2020年6月28日日曜日

回診 〜鳥の目の重要性〜

研修医の先生と回診

症例 88歳男性 主訴:浮腫
(症例は一部修正・加筆を加えてあります)


Profile:高血圧で近医通院中、ADLはつかまりながら歩行可

現病歴:3ヶ月前から下腿浮腫あり
    近医にて利尿剤の調節を受けていたが、改善せず
    来院日、発熱認めたため、近医より蜂窩織炎疑いで紹介

既往歴:高血圧、腰部脊柱管狭窄症
内服薬:ARBとCCBの合剤、ダイアート
生活:妻と二人暮らし

バイタル 体温37.7度、血圧140/90、脈88、SPO2 96%、呼吸16回
呼吸音 清 心雑音なし
腹部 平坦 軟 圧痛なし
下腿 両側共に著明な浮腫あり
発赤はわずか 圧痛はなし

血液検査 CRP軽度上昇、軽度貧血、肝胆道系酵素上昇なし、Cr1.2
電解質異常なし 甲状腺ホルモン正常

尿検査 膿尿や細菌尿なし

CT 左胸水中等量 肺炎像なし その他特記事項なし

ECG 洞調律 STーT変化なし 

UCG 心機能良好、心嚢水なし、DVTなし

血培採取

高血圧で近医通院中の88歳男性
既往はないが、認知症もありそう
蜂窩織炎での紹介であったが、下腿浮腫は著明であるが、
蜂窩織炎様ではなく、全身状態も良好なため抗生剤フリーで経過観察目的に入院
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ディスカッション①何を考える?

T「・・・という患者さんが入院になったね。カルテよんだ?どう思う?」

研修医「うーん、浮腫の原因がよく分かりませんね。

    蜂窩織炎という名目で紹介になっていますが、 
    蜂窩織炎ではなさそうという記載ですし。

    熱源はどこなのでしょうか・・・」

T「そうだね、なんだろうね。
  浮腫の原因は一般的に何があるかな?」

研修医「臓器ごとに考えていくと、
   心臓、腎臓、肝臓、内分泌、あとは薬剤性とかでしょうか」

T「そうだね。

  なんらかの症候に出会った時に、
  病気を鑑別にあげるのと同時に、
  その症候を起こす薬は何があるか、
  という薬の副作用を考えるのも大事です。

   この人だったらカルシウム拮抗薬飲んでるから、怪しいね。

   他にも浮腫を作る薬はたくさんある。

   甘草が入ってる漢方だったり、チアゾリジン系の薬だったり、
   ステロイドなんかもそうだね。
  
   他の浮腫の分け方は知ってる?」

研修医「全身性か局所性かで分けたり、
    炎症があるか、ないかで分けたりします。」

T「その通り。
  この人の場合、両足にあるし全身性なのかな?
   
  炎症はありそうだけど、浮腫とどう関係があるんだろうね。
  
  浮腫のメジャーな原因はあげてくれた通りだけど、
  このメジャーな原因でなかった場合に何を考えましょうか?」


研修医「うーん、例えば、ビタミンB1欠乏とかでしょうか」


T「そうだね。そんな感じで、マイナーな浮腫の原因も知っておくと、
  メジャーな浮腫の原因でなかった時に、次に進めるんだ。

  マイナーな浮腫の原因も知っておくと、慌てなくてすむようになるよ。




T「じゃあ、見にいこうか」
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実際に診察(そこでの思考は青文字です)

ベッドに腰掛けて座っている
辛そうな様子はない、呼吸も早くない
話しかけると会話可能
ただ、会話の返事や動作がとてもゆっくり
難聴も強い

返事はしてくれるが、なんとなくテンポが悪いなあ
パーキンソニズムの寡動か?
表情も硬いし。。。
ひとまず、意識障害のチェックのため見当識を確認しよう


場所 OK、時間 ×、人 ×
指示入る

離握手可能
しっかりは握り込めない
本人は痛いという

やはり見当識障害はある、認知症なのであろう
手を見ると厚ぼったい手をしている
しっかり握れないのは、浮腫があるためか?
だが、本人は痛いと言っている
ただ浮腫があるのではなく、これは腱や関節の腫脹か?
となると、浮腫+関節炎でRS3PEが疑わしいなあ
よし、万歳させてみよう


万歳してもらうと、両肩が痛くて挙上制限あり

あーやっぱり、PMR/RS3PEだ
だから体が痛くて、動きがゆっくりだから、
パーキンソニズムに見えたのか
PMRの鑑別にパーキンソン病があるから、
あとで、rigidityチェックしよう
PMRを軸にpivot and cluster的に考えると、
IEの除外が必須だ
よし、IEの身体所見をとりつつ、全身の診察をしよう


眼瞼結膜 出血班なし 口腔内 やや不衛生
心雑音なし  呼吸音 左背側下部で減弱

やっぱり呼吸音は左背側で減弱している
CTでも左で胸水あったからそりゃそうだよな
聴打診法してみよう


左で聴打診で音が大きくなる部位が右よりかなり高めだった

胸水みるときはこの所見がやっぱりいいなあ
さて、他のIEらしさとPMRの所見を見てみよう


皮膚 塞栓兆候なし 爪 爪下出血なし
関節 手は全体的に厚ぼったい感じ 
   しっかり握れず
   腫脹:右手、左手、圧痛:右手
ニア 両側陽性、ホーキンス 両側陽性
大腿外側や坐骨結節部位に圧痛あり
背部 巧打痛なし

rigidityなし

インピンジメントサインがしっかり陽性になるし、滑液包炎なのだろう
でも右手関節の腫脹があるし関節炎も合併しているみたいだ
よし、超音波しよう


超音波所見
両側肩関節に滑液包がしっかり確認できた 左>右
右手関節の滑膜炎あり
カラードプラもしっかりのる
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ディスカッション②さあ、何を考える?

T「病気はなんだと思う?」

研修医「PMRでしょうか。PMRやRS3PEにしては浮腫が強い気もしますが。」

T「そうだね、いつ気がついた?」

研修医「先生がインピンジメントサインをとり始めたところくらいからです。」

T「了解。
  
  PMRって実はあんまり細かい診察しなくても、
  動きを観察していれば、なんとなく分かります。

 RS3PEのゲシュタルトやプレゼンテーションってわかる?」

研修医「いえ、教科書的な知識しか知りません」


T「近医から利尿剤使っても治らない心不全で精査加療目的で紹介になって、
 よくよく診察してみると、関節や体中を痛がり、
 そして、臥位から座位への起き上がりが非常に時間がかかる高齢者

 というのが、典型的です。」

研修医「この方じゃないですか?」

T「そうなんだよ。この人のプレゼンテーションなんです。
  ここまで来ると、RS3PEやPMRの診断って簡単そうでしょ?

  でも僕らは初めまして、だからこそわかるんだ


  入院して診察してみると、おかしいところが見えやすいけど、
  一緒にいた家族やかかりつけの先生だと、
  徐々にADLが落ちてきたりすると、まあ歳のせいかなってなるのも無理はないよね

  元々他に何か痛みがある病気(OAや脊柱管狭窄症)があると、
  PMRが加わってもなかなか分かりにくいことも多い

  さらに認知症があると、自分の症状をうまく伝えられないから、
  もっと分かりにくい」

研修医「この方じゃないですか?」


T「そうなんです。
  
 PMRとかRS3PEってみる人がみれば、すぐに診断できてしまうけど、
 その目で見れるかというところに全てがかかっています。

 しかもその目は、身体所見における鳥の目の段階でわかってしまうことが多いです

 鳥の目、つまり、パッとみた印象で、

 あ、PMRっぽいなあ

 となる

 次は、虫の目を使ってインピンジメントサインや関節の所見を探しに行きます
 
 身体所見で鳥の目を意識することは非常に診断に有用です

参考:身体診察


研修医「確かに。。。最初、出会っても全然思いつきませんでした。」


T「そうだね、鳥の目の時点で気がつけないと、
 浮腫が目立つ人だから、浮腫の鑑別のために、
 虫の目を使って心不全の診察やDVTではないか?

 ということが気になってしまうよね。

 鳥の目でPMRを想起できなかった時は、こう考えるくせをつけておくといいよ。

 急に動けなくなった高齢者をみたら、
 必ずPMRを鑑別にあげる

 
 動けなくなったのは、痛みがあるからではないか?と思うようにします
 
 簡単に歳のせいにしてはいけません。」


研修医「なるほど、分かりました」


T「では、PMR/RS3PEを考えたら次はどう考えましょうか?」

研修医「側頭動脈炎とか腫瘍がないかを考えます」

T「そうだね、それも大事。
  
 でももっとざっくり分類して考えるといいですよ。
 
 例えば、PMRの治療はなんですか?」


研修医「ステロイドです」

T「その通りです。

 ですので、治療で分類するという方法はかなり使えます。

 ①ステロイドで効果があるグループ:
  血管炎、ANA関連疾患、リウマチ、偽痛風・痛風
 
 ②ステロイドで効果がないグループ:
  パーキンソン病、薬剤性、骨メタ、骨軟化症

 ③ステロイドで悪化するグループ:
  IE、化膿性関節炎・椎間板炎、膿瘍


 といった感じで、鑑別を考えます
 
 中でも一番大事なのは、感染症です
 
 ですので、
 PMRを疑った時に、
  検査を一つだけするのであれば、絶対に血培をとります

 これは本当に大事なことです。

 これまに何度もステロイド入れようかなという誘惑にかられた時に、
 血培に救われてきました。」




研修医「そうなんですね、分かりました。
   この方も血培は2セットとられています。
   
   追加でとったほうが良いでしょうか?」

T「そうだね、PMRというためにはたくさん疾患を除外しないといけないし、
  ステロイド投与前にチェックしないといけない項目もたくさんあるから、
  どちらにせよ採血はとる必要があります。
  
  IEを疑うなら、3セット必要ですし、血培も1セット追加でとりましょう。」



結局、リウマチ因子が著明高値であった

関節炎所見が目立つことやリウマチ因子が高値であることから、
高齢発症のリウマチがPMR/RS3PE様に発症したと考えた

高齢発症のリウマチは最初はPMRと鑑別が非常に難しい

PMRは急性に発症し、リウマチは徐々に発症するので、鑑別は簡単という先生もいますが・・・

認知症がある高齢者の場合は病歴がうまくとれない時があるので、
やっぱり難しいと思います

PMRと思って治療していたけれど、治療経過でRAに診断を修正することもあります
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まとめ
・認知症が合併している人のPMRやRS3PEは診断が難しい
→急に動けなくなった高齢者をみたら、パーキンソン病かPMRを思い浮かべる

・PMRは外来よりも、入院してベッドで寝たり起きたりする様子をみると、よくわかる
→PMRは鳥の目でみてわかる病気

・原因不明の浮腫の鑑別にRS3PEをあげておく
→マイナーな浮腫の鑑別を知っておくと、外来で困らない

 

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