造影CTにて大動脈周囲のリンパ節腫脹が気になります

リンパ腫や血液腫瘍が背景にあるのかもしれません



ただ、自分はそうは思いませんでした


このリンパ節腫脹も帯状疱疹で説明がつくのではないか?



よく見ると、傍大動脈周囲のリンパ節の周りの脂肪織濃度が上昇していました

いわゆるRetroperitoneal fasciitisが起きていました



むしろこれが痛みの原因では?


そうして文献を調べると、

「内臓播種性帯状疱疹」という疾患が見つかりました


これだ!


CT所見もこれまでの文献とそっくりでした

ゲシュタルトもまさに同じでした


後から振り返ってみると、内臓播種性帯状疱疹の典型的な経過でした


内臓播種性帯状疱疹について


解説動画



皮疹が出るまではこの疾患を診断することは、不可能だと思います

知っていても、無理だと思いました



疑った場合にできることは、毎日、全身の皮膚を細かくみて、
VZVの出現を待つことです


皮疹は痛がっているお腹にできなくてもいいです

さらにいうと、皮疹が結局出なくても内臓播種性帯状疱疹のこともあります


カメラをした場合には軽度なビランは生検しておくと、そこから診断がつくこともあります





内臓播種性帯状疱疹は、心窩部から季肋部に強い痛みがあります

まるで急性膵炎かのような痛がり方ですが、
お腹は軟らかいのが特徴的です


そのため、最初はSMA解離や大動脈解離、神経根症状を考えたくなりますが、
画像検査ではそういった所見はみられません



画像やカメラで異常がないので、腹腔外に原因を求めたくなります

代謝や内分泌疾患を検討しますが、どれも当てはまりません


結局、原因不明になってしまうのですが、痛みが強すぎるので、
麻薬を使用せざるを得ない状況になります


モルヒネやフェンタニルは効果があります





この疾患を疑うポイントは、腹腔動脈やSMAの周囲の脂肪織濃度上昇です

本症例もしっかりみられました


近年、内臓播種性帯状疱疹の画像所見の報告例が増えており、
この所見は内臓播種性帯状疱疹を疑うきっかけになると思われます


放射線科の先生も読んでくれないので、自分たちでみるしかありません



内臓播種性帯状疱疹は診断が非常に難しく、
さらに診断が遅れることで命に関わる疾患です

治療が遅れると、肝障害やDIC、膵炎、肺炎で亡くなってしまいます


報告では、皮疹が出る前に亡くなってしまったcaseもあります
剖検で診断されるケースも散見され、非常に診断が難しいことが特徴です


内臓播種性帯状疱疹の典型的なゲシュタルトは

「免疫抑制状態にある人が、
 激烈な心窩部痛を訴えているにも関わらず、
 血液や画像、カメラで原因不明の時」です



今回のケースでは今のところ免疫抑制状態は発見されていないので、
非常に稀なケースだったと思われます

まとめ
・原因不明の病態に出会ったら、深呼吸してホワイトボードの前に立つ
→自分の頭の中を書き出してみることで、新たな気づきが生まれる

・原因不明の病態に出会ったら、答えはベッドサイドにある
→病歴と診察に戻ることが大事

・原因不明の病態に出会ったら、巨人の肩の上に立ってみる
→自分が知っている世界だけが、世界ではない


2022年6月11日土曜日

東京GIM 〜SAB(サブ)はサブじゃない〜

 今回の症例は若い男性の急性の発熱や悪寒戦慄で来院された症例でした


となると、まずは感染症から考えます


感染症を考えたら、いつものように原則に沿って情報収集します



まず一番大事なのは、患者背景です

患者背景は人となりとも言われますが、具体的には、

免疫状態はどうか?

曝露はないか?

余力はどうか?

を考えます


この方の免疫状態は、心臓にVSDが指摘されていたので、
心臓に問題が起こりやすい状態です

他に免疫が破綻するところはありませんでした


曝露はというと、植物に関わる仕事であり、
土(レジオネラ、破傷風)、虫(ダニ、ツツガムシ)、植物(薔薇)を考える必要があるかもしれません


ここの曝露では性行為や海外渡航歴がないかは早々に聞いておく必要があります


「ちゃぶ台返し系キーワード」と呼んでいますが、

それがあると鑑別がガラッと変わるからです


今回の症例ではそういった曝露はありませんでした

余力は若い男性であり、バイタルも問題なかったのでありそうです



患者背景を考えたあとは、focusを探します

市中の感染症の中で敗血症になる頻度の多いものから考えるとよいです

5+1と覚えます


今回はfocusがはっきりしないので、1の感染性心内膜炎が疑わしいですね


あとはfocus不明になりやすい感染症もあります

focus不明になりやすい感染部位
focus不明になりやすい病原微生物があります




focus不明になっている理由は色々あります


診察を端折ってしまっている
→診察に一手間かけましょう


自らは痛いと言わない場所に感染源がある
→本当に痛みがないか、叩きましょう


検査でしか分からない時もある
→狙って検査しましょう


時間がたたないと分からない時もある
→primary bacteremia、結核、皮疹のない帯状疱疹、稀な病原菌による感染症





今回の症例は尿からグラム陽性球菌が見え、抗生剤が開始となりました

翌日、血液培養からも黄色ブドウ球菌が検出されました


いわゆるSAB(Staphylococcus aureus bacteremia)ですね

SABの症例に出会ったら、バンドルに沿ってやることをやります

1、血液培養のフォロー
2、早期のソースコントロール
3、心エコー
4、早期の適切な抗菌薬使用
5、適切な治療期間


IEの合併が多いので、本当にIEでないか?をひたすら疑い続けることになります

毎日、皮膚や心雑音を聞き続け、
背中、頭、関節といった他の部位に痛みが出ないか、診察を行うことが重要です

疑わしい部位があれば、ドレナージの必要が出てきますので、画像評価を行います


SAB(サブ)は全くサブ(副)ではありません

むしろ、「SAB(やIE)は感染症の王様」です



本症例ではIEの診断はつきませんでしたが、
SABもIEも同じスペクトラム上にあるので、適切な経過観察が非常に重要となります


感染症の原則の一番最後の原則ですね


5+1の1には続きがあります

・心臓のトラブル:特に弁輪部膿瘍
・塞栓・播種した先のトラブル:特に脳膿瘍、椎間板炎、関節炎
・免疫介在のトラブル:特に感染後糸球体腎炎


これらが、経過中に出現してこないかを見ていく必要があります




今回の症例は当初から心電図変化がありました

心膜炎と心筋炎は同じ心電図で来ることがあるので、
心膜炎を疑ったら同時に心筋炎も疑います


USGではasynergyはなかったようですが、トロポニンが陽性でした

この時代はコロナワクチン後の心筋炎が多いので、
まずはワクチン接種歴の有無を確認します


心筋炎の証明は、造影MRIか心筋生検(もしくはPET)です

造影MRIは心筋炎の存在証明ができますが、浸潤している細胞まではわかりません


心筋生検の場合は、浸潤している細胞がみえます
特に好酸球浸潤があった場合は、積極的にステロイドの適応となるので有用なこともあります


本症例は結局、心筋炎が発覚したため、
黄色ブドウ球菌の化膿性心筋炎の診断となりました


IEの証明はされませんでしたが、個人的には、
疣贅がエコーでは見えない程度の小さなIEからの心筋や心膜への炎症波及ではないかと思いました


IEの心臓の中でのトラブルは弁輪部膿瘍や弁膜症が有名ですが、
他にも心筋炎や心筋膿瘍、化膿性心膜炎を合併します



化膿性心膜炎


初期の頃は診断しにくい病気です

他の原因の心膜炎と違って、胸痛は少ないと言われています
ECGも正常例があります

そのため、疑わしい場合は、
UCGを繰り返し、心嚢水が増えてこないかをチェックする必要があります


経過中、心膜摩擦音が顕在化してきたり、心嚢水が増えてきたら疑います


化膿性心膜炎の一番多い原因微生物は、黄色ブドウ球菌です



化膿生心膜炎の治療はドレナージや手術になる場合もあります


手術後に収縮性心膜炎のリスクがあるため、
ウロキナーゼを使ったり、コルヒチンが処方されるケースもあります






まとめ

・感染症を疑ったら、常に感染症の原則(三角形)に沿って考える

→患者背景では「免疫」「曝露」「余力」を意識する


・感染部位で多いのは、5+1。focus不明になりがちなのは、1(IE)

→他にもfocus不明になりやすい感染部位と原因微生物がいる


・SABやIEには続きがある

→適切な経過観察が求められる疾患。

 毎日の丁寧な診察が重要

2022年6月8日水曜日

低血糖 〜インスリンとCペプチドの測定を忘れずに〜

低血糖について


解説動画

解説動画②


まず、その低血糖に病的意義があるかを考える必要があります

いわゆる 低血糖と低血糖症の違いです


低血糖は検査値として血糖値が低いことです


低い血糖が全て問題というわけでもありません

健常者でも低血糖になることはありますが、普通は症状はありません



問題になるのは、低血糖症です


低血糖症はwhipple 3徴が揃う状態です


こちらは何らかの原因があり、原因検索を行う必要があります



無自覚性低血糖という状態もありますが、これは無症状の低血糖をいうわけではありません


無自覚性低血糖は自律神経症状がなく、いきなり中枢神経症状が出現する状態のことをいいます


無自覚性低血糖は非常に危険です

本人が気が付かないまま、意識障害に陥るため、場所や状況によっては命の危険があります


信号で例えると、自律神経症状は黄色信号です

このままだと危ないという注意喚起です


放っておくと、赤信号の中枢神経症状に突入します

進んではいけないところを進もうとしている状態です



高血糖は悪いのですが、すぐに命の危険が出ることは稀です

一方、低血糖はすぐに命の危険がありますし、後遺症のリスクもあります


高血糖は悪いのですが、低血糖はもっと悪いと覚えておきましょう




低血糖症の患者さんに出会ったら


低血糖症を起こす疾患は、

インスリノーマ、薬剤、副腎不全、アルコール、肝不全、ダンピング・・・


鑑別がたくさんありすぎて、パニックになります


ですが、低血糖は原因検索が難しいわりに治療は簡単です 笑


グルコースのIVです

簡単なのですぐに治療したくなりますよね


それはもちろん正しいのですが、

グルコースを静注する前に採血をしていただきたいと思います


原因検索はその採血があれば、後からでも構いません


低血糖時のインスリンとCペプチドの値があれば、

鑑別疾患を絞ることができます



現実は状況や文脈で原因は明らかなことがほとんどです


・敗血症を疑う状況での低血糖

・アルコール多飲歴があり、食事摂取不足している人の低血糖

・肝硬変の人が、ご飯がとれなくなった時の低血糖

・血糖コントロールが改善してきているにも関わらず、DO処方されているSU剤

・食事量が低下しているにも関わらず、同じインスリン量をうった

・胃切除後の人の食後の低血糖  など


ですが、状況から原因は予測できても、その時点で確定することはありません


インスリンやCペプチドがあれば、後で自分の予想があっていたかを確認することができます


多くの場合、インスリンやCペプチドは低下していることが多いのですが、

高値であった場合が問題です



低血糖症にも関わらず、インスリンが抑制されていない病態は限られています


インスリン自己免疫症候群やインスリノーマ、ダンピング症候群、薬(SU薬、グリニド)、インスリンの注射などです



これらを鑑別するためには、

①インスリンやCペプチドの絶対値:

→著明高値の場合、インスリン自己免疫症候群が疑わしい


②インスリンとCペプチドの比:

→1以上の場合、インスリン自己免疫症候群が疑わしい


③インスリン自己抗体の有無:
→陽性であれば、インスリン自己免疫症候群が疑わしい

④Cペプチドが上がっているかどうか:
→上がっていなければ、インスリン注射

に注目することで、鑑別が進みます




インスリンが上がっている疾患の代表格は
インスリノーマとインスリン自己免疫症候群です


他のダンピングや薬は原因不明になることは少ないので、
この二つの鑑別を進めることがメインになります


インスリノーマのゲシュタルトは、
「原因不明の繰り返す意識消失や治らないてんかん患者さん」です



ですが、インスリノーマを診断したことがある医師はどれくらいいるでしょうか?



インスリノーマは非常に稀な疾患であり、
ほとんどの医師は名前だけ知っている疾患になっていると思います 



そのため稀すぎてインスリノーマを想起できない、
というのが1つ目のピットフォールです



そして、意識消失時は採血されておらず、
意識が改善した時には血糖値が戻っているということが起こり得ます


そのため低血糖が発覚しにくいというのが2つ目のピットフォールです




インスリノーマを疑う状況は、
パニック障害を疑った時や難治性のてんかん発作、
不定愁訴が続く人、副腎不全を疑う時です



血液検査ではHbA1cが5以下の時に
「あれ?慢性的に低血糖があるのだろうか?」

と疑うこともできます



インスリノーマを疑ったら、同時にインスリン自己免疫症候群も鑑別になります


低血糖時にインスリンとCペプチドを測定しておくことで、
この二つの疾患に迫ることができます


インスリン自己免疫症候群は典型的には、食後の低血糖発作です


食後の低血糖発作といえば???


ダンピング症候群ですよね



ですが、胃はある


という時にインスリン自己免疫症候群を疑います


インスリン自己免疫症候群(IAS)は、平田幸正先生によって報告された疾患で、
なんと1970年にIASの概念を報告しております

海外では平田病とも言われます


20〜30歳の女性に多いのは、この年代の女性にバセドウ病を合併していることが多く、
メルカゾールを内服していること、美容目的のサプリやグルタチオンの影響が考えられます


若い女性の診断がつかない不定愁訴をみたら、
一度はインスリン自己免疫症候群を疑ってもよいかもしれません


インスリン使用歴がなく、インスリン自己抗体を測定し、陽性であれば診断がつきます





まとめ
・低血糖の人をみたらwhippleの3徴が揃っているかを確認する
→低血糖と低血糖症は違う

・低血糖症は早期に治療しないといけないが、治療前に忘れずに採血を行う
→インスリンとCペプチドを測定する

・低血糖症の鑑別は多いが、インスリンとCペプがあれば後で考えることができる
→インスリンとCペプが上がっているか、下がっているかで大きく鑑別が異なる


2022年6月4日土曜日

The After-Dinner Dip 〜非糖尿病患者さんの低血糖〜

 今回のNEJMも勉強になりました


内分泌や電解質の疾患が鑑別になると、OOPS!になりやすいと言われています


カルテはSOAPでかくように習いますが、

よくあるのは、O(Objective date)の検査・検査・検査があって、

アセスメントなきP(Plan)があって、ようやくSの病歴に戻る


という皮肉をアメリカでは、「OOPS!」というようです 


今回は低血糖の鑑別をひたすら進めていくcaseでした


OOPSにならないように、どうしても病歴に戻りたくなりますが、

今回の症例はひたすら検査で終わりました 笑


タイトルのdipにひっぱられて、何か外からdipされた(盛られた)に違いない、

これは事件だ!


と思ってましたが、dip(下がる)とdip(つける)の意味でした



低血糖のアプローチを学ぶとてもいいケースでした












まとめ

・低血糖は空腹時か食後かのタイミングも大事
→食後の場合、鑑別が狭まるかもしれない:ダンピング、経口(インスリン刺激する薬剤)
 インスリン注射、膵β細胞の腫大、インスリン自己抗体症候群

・低血糖発作を繰り返している人の体重は要チェック
→インスリノーマの場合、増えるが、減ってきた場合は、自己免疫症候群を疑う

・低血糖の鑑別はややこしいが、低血糖だった時のCペプチドとインスリンの値があれば、後で考えることができる
→何も考えなくていいので、低血糖の時はCペプチドとインスリンは必ず測定する

・インスリン経路か、インスリン以外の経路の低血糖か、が大きな分かれ道
→特に背景に巨大な腫瘍がある人の場合は、「まあ、癌だし仕方ないか・・・」で終わりがち
 実はIGF産生腫瘍かもしれない

・インスリンやCペプチドは絶対値も大事、比率も大事
→著明な上昇をみたらインスリノーマよりもインスリン自己免疫症候群を疑う


・インスリン自己免疫症候群はインスリン自己抗体の測定で診断する
→ただし、type Bの受容体抗体は測定できず
 インスリン自己抗体が陰性でもインスリンとCペプチドの比をみることで、
 受容体抗体が原因のインスリン自己免疫症候群の診断ができる



2022年6月2日木曜日

食べられない高齢者に食べてもらいたい時

症例 88歳 女性  椎体の圧迫骨折で入院中


内服はリセンドロン、ドネペジル、アルファカルシドール

本人は腰の痛みの訴えが強く、トラムセットを入院後から開始している


入院の初めは食事がとれていたが、入院後食事量が減っていった


さあ、食べられない高齢者に対して、

どのようにアプローチしていけばよいでしょうか?


解説動画





入院中のトラブルはいつもの3つを考えます

入院中の発熱で使われますが、何でもいけます
意識障害でも食欲低下でも何でもOKです


つまり、

①入院のきっかけとなった原疾患に関連したもの
→今回であれば、転倒をきっかけに腰椎の圧迫骨折をきたしています
そのため、転倒によるCSDHが心配になります

また診断間違いというのもここで考えます
圧迫骨折だと思っていたら、化膿性椎間板炎や骨転移だったとかです


②入院中に行った介入(足したもの、引いたもの)
→入院すると、点滴したり、尿カテが入ったり、モニターがついたり、何かしらの薬が加わりますよね

それらの有害事象を考えます


足してないのに足しているということもあります

例えば認知症の人が自宅で自分で薬を管理していた場合、
出されていたアリセプトを全く飲んでいなかったが、
入院後からしっかり飲むようになってしまって、吐き気が出ているとか・・・です


逆に引いたものもあります

消化管出血や腸閉塞の人で抗精神薬が止まってしまった
もともと飲んでいた市販の薬を飲まないようになった・・・などです


入院後に実は足していないのに、足していることや
引き算されていることがあるので、ここは盲点になります


③その他の偶発的な事象
→入院中の病棟のコロナクラスターに巻き込まれた
たまたま鼠径ヘルニアになってしまったとかです








食べられない高齢者に出会ったら


①誰が何に困っているかを確認する

医者や周りのスタッフが食べてくれない患者さんに困っている
家族やケアマネが困っている
栄養士やSTさんが困っている

だが、本人は何も困っていない

ということはよくあります


食べられないことは、果たして何か問題なのでしょうか?


まずは、誰が何に困っているかを再確認しましょう




②食べられないのは、illness trajectoryの自然な流れかを確認する

自然な認知症や老衰の場合、食べさせる必要はないかもしれません
食べてもらいたくても、残念ながら不可逆なことが多いです

ACPが進んでいれば、そのまま自然な最期を迎えることもあります



一方、今までしっかり食べていた人がある時から急に食べなくなってしまった場合は、
急性期疾患が合併している可能性が高く、可逆性のことが多いです


この場合、原因検索が重要です



最も難しいのはacute on chronicな場合です

この場合も可逆性の要素があるので、原因を探しますが、
ACPを進めていく必要があります



③原因探し〜どうして食べられないのか?〜

むしろ今までどれくらい食べていたのか?から情報収集します
家族からの情報だけでなく、体重や血液データをいった客観的な指標も参考にします



食べられなくなった日の直前や数日前に原因があることが多いので、
年表を作ってみて、因果関係のある事象を検討します


病棟が変わった、食形態が変わった、
転倒した、点滴が始まった・・・など

何かしらのきっかけを探ります


そして、診察や検査で急性期疾患が起こっていないかを探します


検査は盲目的に上部・下部消化管内視鏡をすればよいわけではなく、
疾患を狙う必要があります


血液検査で高カルシウムや甲状腺、コルチゾールを狙います

腹部CTではいつの間にか、(大腿・鼠径)ヘルニアはたまにあります
頭部CTではいつの間にか、CSDHや小脳出血もよくあります
骨盤CTではいつの間にか、恥骨や圧迫骨折もよくあります
頭部MRIではいつの間にか、視床梗塞や小脳梗塞もよくあります


高齢者や認知症の方の診察には限界があります

画像に頼らざるを得ない部分がありますので、診察の限界は知っておきましょう



正直、何でもありなので、ICUのカルテのように「by system」で考えることが重要です


検査については、侵襲性が低いものからやっていきます




そして、ここからの話は器質的な原因が見当たらなかった場合の話です



まず、何をやるか?です



まずやることは、自分の目で食事風景を見ることです

そして、食事介助をしてください


そうすれば、半分くらい原因がわかります



電子カルテの温度板を見たり、看護師さんから情報を聞くのではなく、
直接見にいきましょう

百聞は一見にしかずです



食事がとれなくなった高齢者は、
パズルの1ピースが欠けているような状態だと思ってください


何かが足りない(もしくはいらない)状態なのです


目の前の患者さんに食事をとってもらいたいのであれば、

その何かをひたすら探し続けることが、求められます

それはとても根気と労力がいる作業です



そのため、多くの医師はパズルのピースを探すことを諦めて、
胃瘻を作るかどうか?という選択肢を提示し始めます


胃瘻を作った方が楽だからです


誰が楽なのでしょうか?


もちろん、医者です




なので、最初の質問に戻る必要があります


誰が何に困っているか?です


医者が食べられない患者さんに困っているから、その解決策として胃瘻を作りました

という事態が日本中で起きています


胃瘻を作る前にやれることはたくさんあります

患者さんが求めているのは、胃瘻というピースではありません




食事がとれない原因がはっきりしない場合の治療法


どんな症状の治療も同じですが、提案するのは薬だけではありません


必ず非薬物療法についても提案します


そして薬物療法の場合は、西洋薬と漢方の両方を提示できるとよいです



非薬物療法


①環境調整

人:介助者を変えてみる、家族や知り合いなら食べる人もいる

もの:スプーンや食器を変えてみる

場所:人がたくさんいる場所、スタッフのいる場所など

時間:覚醒がいい時間にしてみる、2時間くらいゆっくり時間をかける


参考:食事場面における認知症ケアの考え方


最終手段であり、最も効果が高いと感じている切り札は、

自宅(施設)への退院です


病院では全く食べなかった人が、自宅に帰ったら食べられるようになる

というのは、誰もが経験していることではないでしょうか?


もちろん、そのまま食べられない可能性もあるので、

Plan Bも考えておく必要があります


②食事の変更

栄養士さんと相談して、本人の嗜好に合わせた食事を提供してみます

見た目や盛り付け、匂い、味などに気を配ります


③運動

ずっと寝たきりで食欲が出るわけがありません

リハビリの方と協力が必要です

体を動かすことで、消化管も動き始めます


朝の太陽の光に当たるとセロトニンが分泌されたり、睡眠の質の向上にもなるので、

窓の光に当たる場所に変更するのも一つです



④時間

何をしても食べなかったけれど、

いつの間にか食べられるようになってきた・・・


何が原因かはわかりませんが、時間が解決してくれたと感じる人もいます


中腰の姿勢で待つ意味はあると思います



薬物療法


非薬物療法はどちらかというと、

医師よりも他のコメディカルのスタッフの腕の見せ所です


医師の腕の見せ所は薬物療法になります


薬はここでも足し算と引き算を考えます

まずは引き算から考えることが重要です


吐き気や食思不振につながる薬をやめます

意識状態を落としたり、うつやせん妄を惹起するような薬もやめます


とことん、減らすことが重要です



引き算しても、やっぱり食べられないという時は足し算の出番です


薬の足し算の考え方は

①副作用が少ないものから順々に使う

②使うなら一つずつにする

③効果判定を必ず行う


闇雲に薬を出すのではなく、目の前の患者さんに当てはまる状態に応じて、

薬を選択します


日内変動がある意識障害があれば、せん妄かもしれないので、

クエチアピンを入れてみるとか


認知症が進行し、アパシーのような状態であれば、

アリセプトを入れてみるとか


CTで便秘がしっかりある場合は、

まずは排便コントロールをしっかり行うとか


食べると気持ち悪くなってしまって食べられない人は、

FDや消化管の動きの問題と考え、ガスモチンを入れてみるとか


うつ傾向が強い人にはリフレックスを入れみるとか



最も効果がありそうなところから順番に使っていくイメージです

治療に関しては、トライアンドエラーをするしかありません





まとめ
・食事がとれない高齢者に出会ったら、誰が何に困っているかを把握する
→問題でないこともある

・食事摂取不良を問題点としてあげるのであれば、これまでのillnes trajectoryを考える
→acuteなのか、Acute on chronicなのか、Chronicなのか

・食事がとれない理由を考える前にまずやること
→食事風景を見にいく

気腫性骨髄炎

 

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