2022年8月17日水曜日

新型コロナウイルス感染をのりこえるための説明書 〜変わってきたこと・変わらないこと〜



オミクロン株BA.5編

7月〜8月にかけての第7波はひどい状態です


ウイルスの脅威は以前よりもなくなっているにも関わらず、
なぜ現場は以前よりもひどい状態になっているのでしょうか・・・



新型コロナウイルスが見つかってから、はや2年と8ヶ月が経ちました



この間で

変わってきたこと、変わるべきこと、変わらないこと

について解説していきます




ウイルスが流行すると、情報も増えてきます

ですが、自分にとって必要な情報はそれほど多くはありません


情報や知識は多ければ多いほど、よいというわけではなく、
その情報が正しいかどうかの方が重要です


もう一度、情報を整理していきましょう




第7波はこれまでとは桁違いの大きさです


新規感染者が多すぎて、新規死亡者も増えてきています



感染者が多すぎる一方、医療従事者の感染者も多く、
一部の医療機関は機能が停止しています


病院の中の一つの病棟でクラスターが起きて、
ようやく終息したと思ったら、
今度は別の病棟でクラスターが起きるというのは日常茶飯事です

クラスターが起きた病棟はしばらく使えなくなります




以前のようにクラスターが起きた病院がニュースにでることはなくなりました

なぜなら、クラスターはどの病院でも頻繁に起きているからです



外からの感染者の増大に加えて、内からの感染者増大のダブルパンチに
医療従事者はこれまでにないくらい疲弊しています



もちろん、医療者の疲弊や医療機関の機能不全で
一番、困るのは患者さんです


救急車の受け入れ困難や自宅療養中に亡くなられた例などが
連日のニュースで取り上げられるようになってきました




感染者が多すぎる→外来に殺到・クラスター発生→スタッフが疲弊→
スタッフが離脱(身体的・精神的疲労)→マンパワー不足→さらにスタッフが疲弊


感染者が多すぎる→スタッフが離脱(感染)→マンパワー不足→さらにスタッフが疲弊



この悪循環を断ち切るためには

・感染者を減らす
・感染者が外来に殺到しないようにする
・スタッフの業務量軽減
・マンパワーの補充
・スタッフのエンパワーメント


などの対応が考えられます



感染症が流行する時の3要素は


社会の要因・個人の要因・病原体の要因


の3つです


この3要素が複合的に絡み合って、大流行を引き起こします




日本の新規感染者は世界でもトップクラスです

ですが、海外でもBA.5は流行しています


それでは、なぜ日本と韓国が突出しているのでしょうか?


ここにも多くの要因があると考えられています


アメリカを含む海外ではBA.1の流行が非常に大きく、

BA.1に感染した人は、BA.5に対して一定の免疫ができるため、

BA.5に感染しにくくなります



一方、日本はBA.1の流行があまり大きくなかったため、

BA.5の流行が大きくなってしまったと考えられています



ですが、もっと大きな要因があると思います



それは、「他国が全例検査や全数報告をやめたから」です


こんなに感染者が多く、重症化も減ったウイルスに対して、

真面目に検査や報告をしていたら、時間がいくらあっても足りません



というわけで、感染者が多すぎますし、以前ほどウイルスの脅威はなくなったため、

他の国では、全例検査や全数報告をやめています


これが日本が世界でトップクラスの感染者を誇るからくりだと思います


ちなみに韓国もまだ全数報告しています


マスクを着けている人が多い日本の新型コロナ感染者数が、世界最多なのはなぜ?




最近、病院に行った人はお分かりだと思いますが、
病院はどこも混雑しています


外来の電話は鳴りっぱなしで、患者さんが殺到しています

現場はまさに地獄絵図で、スタッフは上層部が思っている以上に疲弊しています



患者さんはそんな裏事情は知る由もありません


病院に来られる患者さんが辛いのはわかりますが、

そこで働いているスタッフも同じくらい辛い状態でいることは、

知って欲しいと思います



患者さんにも、上層部にも・・・





というわけで、悲惨な現場の声を聞いてくれた4学会が声明を出してくれました



簡単にいうと、


「ほとんどの人は、

今のコロナは家でゆっくり休んでいれば、自然に治ります。


慌てて病院に行かなくても大丈夫です。

自宅にいても検査や症状への対応はできます。


病院に行って欲しい人やタイミングをお伝えします。」


ということです




「コロナかも!?と思ったら、すぐ病院へ!」


の思考を変えていきましょう


「コロナかも!?と思ったら、まず学校や仕事を休みましょう」



そして、


①今の症状を確認してください


どんな症状がありますか?


すぐに病院受診した方が良い症状もありますので、

当てはまれば病院へ電話相談してから、受診を検討してください





②すぐに病院受診するほどの症状がなければ、

自分自身を振り返ってみてください


年齢は?


妊娠中ですか?


持病はありますか?

定期的に病院に通院していますか?

日頃から飲んでいる薬はありますか?


持病がなくても高度肥満やヘビースモーカーの方、

ワクチン未接種の方は重症化リスクです


重症化リスクを持っている人は、

軽度な症状でも病院受診を検討していただければと思います




(重症化リスクのない軽症な方の場合)

今、病院に行って長い待ち時間と引き換えに得られるものは、

「コロナの検査結果と解熱鎮痛剤」です



「コロナの検査結果と解熱鎮痛剤」は
病院に行かなくても自宅と薬局で得られます



重症化リスクがなく軽症者には、
コロナに対する特別な薬は処方されません



内服のパキロビットやラゲブリオは国が管理しており、

インフルエンザのタミフルのように簡単に処方できる薬ではありません






今のコロナ(インフルエンザも)は、
ほとんどの人は抗ウイルス薬は必要なく、
自宅でゆっくり休んでいれば自然に治ります





仕事を休むため、学校を休むために検査証明を求めて患者さんが病院受診すると

病院の機能が停止してしまうので、ここに歯止めがかかればいいなあと思っています



子どもがコロナにかかったかもと思っても、

ほとんど同じ流れになります



兵庫県立こども病院 感染対策部、感染症内科の先生方が、

作られたものを一部修正して作ってあります


お子さんがコロナに罹ったらどうする? 自宅療養のポイント ver.1.1



佐久医療センター小児科を中心に佐久医師会の方が作られた

こどもの病気 とおうちケア」のマニュアル

も大変参考になります







変わり続けるウイルス

人間社会は変わることができないところもありますが、

ウイルスは変異を続けています


アルファ(第4波)→デルタ(第5波)→オミクロンBA.1(第6波)→オミクロンBA.5(第7波)


と第4波以降は新たな変異ウイルスが流行を作り上げています


変異ウイルス毎に伝播性と免疫回避能力は上がり続けており、

波がだんだんと大きくなっています



幸い病毒性は(ワクチンの効果もありますが)

元祖の武漢株よりは、減ってきています



このようにウイルスは急速に変わり続けており、

医療も負けないくらいのスピードで対応し続けています


情報がどんどんupdateされていくため、ついていくのが大変です



社会や制度もどんどん変わってきています


ですが、社会のシステムや制度は簡単に変えられるものではありません


そのため、変化のスピードとしてはゆっくりです


このギャップに今、現場が苦しんでいます



ですが、ようやく・・・


「岸田首相は8月15日に厚生労働相ら新型コロナウイルス対策の関係閣僚と協議し、

全ての感染者を確認する「全数把握」の見直しの検討に着手するよう指示した」


と報道がありましたが、


遅かれ早かれ、全数把握はしなくなるのでしょうから、

できるだけ早くしてほしいものです・・・


中止するなら、業務量がピークの今だと思いますが・・・




さて、変わってきたウイルスですが、どのように変わってきたのでしょうか?


今、流行しているのは、オミクロン株から派生したBA.5と呼ばれるものです



BA.5の臨床的な特徴を5つあげてみました


①症状はいつもの「風邪」や「インフルエンザ」っぽくなってきています

中でも「咽頭痛」や「倦怠感」が強いという人が多いです


BA.5の臨床症状は、フランスやイギリス、日本から出ていますが、

どの国も大きく変わりないようです


新型コロナ オミクロン株亜系統BA.5による症状の特徴は?

症状の頻度、症状が続く期間について



Lancet 2022;399:1618-24


以前は特徴的といわれていた味覚障害や嗅覚障害は、少なくなってきています



②年齢によって症状が異なります


これは以前からそういう傾向はありました


高齢者は熱が出にくいというのは、コロナに限らずです



コロナの流行で感じたことですが、


「高齢者は風邪ひかない」というのは、


正しくは

「高齢者も風邪はひいているが、症状が目立たず、

風邪というプレゼンテーションではなく、

誤嚥性肺炎や普通の細菌性肺炎というプレゼンテーションで来る」


のではないかと思っています



③国立成育医療研究センターや国立国際感染症研究センターからの報告では、

デルタ株流行期と比較し、オミクロン株流行期では、

子どもで「けいれん」の頻度が多かったようです



救急外来で「熱性けいれん」で来られた場合、

しっかり感染対策が必要です



④重症化する頻度は以前より増えているわけではないようです


重症化のタイミングに関しては、

以前よりも早くなっていることが広島県のデータから報告されています



ですが、重症化の定義がここにきてよくわからなくなってきています


なぜなら、オミクロン株流行後、

途中で細菌感染が合併して酸素化が悪化するケースが増えているためです


これを重症化とするのか、

それとも軽症例に合併した誤嚥性肺炎として報告するのか・・・


今の重症例や死亡例は上記のパターンと

真の重症化が混ざって報告されていると思います



⑤潜伏期は平均3日


これは以前と変わりません


曝露があってから平均、3日たつと発症するケースがほとんどですが、

オミクロンでも約17%は6日目以降に発症するため注意が必要です


医療機関や高齢者施設でも濃厚接触者の待機期間を短縮しても安全なのか?


コロナに対する治療は色々変遷がありました


治療薬があるというのは、一般の方もご存知かと思いますが、

自分がその適応かどうかを知っている人はあまりいないと思います


残念ながら、ほとんどの人にはこの薬(抗ウイルス薬)の恩恵はありません


抗ウイルス薬の恩恵が得られるのは、

高齢者、重症化リスクを複数持っている人、ワクチン未接種の人です


広島県のデータでは、重症化リスクが高い人の割合は、全体で11%しかおらず、

89%の方は重症化リスクが低い人だったようです



まとめると、


重症化リスクがなく、ワクチン2回接種していて、

軽症であれば、そのまま自然治癒する可能性が非常に高いので、

余計な抗ウイルス薬は飲まなくてO Kということです





ウイルスの変化に伴い治療も変化してきています


中等症Ⅱ以上の治療に変化はありませんが、
軽症者の治療が目まぐるしく変わってきています



特に辛いのは、抗体製剤が使えなくなってしまったことです

一回投与で安全性も高かった抗体製剤が使えなくなったことは、
非常に残念です


というわけで、選択肢が限られました



軽症者の治療は

1、ニルマトレルビル/リトナビル(パキロビット®︎)
2、レムデシビル(ベクルリー®︎)
3、モルヌピラビル(ラゲブリオ®︎)

の3つに絞られました




日本のコロナ診療の手引きは、第8版までup dateされています

最初はとても有用でしたが、

・あまり変化がない部分が多い
・変異株にあっていない記述が多い
・治療の推奨が分かりにくい

といったことで批判されております



治療に関しては、「NIHのガイドライン」が推奨も分かりやすく、
up dateも頻繁であり、参考にされる先生が多いです




NIHのガイドライン(2022/8/8 最終更新日)では、
軽症者(入院や酸素が不要)で重症化リスクのある患者さんへの治療は


ニルマトレルビル/リトナビル(パキロビット®︎)(AⅡa)をまずは推奨

使えない場合には、レムデシビル(ベクルリー®︎)(BⅡa)


上記の代替薬として、モルヌピラビル(ラゲブリオ®︎)(CⅡa)


Rating of Recommendations: A = Strong; B = Moderate; C = Weak 

Rating of Evidence: I = One or more randomized trials without major limitations; 
IIa = Other randomized trials or subgroup analyses of randomized trials; 
IIb = Nonrandomized trials or observational cohort studies;



となっています



というわけで、パキロビットをまずは使うべきなのですが・・・・


日本の現状は真逆です


厚生労働省によりますと、

8月9日時点の使用実績は、

ラゲブリオが約38万4700人分

パキロビッドは約2万6200人分

となっています



これにも色々な理由はありますが、

・パキロビットを扱っている薬局が少ないこと
・パキロビットを処方する手間が多いこと
・薬の相互作用が多く、処方対象となる人が少ないこと
・医師の知識不足

などが挙げられます


この問題に関しては、薬剤師さんとの連携をはかり、
解決できるところもたくさんあると思います





ワクチンによって臨床像が変わってきました


大阪大学の山本 舜悟先生や
埼玉医科大学総合医療センターの岡 秀昭先生も
言っておられましたが、


重症化のゲシュタルトが変化してきています


オミクロン以前のコロナはいわゆる「クリニカルパス」通りに対応できるくらい、
同じような経過をたどることが多い病気でした


高熱が持続する人が、7日前後で急激に肺炎が悪化し、
7-10日前後でHFNCや人工呼吸器を検討する


そのため、ある程度の経過の予想も立ちますし、
治療も決まっていました



ですが、オミクロン以後はそのような悪化パターンをとらず、
誤嚥性肺炎や一般細菌の肺炎のような浸潤影が出現し、
じわじわ悪化してくるパターンがみられてきています


まとまった報告は論文としては見つけられませんでしたが、
今後、そういった症例報告が増えてくると思います



そのため、肺炎が悪化した場合に以前のように
安易にステロイドを入れるのは慎まなければなりません


いわゆる以前のようなコロナ重症化が起きているのか、
細菌感染の合併が起きているのか、

検討が必要かと思われます






弱毒化したオミクロンやワクチン接種しているにも関わらず、

重症例や死亡者が増えているのは、なぜでしょうか?



それは、ぎりぎりの状態で生きてきた超高齢者や
フレイルが進んだ高齢者に
感染が広がっていることが大きいと思われます


ウイルスの病毒性というよりも、個人の余力が影響しています



若い元気な人であれば、高熱が出て
食事が1-2日とれなくても、すぐに復活します


ですが、高齢者の場合、

もともとの臓器が限界に近い状態で
なんとか薬を使ってバランスを取っていたところで、

高熱が出て食事が数日でも取れなくなると、
一気に生命維持のバランスが破綻します



コロナがきっかけではあるものの、

結局は心不全の悪化や食事摂取不良からの老衰、
誤嚥性肺炎などが死因になっています





このように、コロナのゲシュタルトや死因は変わってきていますが、

余力のない高齢者をいかに守るか、

ということは変わっていません






不易流行

ウイルスの変異に始まり、治療薬の変遷、
ワクチンによる臨床像の変化、
そして社会の変化・・・


世の中は目まぐるしく変化し続けており、
その速度は加速しています


変化についていくことはもちろん大事ですが、
一方で変わらないこともあります


それは・・・

基本的な感染対策
感染者への配慮
思いやりの気持ち、感謝の心を持つことです



変化していくことに目を奪われがちですが、

変わらず大事なものにも目をむけるべきではないでしょうか







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