本日の症例は73歳 男性の誤嚥性肺炎の症例でした
よくある疾患ですが、誤嚥性肺炎は奥が深いです
誤嚥性肺炎の診療を見直すいい症例でした
まず、「誤嚥性肺炎」の確定診断はどうされていますか?
何があったら、誤嚥性肺炎と言えますか?
・誤嚥している場面を目撃する
・嚥下機能が落ちている
・嘔吐した後に肺炎を起こした
・病歴や身体機能から
・同じような肺炎を繰り返している
・CTで下葉背側に浸潤影がある
・CTで気管内に痰の貯留がある
などが意見として出てきましたが、
これがあれば「誤嚥性肺炎」という確定診断をつけるのは難しいです
誤嚥性肺炎の明確な診断基準はありません
みなさんが診断の拠り所にしているものはなんでしょうか?
実はあまり言語化してこなかったところではないでしょうか
「なんとなく」というのが正直なところかもしれません
今日は「なんとなく」をあえて言語化して、「誤嚥性肺炎」を紐解いていきます
誤嚥性肺炎の診断のよくある勘違いとして、嘔吐や誤嚥のエピソードの存在です
いわゆる顕性誤嚥はあってもよいですが、なくてもよいです
あった場合は、誤嚥性肺炎というよりも誤嚥性肺臓炎(化学性肺炎)かもしれません
こちらは治りが早く、抗生剤が必要ない時も多いです
本当の誤嚥性肺炎は明確な誤嚥のエピソードを確認できないことが多いです
誤嚥性肺炎の本質は、
口腔内の唾液を静かに誤嚥(いわゆる不顕性誤嚥)して発症します
派手な誤嚥は要りません
誤嚥性肺炎を診断するために、自分なりの3つのステップがあります
①嚥下機能の評価(積極的診断)
②画像的診断・微生物学的診断
③他の疾患の除外(除外診断)
があります
この中のどれかがひっかかる場合は、
本当に誤嚥性肺炎?と思った方がよいです
①嚥下機能の評価(積極的診断)
まずは嚥下機能の評価を行います
嚥下機能の評価は、ABCDEで覚えます
Acute problem:急性の問題
Best swallow :頭部後屈していては嚥下できない、
食形態が間違っている、早食い
Care of oral:口腔内の衛生環境、唾液、義歯があっていない
Drug,dementia,delirium:唾液が出なくなる薬、
せん妄や傾眠を起こす薬、
GERDになりやすくなる薬、
便秘になりやすい薬など
Eiyou,Energy:oral フレイル、低栄養、リハビリ
これは奥先生から教えてもらいましたが、森川先生が世に拡めたという感じですね
この中で大事なのはAcute problemです
誤嚥性肺炎はあくまで下流であるということです
もっと上流に目を向けなければなりません
〇〇で具合が悪くて、誤嚥して誤嚥性肺炎を発症
〇〇はなんでもありです
脱水でも熱中症でも低Naでも腎盂腎炎でも心筋梗塞でもCSDHでも
なんでもいいです
自分は誤嚥性肺炎の人をみたら、ドミノ倒しをイメージでしています
「誤嚥性肺炎」という最後のドミノが倒れてきたのは、何故か?
それをABCDEで考えます
人はなるべくして、その病気になっていると考えるようにしています
この患者さんが、このタイミングで、この病気になったのは、
必ず理由があるはずだ
という確固たる思いで診療にあたっています
そうすると、誤嚥性肺炎に至ったドミノ倒しを巻き戻ることができます
これが誤嚥性肺炎から始まる物語です
最後のドミノを元に戻しても、その手前のドミノがぐらついていれば、
また誤嚥性肺炎になります
次の誤嚥性肺炎を予防するため、食形態や口腔環境を見直し、
嚥下評価を行い、リハビリを行い、栄養をつけて、退院後の支援に繋げましょう
薬一つで予防できる他の疾患とは異なり、多職種が関わることが求められます
誤嚥性肺炎のマネージメントは主治医の腕の見せ所です
②画像的診断・微生物学的診断
嚥下機能の評価は、感染症の三角でいうところの患者背景にあたる部分です
感染症の原則の一番大事なところが、患者背景です
誤嚥性肺炎は、もちろん感染症なので、
まず初めに患者背景を考えてきたわけです
感染症の三角形で次に考えるのは、感染部位です
感染部位はCTの所見が重要になります
誤嚥を示唆するような気管支散布影や下葉の背側優位の浸潤影などが傍証になります
ただ、誤嚥性肺炎のCT画像は色々な所見を取ることもあり、
参考程度に考えておきましょう
そして、大事になるのが微生物診断です
痰のグラム染色でpolymicrobial patternになります
横文字だと格好いいですが、
日本語だと「なんやかんやいっぱい菌が見える」ということです
先日のNEJMの誤嚥性肺炎のケースも痰のグラム染色の所見を重視していましたね
①と②で、誤嚥性肺炎と診断したくなりますが、③も重要です
③他の疾患の除外(除外診断)
誤嚥性肺炎の診断のためには、
嚥下機能評価と同時に他の疾患の除外も必要になります
ここはAcute problemとも通ずる部分がありますが、
実は他の疾患ではないか?という思考が必要です
誤嚥性肺炎だと思ったら、〇〇だったというのは枚挙にいとまがありません
・誤嚥性肺炎だと思ったらコロナだった(これは最近多いでしょう)
→コロナが流行して分かったことですが、
コロナになった後に誤嚥性肺炎になる人がたくさんいますね
そう考えると、これまで高齢者は風邪ひかないと言われていましたが、
実は風邪は引いているが、誤嚥性肺炎という表現形で
我々の前に現れていただけなのかもしれません
・誤嚥性肺炎だと思ったら結核だった
→何故か普通の抗生剤で一旦よくなるんですよね〜
抗酸菌染色は陰性でも、後日培養で陽性が発覚する人がいます
誤嚥性肺炎疑いの人に抗酸菌培養を出す、出さないはケースバイケースです
もちろん、強く疑ったら3連痰と隔離ですが、
1回だけ抗酸菌培養を出すプラクティスも行われているのではないでしょうか
他にも他の細菌性肺炎や心不全、器質化肺炎、肺塞栓、敗血症性塞栓、腫瘍などなど・・・鑑別すべき疾患は色々あります
明確な診断基準がないからこそ、
フレイルの進んだ高齢者の肺炎は、ついつい誤嚥性肺炎といってしまいがちですよね
「誤嚥性肺炎疑い」の人ですと前医から申し送られたら、
いつの間にか自分の中で「誤嚥性肺炎」の人になっていることが多いのではないでしょうか
診断に関しては、人を信じないというのが鉄則です
これは言うのは簡単ですが、実践するのが難しいんですよね〜
なので何度も自分に言い続けることが大事です
まとめ
・誤嚥性肺炎かもしれないと思ったら、3つのステップを辿る
→①嚥下機能の評価(積極的診断)
②画像的診断・微生物学的診断
③他の疾患の除外(除外診断)
・嚥下評価はABCDEで考える
→Acute problem
Best swallow
Care of oral
Drug,dementia,delirium
Eiyou,Energy
・この患者さんが、このタイミングで、この病気になったのは、必ず理由があるはずだと思いこむ
→ドミノ倒しを遡っていく(誤嚥性肺炎から始まる物語)
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