2020年6月23日火曜日

昼カンファレンス 〜2つのレール〜

95歳 女性 主訴:意識消失で救急搬送

救急隊「施設からの搬送です。
    トイレの後から反応が鈍くなった95歳女性です
    酸素化も低いとのことで、依頼がありました。

    バイタルはBP68/45,P70,Spo2 80%,T ?,RR 24です
    意識は今はクリアです。

    5分後にそちらに到着します。お願いします」



D「・・・・という一報でした。」

司会「はい、ありがとうございます。
   でましたね、トイレ後に具合悪くなるシリーズです。

   僕はですね、普通の症候学が飽きてきたので、
   こういうニッチな症候群をまとめるのがとても好きです

   トイレ後に具合が悪いというのは、実は臨床しているとよく経験します。

   ではみなさん、一緒に考えてみてください。」


学生「迷走神経反射が起きます」

司会「そうですね、排便を我慢していたりすると起こる人もいます。いいですね、
   他にはどうですか?」

学生「大量に下血してしまう人もいますか?」

司会「そうですね、大量に消化管出血を起こして、排便後に失神してしまう人もいますね。」

学生「大動脈瘤破裂」

司会「いいですね、今度はいきんで血圧上がる側ですね。
   血圧が上がって、大動脈解離を起こしたり、脳出血・SAHを起こす人もいます

   あとは、どうですか?」


消化器内科Dr「ずっと寝ている人が久しぶりにトイレに歩いたら、
       肺塞栓とかもあり得ますかね?」

司会「あり得ますね、入院中の肺塞栓の人の発症は自分の経験からは、
   トイレに行こうとしたら、倒れた。というシチュエーションが多いですね。
   
   他にはどうですか?
   例えば、トイレに行った後に頭痛がおきた場合は、脳出血やSAHを考えますが、
   CTで出血なかったらどうでしょう?」


聴衆・・・・


司会「RCVSという血管が脳の攣縮する病気があります。
   RCVSは非常に強い頭痛で、SAHと病歴からは見分けがつきません。
  
   多くはSAHを疑ったが、CTで出血がなかった時に想起されます、
   RCVSには誘引があることが多く、経験したのは、
   トイレやシャワーですね。

   その度にとてつもない頭痛が来るので、患者さんはトイレが怖いと言っていました。」


司会「はい、という感じで、トイレ後に具合が悪い人をみたら、
   血圧下がって具合悪いか、
   血圧あがりすぎて血管が裂けたり、破れたりする疾患を想起します。

   いずれにせよ、かなり身構えますね。」





司会「こういう疾患を頭に思い描きつつ、後5分で来院するとのことなので、
   何か準備しておくことはありますか?」


学生「えっと。。。カルテとかがもしあれば、情報をとりたいです」


司会「そうですね、バイタルがかなりやばそうなので、
   パニック状態になりそうですね。

   後、5分あるからコーヒーのんで心を落ち着かせるというのもありですが、
   貴重な5分なので、情報収集したいところです。

   情報ありましたか?」

D「当院にはカルテの情報はありませんでした」

司会「はい、残念なパターンでした。
   過去カルテや画像がないと、出だしとしてはかなり苦しいです
  
   あとは何を準備しましょうか?」

学生「酸素化が悪いので、酸素の準備とか、点滴の準備をします」


司会「そうですね、ショックの場合、猿も聴診器という覚え方がありますね。
   
   さ   酸素
   る   ルート
   も   モニター
   ちょう 超音波
   しん  心電図
   き   胸部CXR

   ですね、これらの準備をして、心の準備もしつつ迎え入れましょう


   あ、あとは、この症例はJATEC対応するというのもありです。
   
   なぜなら、トイレに行く時、みなさん誰かと一緒にいきますか?

   普通、いきませんよね?

   ですので、トイレの中で何がおきていたかわからないこともあります

   とんでもない転び方で転んでいるかもしれません。

   なので、
  バイタルが危ない人や空白の時間の後に状態が
  悪い人をみたら、まずはJATEC対応する!

   というのは、覚えておいてください。

   JATEC対応としては1st インプレッションがあって、ABCDEの順番に考えていきます

   A:酸素化が低いのは、窒息しているかもしれませんね。
     まずは気道確保が何より重要です
   
   B:酸素化が低いのは、肺に原因があるかもしれません
     PEもあり得ますね。
   
   C:血圧低いですので、ショックと考えた方がよいでしょう。
     外傷の時のショックを覚知する覚え方はなんでしたか?」

D「え?」

司会「SHOCKですね。

   S:skin  皮膚が冷たいかどうか
   H:HR   脈拍
   O:outer bleeding 外表面の出血がないかどうか、これは忘れがちです!
   C:CRT  爪の毛細血管充満時間をみます、高齢者ではうまくいかないことも多いです
   K:血圧です、血圧が一番最後なのがミソですね。

   血圧が下がる前にショックであることを覚知しなければならないのです

   外傷の場合、SHOCKでショックを確認します

   あとはショックの分類ですね。実はこれもSHOCKで覚えます。笑
   ややこしいですね。

   ショックになると、自分もテンパるので語呂で覚えるのは悪くないです。   

   S:septic,spinal(本当はneurogenic)
   H:Hypovolemic
   O:obstructive
   C:cardiogenic
   K:アナフィラキシーショック(K)

   はい、いつもKが苦しいのがSHOCKの覚え方です

   毎回、突っ込んでください 笑  逆に覚えます」



症例に戻って・・・

D「病院にきてからすぐに嘔吐されました。
  バイタルは橈骨はしっかり触れました
  
  BP93/66,P86,T35.5,Spo2 93%(RA),RR 30でした

  みためはややぐったりしてしました。呼吸はあさく早かったです」


司会「はい、ありがとうございます。
  
   身体所見の「鳥の目」でまずは全体像の把握です。

   その中で見ためや1stインプレッションというのは、非常に大事です。
   そこで、重症度をある程度評価します。

   末梢はどうでしたか?」

D「冷たかったです。暖かくはなかったです」

司会「はい、ありがとうございます。首はどうでしたか?」

D「頸静脈の怒張はありませんでした」

司会「はい、ありがとうございます。
   ショックの場合、皮膚見て、頸静脈を見れば、大体原因がわかります。

   今回の場合、皮膚は冷たく、JVPが上がっていないということで、
   考えやすいのは、hypovolemicや心原性ショックです

   他に診察したいところはありますか。ここからは「虫の目」です。
   狙った診察です。」


専攻医「心雑音や呼吸音はどうでしたか?」

D「汎収縮期雑音がありました。呼吸音はwheezesはなく、減弱はなかったです。」

専攻医「直腸診はしましたか?」

D「していません」

司会「はい、ありがとうございます。実際、こういう症例の場合は、
   同時並行で物事が進んでいきます。

   病歴をとる人、
   患者さんのそばにいて、診察をしてバイタルを立て直す人、
   検査や点滴をオーダーする人、
 
   実際はどういう感じでしたか?」


D「はい、その日は看護師さんも二人いて、点滴や検査をしてくれました。
  指導医の先生には病歴をとってもらって、自分が患者さんのそばでマネージメントしました。」


司会「豪華ですね、猿も聴診器はどうでした?
   ここからは「機械の目」ってやつです。
   
   自分のとった身体所見が正しかったのかどうか確認する必要があります。
  
D「すぐに心電図をとりましたが、以前と比較のものはありません
  新規のAfと右脚ブロックと左軸偏移がありました

  超音波検査では、ASとMRがありました
  心機能は良好でした。」

司会「なるほど、でもここで超音波検査をする意味としては、
   その二つの弁膜症はどうでもいいんだよね。」

D「あ、あとはDshapeもありませんでした」

司会「まあ、それも大事なんだけど。。。

   それよりも大動脈解離を狙っているわけだから、
  ARがあるかどうかと
  心嚢水が溜まっているかどうかが気になるんだ。

D「なるほど、それはなかったと思います。」

司会「了解、あとはIVCは?」

D「15mmで呼吸性変動がありました」

司会「うーん、パッとしないが明らかなhypoっていう感じでもないのかな。
   さて、困りましたね。」



司会「この辺で病歴、そろそろ聞いてもいい?」


D「はい、職員さんから病歴を聞くと、
  元々ほとんど寝たきりで、トイレ歩行などはしない方のようです
   
  この日はたまたまトイレにいきたいということで、介助でトイレまで歩いていきました
  ですが、トイレに座ってからは排便や排尿はなかったようです
  
  座っていて途中まで話せていたのですが、
  途中から会話ができなくなり、意識がなくなってしまいました

  その後、横にしたところ、意識が回復してきましたが、酸素化低下があったため、
  救急搬送となってようです。

  元々の血圧は90台とひくめです。

  来院してから、点滴していると血圧も徐々に上がってきました。
  レベルも改善し、酸素化も改善しました。

  血液検査では特記事項はありませんでした」


司会「はい、ありがとうございます。
   
   ・・・・・・身体所見の重要性について、前座でレクチャーしましたが、
  やっぱり病歴が一番大事ですね。笑

   さてこのあと、どうしましょうか?
   簡単にいうと、CTとりますか?入院させますか?」


E「自分だったら、造影CTをとって肺塞栓の検索をしつつ、
  入院してもらいます。」


司会「それはどうでしてですか?」


E「この年齢の人でバイタルが崩れているので、やはり怖い病気が隠れている可能性が
  高いと思うからです」

司会「はい、ありがとうございます。そうですね、
   やっぱり元々寝たきりの人がトイレまで介助で歩いて、
   その後意識を失って、酸素化低下しているので、PE疑いますね。

   他、ご意見ありますか?」


S「自分だったら、輸液でバイタル戻って吐き気もなくなってしまって、
  自覚症状ないのであれば、帰宅にするかな。

  病歴からは、元々寝ている人がトイレにいったら、そりゃ血圧下がるでしょ。

  入院もデメリットはたくさんあるし、あまりいいこととは思えないな。」


専攻医「僕もこの症例は一緒に見ていて、病歴からも起立性低血圧っぽかったので、
    バイタルも落ち着いてので、大丈夫かなと思いました。」


司会「そうですね、その考えもあると思います。

   最近、よく思いますが、2つのレールという考え方を紹介します

   ①つ目のレールは、僕たちの引いた医療のレールです

   この症例でいえば、PEを疑い造影CTをしつつ、
   モニターで不整脈を探しつつ、入院経過観察

   というのが、よくある医療のレールです

   ですが、もう一つのレールがあります


   ②つ目のレールは、患者さんの人生のレールです

   この方は超高齢で人生の終末期に差し掛かっていると思われます
   人生の最終地点に到達しようとしている人の残り少ない時間を、
   入院という医療のレールに乗せることが果たしてよいことなのかを
   考えなければなりません

   
   僕やE先生の場合、①の自分たちのレールに患者さんを乗せようとしていました

   ですが、S先生は患者さんのレールに医療を乗せるイメージですね

   例えば、
   今後も起立性低血圧症状は起こるかもしれないことやその対応方法について、
   施設職員に伝えることであったり、かかりつけの先生にお手紙を書くことです


   医療のレールに乗せることが、一番大事なわけではありません

   あくまで患者さんの人生というレールに、
    少し医療のいいところを乗せるイメージで、
    高齢者医療の場合は考えていく必要があります。


   S先生、さすがです。
   僕もE先生もまだまだでした。
   
   実際どうなりました?」


D「実際は入院しました」


司会「入院したんかーい!」

D「輸液で症状もなくなってバイタルもよかったので、
  帰宅のつもりで進めていましたが、家族がこられてて入院を希望されたので、
  入院になりました。」

司会「なるほど、誰が何に困っているか問題が最後に勃発しわわけですね。
   はい、ありがとうござました」



まとめ
・トイレ後に具合が悪くなる病気は危ない疾患が多い
→血圧下がる病態と上がる病態を考える

・ショックはSHOCKとSHOCKで覚える
→Kが苦しい!でおなじみ

・二つのレールを意識する
→自分のひいたレールが常に正しいとは限らない、患者さんのレールに乗ってみよう

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