2019年7月31日水曜日

失神 症例














 

昔作った原稿です

お蔵入りしてます


2019年7月30日火曜日

温泉中に意識消失した若年女性(昼カンファ)

当院では毎日、昼にカンファレンスがあります

前座でちょこっと勉強になることを話して、

その後、一時間、症例検討を行います


NEJMのClinical Problem Solvingとほぼ同じ感じで進んでいきます

つまり、情報が小出しに現れて、リアルな感じで進行します

司会はもちろん、症例のことを知らないので、

オーディエンスと一緒に、鑑別を立てていきます


矢吹先生は「working diagnosis」と名付けており、使わせていただいております

それでは、本日の症例です

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32歳 女性  主訴:温泉で倒れた

救急隊より

32歳女性、温泉に入った後、脱衣所で倒れているところを発見され、

救急要請あり

脱衣所で過換気になっており、テタニー様の手の状態だったそうです

右水平方向性眼振?あり

目撃者によると泡を吹いて、痙攣?していたそうです

意識は現着時は清明で、会話可能

バイタルは血圧127/80、脈87、SPO2  98%(RA)、RR18、T36.8

15分後に病着予定です
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司会:さて、こんな人がもうすぐ来るそうですよ?
   
   何か、救急隊にこれだけは聞いておきたいということはありますか?

初期研修医D:瞳孔所見はどうですか?

発表者:すいません、瞳孔については、記載がないので、分かりません

司会:ありがとうございます

   瞳孔所見って確かに、毎回救急隊が教えてくれますよね

   でも経験的に瞳孔に救われた!ってこと、あまりないんですよね

   アニソコがあっても、何も理由がなかった人も何人も見てきました

   瞳孔所見が大事ではないということではないのですが、
   
   ここではもっと大事なことがあります


専攻医I:目撃者の連絡先を聞いておいてください

司会:素晴らしい!
   
   そうですね。この状況で病歴をとれるとすれば、目撃者からです

   目撃者を連れてくることが可能であれば、連れてきてもらいますし、
   
   難しければ連絡先を聞いておくことが、ここでは最も重要になります

   実際はどうでした?

発表者:すいません、実際は目撃者の連絡先や連れてきてもらっていません



ピットフォール①

失神や一過性の意識障害系は、
目撃者から病歴をとることが非常に重要

目撃者とつながるためには、最初が肝心




司会:わかりました。忘れがちですが、ここを逃すと診断がつかないことが多いので、

   「失神」というカテゴリーに入りそうな症例の場合は、目撃者を大事にしましょう

   では、救急車が来るまでに何を準備しますか?物理的な準備と心の準備。


初期研修医D:血ガス、血液検査、画像、超音波、酸素、点滴、心電図ですかね

       鑑別は起立性低血圧が起きたのではないでしょうか

       あとはてんかん発作とかですかね


司会:ありがとうございます

   だいたい、「サルも聴診器」ですね

   しかし、ここでは、もう一つ忘れがちだけど、
   
   検査するか考慮してほしいものがあります

   何かわかりますか?


シーン


司会:意識がもし悪かったら、CT撮らざるを得ませんよね?

   この人、おいくつでしたっけ?

神経内科専門医:妊娠反応!!

司会:はい、その通りです。

(※昼カンファには、自分より上の先生もたくさん参加しており、
 本日は外科、耳鼻科、神経内科、腫瘍内科、膠原病科、家庭医の先生がいました)



司会:しかし、CTをとるためだけではありません
   
   若年女性が救急外来に来た際は、

   まずは妊娠に関連した症状でないか

   と思うことが重要です

   若年女性の腹痛なら、HELPP症候群かもしれません

   痙攣発作なら、子癇かもしれません

   そして、失神なら子宮外妊娠の破裂かもしれません


   お腹みたらわかるでしょ?と思われるかもしれませんが、
   
   やっぱり、体形だけでは分かりにくいことはあります

   妊娠があると、鑑別ががらっと変わります
   (→参照:ちゃぶ台返し系キーワード)


   ということで、思考のシャドーボクシングと呼んでいますが、

   一瞬、思いついて、一瞬で消すようなイメージです

   シャドーしておくだけで、実際にそれを検査したりするわけではありませんが、

   あやしければ、実際に探しに行きます

    
   今回であれば、明らかに温泉入っていて、

   脱水からの起立性低血圧と飛びつきたくなるでしょう

   そこをぐっとこらえて、もしかして子宮外妊娠の破裂だったら・・・

   と思いついておくことはとても重要なことです

    
   そして、今回はもしかしたら、痙攣したのかもしれないという触れ込みです

   若年女性の痙攣発作(初発)であれば、

   やはり妊娠しているかどうかは非常に重要な情報です
   

   若年女性が痙攣発作を来した時の考えることのまとめです

      脳が原因(つまり、CTやMRIで原因が分かる)か、

   脳以外が原因を考えます



司会:さて、こういったことを妄想していると、救急車が到着しました

発表者:来院時の意識は清明で、

    バイタルは救急隊の時と、著変ありませんでした


司会:ありがとうございます。

   病歴はどうでしたか?

発表者:はい、温泉とサウナをあわせて、45分くらい入っていたそうです

   温泉に入っているところから、立ち上がって数歩歩いたところで、

   くらくらして、のぼせた感じになり、水を飲んだそうです

   それでものぼせた感じがおさまらず、脱衣所に行きました

   そこでも水を飲みました


   横になりたかったのですが、脱衣所だったので、

   椅子に座っていたそうです

   その後、記憶がなくて、

   気が付いたら抱えられていました
 
   ということでした

   すいません、目撃者と連絡がとれていないので、

   情報はこれくらいです


司会:ありがとうございます

   病歴は圧倒的に起立性低血圧ですね


   さて、どんな診察に注目したいですか?

   
シーン

司会:狙ってとる診察と、
  ざーっととる診察は、情報のインパクトが違います

   インパクトあげるために、重要だと思う診察を考えてみましょう


研修医D:口の中を見たいです。脱水があれば、乾燥しているかもしれません。

司会:ありがとうございます。そうですね。大事ですね。

   他にはどうですか?


研修医N:頸静脈!!!


司会:はい、そうですね。

   頸静脈はとても大事です。
   
   この場合なら、臥位でもいいと思います

   臥位であれば、外でも内でも頸静脈はみえます
   
   臥位で、頸静脈がよく見えないというのは、
   
   循環血漿量の低下を意味します

   逆に!
   
   内でも外でも、頸静脈が張っていたらどうでしょうか?

   あれ?脱水だと思ったのに、なぜか張っているぞ
   
   ベッド上げても張っている・・・


   え?肺塞栓?

   肺塞栓は確かに、失神で来ることが意外に多いことが知られていますね

   
   ということで思考が、がらっと変わります

   こんな風にルーチンで頸静脈をみるのではなく、

   予測しながらとることが重要です

   インパクトが全然違いましたよね


   あとは、どうでしょうか?

   
研修医D:シェロング試験

司会:その通り!

   ここでは、シェロング試験がとても大事ですね

   よくあるピットフォールがあります

   わかりますか?


シーン

司会:それは、こういうシチュエーションって、何も考えず点滴しがちですよね


   バイタルが崩れていれば、すぐに点滴することは問題ありませんが、
   
   バイタルが安定しているのであれば、ここで点滴するメリットはなんでしょうか


   デメリットはあります

   hypovolemic による起立性低血圧だと思っているのに、
   
   いつの間にか治療してしまっていて、診断がつかなくなる危険があります


   ということで、点滴してもいいのですが、ぽたぽたくらいにして、
   
   あまり外液いれないようにして、すぐにシェロング試験をしましょう


ピットフォール②

起立性低血圧疑いの人をシェロングする前に、知らない間に治療してしまっている

気が付いた時には、200mlほど入っており、シェロング試験が陰性になってしまって、解釈に困る

司会:あるあるですね

   なので、自分なら点滴そこそこに、すぐにシェロング試験します

   さすがに、子宮外妊娠で失神するくらい大量出血があれば、

   シェロング試験陽性になってほしいですよね
   (→参考:起立性低血圧)


発表者:すいません、点滴が入った後にして、陰性でした


司会:了解です。大丈夫です。
   
   自分も何度も同じことをしました 笑

   他の診察はどうでしたか?


発表者:眼瞼結膜蒼白なく、口腔内の乾燥はありませんでした
    
    舌咬傷はなかったです、頸静脈は見てなかったか、忘れてしまいました

    心音は収縮期雑音が2RSBにあり、頸部に放散してました

    神経学的所見は脳神経も運動も感覚も問題ありませんでした


研修医N:最初の眼振はどう評価すればいいんですか?


司会:医療者の医学用語には注意した方がいいです

   基本的には、自分が見たものしか信じません

   それは、患者さんを守るためです

   なので、人から聞いた情報というのは、「」かっこつきです

   本当かどうか、あやしいな・・・

   くらいで身構えておきます


  救急隊や一般の人が診察(主に視診)を行い得られた情報は、

 鵜呑みにせず、上手に聴取しなおさなければなりません


   例えば、今回の「眼振」「痙攣」「テタニー」です

   これらが本物かどうか確かめるために、

   何かコツを知っている人はいますか?


神経内科Dr:痙攣の時とかは、マネしてもらうことはよくありますね


司会:ありがとうございます。その通りですね。
   
   言葉にすると、表現方法に相違があるので、
   
   実際にやってもらったり、こちらがまねしたりすれば、
  
  言葉よりは情報が正確になります


   今回は、目撃者と話しができないので、これ以上は詰めれませんね


   この症例は失神と考えるべきでしょうか、

   痙攣発作や意識障害で考えるべきでしょうか?


研修医D:失神でいいんじゃないですか?

司会:そうですね
  
   では、失神の原因で危ない原因は何ですか?


研修医D:不整脈といった心原性です


司会:ありがとうございます

   ではもう一つは?

研修医N:大動脈解離!

司会:まあ、その通りなのですが・・・
   
   あまり失神のプレゼンテーションでは来ませんね


専攻医:起立性低血圧! 大量出血だと大変です!

司会:その通りです
   
   起立性低血圧の場合、脱水といったcommonな状態と
   
   大量出血というcriticalな状態が混在するので、

   起立性低血圧をみたら、必ず大量出血の可能性について検討します


   今回はいいと思いますが、場合によっては、直腸診が必要です




  
   診察で、心雑音を聞いたのは、いいですね


   例えば、高安動脈炎が背景にあった場合、血管が細くなり、
   
   雑音が鎖骨下や頸動脈で聴取するかもしれません
  
   またリウマチ熱を患い、弁膜症があるかもしれません

   失神の際に心雑音を聴取するのは重要です

   他の検査はどうでしたか?


発表者:まず、モニターをつけて、心電図をとりました
    
    異常は検出されませんでした  
    
    FASTは陰性でした

    UCGは問題ありませんでした

    血液検査も問題ありませんでした


司会:ありがとうございます
 
   FASTはfocused Assessment with Sonography for Traumaなので、
   
   外傷の時のショックの原因を調べる検査です

   ここでは、RUSH examという用語の方がよいのかもしれませんね

   
   子宮外妊娠の超音波所見をみたことありますか?

   超音波では本当に見えにくいですので、

   ここでも狙ってみることが大事です

   まあ、今回はシェロングも陰性であり、違うとは思いますが。。。

   さあ、病歴、診察、検査が同時並行的に進んでいきました

   この後、どうしますか?


シーン



腫瘍内科医:サウナ45分!?それやべーよ!!

     絶対脱水になるよ

司会:サウナと温泉合わせて、45分です (笑)
  
   サウナだけだったら、やばいですよね 

   まあこの時点では、やはり脱水に伴う起立性低血圧でいいのではないでしょうか


発表者:はい

    そういう風に説明して、帰宅となりました

    これまでにも、温泉でそういうことがあったようなので、

    水分はしっかりとるように伝えました


家庭医:具体的にアドバイスしましたか?

    お風呂の途中だけではなく、
   
    お風呂に入る前に水分をとることが重要です

    のぼせたら、手を冷やすとか、長湯は避けたりすることも大事です


司会:ありがとうございます、その通りです

   水分とる以外には、カウンターマヌーバーとかも教えてあげてもよいかもしれませんね


司会:はい、皆様お疲れ様でした

   今回の症例は若年女性の失神もしくは意識障害でした

   原因は脱水に伴う起立性低血圧という暫定診断でした

   とても勉強になりましたね



※このように昼カンファでは、診断がバシっと決まるものは少なく、

 プロセスを重要視しています

 初期の二年間で出会える症例は限られています

 他の人が出会った症例から学べるだけ、学ぶことが重要です

 0か1かは大きな違いです

 カンファではよくわからなくても、もう一度、同じような症例に出会った時に、

 あー、あそこで言っていたのは、このことか!と分かる日が来ます

 カンファは筋トレみたいなものです

 出続けていると、いつか自分を支えてくれるでしょう




学びのポイント
・救急隊や目撃者からの情報で「痙攣」といった医学タームがあった時は、注意して聞く必要がある
→自分でマネするか、マネしてもらう


失神の可能性があれば、目撃者から情報をとることがどんな検査よりも重要
→ここが診断不明になるかの分かれ道


若年女性の起立性低血圧であれば、一度は子宮外妊娠の破裂を考える
→実際に検査しなくても、思考のシャドーでもよい

2019年7月27日土曜日

診断よりも治療が大事な時

國松淳和先生の「病名がなくてもできること」をよんだので、

読書感想文してみたいと思います


自分なりの本を読むコツ

①読んでいたら、イメージが降ってくるので、

それを絵にしてメモしていきます

左脳(言語)を右脳(イメージ)に変えていく感じです




②読み終えたら、まとめます

自分の考えと共感できれば、なおさらまとめたくなります

そこで大事なのは、ただまとめるのではなく、

自分の思考を通して、まとめるという事です

自分の考えが組み合わさって、新しいものが生まれます

なので、下記にまとめがありますが、

國松先生が全て語ったことだけではなく、個人的な経験や解釈に基づいて

まとめてあります



勉強のコツはいかに、アウトプットするかです

inとoutの比率は、3:7でいいそうです

(学びを結果に変えるアウトプット大全より)


本を読むときも、読んだらどうやってアウトプットするかを考えます

経験上、アウトプットしなかった時に読んだ本の内容は、ほとんど忘れています

しかし、何かしらアウトプットすると、記憶の定着が格段に上がります

アウトプットする方法は何でも構いません

フェイスブック上に読んだ本の感想をあげている人もいますし、

自分のパソコンの中だけに残しておいてもよいと思います

翌日に人に伝えるだけでも良いです



自分はこうやって、ノートにまとめるのが性に合っているようです



読書感想

この本を読んで、

自分が深層心理で思っていたことだけど、

言語化できていなかった部分であり、それを言語化してもらっている感じで、

とても共感できました


眼から鱗のことが多いです


それ言っちゃう!

みたいなことを平気で言語化していきます

そこが國松先生の魅力です



診断・病名がなくてもできること、という斬新な切り口で書かれています

診断学が好きな総合診療医に一石投じている感じです


確かに、診断できなくても何かをしなければならない場面はあります

それを3つのフェーズに分けて考えていきます




初診外来

まず時間という武器が使えない初診という世界についてです


個人的には、病気を診断するには、

病歴×身体所見×検査×時間


が必要だと思っています

よく外来で、「診断は何なんですか?」と迫られますが、

「もう少し時間が経てば、病気が顔を出してくるので、

 情報も増えて診断できると思いますよ」

と返すと、ほとんどの方が納得してくれます



病気を診断する時に、時間は大きな武器になります


その時間という武器が使えない状況が、初診外来です


そのため、初診外来では、半分以下くらいしか病気を診断できないと思います


医師としては、病気が診断できなくても、何か患者さんのためになることをしなければ、

患者さんが来た意味がありません


そのため、初診の時点で、診断をつけられなかった時に大事なことは、

具体的なプランを提示することです


「週明けても、発熱や咳が持続しているようなら、肺炎の可能性があるので、

また来てくださいね」

「2週間後の外来で、咳の様子を聞かせてください、まだ咳が続いているようなら、

咳喘息として対応するかもしれません」



といった感じで、具体的に示すことが重要です



キャンピロバクタ―がよい例です

one day FUOと称されるように、

頭痛・節々の痛み・高熱が、まずはじめの症状です

この時点では下痢がないので、キャンピロを積極的に疑えません

インフルエンザ様症状を呈する疾患はたくさんあります


そこに、数日前にBBQにいったという情報が加われば、

これはキャンピロの下痢の前の症状の可能性があるということで、

「明日、下痢になったら、キャンピロバクタ―という感染性腸炎だと思います。

その場合は水分をしっかりとっていただき、経過をみていただければ、

自然に治ることが予測されます。水分さえ取れなくなったり、

腹痛が悪化してきたりすることがあれば、いつでも受診してください」

ということができます


この時点で重要なのは、診断はついていなくても、

軸足を何かに置いておく、

何かの病気に賭けておくことが重要です


何にも賭けていないと、新たな情報が出てきてもインパクトが全く違います





ここで思い出すのは、

研修医の時に、矢野晴美先生(国際医療福祉大学)に言われた言葉です



「医者の仕事は考えることではありません、judgmentです」


この言葉が医者としての自分を支えています


知識が豊富で、鑑別疾患をたくさん上げることができる医者が、

よい医者ではありません

与えられた情報の中で、最善の判断・決断をすることができるのが、

よい医者です





あとがない状況



後がないというのは、死が迫っているということだけではありません

臓器障害や機能予後という観点でも、後がないと言えます


例えば、ADLがギリギリな高齢者がPMRになってしまって、

さらにADLが落ちているとしたら、

これ以上、動けなくなったらリハビリしても、

本当に寝たきりになってしまう

というのも、後がないと言えるかもしれません



このあとがないという状況は、科ごとに異なります

呼吸器、循環器、腎臓、消化器、神経といった科は、

画像や検査データで後がないことがよくわかります

つまり、戦っている相手を可視化しやすいと、國松先生は書いています


可視化しにくい敵というのは、

多くは炎症の病態です


炎症が強くなりすぎると、炎症を起こした本態が見えにくくなり、

炎症の結果起きている事象(臓器障害)に目が奪われて、

ついには、血液・凝固異常をきたしてきます



そういったときに、火事を起こした犯人が分からないから、

火は消さない

ということはあり得ないと思います


犯人捜しは火を消した後です


なので、とりあえず火を消すために、

ステロイドを使用します

これを國松先生は、damege control steroid therapyと言っています


よくあるのは、不明熱で精査中に、

凝固異常をきたし、貧血が進行し、

血球貪食リンパ組織球症(HLH)をきたしてきた


という状態です


炎症が強くなりすぎると、行き先はHLHです

入口はいろいろあります



このフェーズでは、病名よりも、

病態を考えることで、治療を行います


「病名がなくてもできること」の本を読んだまとめ
・本を読むときに、左脳→右脳を意識しながら読む
→読んだらアウトプットする


・初診外来の時点で大事なこと
→診断をつけることではなく、具体的なプランを提示する


・あとがない状況で大事なこと
→病名よりも病態を考えて、治療する


最後に、一番心に響いた文章を抜粋してご紹介します。

(中略)勇気というのは、無謀で危険なギャンブル精神では決してない。
確かで正確な知識を身に付けて、治療に踏み切った後のフォローまで行い、そのフォロー内容は治療副作用の管理はもちろん合併症の治療あるいは、そもそもの診断の見直しまでカバーするものであって、迷いや苦しみを負い続ける責任感まで含めて「勇気」と呼ぶのである。

(中略)単なる賭け的な思い切りではなく、その後も患者をフォローする・フォローし切るという責任感の発動なのだろうと思う。



決断する時に、勇気がでない時に思い出したい言葉です。

参考文献:
病名がなくてもできること 診断名のない3つのフェーズ 國松淳和 中外医学社


2019年7月26日金曜日

誰も教えてくれなかった面談の仕方

チーム医療の中で、置いてきぼりになっているのは、

誰でしょう?


それは、患者さん本人です


よく患者さんが真ん中で、医者やコメディカルが周囲を取り囲む図がありますが、

あの図はよくありません


患者さん本人を含めてチーム医療です


何が言いたいかというと、患者さんにしっかり病状説明をして、

本人と一緒に治療を進めていくのです

患者さんがそれが難しい状況にあれば、

家族と一緒に治療を進めていきます



なので、面談を上手に行うことは、

患者さんのアウトカムに関わると思っています



面談は、医師としてのコミュニケーションスキルの一つです

ですが、学生の間や初期研修医の間で、

面談の仕方をしっかり教育されたことがないため、

上級医の真似をして受け継がれているのが、

現状だと思っています


上級医がめちゃくちゃな面談をしていたら、

それが当たり前になって下についた先生も同じように面談してしまいます


ということで、ある程度の型は必要なのではないか

と思い、作ってみました


これは地方の中規模病院の一内科医が行っている面談の型であり、

万人受けするようなものではありません

あくまで一例として、こんな風に話してみてはどうですか?

という提案です




10か条にしてみました




2019年7月21日日曜日

ギランバレー症候群(GBS)

treatable dysphagiaで有名なのが、VZVで、

もう一つが、ギランバレー症候群(特にPCB,AOP)です


ギランバレー症候群は非常に有名ですが、

疾患のゲシュタルトが頭に入っていますか?


「先行感染の後、足の動きが悪くなり、

上向して、両側の四肢の筋力が低下し、腱反射が出なくなる」

というのが、国試的ですが、

臨床で出会うギランバレーは、このプレゼンテーションだけではありません



ギランバレーを鑑別にあげた時には、

ギランバレー症候群の何?まで言えると理想ですね


ギランバレー症候群です

というのは、

脳梗塞です

といっているのと同じです


どこの?なんで?

が気になりますよね



ギランバレーは何らかの先行感染があって、自己抗体が産生され、

神経障害を来します





ギランバレーの難しいところは、臨床像が様々ということです


重症度は、軽症から最重症まで幅が広すぎです

そして、症状にも亜型(バリアント)が多すぎます


ギランバレーがどういう分類になっているかを確認しておきます

①臨床像での分類:GBS、MFS、BBE、PCB、AOP etc

②自己抗体による分類:抗GQ1b、抗GT1 etc

③病態による分類:AIDP(脱随)、軸索型のAMAN、AMSAN、AMCBN


PM/DMと似ていますよね

PM/DMも今や抗体ごとの臨床像が明らかになってきており、

今後はGBSも、もっとそういう傾向になっていくのでしょう


前回の症例は、結局、

double seronegativeのMG(重症筋無力症)だと思っていたら、

抗ガングリオシド抗体が陽性で帰ってきて、PCBの診断になりました

IVIGやステロイドパルスで治療し、

2週間後くらいには、軽快し食事摂取もできるようになりました

ステロイドはどんどん漸減し、

その後も再燃なく、経過しています



しかし、抗GM1が陽性になり、他は陰性でした



これまでの報告例では、

喉周りがやられるのは、抗GT1の報告が多いので、

本当にGBSの亜型のPCBやAOPだったかは、謎が残ります

しかし、AOPの報告例が少なすぎるので、

まだ分かっていないことも多いのだと思います



本症例は咽頭筋の急性の麻痺で、途中、頸部の筋の筋力低下が出現しました

しかし、上肢の筋力は問題ありませんでした


無理やり、臨床像から名前を付けるとすれば、

PCBとAOPの中間になるのであろうと思います


病名は人間が恣意的につけているだけなので、

病名が大事だとは思いません


大事なのは、病態です

つまり、この患者さんに何が起きているか?

の方がよっぽど重要です



それさえ、分かれば治療はできます


GBSの治療は割愛します




ギランバレー症候群のまとめ
・軽症から超重症まで、重症度に幅がある疾患
→軽症例は見逃されている可能性大



・ギランバレー症候群という鑑別をたてるなら、もう一歩、先へ
→臨床像、自己抗体、病態で分類する



・バリアントが非常に多彩なので、急性に出現した何らかの神経異常に関しては、ギランバレー症候群を鑑別にあげる
→非典型が典型くらいのつもりで


参考文献:Lancet 2016;388:717-27
up to date
NEJM 2012;366:2294-304
BRAIN and NERVE 71(6):581-587,2019



治せる可能性がある嚥下障害 後半

前半は病態で分類してきました

この分類は、どこにでも書いてありますが、

そこからどうやって優先順位をつけていくかを考えます


一般論ですが、

鑑別を上げる時のコツをお伝えします

①まずはできるだけ、「発散」します


つまり、鑑別をできるだけ多くあげます

ここで鑑別にあがらなければ、一生診断できません


なので、もれなく鑑別を上げるトレーニングが必要です

コリンズさんが書いた本が、鑑別疾患があげられない時は、

読んでみると参考になります

鑑別の挙げ方は、解剖(A)と病態(B:VINDICATE)を意識します

BとVが似ているので、B(病態)となっています


たくさん、鑑別をあげることができるようになったら、

次は絞り込むトレーニングが必要です


②「発散」しつくしたら、「収束」させる


膨大にあげた鑑別疾患を絞り込む作業が必要です


優先順位として、

most likely、likely、probable、possible、less likely、must rule out


と自分の中で確率をわけられるように、トレーニングします


では、順位をどうやってつけるかですが、

3Cで考えます

common、curable、critical


よくあるもの、治せるもの、致命的なもの の軸です



最初は毎回、これらを頭で考えるトレーニングが必要です(つまり、システム2を鍛える)


では、どこでやるか?


それは、ケースカンファレンスや振り返りの場です


慣れてくると、直感で分かるようになります(システム1)



小まとめです

・鑑別疾患を「発散」させるために、ABを使い、「収束」させるために、3Cを使う


・システム2を鍛えないと、システム1が使えない


では、嚥下障害について考えます

鑑別をあげるために、前回病態を確認しました

次に絞り込む作業です


今回は、急性に出現した嚥下障害なので、

コモンなものは?

というと、真っ先に脳梗塞があがります

しかし、MRIでは脳梗塞はありませんでした

頭蓋骨転移もなしでした



今回は、発症様式や経過がkeyになるので、

そちらを考えます




入院患者さんで出会う誤嚥性肺炎の時の、嚥下障害のほとんどが、

慢性のものです


慢性なものと急性なものは、鑑別が全く違うので、

分けて考えます


急性・亜急性ということは、炎症が起きている可能性が高いという事です


炎症が起こるためには、

感染症・自己免疫性疾患・脱随・腫瘍といった原因が考えらます


そういった病態は適切に対応すれば、治せるかもしれないという事です



3Cの一つ、curableという概念が嚥下障害では非常に重要です



treatable  dementiaという言葉はどこかで聞いたことがあると思います


では、treatable dysphagiaという言葉はきいたことがありますか?


論文を調べても、鉄欠乏によるPlummer-Vinson症候群の一例報告しかでてきません

(Gastroenterology  2017;153:e9-e10)


この言葉は、嚥下の専門の神経内科の先生に教えてもらいました

とても重要な概念だと思います



治療ができるとしても、

我々にできることは限られています

・ステロイドやIVIGで免疫病態を治療するか、

・感染症、特にVZV感染の場合に、抗ウイルス薬をいれるかどうか


が一番最初の悩みどころです



それ以外は、病歴や診察を丁寧に行えば、

分かることが多いです


特に皮疹のでないVZVによる下位脳神経障害は相当見落とされていると思います



2018年に日本語でVZVの下位脳神経障害をまとめてくれていた論文があります

これをみると、大事なことは、

①VZVの軟口蓋麻痺は必ず片側であること

②どこかしら、痛みを伴うことが多いこと

③喉頭に粘膜疹が多いこと

④皮疹がなくても、VZVを疑ったら、髄液検査で判明することがあること


ということです


皮疹がなかった場合、治療介入の遅れが後遺症につながっているので、

皮疹のないVZVをいかに早期発見・早期治療するかが、重要です


本症例でも喉頭ファイバーでみましたが、皮疹はありませんでした

また髄液検査を行いましたが、細胞数や蛋白の上昇はなく、

VZVPCRは陰性でした


ということで、VZVの治療は見送りました

両側だったので


treatable dysphagiaのまとめ
・嚥下障害をみたら、一度は治せるものでないか?を考える
→特に急性に出現したものは、治せる可能性が高い

・VZVは早期治療が予後改善させるので、まず悩む
→皮疹がなくても、喉頭ファイバーや髄液検査で検索を

・次に、ステロイドやIVIGをいつ、投与するかを悩む
→MG、PCB、筋炎には効果あるが、筋ジス、ALSには効果ない


参考文献:uptodate
Gastroenterology  2017;153:e9-e10
日耳鼻 121:1279-1287.2018