2020年9月7日月曜日

昼カンファレンス 〜そっちで、つながるのね〜

昼カンファレンス(症例は一部加筆・修正を加えています)

 68歳 男性 主訴:腹痛

Profile:来院当日の昼まで入院中だった

    2日前にAfに対してカテーテルアブレーション実施

現病歴:当日朝まで元気

    腹痛は見られず、朝食も普通に取れた

    便秘気味だった

    退院後、自宅で昼食も普通とれた

    夕食後、徐々に腹痛が出現

    7/10まで悪化してきたため、救急受診


既往:高血圧、心房細動

内服:プラザキサ、プラビックス、アジルバ、アムロジン、メインテート


------------------------------------------------------------------------------------------------------------

ディスカッション①Afに対するアブレーション

司会「はい、アブレーション後というとても興味深いProfileですね。

   そもそも、アブレーションってどうやるんだっけ?」


T R「肺静脈が左房に入るところが発生学的に違うので、

  その辺がAfの起源のことが多いです。

  なので、Afの起源になっていそうな部分を探して、

  肺静脈の周りを焼いてくることが多かったと思います。


  テンポラリーのペースメーカーを右内頸静脈から入れて、

  右の大腿静脈からワイヤー入れたり、右の大腿動脈にAシース入れてAラインにしたりしています。

  ワイヤーは右房から心房中隔を突き破って、左房に到達させます。」


T「はい、ありがとうございます。

 確かそんな感じでしたね、だから心破裂のリスクがあるというのが、 

 知っておくべき合併症ですね。

 まあ、この症例はカテーテルのアブレーションは何事もなく終わっているようです。

 アブレーションは2日前のようですね。」



T「この症例の1st インプレッションはなんですか?」


D「SMA塞栓かなと思います。

  カテで左房にアブレーションしているので、そこで血栓ができてしまってもいいかと思いました。」


T「そうだよね。普通、そう思うよね。

 あとはSMA塞栓だとすると、他にどういう情報欲しいですか?」


D「他の情報ですか?わかりません」


T「例えば、普通、術前や術中に左房内の左心耳に血栓がないかは確認するんじゃないかな?

  あとは、処置の時に抗凝固薬が中断されていないか?とかは気になるね。

  例えば、偶発的に血腫ができたりして、やめざるを得なかったとか。

  そのへんの情報はどうでしたか?」


Y「左房内の血栓については記載がないので、なかったのだと思います。

  抗凝固薬は中断せず、そのまま処置が行われています」


T「わかりました、ありがとうございます。

  みなさん、SMA塞栓一択でいいですか?」


聴衆 シーン


T「じゃあ、SMA塞栓じゃなかったとしたら、何ですか?


聴衆 シーン


T「こういう考え方は重要です。


 僕らはまず頭に思い浮かべたものに縛られてしまう傾向があります。

 なので、そういう時は、


 じゃなかったら何か?


 ということを必ず自問自答します。

 明らかにこれでしょ!

 ってsnap diagnosisしたくなる時にこそ、やってみてください。


 そうすると、意外に真実にたどり着くことが多いです。」


D「SMA塞栓じゃなかったら、、、、

  虚血性腸炎とか。あとは腸閉塞とか、解離とか、胆嚢炎とかですかね。」


T「いいですね。そんな感じです。そうすると、もう少し聞きたい情報とかも出てきませんか?」

------------------------------------------------------------------------------------------------------

ROS:腹部膨満あり、元々便秘あり、悪心・嘔吐なし、発熱なし

   冷や汗なし、下痢なし

腹部の手術歴はなし、同居の妻は元気 

解釈モデル:便秘でお腹が張っている


--------------------------------------------------------------------------------------------------------

ディスカッション②便秘が酷くて病院に来る人


T「便秘が酷くて病院に来る人いますよね。

 浣腸してほしいっていう人。

 そういう人って、どういう傾向がある人か知っていますか?」


D「過去に腸閉塞になった人とか?ですか。

  あとは、パーキンソン病で便秘の人とか。

  糖尿病とかで自律神経障害がある人とか。」


T「そうですね、他には?」


Y「ガンがあって通過障害があって便秘になっている人」


T「そうね、それは有名だけど、実はあんまり見ないね。

  あとは薬で便秘になっている人、特に抗精神病薬飲んでいる人とか、

  不安が背景にあったり、認知症の出始めのころとかの人とか。

  不安やこだわりが行動原理の大元になっている人が多いです。


  そういう意味でパーキンソン病の人、

  特に運動症状がまだ出ていない将来、パーキンソン病になりそうな人は、

  便秘を主訴に救急外来を受診しやすい傾向にあります。

  運動症状はTRAPと覚えますが、非運動症状はSCODと覚えます


   Sleep disorder 睡眠障害

      Constipation  便秘

      Olfactory  deficit 嗅覚障害

      Depression   うつ

   

  この4つはパーキンソン病の非運動症状で特異度の高いものです


  パーキンソン病は、ドパミンの異常、つまり報酬系の異常です。

  そのため、やたらとこだわりが強かったり、賭博にハマってしまったりする人がいます。

  中には、自分の排便習慣にこだわりがある人もいます。


  便秘へのこだわりが異常に強い人は、パーキンソン病の初期症状かもしれません。

  そういう研究があると面白いですね。


  便秘は侮ってはいけません。みなさん、自分で摘便したことありますか?」


聴衆 シーン


消化器内科専門医「はーい。今でもやっています。

         え?ていうか、なんでみんな自分でしないの?」


T「そうですね。

 摘便は看護師さんに任せるのではなく、なるべく自分でやりましょう。

  摘便で思い出すのは、Y君という研修医です。


 僕が救急外来に出ていると、前日にY君が見ていた患者さんが、やってきました。

 主訴は便秘と尿がでなくて、お腹が張るでした。

 よく見ると、前日もY君が同じ主訴で、その患者さんを見ていて、

 尿がでないという理由で導尿だけして、帰宅となっていました。

 便秘に対しては何も処置がされていませんでした。


 一見、便秘→浣腸の流れになりそうですが、

 僕は高齢者の便秘に対して安易な浣腸は慎重な立場をとっています。

 何人か浣腸後に穿孔した症例を見聞きしたことがあるからです。

  

 なので直腸診の続きで、自分でそのまま摘便をしました。

 そうすると、お腹の張りも改善し、排尿が可能になりました。

 尿がでなくなった理由は、頑固な便秘が原因だったのです。


 自分で摘便をするとたくさんいいことがあります

 1、患者さんにとても感謝される 

  → この症例もとてつもなく感謝されました

 2、便の性状や腫瘤がないか医学的情報を取れる

 3、看護師さんに嫌な処置をお願いしなくて済む 


  このエピソードを翌日、Y君に伝えると、とても反省していました。

  今まで、摘便を自分でしたことがなかったそうです。


  その後からY君は覚醒して、

  (その人はいいんじゃないかな・・・と思うような人にも)

  摘便をするようになりました。笑」

-------------------------------------------------------------------------------------------------------

身体所見

バイタル BP 152/93   P 70(ireg/ireg)  T 36.5

歩いてもお腹には響かない

腹部 ややぼってり 

   心窩部に圧痛の最強点あり

   心窩部から周囲にも軽度圧痛あり

   腸蠕動音亢進 マックバーネーの圧痛なし

-----------------------------------------------------------------------------------------------------------

ディスカッション③腹部診察の極意は?


T「みなさん、腹部診察の時には何を注意してとっていますか?」


聴衆 シーン


T「あんまり、浸透していないみたいですね。。。。


 腹部診察の注意する点は三つの次元があります。

 

 一つ目は、平面の次元です。

 どこが最強の圧痛点があるかや痛みの範囲はどれくらいかを

 天気図のような感じでイメージできるように痛みの範囲をチェックします。

 そういう意味では心窩部に最強の圧痛点があるというのは、

 注意が必要です。


 みなさん、自分で心窩部を押すと気持ち悪くないですか?

 漢方の診察で心窩部から肋骨のあたりを押して圧痛があるかどうか

 という診察があり、胸脇苦満といいます。


 心窩部を押されると、けっこう痛いし苦しくないですか?

 なので、心窩部の圧痛は病気とは言えないことがあるので、注意しましょう。


 二つ目は、深さの次元です。

 軽く押したり、深く押して、どの深さに痛みの原因があるかを見極めます。

 特に腹膜より上か、下か →カーネット兆候

 腹膜に炎症があるのか、ないのか →腹膜刺激兆候


 という風に、自分の手を超音波のソナーのように診察します。


 三つ目の次元は、時間です。


 よくあるのは、外科の先生を呼んでいるうちに、だんだんお腹が硬くなってきて、

 板状硬があるじゃないか!ってなる感じです。

 心窩部痛→右下腹部に移動するように、腹部診察は時間をかけて、 

 何度も診察することが大事です。


 さて、この症例は何を考えて次に、何をしましょうか?」


     

-------------------------------------------------------------------------------------------

ディスカッション④マネージメントは?


M「SMA塞栓を疑っているので、ガスをとって乳酸の値をチェックします

 まずは単純をとって虚血性腸炎や虫垂炎がないことを確認して、

 腎機能みて造影するか考えます」


T「はい、ありがとうございます。なるほどねえ。

 他にご意見はありますか?」


聴衆 シーン


T「え、みんな一緒ですか。僕は全然違いますけど。笑


 僕なら、まず心窩部痛があってアブレーション後ということから、

 心嚢水のチェックを行います。そして心電図を取ります。


 心農水のために心窩部にUSを当てて、

 心嚢水がなければそのまま胆嚢を見て、

 膵臓の腫大や腹水をチェックして、

 大動脈解離や大動脈瘤をチェックして、

 SMAにドプラを当てて、SMA塞栓の有無をチェックします。 

 そして腹部全体をエコーして、腸閉塞があるかを見ます。


 自分の中では超音波は単純CTと同じくらいの情報量だと思っているので、

 超音波の所見をもとに、造影CTをとるか決めますね。


 僕は腹痛が主訴であれば、必ずエコーを一緒に診察室に持っていきます。

 忙しかったからCTに行きましたという言い訳をしないためにです。

  

 エコーは身体診察の一部だと思っています。


 さて、この症例はどうなりましたか?」


Y「すいません、単純CT撮りました。」


T「了解です、この単純CTで気がついた所見は何かありますか?」


R「胃がパンパンに張っています。

  確か、アブレーションをしたら迷走神経のトラブルで、

  胃が動きにくくなるっていうのは聞いたことがあります。」


拡大肺静脈隔離術後に急性麻痺性胃拡張を合併した 発作性心房細動の                                         

                                         Therapeutic Research vol. 31 no. 8 2010


U「確かにあるね、よく知ってるね。笑」

 

T「そうですね、そっちも張ってるけど・・・

 胆嚢もパンパンに張っていますね。

 そして、胆石もある。

 これは胆嚢炎ですね。もしくは胆石発作。」


Y「はい、この症例は結局胆嚢炎で、保存的治療されました。

 よくよく、話を聞いてみると、

 退院後のお祝いで、カツ丼や唐揚げをたくさん食べたみたいです。」


T「なるほど、アブレーションは関係なかったけど、

  退院後の腹痛っていう点では、snap diagnosisできそうですね。


   そうつながるのか〜 興味深いですね。大変勉強になりました。」


まとめ

・自分が最初に思いついた疾患しか頭にない時は「じゃなかったら??」と自問自答する

→今回はSMA塞栓に飛びついてしまい他の鑑別が疎かになってしまって、食事歴をしっかり聞けなかった


・摘便を人に任せず、自分ですることでたくさんいいことがある


・退院後の腹痛は、食事が重要な情報になる

→お祝いの寿司:アニサキス

 お祝いの脂っこいもの:胆石

0 件のコメント:

コメントを投稿