2019年11月6日水曜日

CRPが上がらない体温上昇

もともとADLフルな50歳台の男性が、アルコール性肝硬変、脚気心で入院しておりました
脚気心に伴う心不全は改善し、体はとっても元気になり、
食事もたくさん食べられるようになり、そろそろ退院も・・・

と考えていると、38度の発熱が毎日出現してきました
点滴は数日前に抜去しています

38度の熱があるわりに、とても元気で食事も10/10とれていました
他にROSは全くなく、毎日診察しても特に何も所見はありません

時折、熱が出る前に寒気は訴えられますが、
血培は何度とっても陰性で、臓器障害もなく、
造影CTでも膿瘍はありません


検査しても原因が見つからないので、入院中に発症した不明熱になってしまいました
入院中に出現した発熱の原則通り考えてみると

(1)入院の原因となった疾患に関係:脚気心、アルコール性肝硬変
(2)入院中に介入したこと:薬、点滴
(3)偶発的な問題:リンパ腫、自己免疫疾患、腫瘍

→まあ、普通に考えて薬でしょうということになります


①比較的元気、②比較的徐脈、③比較的CRP上昇
という比較三原則があります

これは薬剤熱を想起するパールとして有名ですが、絶対ではありません
本症例は①、②はあてはまったのですが、③のCRPはずっと陰性でした

1週間以上、高熱が毎日出ているのに、CRPはずっと0.01-0.03台です

CRP陰性の高熱というのは、たまにあるカテゴリーですが、
あまりまとまった報告がなくて、これをまとめるのも面白いかなと思いました


CRPについて
そもそもCRPとは1930年にTilletらが肺炎球菌感染症の患者あらはじめて検出した急性期炎症タンパクの代表的な成分です
Ca2+の存在下で肺炎球菌の菌体C多糖体と沈殿反応を起こすため、CRPといいます

体の中で炎症が起こると、マクロファージや肥満細胞が活性化し、TNFやIL1といったサイトカインが産生され、マクロファージなどからIL6が産生されます

IL6が肝臓に作用して、CRPが作られます

なので、IL6をブロックするトシリヅマブ(アクテムラ®)はCRPがあがらないのです
また肝臓が悪い人は、CRPを作る能力が健康な人よりも弱いかもしれません

ですが、どれくらい肝硬変が進んでいれば、CRPがあがらなくなるということはよくわかっていません
CRPは肝臓以外からも作られるので、肝機能がどんなに悪くても少しくらいは作られると思われます


CRPは感染症や腫瘍でよくあがりますが、
わずかな炎症もとらえることができる高感度CRPでみると、
実は多くの病気(動脈硬化、COPD etc)で炎症が起きていることが分かります

大動脈解離もよくCRPは上がります







今回はCRPが全くあがっていませんでした

その理由として、、、
・炎症病態ではない
・肝硬変があるため、CRPを作る力が肝臓にない

ということが考えられました


実際は・・・

新規に開始した薬剤で薬剤熱の可能性のありそうなものからすべて中止しました
フロセミド、アルダクトン、ビタメジン、ネキシウム、デジレル


だいたい上記は同時期に入り、その後発熱がでてきています
みなさんならどれから中止していきますか?


ビタミン剤で熱がでることはなかろうという思いで、
ビタメジン以外の薬を順々にきっていきました


ですが、高熱はいっこうにおさまりません

残るはビタメジンだけになってしまいました


ビタメジンをきっても熱が出続けたら、大変だ・・・という思いと、
ビタミン剤でも熱でるのかな?・・・・という思いで、


恐る恐るビタメジンを中止すると、


なんと!高熱はおさまってしまいました


医中誌で調べてもビタミン製剤で熱がでたという報告は一例だけでした
(皮膚 29巻3号 page 637-641(1987.06))



CRP陰性の高熱

ビュンビュンと熱が出る割に、全然CRPが上がらない人で一番、臨床で出会うのは、
ウイルス性の髄膜炎だと思います

自分や他の人から聞いた範囲では、ウイルス性髄膜炎の頻度がNo1でした


ということで、CRPが陰性にも関わらず高熱が出続けている人をみたら、
(※大前提として、毎日しっかり問診や身体所見をとって、
  適切な画像検査や培養検査を行っても原因不明の場合)

①きれる薬は全て中止
②中枢性の疾患の存在を疑う(感染、非感染)
③ウイルス性疾患の存在を疑う
→頭痛が目立たない髄膜炎もあるので、ちょっとした頭痛があれば、ルンバ―ルを

④他:SLE、内分泌、腫瘍、血液疾患・・・





まとめ
・ビタミン剤でも薬剤熱は起こる

・CRP陰性の高熱は鑑別が絞られる

・原因不明の発熱でCRPが陰性なら、ウイルス性髄膜炎を疑う


参考文献:Front Immunol 2018;9:754



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