2019年11月9日土曜日

風邪の上手な診かた

風邪の診療をみると、そのDrの力が分かると言っても過言ではないと思います

その理由は外来でみる頻度が最も多く、そして非常に奥が深いからです


ぜひ、風邪を上手にみれるようになりましょう





風邪を適切にみる3つの力

①風邪ではない他の疾患を見破る力

風邪と思ったら、実は急性心筋梗塞だった
風邪と思ったら、実は亜急性甲状腺炎だった
風邪と思ったら、実はDKAだった

などなど

特に高齢者の典型的な風邪は珍しいので、
高齢者に風邪という診断をつける時は注意が必要です


風邪は除外診断の上に成り立つと覚えておきましょう


②風邪(感冒)を適切に診断できる力

風邪っぽい人をみたら、他の疾患でないことを除外するとともに
風邪らしさを見つけに行きます

風邪は鼻汁/鼻閉、咳、咽頭痛の三系統の症状が同じくらいの時期に同程度で出現してきます

基本はウイルス感染であり、多彩な症状を伴うことが多く、
重症感はなく、自然に軽快します


これが風邪です


鼻汁/鼻汁が突出して強ければ、急性副鼻腔炎

咽頭痛が強ければ、急性咽頭炎

咳が強ければ、急性気管支炎/肺炎


と考え、風邪とは分けて考えます


まずは気道感染症を何でもかんでも
「風邪(感冒)」といわないことから始めます



③抗菌薬を適正使用できる力

風邪に似た気道感染症の中で抗菌薬を適切に使用することが求められます

風邪には抗菌薬は必要ありませんが、
副鼻腔炎、咽頭炎、肺炎では抗菌薬が必要な場面があります


実臨床で一番悩むのは、結局のところ抗菌薬を出すか出さないかです



風邪(感冒)を感染症の三角形で

(1)患者背景

真ん中の患者さんの背景(免疫・暴露・余力)で気にすることは、
当たり前ですが、暴露です


寒いから風邪をひくというのは、正しくありません
風邪といっても、感染症であり、必ず誰かから感染しています


なので、一人暮らしの高齢者で、外にはいかず、
ここ数日、誰とも会っていない人は、ウイルスの感染機会がありませんので、

「風邪をひきました」という主訴できても、
全くの暴露機会がなければ、ほぼ間違いなく「風邪」ではありません


気をつけなければならないのは、風邪の人に出会っていなくても、
人(特に小児)に出会うような職業や大勢が集まるところ(デイサービス)にいっている場合、暴露機会になります

海外渡航歴のある人の場合は、インフルエンザやSARSのような社会的に問題になるような病気かもしれませんので、海外渡航歴は忘れずに聞きましょう


免疫に関しても注意が必要です

既往・既存症はもちろんですが、内服薬にも注目します

MTX内服中の人の風邪症状は、薬剤性の間質性肺炎かもしれません
免疫抑制剤やステロイドを内服中の人の風邪症状は、ニューモシスチス肺炎かもしれません

このように風邪の診療においても、一番大事なのは患者背景です

これは感染症診療の原則ですので、どんなに風邪っぽい症状でやってきても、
まずはその人となりを把握することから始めましょう


(2)感染臓器

感染部位は上気道、下気道がメインで、多領域にわたることがポイントです

風邪はウイルス感染なので、どこかにfousが当たるというよりも、
広く浅く、症状がでるイメージです

逆に細菌感染は狭く、深く症状が出てくるイメージです

(3)微生物

風邪の原因はほとんどがウイルスですが、
ウイルスを特定することは普通の医療機関では不可能です

マイコプラズマも風邪症状を来すことがありますが、自然軽快するので気にしません


成人の場合、風邪の原因となるウイルスの感染で高熱がでることは多くはありませんが、
高熱を出しやすいウイルスがあります

3日以上続く、38度以上の熱が出た場合、

インフルエンザ、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、
麻疹ウイルス、パルボウイルスを考えます


成人で高熱(38度以上)が出現した場合、まずは細菌感染症を考え、次にこれらのウイルス性疾患を考えます

最後に普通の風邪のウイルスに落とし込んでいきます

小児はどんなウイルス感染でも高熱が出ますので、何でもありです


(4)治療

風邪の場合、基本は対処療法で抗菌薬は不要です

一番困っている症状を聞き、それに対してお薬を出しますが、あまり効果は大きくありません


ところで、感染症の治療で一番大事なのは、何でしたか?

抗菌薬ではありません

ドレナージでしたね


では風邪の治療で大事なのは何でしょうか?


やっぱりドレナージです


え?何をドレナージするの?

という感じですよね


それは患者さんの心の不安や心配事をドレナージするのです


風邪の症状でわざわざ病院に来る人は、人それぞれの受診動機を持っていることが多いです

例えば、明日から旅行に行くから早く治したいとか、
週末に孫の面倒を見ないといけないから、うつしたくないとか、
歌手だから、声が枯れてしまっては困るとか、

いろいろです

その辺を上手に聞き出して、適切に説明しないと、
患者さんは不満を抱えてしまいます


風邪の治療で大事なのは、薬を処方することではなく、
説明が最も大事で、説明するためには、
まずは患者さんが何を欲しているのか、何を求めているのか、聞きださないといけません




(5)適切な経過観察

風邪の治り方は人それぞれです

スパッと治る人もいますし、咳が長引きやすい人もいます

副鼻腔炎っぽくなる人もいます


なので、風邪の自然経過にはバリエーションがあることを知っておきつつ、
そのバリエーションを逸脱する症状があれば、再診をお願いすることがポイントです


「具合が悪くなったら、また来てください」
「心配だったら、いつでも受診してください」

とかでは、具体的ではないので、全くだめです


「3日経っても、38度を超える発熱があったり、
歩いていて息が苦しくなってきたという事があれば、肺炎の可能性がありますので、
また受診してください」


というように具体的に患者さんが何に気をつければよいのか?

が分かる説明をしましょう



まとめ
・風邪を適切にみる3つの力
→①風邪以外の他の疾患を見極める力
 ②「風邪」を風邪と診断できる力
 ③抗菌薬を適正使用できる力


・風邪を感染症の三角形で考える
→患者背景:高齢者や免疫抑制者は注意
 部位:上気道・下気道(浅く、広いイメージ)
 微生物:200種類以上のウイルス
 治療:薬よりも説明が大事、
    患者さんの心の不安・心配事をドレナージ
 適切な経過観察:再診のタイミングは、具体的に伝える

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参考文献:
誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた 第2版 岸田直樹
国立国際医療研究センター 具芳明先生 レクチャー
抗微生物薬適正使用の手引き 2017年

→岸田先生の第1版の本が発売されたくらいから、風邪の診かたの本や雑誌での特集がたくさん組まれました。岸田先生の本は、症状ごとによくまとまっていますし、臨床のかゆい所に応えてくれています。高齢者の風邪の診かたについても書いてあり、やっぱり高齢者の風邪は特別ですよね。というのが、よくわかりました。

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