2023年6月19日月曜日

MDSの3つの顔 〜前半 皮疹の考え方〜

悩ましいMDSの症例です(※症例は加筆・修正を加えてあります) 


78歳 男性が皮疹を主訴に来院されました

背景に無治療のMDSがある方であり、耳の皮疹が出現してきたようです

となれば、再発性多発軟骨炎ですね!



ボスが昔から口酸っぱく、言っておりました


「MDSの人は再発性多発軟骨炎を合併することがあるんだ。
 耳の赤みは狙っていないと見逃すから、
 注意して見ないといけないよ!」



10年以上前からそう教えられてきましたので、
MDSに再発性多発軟骨炎が合併するもんなんだなあ〜と漠然と思っていたら、、、

近年、名前がついてびっくりしました

2020年のNEJMにVEXAS症候群として発表されました


ユビキチン関連遺伝子変異による
VEXAS(vacuoles, E1 enzyme, X-linked, autoinflammatory, somatic)症候群という成人発症自己炎症症候群です


VEXAS症候群は鼻や耳の軟骨炎を発症し、皮膚症状をきたす人が多いです


これまでMDSの人に再発性多発軟骨炎が合併した人たちは、
VEXAS症候群だった可能性があるということです


現段階では名前がついていない疾患や症候群も
数年後には名前がついていると思うとロマンを感じますね 


「この症候群はいつか必ず名前がつく!」と今から言っておきたいものです 笑



今回の症例は両大腿部や右前腕にやや大きめの淡い楕円形の発赤を認めました
表面は綺麗であり、盛り上がっており、圧痛もありました

皮疹の考え方は「誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた」が人気ですね

とてもわかりやすくて、いい本ですが、
タイトルだけがちょっと・・・


皮疹については、いろんな先生から教えてもらっていたので、
誰も教えてくれなかったわけではない気がします 笑

皮疹の考え方(平本式)




鑑別診断もシステム1(直感)と2(分析的思考)で考えますが、皮疹も同じです


皮疹の場合は、システム1で終わっていることが圧倒的に多いですが、
内科医はシステム2で考える癖を持っておいた方がよいと思います


今回の皮疹は見た目の直感は脂肪織炎でした


あえて言語化(分析的思考)すると、

分布は上肢と両側大腿のみ、淡い楕円形の紅斑が斑状にみられる

範囲は拳〜手のひらサイズであり、境界は不明瞭

表面はきれいであり、紅斑は盛り上がっている
圧痛や熱感を伴っている


左右対称、上下肢の分布からは外的要因は考えにくく、体内の免疫機序が考えられる
血流に乗って詰まったような分布でもない
外傷や物理的なダメージがが働きやすい部分でもない

表面は平滑できれいであり、表皮の炎症(湿疹)はない
押せば消退する浸潤を伴う紅斑であり、
皮下・脂肪組織の充血(血管拡張)・浮腫が疑われる

熱感や圧痛を伴う紅斑であり、皮下・脂肪組織の炎症・細胞浸潤が疑わしい

システム2で考えても脂肪織炎でよいと思われます











脂肪織炎を疑った場合、2つ鑑別を忘れないようにしています

1つ目はリンパ腫
2つ目はヘリコバクター・シネジーです





これはヘリコバクター・シネジーの皮疹です

本症例の皮疹もこんな感じでした



日本の北海道や札幌の先生方のシネジー感染症の皮膚所見のまとめです
非常によくまとまっています

(以下引用)


H. cinaedi菌血症47例のうち34%(16例)に皮膚病変が認められました
いずれも高熱を伴う紅斑が突然出現した
 最も一般的な皮膚症状は表在性蜂巣炎で、
痛みを伴う紅斑や四肢の浸潤性紅斑を生じる

3例は浸潤した紅斑を示したが、6例の紅斑は浸潤はみられなかった
紅斑の直径は2~14cmで、1人の患者に見られた病変の数は2~12個であった

所見からは、Sweet症候群、固定薬疹、蕁麻疹、結節性紅斑などの鑑別診断が必要であると考えられた

5例とも病理組織学的には、網状真皮にリンパ球や好中球の炎症性浸潤がみられ、
軽度の脂肪の中隔炎が認められた

血管炎はみられなかった
Giemsa染色やWarthin-Starry染色では菌は検出されなかった


蜂窩織炎という言葉は、通常、真皮や皮下組織の炎症で、
細菌が原因と推測されるものを指します

しかし、H. cinaediの皮膚症状は、一般的な蜂巣炎ではなく、
「有痛性紅斑」や「浸潤性紅斑」がメインであることに注意する必要があります


 このような痛みを伴う紅斑は、細菌感染の典型的な皮膚症状ではないので、
容易に見過ごされる可能性があります

この菌は培養での増殖が遅く、血液培養で菌が確認できるまで、通常6〜10日かかる

培養結果が遅れると、スウィート症候群と間違って診断され、
不適切な治療を受けかねません

(引用終了)


というわけで、結節性紅斑の治療はNSAIDsやステロイドですが、

ステロイドで診断が遅れてしまう疾患(リンパ腫)と
ステロイドが害になってしまう疾患(H.cinaedi)を知っておきましょう





他の身体所見は問題なかったようです

お元気そうなので、血液培養や画像だけとって、翌週の外来フォローでも良さそうです

もちろん、本人の心配や都合で入院精査もありですね


では実際、脂肪織炎(結節性紅斑疑い)を見た時の対応です


精査の最終段階と治療の最終段階をイメージしながら、
逆算して診療を進めることが重要です



脂肪織炎の最終的な検査は生検になってしまうので、
そこに至らなくて済むかどうかは、他のヒント次第です

リンパ節腫脹と同じく、他の症状や所見がないかを確認します

病歴で溶連菌感染があった
ヘルペス感染があった
エルシニア感染があった
ベーチェットを疑う病歴があった

既往で潰瘍性大腸炎があった




皮疹をいくら見ても答えは分かりません

皮疹の答えを探したいのであれば、皮疹の周りを探すことが重要です


この理論は、ぶどう膜炎にも当てはまります



皮疹の周りにヒントがない場合は、皮疹をとるしかありません









実際は脂肪織炎は病理で白黒つかない時もあります・・・


結局、何だったのかよくわからないこともあり、

病理に引っ張られないというのも大事です



さて、本症例の結末は・・・





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