毎年恒例の教育回診で、清田先生をお招きして症例対決を行いました
面白かったです
流石でした
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症例 57歳 男性 主訴:倦怠感、意識障害
現病歴:入院当日、倦怠感が強く、近医を受診
そこで徐々に意識レベル低下あり
血糖測定すると、50台と低血糖を認めた
ブドウ糖投与した上で救急要請となり、当院へ転院搬送となった
当院到着時は意識レベルE4V4M6であり、再度血糖測定すると62であったため、
ビタミンB1投与の上でブドウ糖を再度静注した
その後、精査加療目的に総合診療科へ入院依頼があった
バイタルサイン
意識GCS E4V4M6、JCS1-1、体温36.1度、血圧113/77mmHg、脈拍89回/分(整)、
呼吸数16回/分、
SPO2 93%(room air)
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ディスカッション①
発表者:自分の胸中としては、低血糖で意識障害かぁ・・・
今の血糖は100超えていて、補正されているけど、
なんだか意識がはっきりしない
JCS1-1ってこんな感じですよねっていう感じでした
K先生:JCS1はすばらしいよね
発表者:はい、無限大の可能性を秘めたJCS1-1だなと思いました
まずはやっぱりアルコールかなあ、という気持ちでした
問診を追加していくと、
ROS陽性の症状として、食思不振、倦怠感、下痢がありました
頭痛、吐き気、嘔吐、悪寒戦慄、背部痛、胸痛、腹痛、排尿時痛はありませんでした
K先生:下痢があるの?それはだめだねえ
やっぱりアルコールかもしれないね
発表者:既往歴ですが、
下壁の心筋梗塞(10年前)、脂質異常症(10年前)、不眠症があります
ですが、かかりつけには受診したり、しなかったりと
内服のアドヒアランスも非常に悪かったです
K先生:ってことは、47歳で心筋梗塞ってことですか
脂質異常症だけのリスクでそんな若い時に心筋梗塞起こりますかね?
普通は起こりません
家族性高コレステロール血症とか、他のリスクがあるはずです
発表者:まあ、JCS1なのでどこまで本当かは分かりませんでした
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既往歴:下壁の心筋梗塞(10年前)、脂質異常症(10年前)、不眠症
内服歴:内服したりしなかったりだが、睡眠剤は飲んでいた
クロピドグレル、カンデサルタン、アトルバスタチン、カルベジロール
オメプラゾール、エチゾラム、トリアゾラム、ニトラゼパム
アレルギー:食物なし、薬物なし
嗜好歴:機会飲酒(時折、焼酎750mlのむ)
喫煙 20本/日 37年間
生活歴:一人暮らし
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ディスカッション②
K先生:僕が最初に気にするのは、何かというと
ブドウ糖を投与してどうなったかです
何とかの三徴ってあるじゃないですか?
あれ?
何でしたっけ?よっぱらってますね(笑)
聴衆:ウィップルですか
K先生:はい、そうです、ウィップルの三徴ってあるじゃないですか
1938年ですよ
聴衆:(笑)そこは覚えてるんですね
K先生:血糖が低いからといって、本当にこれが症状と関係があるかは、
ちゃんと考えなければなりません
この人は、50でも意識障害の原因でないかもしれない
ウィップルの三徴というのは、
投与して症状がきえないといけない
もし、僕みたいに普段から血糖がちゃんとある人がいきなり50台になったら、
必ず自律神経障害が出ているはずです
低血糖に対するレスポンスがないとおかしい
これがacuteに低血糖を起こしているのであれば、ただ意識が悪いだけではなくて
発汗しているとか、何らかの自律神経症状が先に出ているはずです
だから、数字だけを見るのは賛成ではありません
数字だけをみて血糖が50だから、糖をうつのはだめです
末期の肝硬変の人とかは、50で糖をうってもずっと50だったりします
そしてケロッとしています
これって低血糖症っていうんですか?
低血糖症というのは、ウィップルの三徴が必要です
あとは、VB1投与してますよね
低血糖とVB1欠乏があったら、VB1から投与しなければならないと
よく習いますね
本当ですか?
ヨーロッパのガイドラインに書いてありますが、
ブドウ糖から先に打っていいんです
ウェルニッケ脳症のリスクをあげる以上に低血糖を放置する方がまずいんです
なので、ブドウ糖から投与していいんです
そのかわり、できるだけ速やかにVB1をうちます
だからこのプラクティスは必ずしも悪くない
K先生:あとは、下痢があるのはアルコール飲んだ時だけですか?
発表者:アルコール飲んだ時だけではなく、常日頃からあるようです
2.3回くらいの軟便のようです
K先生:だろうと思いました
あやしいですもん
下痢に答えがあるに違いない
食欲低下や倦怠感は酒飲みならだれでもあります
下痢が怪しい・・・
発表者:どうですかね・・・
続いて、社会歴です
もともと生活保護を受けていました
ですが、仕事復帰を理由に生活保護を中断しています
K先生:すばらしい、いい人です
もうすぐ定年なのに、働こうとしている
とてもいい人です
発表者:ですが、仕事は勝手にやめてしまいました
なので現在、収入はありません
ここ数日はお金がなくてご飯がたべられないので、水ばかり飲んでいました
水じゃなくて、それは本当はお酒ではないのか?と
何回聞いても、飲酒は機会飲酒であるとのことでした
K先生:違います
本当にこういう話をする人は、本当にお金がありません
なので、お酒は買えません
絶対にお酒は飲んでいません
僕は生活保護の人を何人もみているので、分かります
あとは、この数日の数が何日かが大事です
発表者:3日です
ここ3日は食事は食べていないとのことでした
K先生:だとすると、この2週間、何を食べていたかが気になります
なぜなら、我々は肝臓にグリコーゲンというものがありますよね
絶食になっても、3日間は生きていけます
グリコーゲン様があるので、低血糖にはなりません
アルコールを飲んでいると、グリコーゲンからの糖新生がブロックされて、
低血糖が起こります
だから、アルコールをのんでいると、低血糖が起こりやすくなりますが、
きっとこの人はお酒は飲んでいません
水ではブロックされませんから(笑)
多分、この人はお酒は飲んでいないので、
ちゃんとグリコーゲンはグルコースを出していたのだと思います
そうすると、3日前から食べなかったからといって、
この低血糖が本当に起こるか?ということです
それよりも前にグリコーゲンのリザーブがないと、低血糖は話があいません
つまり、この時点で必ずVB1は欠乏があるに違いないという事です
そうすると、このなんとなく変な感じは神経障害じゃないかと思いますよね
そして、SPO2も気になりますよね
発表者:なるほど・・・
ただですね、僕はお酒飲んでいないのは嘘だろうと思いました
なぜなら、口臭がフルーティーだったんです
K先生:そりゃあ、フルーツ食べてたんでしょ!
聴衆:(笑)
K先生:甘い感じでしたか?
発表者:そうですね、甘い感じでした
ずっと話していてもいいなぁという感じでした
K先生:それは浸透圧ギャップがみたいですね
発表者:ということで、僕らはお酒を飲んでいないのは嘘だと思いました
K先生:いや違う
この人は、本当にお酒は飲んでいないし、
この切実な社会歴は嘘はいっていないと思います
発表者:なるほど。では次は身体所見です
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身体所見
SPO2 97%(測り直すと正常値でした)、RR16回
見た目 良好
頭頚部 眼瞼結膜蒼白なし、点状出血なし、副鼻腔叩打痛なし
口腔内異常なし、舌乾燥あり
フルーティーな口臭あり
胸部 呼吸音 清、心雑音なし
腹部 やや膨満 軟 圧痛なし
関節 腫脹なし
神経診察
脳神経 眼球運動異常なし 眼振なし
その他、異常なし
運動 麻痺なし
腱反射 亢進・減弱なし
感覚 低下や異常感覚なし
失調 指鼻指・膝踵試験・回内回外 すべて流暢
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・ここまでで、いかがですか?
K先生:まあ、VB1欠乏はとりあえず考えますよね
あとは低血糖が本当に低血糖症なのかというのが、キーワードです
低血糖の原因は食事を食べなかったからなのかもしれない・・・
しかし、それだったら、3日間より前の食事が気になります
生活保護がきれて、困窮した時期が必ず3日より前にあるはずです
いきなり水にいかないでしょ?
そしたら、栄養障害がおきてグリコーゲンの枯渇が起こって低血糖になる
ただし、それだと普通、糖いれればよくなります
あとは、SPO2 が落ちていたことも気になる
一つは不当な数字を出している可能性です
脈がとれてなかったのか、モニターがうまくつけれていなかったとか
もう一つは本当に正しい数字を示していた可能性です
呼吸音に異常がなかったとすれば、肺実質に問題はないはずです
その場合、肺内シャントのような病態がないかが気になります
肺内シャントを起こすような病態として、有名な病気として肝硬変があります
同じような病態を起こすとすれば、血管拡張を起こすようなベリベリですね
だから絶対にこの人はVB1欠乏があると思います
ですが、そうだとするとなぜフルーティーな口臭がするのか・・・?
それはVB1欠乏ではない
フルーティーな口臭には何か原因があるはずです
この人はお酒はそうはいっても好きだったはずです
だって、焼酎750mlも飲んでいる時があります
そんな人は酒好きです
この人が困窮した時に何を飲むでしょうか?
手に入るアルコールって何でしょうか?
それはエチレングリコールです
つまり、不凍液を飲んだのではないかという事です
だから甘い香りがするのではないでしょうか?
なので浸透圧をみたいです
そして尿をみてシュウ酸結石があれば確定的です
ケトンは甘いと言えば、甘いっちゃ甘いですが、うーん
ケトアシドーシスかあ。うーん
まあ、チェックはしておきますけど
発表者:ちなみに、3日前より前は何を食べていたのかも聞きました
お酒のつまみのようなものしか食べていませんでした
するめとか、刺身とかでした
ごはんや主食は食べていませんでした
K先生:なるほど、それはやばいですねえ
発表者:ただそれが具体的に、いつからそうなったのかは分かりません
K先生:それはそうでしょう
細かい食生活に関して正確には覚えていないでしょう
その日暮らしで、一日一日を頑張ってきたのでしょう
そこは臨床医が推し量るべきところです
きっと、こういう生活をしているから、
こういう食生活をしているのであろう
こんなことをしているのであろう
だからこんな臨床症状がでているのであろう、と
うーん
VB1欠乏は絶対にあるに違いない
~前半終了~