2019年10月27日日曜日

感染症ケースカンファ ~深夜二時でもコンサルトできますか?~

40歳 男性 主訴:発熱、鼻水、節々の痛み

Profile:生来健康、副鼻腔炎の既往あり

現病歴:受診の2日前、仕事中に悪寒と38度の発熱あり
    節々の痛みも出現
    鼻水も出てきた 咳は少し
    受診日当日、上記主訴で当院内科受診
    両側の上顎洞部に圧痛あり
    副鼻腔単純Xpにて右上顎洞の透過性低下あり
    急性副鼻腔炎疑いにて、耳鼻科紹介
    
    耳鼻科Drの診断も副鼻腔炎であった
    耳鼻科より
    「CLDM点滴後に帰宅させようとしたら、40度の高熱があり、
     具合が悪そうなので、精査加療をお願いします。」
    とのことで、救急外来受診となる

ROS:
(+)頭痛、節々の痛み、鼻汁、咳嗽
(ー)悪寒戦慄、腹痛、下痢、吐き気、排尿時痛、頻尿、残尿感
   寝汗、海外渡航歴、sick contact、男性との性交渉、不特定多数との性交渉

既往歴:副鼻腔炎(過去2回)

内服:なし

アレルギー歴:なし

生活歴:会社員、喫煙なし、アルコールなし

家族:妻と子供1人の3人暮らし

身体所見(内科外来時):
見た目 具合が悪そうだが、歩行は可能
BP148/94、P117、T 38.4、SPO2 97%、RR 18、意識 清明
頭頚部:両側頬部に圧痛あり  
    咽頭後壁にリンパ濾胞目立つ
    頸部LN触れず
胸部:呼吸音 左右差なく清
   心雑音なし

身体所見(救急外来時):
見た目 顔面紅潮しており、ぐったり
BP101/49、P100、T 40.0、SPO2 93%、RR 20、意識 清明
頭頚部:両側頬部に圧痛あり   
    眼瞼結膜蒼白なし 黄染なし
    咽頭後壁 発赤あり、扁桃腫大なし
    咽頭後壁にリンパ濾胞目立つ
    頸部LN触れず
    jotl accentuation陰性、項部硬直なし
胸部:呼吸音 左右差なく清
   心雑音なし
腹部:平坦 軟 圧痛は右季肋部に軽度 腸蠕動音亢進減弱なし
   マーフィー徴候陰性、肝叩打痛なし

血液検査(主なもの)
WBC 10800,NET 93%,Ly 3%,Hb 16,Plt 17万
AST 70,ALT 78,LDH 267,γ GTP 178、ALP 222,T-bil 1,2
Glu 133,電解質異常なし、Cr 0.96,CRP 7
インフルエンザ 迅速 陰性
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ディスカッション1
副鼻腔炎の診断で紹介となった生来健康な40歳男性
顔面紅潮しており、具合が悪そう
肝障害もある

・本当に「副鼻腔炎」だけでよいのでしょうか?
・今後の対応はどうしますか?
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指導医T「さて、どう思いますか?」

研修医Y「これだけだったら、副鼻腔炎でもいい気がしますが」

T「そうだよね。別に副鼻腔炎でもつらそうな人いるし、
  男性って(自分もだけど)痛みに弱いし、
  風邪ひいただけで、やたらつらいアピールするよね(反省)」


研修医N「私も副鼻腔炎とかインフルエンザかなって思いました」

T「みんな、いい感じでアンカリングされてるね(笑)
  じゃあ、第一印象が副鼻腔炎だとして、
  あえて他のことを考えるとすると何を考える?」


研修医N「そうですね、頭痛もあるので、副鼻腔炎からの波及で、
    髄膜炎になっていたら嫌ですね」

T「そうだね、それは一つあるね。他には?」

研修医D「肝障害もあるので、伝染性単核求症とかですか?」

T「うーん、まあ。なくはないけど。他は?」

研修医「うーん・・・(-ω-;)」

T「思考の癖として、一番最初に思い浮かんだものから、いかに離れるかっていうのは、
  癖として持っておいたほうがいいね。

  自分は一番最初に思い浮かんだ疾患(例:副鼻腔炎、インフルエンザ)と
  その真逆の重症度の疾患(例えば致死的な疾患で心筋炎)を思いうかべて、
  そして時間があれば、じっくり考える(システム2)
  それでもわからなければ、ググるか、他の人に相談する」

研修医Y「なるほど、ではこの症例だと危ない病気だと咽後膿瘍とかですか」

T「そんな感じ。でも考えてほしい疾患がこの時点で3つあるんだよね。」


研修医Y「えー。。。TSSとかですか?」

T「その通り!TSSは考えなきゃいけないよね。血圧チェックした?
  最初に比べて、40近く落ちてるよね。バイタルって絶対値じゃなくて、
  変化をみるべきものだし、人によって正常値は違うから、
  100/50でも文脈によって意味は変わるんだよ。」

研修医Y「確かにこれだと、もうすぐショックになりそうですね。」

T「そうだね。でもこの時点ではまだ全身の紅斑や下痢とか充血がないね。
  大事なのはそれで、TSSを除外しないこと。
  本当に大事なのは、この後にそういった所見がでてこないか、チェックしていくこと」

研修医N「他に考えることって何ですか?」

T「ヒント。何で、酸素化悪いの?」

研修医N「えっと・・・敗血症とかになると、下がりませんか?
     末梢がしまっているとかですかね?」

T「まあ、確かに。
  でもこの状況で想起するべき疾患があるんだ。
  喉周りにケチが付いているときは、頸静脈に影響が及んでいるかもしれないね。

  レミエール症候群ってきいたことある?
  化膿性の血栓性静脈炎が出来て、肺塞栓が起きてしまう病気ね。

  だからこの状況なら、頸部の把握痛がないかはしっかりみないといけないし、
  肺野のレントゲンはしっかりみたいね。」


研修医N「あと一つは何ですか?」

T「あと一つは海面静脈洞血栓症っていう病気です。
 副鼻腔炎や齲歯からの波及で頭にいっちゃうやつね。
 
 感染症の考え方で、波及っていう考え方はあるんだけど、 
 直接、癌みたいに近くの部位に広がっていくっていうのは、イメージしやすいんだけど、
   もう一つ、血流(静脈)にのって広がっていくという考え方を持たないといけないんだ。」


T「あと、やたらぐったりとしている風邪っぽい人をみたら、何を疑うかです
  誰も教えてくれなかった「風邪」の診かたの著者の岸田直樹先生は、
  心筋炎と肝炎を疑う!というパールを残してくれています。
  
  自分としては、そこにTSS(の初期)も加えて覚えています」



小まとめ
・アンカリングからいかに抜け出すか?
→正反対の重症度(軽症⇔致死的疾患)や
 正反対の考え方
(身体疾患⇔精神疾患、海外渡航⇔海外関係なし、
 腫瘍に関わる⇔関係なし)で考えてみる


・副鼻腔炎からの致死的な疾患
→髄膜炎、TSS、レミエール症候群、海面静脈洞血栓症


・感染が波及するというのは、2つある
直接周囲に波及するのと血流によって波及する
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経過
追加検査として、血培、腹部骨盤CT、胸部Xp、心電図が行われ、病棟へ

胸部Xp:異常陰影なし、心拡大なし
CT:特記事項なし
心電図:ST-T変化なし

病棟へ上がったところ、看護師さんから・・・・
「血圧が60台です、トイレで下痢しています、顔面蒼白で冷や汗かいています。」

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ディスカッション2

・病棟にあがって、ショックバイタルになってしまいました
・この後、何を考えてどう動きますか?
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T「さあ、やっぱりショックになったね、どうする?診断は?」

研修医N「外液いれて、それでも血圧保てなければNAとか使う感じですか、 
    普通の敗血症性ショックとして対応しちゃいそうです。」

研修医Y「あとは抗生剤を入れます。TSSだとすると、黄色ブドウ球菌や連鎖球菌ですので、セファメジンとバンコマイシンですかね。あとクリンダマイシンも入れるんですかね。」


T「そうだね。まあ、そんな感じ。だけど、それはTSSの対応の①なんだよね、  
  教科書よむと①からは書いてある。
  でも実臨床には⓪があるんだ。それはあまり教科書に書いてない。
  ⓪段階としてのTSSの対応ってわかる?」


研修医D「足上げるとかですか?」

T「まあ、もちろん、それも大事なんだけど。
  ヒントは、患者さんの経過は、点でみるものではないんだ、
  線としてみなければいけない。経過の流れを思い出して。」

研修医N「えっと、病棟にショックになって、下痢になりました、 
     その前に救急にきて、その前に耳鼻科にいって・・・」

T「そう、そこで何がされましたか?」

研修医Y「あークリンダマイシン投与されているので、それによるアナフィラキシーですか?」


T「そうなんだよね、TSSって往々にしてなぜか、抗生剤が入ったくらいから、 
  全身が赤くなり出して、下痢しだして、血圧下がり出すんだよね。
  これまで見てきたTSSの半分くらいの症例で、抗生剤が入っていて、
  アナフィラキシーと鑑別が不能なことはありました

  TSSの症状とアナフィラキシーの症状ってほぼ一緒なんだよね
  なので、アナフィラキシーこそ、治療は遅れてはいけない
  
  血圧が下がっていて、全身の紅斑があったら、TSSよりアナフィラキシーとしての
  対応の方がはるかに重要です。
  なので、ここでボスミンを躊躇する必要はありません。
  TSSならアナフィラキシーみたいに、すっと、よくなりませんから

  診断的治療をするしかないんです。これがTSSの対応の⓪段階です
  じゃあ、他にTSSとしての対応はどうする?」


研修医Y「ドレナージですか?」

T「そうだね、感染症治療の大事な原則としてドレナージできないかっていうのは、
  常に考えるべきです。

  じゃあ、この症例が深夜にショックになっていたら?
  それでもすぐにドレナージしますか。それとも朝になって耳鼻科のDrを呼びますか?」


研修医Y「え・・・深夜ですか。耳鼻科のその日の当番の先生次第ですかね・・」


T「現実的ですね。
 この質問に即答できるかどうかが、TSSの病態を分かっているかどうかです。
 
 TSSのイメージは菌が一匹でもいたら治らないと思っていた方がいい。
 
 だから、深夜二時でも即、コンサルト・ドレナージです。
 じゃないと、朝まで持たないかもしれません。
 孤島に自分一人しかいないなら、自分でしないといけないかもしれません。

 TSSは元気な人が急になる対応を間違えば致死的だけど、
 適切に対応すれば治療可能な疾患なので、絶対に負けてはいけない戦いなのです。」



T「あと、おまけでTSSに行う治療のオプションって知ってますか?
  例えば、ドレナージもして、抗生剤もいれて、ICUで全身管理をして、
  それでも危なそうな時に何かできることはありますか?

  あまり本質ではありませんが、
  もうこれ以上できることはないっていう状態にしたいのであれば、
  知っておいてもいいと思います」


研修医Y「えーなんでしょう・・・、足上げるとかですか?」


T「(それはボケなのか?)・・・違う。」


研修医N「透析とかですか?」

T「まあ、乳酸がたまりすぎて、アシデミアが強くなってきたら透析は考慮してもよいでしょう。でもそれはTSSに限った病態ではありません。」


研修医D「免疫グロブリンですか?」

T「そのとおりです。
  病気の治療の覚え方の原則は知っていますか?

  例えば喘息の治療。
  喘息の発作時の治療で吸入をするっていうのは知っていますよね。
  でも大事なのはそこじゃない。
  
  死にそうな喘息発作の治療を覚えておくことです。

  挿管して、ボスミン皮下注して、テオフィリンいれて・・・
  という感じですよね。
  
  なので普段の喘息発作の治療は、Maxの治療から引き算して使っているのです
  
  どんな疾患でもMaxの治療が何なのかを知ることが大事です。

  TSSでは免疫グロブリンの有効性はかなり微妙ですが、
  Max治療のオプションにはなります」


小まとめ
・TSSの⓪段階対応として
→アナフィラキシーとの鑑別が難しいときは、躊躇せずボスミン筋注!


・TSSの治療は抗生剤よりもドレナージが大事
→深夜二時でも即コンサルト!
 

・疾患の治療はMaxの治療をまずは覚える
→そこから普段は、引いて治療している
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経過

病歴にてクリンダマイシン投与したくらいから具合が悪くなってきたとのことであった
クリンダマイシン投与後、30分から1時間くらいは経過していたが、
まずはアナフィラキシーとして対応(ボスミン筋注等々)

しかし、外液2L入っても血圧80台・・・

やはり、TSS>アナフィラキシーの可能性が高く、
抗生剤いれて、Aラインいれて、NA使って、
IVIGいれて、ICUにて管理しつつ・・・

深夜だったが、耳鼻科Drをよんでドレナージ施行!!

その後、バイタルはどんどん改善し、元気に退院していきました
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学び

研修医D「この症例はよくある症状で、最初は副鼻腔炎だと思って動いてしまいそうで、全然TSSは思い浮かばなかったです。どこで気が付けるかというのは、難しいですが、バイタルをみたり、普通の副鼻腔炎や風邪とは何かが違うというのに気が付いて疑っていくのが大事なのだと思いました。」

T「その通りです。毒素病態の難しいところはそこです。TSSは、後医は名医になる疾患の代表です。なので常に疑いの心を持ち、フォローしていくことが大事です。とてもいい学びですね。ありがとうございました。」


参考文献:NIKKEI MEDICAL 2018.12 MEDI QUIZ(救急)





   

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