2019年12月12日木曜日

症例カンファレンス ~snap diagnosisの本当の意味~

研修医「症例は高カルシウム血症の精査加療目的で入院となった95歳女性です。」
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症例 95歳女性 主訴:高カルシウム血症治療で紹介

Profile:骨粗鬆症や膝のOAで加療中、ADLはフル、認知症なし

現病歴:来院の2か月前までは食事摂取良好だった
    来院の1か月前より食思不振が出現、食事量に変化はなかったが、
    無理やり食べている感じだった
    経過みていたが改善なし、食思不振が続いていた

    かかりつけ受診し、血液検査にてカルシウムが14mg/dLであり、
    加療目的に当院紹介

ROS:便秘あり、口渇あり、食思不振あり、倦怠感あり、
   嘔吐なし、頭痛なし、めまいなし、
   両膝痛はもともとあり、体重減少なし、黒色便なし、腹痛なし

既往・既存症:骨粗鬆症、腰椎圧迫骨折、膝のOA

内服:エディロール、アスパラCA、ボンビバ、
   ジクロフェナク、オメプラゾール、カロナール
   →過剰内服は絶対ないとのこと

生活:家族と生活しており、ADLはフル

身体所見、バイタルは安定しており、意識レベルは清
見た目はややぐったり
口腔内は乾燥あり
心雑音なし、呼吸音は清
腹部 平坦 軟 圧痛なし
四肢 浮腫なし
関節 手の指は変形性変化あり、両膝はOA様の変形あり

血液検査 Hb9、MCV100、肝胆道系酵素上昇なし
     Alb 3.8、BUN 38、Cr 1.9、Na140、K 2.3、Mg 1.4、Ca 14.5

CT 明らかな腫瘍性病変はみられず

心電図 異常なし

まとめ:超高齢だが、認知症もなく、ADLフルだった95歳女性
    OAで膝の痛みがあり、NSAIDs服用しており、
    骨粗鬆症の治療のため、BP製剤、活性型VD、カルシウム製剤内服中だった
    1-2か月前より、食思不振、倦怠感、便秘が出現
    血液検査にて高Ca血症を認めたため、高Ca血症に起因する症状と疑われた
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研修医「・・・という方です。入院後、補液で徐々に下がり、今は正常値になっており、
    食事も全量食べられています。Kが低いので、Kは補充しています。
    Mgも低かったので、点滴で補正しました。
    血ガスでは、わずかにアルカレミアで、HCO3 28と代謝性アルカローシスでした
    呼吸性の代償は正常でした。

    高Ca血症の原因として、薬剤性が疑われたので、
    エディロールとカルシウム製剤は中止し、
    腎障害もみられたため、NSAIDsも中止しています。
    一応、iPTHも出しましたが、こちらは12pg/mlでした
    正常値でしたが、Caが高いわりに・・・抑制されていない?のかな?
     
    あと、入院後膝の痛みがあったり、手首が痛くなって、偽痛風を疑い、
    コルヒチンで治療中で、こちらは改善傾向です」


ボス「OK、今のプレゼンは自分で何点くらいかな?」

研修医「・・・そうですね、前よりはまとまっていないので、10点くらいですかね。」

ボス「10点満点中?(笑)」

研修医「違いますよ!」


ボス「そうだね、まだ頭の中が整理できていないように聞こえるね。
   入院後、まだK欠乏があるけど、この原因は?」

研修医「えーっと、尿から21meq/Lでているので、尿中から排出されていると思います。
    内服でKを補充しています。」

ボス「じゃあ、FEKやgCr換算は?」

研修医「えーっと・・・」

ボス「まあ、いいんだ。計算は。
   ただアルゴリズムをみると、書いてあるよね。いろんな計算。

   でもここでは、消化管からでるか、細胞内に入るか、腎臓からでるかでしょ
   病歴から下痢はない。細胞内にどんどん入る要素もない。
   だとすると、腎臓から捨てられているのかな。
   でもin不足の要素はあるかもしれないね。

   まず低K血症をみたら、必ずチェックしなければならないことがあるよね
   
   それはMgだ。Mgは入院後どう?」

研修医「補正後、いったん正常値になりましたが、
    また低くなってきて、今は1.7です。」


ボス「Mgの補正をしっかりしないと、いくらKを入れても意味がないんだ。
   だからMgの補正はしっかりしておこう。
   血液中のMgって体全体だと、どれくらいを占めるか知ってる?

   たった1%なんだ。

   ってことは、血液中でMgが欠乏してるっていうのは、
   相当な欠乏だから、一回点滴で補充しても全然足りないんだ

   KとMgの欠乏の原因は何だろうね。お酒は飲まない人でしょ。
   今は便秘だけど、もともと下痢とかあったのかな?」

研修医「もともとまでは聞いてません。」


ボス「了解。あと、Caの高値は薬剤性っぽいよね。
   頻度も多いし。
   
   でもだからこそ注意しないといけない。

  いつも心に薬と結核だけど、
  みんな薬剤性と決めつけてはいけない。

   Caの異常を認めた時には、Pと一緒に語らないとダメなんだ

   Pはどうだった?」

研修医「Pは2.3です」

ボス「ちょっと低めだね。
   それは活性型ビタミンD中毒としてはおかしくない?

   活性型ビタミンDでCaが上がる場合は、Pも上がるよね。
   ということは、iPTHやPTHrPの関与を考えないといけない。

   iPTHのところで、いい戸惑いがあったね。
   Caが高いわりに、iPTHが抑制されていない?、って言ってたね。
   確かに、iPTHは正常値か異常値だけでは語ってはいけなくて、
   文脈によって、その人にとって正常値は異なる。
   ただ今回はそれでも低めだから、原発性副甲状腺機能亢進症の可能性は低いかな


   あとは、Hb低下もあるね。貧血と高Ca、腎障害をみたら、何を考える?」


研修医「多発性骨髄腫ですか?」


ボス「そうだね、ミエローマだね。昔はMPくらいで、出来ることが限られていたけど、
   最近はレナリドマイドとかが使えるようになってきて、
   抑えこめるようになってきたから、見つける意義も出てきたよね。

   ということで、TPとAlbの解離や腰痛はあったのかな?」


研修医「TPは6.8でAlbが3.8なので、あまり解離はないようです
    腰痛もありませんでした」


ボス「OK、まあこれで否定はできないけど、
   積極的に検査をしろ!といっているわけではないよ。
   考えておくことが大事なんだ。」


研修医「わかりました」


ボス「あと、やっぱり、この症例は貧血がおかしい。
   消化管や婦人科の悪性腫瘍からの出血による鉄欠乏性貧血かもしれないね

   そして、その悪性腫瘍がもしかしたら、PTHrPを産生しているかもしれない
  
   でないと、Pが低いのは活性型VD中毒では説明できないからね。

   なるべく、臨床では一元的に考えるのがコツなんだ。
   何次元も考えだしたら、何でもありになってしまう。


   だからどんな症例もまずは一元的に考えられないか?と最初に考える。



   研修医の先生からしたら、僕なんてふらっと現れて色々いってくるただのおじさんでしょ?」



研修医「ふふふ(笑)」


ボス「それでもいいんだ。

   プレゼン聞いて、それってこれだよね!
   っていうのは、今、ほとんどsnap diagnosis で言っているんだ。

   診断する時には、色々な方法があって、一つは仮説演繹法があるよね
   あとはsnap diagnosisとか、徹底的検討法とか。

   じゃあ、一番、失敗する方法は何だと思う?」


研修医「??何ですか?」



ボス「それはアルゴリズム法だよ。
   
   今回も電解質を調べたらあったでしょ?

   こうだったら、こう、みたいなフローチャート的な流れのやつ。
   
   あれが一番危ない。
     
   だって書いてないでしょ。今は便秘だったけど、以前は下痢の症例とか。
   アルゴリズム法やフローチャートは限界があるんだ。

   だから、その流れにのせるために計算をするんじゃなくて、
   
   まず仮説を立てる

   そして、その仮説があっているかを検証するために、計算するんだ。
   矛盾ないか確かめるために。

   順番が逆なんだよ。



  だから、一番大事なのは、仮説を立てること。

  それがsnap diagnosisの本当の意味だよ。


   臨床はあて物ではない。

   snap diagnosisで当たったから、すごい!というわけではない。

   
   まず、snap diagnosisとして仮説を立てて、
  それを検証していく作業の方がはるかに重要なんだ。

  snap diagonosisで当てることを目標にしてはいけない。


   sanp diagonosisはあくまで、検証するためのたたき台として存在しているんだ。


   僕も外来やっていると、小人が7人くらい頭の中にいて、
   それぞれの小人がぎゃーぎゃー言っているんだ
   
   この症例はこれに決まっている!・・・とか
   いやいや、何を馬鹿なこと言っているんだ・・・とか
   まあまあ、いいこと言ってるんじゃない?・・・とか

   そうやって、一度立てた仮説をすぐに小人たちが検証し始めるんだ。

   いるよね。小人?」


研修医「(苦笑い)」


T「もちろん、いますよ。小人ですよね。

 じゃ、お薬出しときますね(笑)

  
 何気にやっているsnap diagnosisはそういう意味があったと言われてみれば納得です。

 snap diagnosisの本当の意味ですね。

 診断の中身よりも、ひとまず立てることに意義がある。


 今回の症例の先生のsnap diagnosisは、
 腫瘍があって、そこからの貧血とPTHrP産生による高カルシウム血症、
 そして、もともと下痢があり、低Kと低Mg血症が起こっている

 ということですね。


 僕の中ではちょっと違っていて、この症例のsnap diagnosisは、

 OAでNSAIDsが開始され、腎障害が起こり、
 エディロールの薬剤性高Ca血症からの食思不振のせいで、
 食事のin takeが低下し、KやMgが低下した
 
 さらに高Ca血症からの多尿のため、
 Na利尿が働き、Kが排泄され低K血症が起こった。

 高Ca血症があると、Mgの腎での再吸収障害があるので、
 低Mg血症も併発した

 貧血は食思不振やPPIからのVB12欠乏かなと。

 そして、今はNSAIDsをきった影響や、
 低Mg血症、入院というストレスがあり、偽痛風が発症している。

 というのが、一元的なストーリーかなと思いました」


ボス「そうだね、そういうストーリーもあると思う。
 
   大事なのはsnap diagnosisが思い浮かんだら、それでおしまいじゃないってこと。 
   
   
   どっちの診断が正しいかとかじゃなくて、
   何でもいいから、仮説を立てることが大事なことで、
   さらに大事なのは、それが正しいかどうかを検証する作業だね。


   どう?いいこと言うでしょ?」


T「はい、ありがとうございました。」



まとめ
・Caの異常を語る時は、Pもセットで


・Kの低下を語る時は、Mgもセットで


・snap diagnosisで当てることよりも、
 最初に何でもいいから
 snap diagnosis(仮説=たたき台)を立てることが重要、
 そしてそれを検証する作業がとても重要


・アルゴリズム法は逆から使う

参照:
カリウムについて
https://dr-note.blogspot.com/2019/07/blog-post_16.html

カルシウムについて
https://dr-note.blogspot.com/2019/07/blog-post_55.html

ビタミンDについて
https://dr-note.blogspot.com/2017/11/blog-post_88.html

1 件のコメント:

  1. LEMSのゲシュタルトからお邪魔させていただきいくつか記事拝見させていただきました。まだ全部は読んでないのですがすごく読みやすく面白い記事ばかりだったので勢いのままコメント書かせていただきました!まだ臨床に出てない学生なので症例のカンファレンスがすごく勉強になります、お忙しい中だとは思うのですが、投稿楽しみにしています!今までの投稿も読ませていただきますね

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