今週のNEJMは麻酔後の血圧低下と心電図変化でした
そりゃあ、アナフィラキシーかKounis syndromeでしょう!と言っていたら、
本当にそうでしたね
Kounis syndromeは、まだまだ知名度が低いので、
今回のケースは啓蒙も兼ねている気がしました
しかも原因になった薬が、術前の感染予防のTAZ/PIPCだったので、
それも何らかのメッセージがありそうでした 笑
麻酔中の血圧低下はよくあることですが、
タイミングによって原因が異なります
最も多いのは麻酔導入後です
もちろん、原因は薬です
年齢、術前の状態、併存疾患、内服薬、心機能など
血圧が低下するかの見積もりをしておくことが大事です
麻酔後に血圧低下するのは当たり前で、
血圧低下に対応する薬(フェニレフリンなど)も準備しておきます
ただ、問題はフェニレフリンを投与して少し血圧が上がったとしても、
また下がったり、そもそも反応が乏しい場合です
まだ手術始まっていないので、手技的な要因ではありません
考えられるとすれば、
患者要因(新たな疾患:PE,ACS,出血を発症した可能性)か
薬によるアナフィラキシー・Kounis syndromeです
麻酔中のアナフィラキシーは一度だけ、経験したことがあります
麻酔科の先生からヘルプの電話がありました
麻酔後に血圧が下がってしまって、
原因がわからないから手伝って欲しいとのことでした
血圧が低くて予定の手術が始められないとのとことです
電話で話を伺うと、麻酔の導入や挿管を行い、
予防的な抗生剤を落としはじめている予定手術の患者さんでした
術前の全身状態は良好で、重篤な基礎疾患はありません
行ってみると血圧が60台と低く、脈も100でした
フェニレフリンを打つと多少、血圧があがりますが、すぐに下がってしまうようです
酸素化も若干悪化したとのことでした
喘鳴はなく、皮疹もありません
患者さんの血圧が低いにもかかわらず、
現場にはあまり緊張感はありませんでした
麻酔科の先生だけやや焦っていましたが、
手術を待っている先生達もリラックスムードで、雑談しています
看護師さんも淡々と自分の仕事をしているように見えました
・・・
びっくりしました
いやいや・・・皆さん、緊急事態ですよー
アナフィラキシーショックですよー
「先生、これはアナフィラキシーです。
すぐにボスミン打ちましょう。
手術は中止した方がいいと思います。」
ということで、ボスミン打って血圧は元に戻りました
いきなり、手術室に入ってきた内科医が、
麻酔科医と外科医に向かって、手術中止を宣言するという何とも不思議な構図でした 笑
結局、手術は中止してもらい、病棟に戻って自分が担当になりました
結果的には抗生剤によるアナフィラキシーショックでした
その時、思ったのですが、
・麻酔中の血圧低下は「当たり前」くらいに慣れていて、
皆、焦ったりしない
(もしくは正常化バイアスが働いている)
・皮疹や他の症状がないと、アナフィラキシーを想起しにくい
・手術中止の判断はハードルが高い
その時はアナフィラキシーの治療だけでうまくいきましたが、
kounis syndromeのことを考えていなかったことを反省しました
麻酔導入後の血圧低下の鑑別のステップとして
1、麻酔薬の影響
2、患者要因:PE、ACS、タコツボ型心筋症、大量出血など
3、アナフィラキシー
そして
4、Kounis syndrome を考えるのが大事です
Kounis syndromeはtype1,2,3があります
攣縮だけ、という単純な病態ではないのです
あまり詳しい病態はわかっていないようですが、
肥満細胞が脱顆粒を行うことで、炎症性メディエターが放出され、
冠動脈の攣縮やプラーク破裂、ステント内血栓を惹起するようです
Kounis syndromeは、
アナフィラキシーとACSが同時にやってくるので対応が大変です
典型的には、蜂刺されや薬によってアナフィラキシーが起こり、
その後、胸痛が出現し、心電図をつけるとST変化がある!
というのがゲシュタルトです
ただし、典型的な症状が揃わないと、診断が難しいことがあります
例えば、アナフィラキシーショックまでは至っておらず、
「蜂に刺された後の胸痛とST変化」とかです
血圧が低い場合、アナフィラキシーショック?心原性?と迷うこともあります
そんな場合は、本当にアナフィラキシーが起きているのかの傍証のために、
トリプターゼを測定しておくことで有用です
(日本では気軽には出せず、帰ってくるのも1ヶ月くらいかかることもあるようですが・・・)
てんかん発作時のプロラクチンや前立腺炎の時のPSAな意味合いです
Kounis syndromeはcommonな疾患ではありませんが、
ものすごくrareというわけでもありません
忘れた頃に出会います
忘れたくないので、アナフィラキシーの症例に出会った時は、
常にKounis syndromeを合併していないか?と考える癖を持っておくと良いと思います
アナフィラキシーだと判断した時、
「ボスミンうって、はい、おしまい」ではありません
すぐに心電図をとりましょう
ST-T変化が多いですが、場合によっては不整脈が起こることもあります
治療は非常にchallengingです
大事なのは、早期に疑うことです
アレルギーなのでアレルゲンの暴露から離すというのが、
忘れがちではありますが最も重要です
特に薬(輸血、抗生剤など)
あとはアナフィラキシーとACSの両方に対応します
Eur J Intern Med. 2016 May;30:7-10.
STEMIの状態であれば、緊急カテに行くしかありません
STEMIでなければ、もともとの冠動脈の状態にもよりますが、
type 1と思えば、まずはアレルギー止めの薬で対応します
改善なければ、攣縮を抑える薬も投与します
type 2や3の場合は、PCIが必要になりますので、普通にカテが必要です
typeがわかるのは、カテの後です
kounisだと思ったとしても、結局カテにいく必要があります
kounis syndromeを攣縮だけと思っていると、
カテの意識が抜け落ちてしまうので、攣縮だけではないことを覚えておきましょう
kounisを知ってしまうと、アドレナリン(ボスミン)打つのが躊躇われるかもしれません
アドレナリンは、冠動脈攣縮や不整脈を誘発させたり、
虚血を悪化させる可能性があります
添付文書にもしっかり書かれています
そのため、Kounis syndromeを疑った場合、
アドレナリンを打って良いか悩む場面があります
結論から言うと、アナフィラキシーの治療でアドレナリンが必要だと思えば、
投与していいです
ただし、アドレナリンを打った後にSTが上がっていた場合、
kounisだったのか、アドレナリンのせいか悩むことになります
なので、1分くらいアドレナリン投与を待てるのであれば、
投与前に心電図を取っておくと良いかもしれません
時間的猶予がなく、アナフィラキシーショックで命の危険がある場合は
躊躇わずに打ってOKです
ただし、冠動脈疾患がある人やβブロッカーを内服中の人は、
アドレナリンではなく、最初からグルカゴンを使った方が良いかもしれません
これはケースバイケースです
まとめ
・麻酔中の血圧低下はよくあることだが、
皆、よくありすぎて皆慣れている
→アナフィラキシーを想起しにくい
・アナフィラキシーに出会ったら、
kounis 症候群を合併していないか、毎回考える
→アドレナリン打つ前に猶予があれば、心電図を
打った後も早めに心電図を
・Kounis 症候群でもカテーテル検査は必要
→病態は攣縮だけではない、Type 2,3はPCI必要になる
Typeがわかるのは、カテの後