2022年9月10日土曜日

植物の種系鑑別疾患

 N Engl J Med 2022;387:833-8.


症例:3歳 男児  主訴:嘔吐、左下腹部痛(4日前)

Profile:先天性の水腎症を伴う左遠位尿路結石症でバクタの予防内服をしている
    尿路は拡張しており、手術は受けていない


左下腹部痛や嘔吐の精査で超音波検査を行うと・・・



こんなものが見えました

診断は?







腸重積です




明らかなlead pointは認めなかったため、特発性腸重積と便秘の診断となりました

輸液と対処療法で自然に軽快したため、一旦は退院となりました


しかし、また腹痛や嘔吐の再燃を認め、入院となりました


この時は腸重積の所見はみられず、大腸の壁肥厚や腸管膜リンパ節の腫脹がみられました

虫垂炎やDKAはなく、原因は不明でした



数日の経過で症状は改善していきましたが、鎮痛薬や吐き気止めが必要な状態でした

消化管造影検査が行われましたが、腫瘍性病変を疑う所見はありませんでした


隠れたlead point検索のため、CTがオーダーされましたが、

その前にある所見が出現し診断が確定しました



そのある所見とは???

















下肢や臀部の紫斑です


これでIgA血管炎の診断となり、ステロイドが投与され軽快したという症例でした





今回の症例のPoint

・慢性下痢にはならないけれど14日以上続く腸炎:エルシニア腸炎、CD腸炎

・睾丸痛:血管炎ではPNが有名だが、IgA血管炎でも起こりうる
     IgA血管炎の稀な疼痛として睾丸痛、背部痛がある

腸重積で回腸-回腸を見たら、IgA血管炎を想起する

・palpable purpura:小血管炎症、IEなどの感染症、膠原病などを想起する
 炎症や感染細胞が集まることで隆起して触れるようになる
 高齢者だと組織がルーズなため触れないことがあるので、それで否定はできない
 
 触れるかどうかは目を瞑って触ってみて、
 触れるところで紫斑があったら触れる紫斑として考える
 触れる紫斑で原因がわからない時は、Ig A血管炎としてフォローする


・治療抵抗性IgA血管炎の場合、ⅩⅢ因子欠乏に注意

原因不明の蛋白尿や血尿を見たときにIgA血管炎の既往(皮疹の既往)を確認する


・小児の腸炎のpitfall:便秘のある小児の感染性腸炎は下痢がないけど腹痛と嘔吐になる

・腸重積の原因:ウイルス感染(腸管でも腸管外でも)が多い、
          ロタウイルスワクチンは確認すべき

 ※小児の腸重積はパイエル板が発達しているからウイルスやワクチンで腸重積が起こりやすい



解説

腹痛を含め消化器症状をみた時のアプローチは、

①緊急性のある疾患から考える:心筋梗塞、穿孔、大動脈瘤、解離、SMA血栓

②頻度の高いものから考える:胆石、胃潰瘍、膵炎、腸炎、虫垂炎、憩室炎、腸閉塞

③消化管以外のものを考える:DKA、甲状腺、片頭痛、高Ca血症、副腎不全


というのが、現実的な考え方かと思われます


ですが、子供と成人の腹痛へのアプローチは若干異なります

子供の場合はよりお腹以外にも注目することが必要です



溶連菌の咽頭炎で腹痛が出現することもあり、お腹が痛いといっても咽頭所見を確認します

DKAを疑う場合は呼吸様式に注目する必要があります

IgA血管炎による腹痛の場合は、下肢や臀部に皮疹がないかを探します


このように子供の腹痛の場合は、全身の診察に診断のヒントが隠されています




自分の経験で印象深かった症例をご紹介します


3日連続で腹痛を主訴にきているお子さんがいました
自分が担当したのは3日目ですが、会った時からご両親はとても怒っていました


「いつまで経っても診断できないのか!」と・・・


超音波検査や血液検査、尿検査、造影CTなどで色々精査はされていましたが、
腸管壁肥厚の所見があり、腸炎の診断となっていました


ただ症状は改善を認めておらず、救急に毎日受診されていました


診察すると見た目はぐったりされており、お腹をかなり痛がっていました
腹部全体を痛がっておりましたが、腹膜刺激徴候はありませんでした


確かに腹痛の原因は、よくわからないが、入院かなと思っていました



そこでふと足を見ると、紫斑が出ていました


あーこれは・・・・ということで今回と同じくIgA血管炎の診断になりました


紫斑が出たのは、3日目でした
それまでは紫斑は出ておらず、診断がつきませんでした




この構図、ある疾患に似ていませんか?



そうです



帯状疱疹です




数日経ったらわかる、後医は名医パターンの疾患群です

自分は「植物の種系鑑別疾患」と呼んでいます 




こういった疾患を「見逃した!」と言われないために、自分がよく使う説明があります

 

「病気は植物みたいなもので、今はまだ、
 種が植えられた状態から少し芽が出ているような状態です。

 まだ葉っぱしか見えない状態で、なんの花が咲くか分かりません。
 

 病気も同じで、この場合はどんなに検査をしてもわからないこともあります。



 ただ、時間が経つと植物が成長するように、
 
 待っていれば花がさいて、〇〇の花だったんだ、と分かります。

 
 病気も時間が経てば色々な症状が揃って、診断がつきやすくなります。


 現時点ですぐに治療に踏み切るほどの根拠はありません。

 数日の経過は待っても問題はないと思われますので、
 注意しながら経過をみさせていただけませんか?」






初診外来で診断できる確率は50%もないかもしれません


診断がつかない時にどうやって、帰宅させるか?はとても重要です



最近のガイドラインや参考書には、「帰宅させる時の一言」のような例文が載っていることが増えてきました



非常に重要なことですが、残念ながら大事なことが抜けています




「何と言って帰すか」よりも重要なことがあります


「何を書いて渡すか」の方が重要です




大事なことは必ず、紙に書いて渡します


後々、言った・言わない議論になりますし、

医者から言われたことは患者さんは、ほとんど覚えていません


自分への戒めでもありますが、そのことをもっと自覚しないといけないと思います


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