ファシリテーションが上手くなるための説明書
目次
① ファシリテーションを学ぶ目的は?
② カンファレンスや会議の形式には何がある?
③ カンファレンスや会議の問題は?
④ 「量」の問題は頻度と時間と出席者を見直そう
⑤ 「質」の問題はファシテーション
⑥ ファシリがうまくいった会議とは「なるべく短時間で、話し合いの空間が心地よいもので、会議の目的が達成され、決まったことにみんなが腹落ちした時」
⑦ ファシリがうまくいかなかった会議とは「だらだらと長く、途中で口論や喧嘩になり、居心地が悪く、会議の目的もわからず、何も決まらなかった時」
⑧ 隠れファシリ「はじめに確認(終了条件)」「最後に確認(3つのW)」「時間の確認」
⑨ ホワイトボードを使いこなす
⑩ ファシリテーションのお作法は「準備」「共有」「発散」「収束」「決定」「振り返り」
⑪ ファシリテーションは「準備」が9割
⑫ 「共有」はOARRを確認する
⑬ 「発散」無くして収束なし、「聞く力」と「場を作る力」が大事
⑭ 「収束」でまとめに入る
⑮ 「決定」はメンバーが行う、ファシリテーターではない
⑯ ファシリが難しい時「議論が盛り上がらない」「空気が堅い」「話しにくそう」
⑰ ファシリが難しい時「ずっと同じ人が話している」「言葉づかいが荒い人がいる」
⑱ ファシリが難しい時「話があちこちに脱線する」「時間内に終わらない」
⑲ 病院で行われる話し合い(例:他職種カンファレンスのファシリのコツ)
⑳ Zoomのファシリテーションのコツ
最後に・・・「ファシリテーションが上手くなるためには」
はじめに
私達は学年が上がれば上がるほど、会議が多いことに気がつきました。最初は会議に呼ばれたことだけで少しドキドキしましたが、だんだん会議にもなれてきて、そして、こう思うようになりました。会議が多くて、長すぎる。みなさんも一度は思ったことがあるのではないでしょうか。今は会議に対する気持ちもだいぶ変わってきました。ファシリを学んだ上で出席する会議は、面白いんです。そして勉強になります。ファシリを知ると、会議の裏側の世界が見えるようになります。
① ファシリテーションを学ぶ目的
今日の目的はファシリテーションが上達することになっていますが、本当の目的はみなさんのこれからの時間を有効に使い、人生を豊かなものにするということです。どこの自己啓発セミナーだ・・・と思われた方もおられると思いますが、
ファシリテーションがうまくいけば、カンファレンスや会議が変わり、
ひいては病院が変わります。そしてみなさんの人生も変わると言っても、
あながち、大袈裟ではありません。
糖尿病の治療がHbA1cを下げることが真の目的ではなく、心筋梗塞や脳梗塞を防いだりすることが本当の目的です。それと同じです。ファシリテーションはあくまでも時間を有意義に使うための一つの手段に過ぎません。
一般的なビジネスマンが勤務している間に行っている会議の時間をご存知でしょうか。約3万時間と言われています。つまり、約8年間会議に費やしているということです。我々も負けず劣らず、会議やカンファレンスをしていませんか?会議やカンファレンスがよくないと言っているわけではありません。問題は量と質です。話し合いや会議の量と質を見直す必要があります。ファシリテーションを使うことで、会議やカンファレンスの時間を短縮しつつ、効率的で生産性の良いものに変えることで、これからの時間を豊かなものにできればと思います。
みなさん、少し思い出してほしいのですが、今月、3人以上が集まる話し合いや会議に何回出席しましたか?そしてそれは何分、行われましたか?
② 話し合いや会議の形式には何がある?
思い返すとたくさん、話し合っていますよね。話し合いや会議にはいろんな種類があります。情報共有(報告)、質疑応答(承認)、方針相談、課題(問題)解決などがあることをまずは知っておきましょう。自分が参加した話し合いの種類が何に当てはまるかを考えることが第一歩です。よくよく考えると、会議やカンファレンスの多くが情報共有だったりします。「この報告、メールでよくない?」「みんなが集まる必要ある?」そう思ったことはありませんか?会議の種類によってはファシリテーションは必要ありません。例えば、情報共有や質疑応答という形式では、ファシリの必要性は乏しいです。会議の大きさや議題、複雑さに応じて、ファシリの必要性が変化します。クリエイティブにたくさん意見を出し合いたい時や問題を解決しなければならない会議にはファシリの力が求められます。
③ 話し合いや会議の問題は?
今までみなさんが経験したカンファレンスや会議に置いて、こんな会議は大変だった、ここをどうにかしてほしい、ということを書き出してみてください。そして、隣の方と共有してみてください。ただし、誰々さんのファシリがいけていない、といった個人攻撃はやめてください。問題点は大きく二つあります。それは会議の「量」と「質」です
④ 「量」の問題は頻度と時間と出席者を見直そう
まず量の問題から言うと、必要ではないカンファレンスや会議、話し合いはありませんか?例えば、毎月定例の会議。毎月やっているからということで、無理に行う必要はありません。議題がなければしなくてよいのです。何か問題があれば、その都度、ワンオンワンで話し合うことで解決できることもあります。会議で何かを決めるということになると、スピーディーさに欠けてしまいます。早く決めなければならないことは会議や話し合いをする必要なく、決めていいのです。
絶対にみんなが集まって話し合わないといけないことだけに絞って、会議や話し合いを行う必要があります。情報共有だけなら、紙やメールでの連絡でもよいかもしれません。みなさんが参加してきた話し合いや会議で情報共有が目的なものはどれくらいありますか?情報共有の会議が全て不要とは思いません。絶対に周知したい内容がある時には必要な場合もあります。ですが、情報共有の会議で紙に書いてあるものを読み上げるという行為はどう思われますか?読むよりも見た方が早いです。資料を読み上げるという行為は時間が勿体無いので、「じっくり目を通してください。わからないことがあったら、質問してください」でいいのです。
会議や話し合いは、人の時間を奪っている行為であることを忘れてはいけません。今はzoomもあります。絶対にオンサイト(現地)で行わないと達成できないのか、それともオフサイトでも達成できるものなのかを考えましょう。後半にお話しますが、zoomを使ったビデオ会議のファシリは非常に難しいです。zoom会議では相手の感情や反応が読み取れません。感情や空気感が共有されないため、込み入った話し合いは向いていませんので注意しましょう。
回数が多すぎるのも問題ですが、時間も問題です。会議が長い!と感じたことがある人はいますか?30分や60分以上の会議はやるな。というルールがある会社もあります。みなさん、パーキンソンの法則ご存知でしょうか。30分で終わる仕事に1時間の時間を与えられると、人はその仕事に1時間費やしてしまう」ということです。 この法則は、仕事量がどれだけ少なくても、「完成のために与えられた時間をすべて満たす」ように膨張するのです。30分で出来る仕事量が、1時間をすべて満たすように膨張したというわけです。ここで何が起こっているかと言うと、「時間に余裕がありすぎて、集中力が欠けてしまい、結局効率が下がってしまう」ということ。それから「時間に余裕がありすぎて、取り組むまでに時間がかかってしまう」ということです。そのため、できる限り短い時間を決めて話し合いを行う必要があります。ただ話し合う内容が難しかったり、時間がかかる内容であれば、それにみあった時間設定を行います。
私たちは、日々行っている会議が多い気がします。当たり前に会議に出てくださいと言われて、出ている会議はありませんか?その会議、本当にみんなで集まる必要はありますか?出席したけど、一言も話さずに終わった会議はありますか?一言も話さなかった会議に自分がいる意味はあったのでしょうか?
自分がいる必要のない会議には出席する必要はありません。会議は多ければよいというものではありません。必要がない人を呼ぶと会議は停滞しますし、脱線が多くなります。アマゾンの会議の人数は5-8人と決まっています。絶対に必要な出席者と任意出席者を分けることで、言いたいことがある人は出席が可能となります。そして直接その場にいなくてもいい時もあります。Zoomを駆使してハイブリッドで行うことでもよいかもしれません。会議の種類によっては、facet to faceにこだわる必要はありません。まずは、そのマインドセットを変える必要があります
⑤ 「質」の問題はファシテーション
次の問題は会議の質です。何時間も話し合って何も決まらなかった時の絶望感と疲労感は半端ないですよね。
ここで重要になってくるのが、ファシリテーションです。
ファシリテーションとは「促進する」という意味があります。チーム活動を円滑に促進し、活性化するための技術がファシリテーションです。会議においては、円滑に仕切る力がファシリテーションと呼ばれ、円滑に仕切ってくれる人をファシリテーターと言います。ファシリテーターの役割は中立な立場で、チームの力を引き出し、チームの成果が最大となるようにサポートすることです。サッカーで言うとボランチというポジションのようなもので、最初はやや守備的な位置にいて全体を見回し、チームメイトが最大限の力を発揮できるようにゲームメイクを行います。時には攻撃参加も行い、試合の流れによって動き方が変わるポジションです。ファシリテーターも同じで、会議の顔ぶれや議題によって、ファシリテーターに求められる動きは変わります。
⑥ ファシリがうまくいった会議とは
それでは、理想の会議や話し合いとは何でしょうか。「なるべく短時間で、話し合いの空間が心地よいもので、会議の目的が達成され、決まったことにみんなが腹落ちした時」
ポイントは心地よさと腹落ち(心から納得できること)です。参加者にとって参加してよかったと思ってもらえなければ、二度とその話し合いには参加したくないでしょう。そして、腹落ちというのは、みんなが納得して決めたということです。声が大きい人や権力がある人の意見だけで議題が決まってしまっては、みんなが集まった意味がありません。必ず、みんなが納得できるまで議論できたかを意識するようにしましょう。腹落ちしていない場合、会議で決まった内容に不満があり、その後の作業に影響が出ます。会議で決まった後では不満を言わないというルールがアマゾンにはあります。その代わり、会議の中で徹底的に議論がなされます。
⑦ ファシリがうまくいかなかった会議とは
先ほどと真逆です。「だらだらと長く、途中で口論や喧嘩になり、居心地が悪く、会議の目的もわからず、何も決まらなかった時」です。私自身、何度もファシリで失敗してきました。一番言われて辛かったのは、自分が主催したM and Mカンファレンスで「もう二度とこのカンファレンスには出たくないです」と研修医の先生に言われた時です。あるDrのきつい言葉が、研修医の心に突き刺さって、みんなが嫌な思いになりました。ファシリの力量不足で参加者の心まで傷つけてしまうことを実感しました。それ以来、自分がファシリをする時に、最も気をつけているのは、参加してくれた人が傷つかないようにすることです。ファシリの力で1+1=3や4を目指すのですが、時には、マイナスになることもあるのです。目的が達成されない時は0かもしれませんが、マイナスよりはましです。ファシリをする上で大事なことはたくさんありますが、私が最も意識しているのは、誰も傷つけないことです。
⑧ 隠れファシリ3つの確認
「はじめに確認(終了条件)」「最後に確認(3つのW)」「時間の確認」
いきなり、大勢の前で仕切ってファシリをするのはハードルが高いと思います。まずはこの3つの隠れファシリを意識してみてください。会議の冒頭でまず確認していただきたいのは、「会議の終了条件」は何か?ということです。会議の目的や目標と言ってもいいですが、どうなればこの会議が終われるかどうかが明確でないと、何を議論すればよいかわかりません。ゴールのないサッカーと同じで、ひたすらどこかにドリブルしたり、ぼーっとしている人が出てきます。まずは会議の終了条件(ゴール)が明確になっているかを確認しましょう。そして、ゴールが明確になったら、今度は時間の確認です。サッカーがいつ終わるかわからないとペース配分ができませんよね。何分までにここまで話あうということがわかっていないと、気がついた時には予定時刻を超えていたということになり兼ねません。時間配分も最初に確認し、途中でも時間を気にすることが時間内に終わるためには重要になります。最後の確認は「3つのW」whenいつまでに、who誰が、what何をやる、ということが決まることが理想です。自分の理解が追いついていないかもしれないので、確認させていただきたいのですが、という感じで、質問すれば誰かが答えてくれます。その場で確認することも大事ですし、メールで参加者に送るのも有効です。
⑨ ホワイトボードを使いこなす
ホワイトボードはファシリテーターにとって最高の相棒です。みんなの意見をホワイトボードに書くことで、参加者は意見を聞いてもらえたという気持ちになりますし、話がループすることを防ぐことができます。会議の目的やゴールを明示しておくことで、参加者の意識を一つにすることができます。書く内容については、意見を全て書く必要はありません。ポイントや単語だけでもO Kです。最低限、みんなが読める大きさと綺麗な字で書くことを心掛けましょう。ホワイトボードに書いた内容が書記にもなります。最後はカメラでとって、議事録の完成です。
⑩ ファシリテーションの型
「準備」「共有」「発散」「収束」「決定」「振り返り」
会議の種類の中でいわゆる話し合いが必要なものは、問題解決のことが多いです。ある問題が発生し、それを解決するために知恵を出し合って解決して欲しくて、参加者に集まってもらっているというのが、よくある話し合いや会議です。その時の実際の流れが、「共有」「発散」「収束」「決定」です。そして、そのための「準備」がとても重要になり、終わった後に振り返ることで、ファシリ力が向上します。
後半はそれぞれの具体的にコツを紹介していきます。
⑪ ファシリテーションは「準備」が9割
ファシリテーションで最も大事なのは準備です。準備で大事になるのは、想像力と努力です。どんな会議にしていくか、会議の進め方を考えます。具体的には、4つのP(purpose目的,process進め方,people参加者,property装備)を考えます。準備シートというものもあり、終了条件、参加者、参加者の状態、参加者が抱く疑問・不満、議題、議題の進め方、必要なもの、時間配分を検討します。会議の出来は準備で9割方決まってしまうものと心得て、限られた時間の中で最善を尽くします。
⑫ 「共有」はOARRを確認する
実際に会議が始まった時は場をデザインすることから始めます。会議の全体像だけでなく、空間のデザイン(机や椅子の配置、ホワイトボード、人の配置)、空気のデザイン(アイスブレイク、心理的安全性)も含まれます。そして、会議の冒頭でOARRを共有することが重要です。OARRとはoutcome(この会議の終了条件は何か)、Agenda(議題や時間配分)、Rule(ルール:時間通りに終わる、参加者が全員話す、no blame, no shame)、Role(役割分担:ファシリ、タイムキーパー、書記)です。簡単にいうと、「私達が何のために集まったか」を明確にします。そして、OARRは途中で来た人にもわかるように、ホワイトボードに明示しておくことが重要です。議論が盛り上がると、「で、何を話あうんだっけ?」となりがちです。私達のゴールはここであるという旗印になります。
⑬ 「発散」無くして収束なし、「聞く力」と「場を作る力」が大事
発散が上手くいくかどうかは、場の安全が保証されているかにかかっています。参加者全員から意見を引き出し、集まったメンバーの力を最大限に発揮できるかは、ファシリテーター次第です。権力のある人やよく話す人しか意見を言わず、他の人はずっと黙っていて、最後に何か質問はありませんか?で終わってしまっては、チームの力が最大限に発揮できたとは言えません。何か意見を言ったら非難される場では意見は出ません。ファシリテーターは「私はあなたの味方です」「何があってもサポートしますから、安心して話してください」という姿勢や意思表示を行います。大切なのは、発言者に思いをよせ、徹底的に寄り添うことです。ここでは、聞く力と場を作る力が求められます。聞く力は傾聴やアクティブリスニングと言われますが、耳で聞くのではなく心で聴きます。評価ではなく共感して聞くことが重要です。聞いているというシグナルを言語的、非言語的に送ることで、発言者は安心して意見をいうことができます。ホワイトボードに書くというのは、まさに発言を受け止めた証になります。発言に対して反復・要約・言い換え・同調(仰る通りですね)を行い、質問をして深堀したりすることで、議論を盛り上げていきます。発言者だけではなく、発言していない人にも注意を払います。発言者には傾聴で対応しながら、発言していない人の表情や場の空気を読む必要があり、マルチタスクが求められます。発言したそうな人は見ればわかりますので、タイミングをみて発言を促します。一方で議論についていけていない人や退屈そうな人も見たらわかります。議論が盛り上がらない時には、バズ(隣の人と意見を交換し合う)やKJ法を使ったり、ブレインストーミングなどを行う工夫が必要な場面もあります。
⑭ 「収束」でまとめに入る
よくあるのは、「収束」に入っているにもかかわらず、「発散」が起こりやすいことです。収束に入っていいかは十分発散ができているか確認してからにします。発散ででた意見をまとめる作業が収束の過程です。収束の過程ではホワイトボードを用いながら、意見をまとめていくのが便利です。ファシリテーショングラフィックという図解を用いながら、まとめることもあります。
⑮ 「決定」はメンバーが行う、ファシリテーターではない
いよいよ会議も大詰めです。最後に話し合った意見をまとめて、この会議で集まったゴールを決めます。ただし、決定するのは(ゴールを決める)ファシリテーターではありません。メンバー全員で決定します。話の流れや会議を準備してきたファシリテーターはすでに自分なりの答えを持っていることが多いです。そのため、つい自分の意見を話してしまうことが多くなるところなので注意しましょう。意思決定のプロセスには正解はありません。誰かの独断で決まったり、説得、多数決、妥協、合意などがありますが、大事なことは参加したメンバー全員が納得できるかどうかです。実際に全身が心の底から納得した意思決定が行われることは稀で、むしろ対立が生まれやすいパートとも言えます。ここでは、コンフリクトや対立が起こりやすいので、ファシリテーターが上手く割って入って、コンフリクトマネージメントを行う必要があります。喧嘩別れするくらいなら、その場では何も決まらないことの方がマシで、また別の機会に仕切り直すべきです。
⑯ ファシリが難しい時「議論が盛り上がらない」「空気が堅い」
どれも場の心理的安全性が保証されていない時に起こりやすいです。メンバーも重要で初対面の人ばかり、権威がある人がいる、といったメンバー構成や場のデザイン(遠い机)に左右されることもあります。準備の時間があれば、メンバーのリサーチやメンバーに発言をお願いをすることができます。準備の時間がない場合、ファシリテーターの立ち回りによって、場の雰囲気を柔らかくし、誰もが意見を言いやすい空気を作っていくしかありません。明るい表情を意識し声のトーンをあげたり、相槌などのリアクションも普段より大きくして、場の空気を変えていきます。いわゆるアイスブレイクやチェックインを使うこともあります。チェックインは、参加者全員に30秒程度で一言ずつ発言を回していくものです。お題は「今の気分」「今日の期待」「みんなに言っておきたいこと」「今、気になっていること」など気楽に話せることならなんでも構いません。一回りすると、気分がほぐれるのと同時に、各々の心の中が少しわかります。
はじめにグラウンドルールとして、「参加されている方に一度は意見をお伺いいたしますので考えておいてくださいね」や「意見が違ったとしてもお互いにリスペクトの姿勢を持って議論しましょう」「これからブレストを行います。ここでは質より量です。どんな突飛な意見も大歓迎ですので、たくさんの意見をお願いします。」という一言を添えることで話しやすくなることもあります。学年が低い人から当てることで、意見を言いやすくする工夫もあります。それでも話しにくそうな人には、まずはいきなり意見を求めるのではなく、ムードメーカーに最初の意見を求めることもあります。本人の意見をオープン・クエッションで聞くのではなく、第三者はこういう意見を持っていますが、それについてはどう思いますか?といった一般論や極論、暴論を語ってみる方法もあります。それでも、人前で話すのが苦手な参加者の場合は発言を求められると、無理矢理何かを喋らせられたという気持ちになり、とても辛い経験になってしまいます。「沈黙」は当てられた人にとっては苦痛の時間になりますので、ファシリテーターがあえて発言を積み重ねることで沈黙を埋めてあげつつ、相手の頭の中を整理する時間を作ります。ファシリテーターはしゃべりあぐねている本人に代わり間を埋めつつ、場合によっては、質問やかけ合いによって言葉を引き出す伴走者になってあげる必要があります。突然、話を求められても、よほど話慣れている人でなければ、意見がすぐに出ることは難しいです。参加者全員の意見を聞きたくても、不意打ちは禁止です。話しにくそうな人に意見を求める場合は、「次に意見を聞かせて欲しいので、考えておいてください」というようにあらかじめ意見を求めることを伝えておく必要があります。
⑰ ファシリが難しい時「ずっと同じ人が話している」「議論に入っていけない人がいる」
グループトークは大縄跳びのようなイメージです。ファシリテーターは縄を回す人で、参加者は飛ぶ人です。ファシリテーターは参加者が輪に入りやすい空気作りが重要です。大縄跳びの理想は参加者たちが輪の中に出たり入ったりしながら、心地よく飛び続けられることです。中に入りにくそうな人がいたら、縄のスピードを緩めるように、発言できていない参加者が議論に混ざれるように手を差し伸べてあげる必要があります。「ところで〇〇さんはどう思いますか?」「そろそろ、△△さんの意見も聞いてみたいですね」「ここは重要なテーマですから、他のみなさんの意見も聞いてみましょう」「〇〇さんの視点からは今の議論はどのようにみえますか?」と言った言葉を使ったりします。一部のメンバーだけがヒートアップしていると、他の参加者は議論に入りにくいものです。その流れを一旦緩やかにして、新しいメンバーを輪の中に招き入れてあげます。同じ人がずっと話をしている時は悪いことばかりではありません。言葉に力がこもっており、その人の思いの強さや感情の高ぶりを示すもので、議論に熱をもたらします。傾聴に値するもので聞いている人が熱心に聞いている場合は、そのまま話を続けてもらう選択もあります。ですが、発言者だけがヒートアップしていて、聞いている人の空気がしらけている時は、発言者の声を受け止めつつ、どこかでその話を切り上げていく判断が必要です。その場合、ファシリテーターが相槌をあえて大きくしたり、復唱や同調を大きくしていくことで、本人に嫌な思いをさせずに、発言の主導権をファシリに戻していきます。「なるほど〜そうなんですね〜わかりました〜」「へえーそれは知りませんでした」とリアクションを大きくすることで、そろそろ時間ですということを伝えていきます。
⑱ ファシリが難しい時「話があちこちに脱線する」「時間内に終わらない」
まず場のデザインスキルのOARRのOutcomeとAgendaが共有されていないことが多いです。それでも議論が盛り上がれば、脱線することはよくあります。そんな時は、本日の会議の目的と残り時間を途中でアナウンスし、もう一度、話し合うべき議題に修正していきます。あらかじめタイムキーパーに残り時間が〇〇分になったら、教えてくださいと伝えておくのも効果的です。脱線した内容は蔑ろにするのではなく、「それはとても大事な議題ではありますが、本日は〇〇にをメインで話し合いたいと思っていますので、また別の機会にお願いいたします」と言った風にやんわり戻していきます。脱線事項が出てきた場合は、ホワイトボードに脱線スペースを作って、メモとして書いておくことで発言者に不快な思いをさせなくてすみます。脱線しているかどうかを判断するのは、実は難しいので自分なりの議題に対する仮説やゴールを持ってファシリテーションに臨みます。発言者の意見を傾聴しながら、ホワイトボードにメモしつつ、発言していない人にも注意を払い、話し合いが脱線しているかを判断するのは至難の業です。話し合いを俯瞰するためには準備がどうしても必要になってきます。
⑲ 病院で行われる話し合い(例:多職種カンファレンスのファシリのコツ)
多職種カンファレンスは毎日のように行われているカンファレンスです。特にケースワーカーさんがファシリテーターを行い、開催されていることが多いのではないでしょうか。そのため、病院内で一番ファシリテーターが上手なのは、MSWさんです。MSWさんの動きを観察していると、これまでの内容が全て詰め込まれています。カンファレンスが行われる前には必要な出席者への声かけ、情報収集、日時の設定、場所の設定といった「準備」を行ってくれています。そしてMSWさんの頭の中ではある程度、話し合いの流れやゴールもできあがっていて、そのゴールに向かってみんなで話し合っています。いざ、カンファレンスが始まると、はじめに自己紹介から始まります。そして、話し合いの趣旨や議題(例:〇〇さんの退院後の生活、退院日の決定)についての共有がされます。時には、〇〇が途中で退席しなければならないので、△分までに終えようと思います。というように時間配分も提示されることもあります。これはまさしく、OARRの共有が行われています。そして、順番に意見を求められ、医師、看護師、リハビリ、栄養士・・・が順々に意見を述べていきます。そしてその都度、参加者(ケアマネ、家族、在宅サービスに関わる人)に質問がないかの確認を行い、問題点の抽出を行います。基本的には参加している全ての人から意見を聞き、在宅に帰る上で何か問題が隠れていないかといった発散が行われています。在宅サービス側のメンバーで議論が盛り上がると、入院担当チームが議論に混ざれないこともしばしばあるので、その場合は、役割を終えた職種へ退席を促してくださる優しさも垣間見えます。ある程度、議論が終わると、収束のプロセスに向かっていきます。薬の管理は誰が行うか、排泄はどうするか、デイサービスは週に何回か、在宅でのサービスはこれで十分か、といったように目的(退院)達成のために具体的にどうするのかをまとめていきます。
そして、全員の合意をもとに退院が決定します。退院日が決まると、その日までの課題が抽出されているはずですので、各職種がカンファレンスで出た問題をクリアしていく必要があります。例えば、車椅子に〇〇分乗れるかどうか、トイレは自立できるか、在宅診療部への紹介というようなものです。そして、いわゆる3W(whenいつまでに,who誰が,what何を)を共有して終了になります。多職種カンファレンスに限らず、人が集まって話し合いが行われている場所にはファシリテーターとファシリテーションが存在します。いかにその場の話し合いが有意義で効率的なものかどうかは、ファシリ次第です。これから参加する話し合いの際には、誰がファシリテーターか?ファシリ力はどうか?といった視点で見てみると、今日の内容が復習できます。
⑳ Zoomのファシリテーションのコツ
Zoom会議と直接の会議の一番の違いはなんでしょうか?それは相手の反応が読み取りにくいことです。そのため、ファシリテーターが一番意識すべきことは、相槌やリアクションを大きくとることです。発言者が自信を持って発言できるように、あなたの発言は確かに伝わっています。ということをアピールする必要があります。Zoom会議であっても基本のファシリテーションは変わりません。ホワイトボード機能を上手く使えば、ホワイトボードでの共有は実際よりも見やすいものになります。保存も簡単で共有もすぐにできます。
Zoomでは発言者は一人になってしまうので、発言権が回ってきた場合、ファシリテーターが沈黙を埋めるということが難しいです。そのため、「喋らされた感」が出やすいので、できるだけ不意打ちを徹底して避けるべきです。発言の順番をあらかじめ決めておいたり、予告をして頭の中を整理してもらう時間を確保してもらうことが大事になります。
最後に
今日、みなさんが集まっていただいたのは、ファシリテーションスキルが上げられる、と期待されていたかもしれません。ですが、今回の目標は、「ファシリテーションスキルが上がること」にはしませんでした。今日の目標は「ファシリテーションに興味を持ってもらうこと」です。ファシリテーションはスキル、技術です。聞いただけでは技術は身につきませんこの会はあくまで、ファシリテーションがいかに大事であるかをみなさんにお伝えし、興味を持ってもらい、日頃から意識してもらえるかを目標としています。
興味さえ持つことができれば、自然とファシリテーションスキルは上がっていきます。本屋さんにいけばたくさんファシリテーションの本は売っていますし、
Youtubeで検索すれば、たくさんファシリテーションの動画は出てきます
そうやって、自分でファシリテーションを学びたいな・・・という気持ちが少しでも芽生えたら、あとは自然に上達していきます。ファシリの練習の機会は、幸い山ほどあります。日頃から参加している会議やカンファレンスでファシリテーションを意識してみてください。意識するだけで上達します。議論していることや話し合っていることが表面で、その裏側でファシリテーターがどんな立ち振る舞いをしているかに注目するだけで、ファシリ力は上がります
今日の話が参加していただいた皆さんのこれからの人生に少しでも役立つようなきっかけになれていれば、嬉しい限りです。
参考文献:
超ファシリテーション力 平石直之
→ABEMA Prime進行の平石直之さんが書かれた、今話題の本
Q &A形式で読みやすくて、実践的
ファシリテーション入門(第二版)堀公俊
→名著。共有・発散・収束・決定の段階におけるスキルを解説
世界で一番やさしい会議の教科書 榊巻亮
→ホワイトボードの重要性や隠れファシリについて教えてくれる
ファシリテーションの教科書 吉田素文
→「仕込み」と「さばき」と「振り返り」が重要
Amazonのすごい会議 佐藤将之
→amazonの会議は独特だが、レベルが高い。参考にしたいポイント多数あり
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