2025年6月13日金曜日

TSSの診療の3つのポイント

今日の國松の内科学は「TSS」の会でした

TSSについては、ついつい語りたくなってしまうので
こちらで語らせてください 笑


TSSは非常に稀かと言われると、あまり稀という印象はないです
TSSは見逃されていることが多く、診断がされていないだけだと思います


TSS含めた毒素病態はグラデーションがあるので、
軽症例では典型的な症状が揃わないことが多々あります

例えば落屑が来ない症例もよくあります



TSSは臨床診断であり、
診断したことがあれば容易に診断できますが、
診断したことがないと自信をもってTTSと診断することは難しいでしょう


原因としてはタンポンが有名ですが、
典型的なタンポンからのTSSを見ることはあまりないです(経験では一例のみ)

歴史的な文脈としては大事かもしれませんが、
臨床では月経関連と非月経関連型を分けることは意味がありません



ありとあらゆるfocusのブドウ球菌感染で
TSSが起こり得る

ことを知っておくことの方が意味があります



よくあるのは蜂窩織炎や術後感染からのTSSですが、

こんな場所の感染でもTSSでも起こりうるんだという事例を紹介します


・乳腺炎として内服の抗菌薬をのんだ後から、全身が赤くなり、
 アナフィラキシーショックとして対応されたが、改善なく血圧低下あり
 乳汁のグラム染色にてGPC cluster あり
 緊急乳房マッサージで感染乳汁をドレナージ
 →乳腺炎からのTSS

・お尻を焚き火に近づけ過ぎてしまい、お尻を火傷してしまった若年男性
 2度熱傷であり、毎日洗浄して対応していたが、
 日に日に腎機能が増悪し、やや血圧が少しずつ下がってきた
 よく見ると全身がうっすら赤い・・・
 緊急で熱傷の黄色壊死組織をきれいにデブリしたら、血圧はスッと上がり、
    創部から黄色ブドウ球菌が検出された
 →熱傷からのTSS

・副鼻腔炎で入院した中年女性
 夜中にショックとなり、全身がうっすら赤くなっていた
 夜間ではあったが耳鼻科Drに来てもらい、緊急副鼻腔のドレナージ
 →副鼻腔炎からのTSS

・発熱、全身の筋痛、下痢で入院し、レジオネラ疑いだった高齢女性が、
 夜中にショックになった
 太ももの痛みを最初から訴えており、USを当てると筋肉内に膿瘍形成あり
 →化膿性筋炎からのTSS

・インフルエンザ感染後に原因不明の敗血症性ショックで転院搬送された中年女性
 当院到着時、喉の痛みとstridorあり、全身赤く充血あり
 アナフィラキシーとしてアドレナリン筋注したが、改善なし
 挿管した際に喉頭蓋腫脹あり
 挿管後に喉頭蓋のぬぐい液のグラム染色にてGPC cluster
 後日、手指の落屑も出現
 →喉頭蓋炎からのTSS


このようにどんな場所でも毒素産生するタイプの黄色ブドウ球菌が感染していれば、
TSSは起こりえます


TSSの探し方のポイントは、
うっすら赤い全身の皮膚に気づけるかどうかです


「White Island in the red sea」と教えていましたが、
これは本来、デング熱の皮疹を示唆する皮疹です


デング熱の皮疹は、
真っ赤なの海の中にぽつりぽつりと、小さな白い抜けた島があるように見えるため
White Island in the red seaと呼ばれます



IDCases Volume 38, 2024, e02072



TSSの場合は、全身が真っ赤ですが、その赤さが「うっすら」なのです


例えばこの皮膚赤いと思いますか?





うっすらなので、赤いことに気がつけないことが多く、
よくわからない敗血症として治療されていることがあります



「何となく赤いかもしれないが、本当に赤いのか?」と思ったら、
皮膚を指で押してみます




皮膚を押すと、押した部位が白く抜けることで、
赤い海に白い島が現れます






なのでこの白い島は自分が作りだす「人工島」です


というわけで、
White Island in the red seaではなく、
White Artificial island  in the red seaなのです!


この所見があると、TSSを自信を持って診断できるようになります



TSSは臨床診断なので本当にTSSだったの?と後世に言われること必至な疾患です

そのため、証拠としてWhite Artificial island  in the red seaを動画で残しておくことが重要です



そして、もう一つの証拠としてブドウ球菌の存在証明をします


普段の敗血症診療では、検体を取らないような部位からも
TSSを疑った場合は、ブドウ球菌の存在証明のためにグラム染色や培養を行うことがあります

例えば、咽頭ぬぐい液、膣分泌液、皮膚切開部位からの滲出液、創部培養


TSSの本態は毒素であり、菌が身体中に飛び散り悪さしているわけではありません
悪さしているのは、毒(スーパー抗原)です

そのため、血培はほとんど生えません



TSSの証明のためにも、ブドウ球菌の存在証明をしておきたいところです




TSSの診療に関して2つピットフォールがあります

1つ目は、アナフィラキシーとの鑑別が難しいことです


アナフィラキシーもTSSも見た目は同じです
全身赤く、下痢をしていて、充血していて、ショックバイタルです


何か投与された後に発見された場合は、
もはやアナフィラキシーとして対応するしかありません

TSSとアナフィラキシーの鑑別はその時点では不可能です
アドレナリンの反応性と時間経過でしか分かりません

大事なのは、TSSだと思っても
最初はアナフィラキシーとして対応することです


当院ではTSSが有名になり過ぎていて、
普通にTSSが鑑別で出てくることは素晴らしいのですが、
アナフィラキシーだった症例がTSSとして対応されていたことがあり、
危ない事例がありました


TSS疑いでICUに入り、MEPM、VCM、CLDM、輸液負荷、
NAdが投与されていましたが、いまいち改善が悪く、

暴露源は不明でしたが、アナフィラキシー疑いでアドレナリンを筋注したら、
すぐに赤みはひき、血圧は上がりNAdも終了できました

もちろん、次の日も何の症状もなく退院となりました
TSS疑いで治療していたら、
この人は何日、入院と抗菌薬投与されていたことでしょう・・・



TSSをアナフィラキシーとして対応することは仕方ありません

というよりむしろそうするべきですが、

アナフィラキシーをTSSとして対応してはいけません


なぜなら、アナフィラキシーはアドレナリン筋注1発で治癒が可能だからです

TSSとして対応し始めると大量の輸液負荷やNAdが投与され、
抗生剤が大量に入り、CVやAラインが入り、がっつりICU管理となります


そして、アドレナリンの投与が遅れることで、
アナフィラキシーが難治化して治りにくくなります



一番難しいのは、
救急車でやってきたアレルゲン不明の謎のアナフィラキシー疑い症例です

アドレナリンの反応性が悪い場合、難治性のアナフィラキシーなのか、
TSSなのかの判断が難しい時があります


その場合は、両睨みで診療を進める必要があります

TSSかもしれないので、ドレナージやデブリができるところはないかを探します
ブドウ球菌がいそうな場所から培養やG染色を行います
連鎖球菌を疑うなら、ASLOも出します
アナフィラキシーの傍証として、トリプターゼを測ったりもします
病歴でアナフィラキシーが起こるような暴露がなかったか確認します
蜂に刺されていないか、髪の生え際を探します


というわけで、TSS診療の1つ目のピットフォールは
アナフィラキシーとの鑑別が難しいことです


極論ですが、TSSの診断基準の参考に、
「アナフィラキシーとの鑑別が難しいことが多々あり、
 アドレナリン筋注の反応が悪いこともTSSを疑う根拠になる」
 という記載があっても良いのではないかと思ってしまいます


それくらいTSSが発見される状況の前には、
何かしらの暴露(多くは抗菌薬や造影剤、輸血)が多いのです



TSS診療の2つ目のピットフォールは、

「こんなちょっとした傷や膿でショックになるかな〜」と
 ドレナージをためらってしまうことです

TSSを知らないDrだと、こんな小さな傷や膿ではショックにならないと言って、
ドレナージをしてくれない人もいます

正直、とても困るので文献見せたりして何とか説得しましょう 


上記の症例のように、緊急乳房マッサージや緊急で熱傷部分の壊死組織除去、
緊急副鼻腔ドレナージ、外科手術後の創部感染の緊急ドレナージ、緊急タンポン除去が
必要になることがあります


問題になるのは、菌量ではなく菌の存在です
菌量を減らすというより、消し去らないといけないイメージです

上司には「1匹でもいたらTSSになると思え」と言われてきました


逆にドレナージが完了すれば、スッと全身状態が良くなります

このスカッとした軽快の仕方が、TSSらしさを物語っています

逆にドレナージがされなかった場合やドレナージができない蜂窩織炎、
菌血症症例では、治りが悪い印象があります


TSS診療はいかに早期に発見し、
早期にドレナージができるかどうかがポイントです

抗菌薬にクリンダマイシン入れて、満足していてはダメです


まとめ
・早期発見のためには、
White Artificial island  in the red seaを積極的に探し診断の証拠として記録しておくこと

・早期治療のためには、
1匹でもいたら起こりうるのだと思いながら、
ドレナージやデブリするべき場所や除去できるデバイスがないか探すこと


・そしてアナフィラキシーが否定できない状況であれば、躊躇わずに、アドレナリンの筋注を行うこと

この3つがTSS診療の肝だと思っています



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