2019年11月24日日曜日

清田先生との症例対決 ~薄目の男~ (後半)

(症例の続き)※一部症例は修正しております
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動脈血ガス
PH 7.2, PCO2 32, PO2 68, HCO3 13, Na  140, K  2.9, Cl  113, Lactate 1.8
AG 13.8

血液検査
WBC 12000, Hb16, MCV 90, Plt 18万
凝固異常なし
AST  100, ALT 90, LDH  250,  ALP  430, γ GTP  580
CK  77, Na  137, Cl  115, K 3.3
Glu  94, CRP  0.06, HbA1c  6.5
甲状腺機能 正常

尿検査
比重1.025、PH  6.0、潜血(1+)、ケトン(-)

12誘導心電図 80bpm、洞調律、Ⅱ、Ⅲ、aVF 異常Q波あり

CXR  肺野に異常陰影なし

頭部CT  陳旧性の小さな脳梗塞所見あり

胸腹部単純CT 肺野に特記すべき異常なし 腎結石あり

UCG 下壁のakinesisあり、左房拡大あり、疣贅なし
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・ここまででいかがですか?

K先生:PH低!
    えーっと、AGが・・・13!?

    本当?

    えー!?13?

    
    AG非開大性の代謝性アシドーシスを起こしている

    うーん、それは下痢だね 下痢だ

   
    じゃあ、代償はどうでしょう?
    えーっと、CO2もちょっと溜まっているね
    呼吸性のアシドーシスも少し絡んでいるね
    乳酸アシドーシスは少しだけ上がっている程度だね


    Kが低いね
    普通は代謝性のアルカローシスになっているはずなのに、   
    代謝性アシドーシスだね

    
    この場合、下痢かRTAです

    4型RTAもあってもいいけど、Kが低いからこれは下痢だね

    明らかに慢性の下痢をしているね


    ビタミンB1欠乏で下痢はしません


    いやあ、これは一回見てみたいペラグラですかね?

    4Dといわれるdiarrhea、dementia、dermatitis
   
    そしてdeathですね

    
    ペラグラだったら、日光に当ててほしいですね
    光線過敏があるので、服に一致した赤い皮膚炎がでます


    来たな!ペラグラ!
    ナイアシン投与してみますか?

    ってことで、慢性下痢ですね


発表者:はい。そうですね、ペラグラ
    みてみたいものですけれど・・・


K先生:尿中のケトンは陰性でしたね
    ま、これはときどきAKAで問題になります

    こういう風に尿中のケトンが陰性のことがあります

    ケトンにはβヒドロキシ酪酸とアセト酢酸、アセトンの3つがあります

    尿定性試験ではアセト酢酸をみています
    βヒドロキシ酪酸は反応しません
   

    AKAの場合、βヒドロキシ酪酸が著明にあがって、
    アセトン酢酸があがらない病態ですので、こういうことはあり得ます
    

    ですがそれだったら普通AG開大の代謝性アシドーシスを来します
  
    今回は、そもそもAG非開大性の代謝性アシドーシスなので、
    ケトアシドーシスではありません

    ってことで、無視です(笑)


発表者:一応、βヒドロキシ酪酸出していますが、陰性でした


K先生:当然陰性です(笑)

    他の血液検査をみると、肝酵素が上がっています
    これは脂肪肝かもしれない
  
    低血糖があったわりに、A1cが高い
    低血糖が慢性にあれば、もっと低くなっている可能性がある

    やや多血ですね
    喫煙歴があるので、ベースにCOPDなのかもしれない
    二次性の多血症になっているのかもしれない

    それだったら、最初の低酸素はCOPDで説明できるかもしれない

    
    で、ちなみに血中の浸透圧はどうでした?


発表者:浸透圧は264でした
    ギャップ計算すると、-10でした


K先生:あーよかった
    もうよっぱらって、計算できませんでした


発表者:大丈夫です
    計算してあります(笑)
   
    多分、計算できないだろうなぁと思って(笑)


聴衆:(笑)

   
K先生:これでエチレングリコーゲンではなさそうですね


発表者:そうですね
    
    頭部CTはどうですか


K先生:そんなのいりません、storkeではありません!
  
    問診と診察が大事です!!
    
    といいつつ、みますけど(笑)

    陳旧性の脳梗塞くらいですね

    
    あれ?そういえば、タイトル何でしたっけ?

発表者:「薄目の男」です

K先生:薄目の男・・・・うーん
    わからないなあ・・・

聴衆:そこから考えるんですか!!(笑)

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プロブレムリスト
# 意識障害
# 低血糖
# AG代謝性アシドーシス
# 肝胆道系酵素上昇
# 下痢
# 陳旧性心筋梗塞、陳旧性脳梗塞
# 喫煙歴
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発表者:ここまででいかがですか?

K先生:一番大事なのは、低血糖を起こした原因です
    なぜ、低血糖を起こしたのか?

    そして下痢がなぜ起きているのか?

    肝臓はどうでもいい


    下痢をしていたのがなぜかが気になる

    こういうわけがわからないのは、どこかで下剤をもらっていることがあります
    病歴にはなかったが、わけのわからない薬を飲んでいたのではないかと思います


発表者:なるほど
    ですが、本人はどこか遠くへいって、
    薬をもらうようなことはできなさそうでした


K先生:うーん、なぜ下痢をしているだろう・・・

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入院後経過

意識レベルはクリアではないが、緊急性は低いと考えた
まずしっかり食事摂取していただき、低血糖が再燃しないか?
また血液ガスでPHが正常化しないか経過観察とした

血培は念のため採取、抗生剤は投与せず様子をみた

入院後、食事は全量摂取できました
血糖は100-150を推移して、問題なかった

アルコールとBZ離脱の予防のため、ワイパックス®の予防内服を開始しました

翌日の血ガス
PHは正常化せず PH7.2
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K先生:いやあ、慎重ですね
    僕だったら、予防しないなあ
    
    なぜかというと、また薬の影響を考えなければならなくなる
    
    そして、この病歴は嘘はいっていない
    この人はお酒を買うお金もないと思います

    本当にお酒はのんでいない


発表者:なるほど・・・
    
    では症例の続きです
    
    入院翌日の血ガスもPHは正常化しなかったです
    そして尿中のAGをみてました

    尿中Na 19、尿中K 42、尿中 20   →尿中AG 40


K先生:ありましたね、尿AG(笑)
    
    えーっと、尿中にアンモニアがでていて、、、その結果として、、、
   
    ってやつですよね
    でも、こんなのより病歴が大事です

    これは下痢です

    何と言われても下痢です


発表者:はい、ありがとうございます

    一応、解説すると、この尿AGは正の値でした
   
    そういえば、CTで腎結石がぽつぽつありました


    腎結石があって尿中AGが正だった・・・

    ということで、、、、


K先生:・・・なんですか?

    RTAといいたいわけですか?

    ま、下痢ですけどね(笑)


発表者:はい、我々は1型RTAとして、重曹の補充を開始しました


K先生:でも下痢しているんでしょ?

発表者:入院してからは、1日1-2回で軟便くらいでした


K先生:おもしろいね
    それが、本当にRTAだとすると、
    尿閉のシナリオとか、、、、

    トルエンを吸っていたとか、、、

    気になりますね

発表者:Kも低いのでKも補充しました
    補充したら、当然ですけどPHはよくなり、
    Kもよくなりました

K先生:ま、当然です

    これはAG非開大性の代謝性アシドーシスなので、
    本来lossの病態です
   
    腸からでているか、尿からでているかです
   
    だから下痢のエピソードがしっかりあるなら、これは下痢が原因です
  
    なのでKも下がります
    そりゃ入れれば治ります


発表者:はい。ということで、我々は1型RTAと診断しました


K先生:なるほど、おもしろい

  
    1型RTAは山ほど鑑別があります
   
    例えば、尿閉で起こった人、トルエンを使用している人、
    つまり、シンナーを吸っている人は起こります
  
    他にはシェーグレン症候群とか、結石とか、、、

    あとなんだろう・・・
    
    あ、ファンコニーとかもありますね
    薬剤性で起こることもあります

    でもこの人は薬はのんでいない・・・

    他には・・・

    あー、もう酔っぱらって思い出せない

    うーん、まあ、そんなもんです

    ま、ファンコニーにしとこう(笑)


聴衆:(笑)

発表者:はい、ありがとうございます

    おしゃる通り、1型RTAの原因検索をしようとうことで、
    シェーグレンや肝酵素も上がっていたのでPBC、
    ウィルソンを調べましたが、すべて正常でした

    はい、次からはもう答えになります


K先生:そうですか。うーん

    ・・・・・・

    やっぱり、最初の話に戻ると、
   
    この人はシンナーを吸っていたのではないか?
   
    そしたら、この話は全て説明できる・・・


    そういえば、匂いが気になります

    これは薬をやっていたのに違いない!


    ファンコニーではありません(笑)
   
    シンナーをやっていたに違いないです!!


発表者:はい、ありがとうございます

    実はこの症例には、シャーロック・ホームズがいたんです

    
    当院の精神科部長です

    この方が今回の症例のキーパーソンです

    
    実は入院後、この人が急に無断で外出をはじめました
    
    自主退院したのかな?と思ったら、
    また夜に戻ってきました

    翌日、本人と話すと、精神科の先生と話したいと言ってきました
    睡眠薬の調整をしたいと

    ということで、リエゾンの面談のため、
    精神科の先生と話してもらうことになりました

    リエゾンの面談が終わった直後に、また勝手に外出してしまいました
    
    そして、また帰ってきて、
   「このまま入院を続けるのなんておかしい! 早く退院させろ!」
  
    といってきました


K先生:それは家に何かがあるはずです
    
    なぜかというと、家に帰ったのに、また戻ってきている

    家に帰りたがっている・・・
   

発表者:早く退院したいのか、家に帰りたいのか?どっちなんでしょうか・・・


K先生:それは家に帰りたいんです!

    この人は一人暮らしなので、家に家宅捜索にいかないと、答えはでません!


発表者:はい・・・
    
    そして、精神科のカルテの終盤に驚くべき一文が書いてありました


K先生:家にシンナーがある!
























20台からシンナーを吸い続けている






聴衆:おーーーー!!(拍手)



K先生:シンナーというのはですね
   
    「thinner」っていって、薄くするっていう意味があるんです

  

聴取:(笑)タイトルの解説まで始まった(笑)


K先生:シンナーっていうのは、物質名ではありません

    物質はトルエンなんです

    トルエンが問題をおこします

    シンナーというのは、臭いが特徴的ですよね

    トルエンがこの臭いの原因です



発表者:はい、、、、
 
    これが判明して僕らはとてもびっくりしました

    正直、頭の中にはありませんでした


K先生:残念だったのは、尿AGを忘れてしまっていたことですね(笑)
  
    それでRTAと分かったら、尿中浸透圧をだして確信できていたはずです


発表者:そうです

    実は僕らは最初から尿中浸透圧を測っていたんです
    

    尿浸透圧ギャップは220でした

    これはとても高い値です


    これを計算できていたら、実はもっと早くに診断できていたと思います

    
    ・・・ということでシンナー中毒が疑われますが、

    尿中馬尿酸をださないと証明できません



K先生:いや、違います
    病歴が勝負です!!


聴衆:(笑)格好いい


発表者:確かに。。。

    一応、尿中馬尿酸は高値でした


    はい・・・ということで、シンナー中毒でした


    もう解説するモチベーションはありません(笑)


聴衆:(笑)
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今回の診断過程

発表者:最初はフルーティーな臭い、低血糖、
   そして病歴がうまく取れないことから、ケトアシドーシスを疑いました

    PHもかなりのアシデミアだったので、
   やはりアルコールにともなうケトアシだと思いました
 
    しかし、AGが開大していませんでした

    CTを見返すと、腎結石もあり1型RTAらしさが高まりました

    そして、血液検査にて肝酵素上昇があり、
    1型RTAの原因疾患検索として、
    PBCや他の自己免疫疾患を探る方向へ行ってしまいました

    そうではなく、
     AG非開大性代謝性アシドーシスの鑑別をもっと素直にやるべきでした



K先生:いえ、違います


  データは最後の答えじゃない


    最後は本人に起こっている現象が大事です


    本人に起こっていること・・・



  それは社会生活から、
     その人の人生を見つめることによって、
  見えてくるものです



    ありがとうございました



聴衆:拍手

                                  (終わり)









    

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