2021年3月8日月曜日

超高齢者の診療シリーズ 〜意識障害〜

 超高齢者の場合、意識障害がそもそもあるのかどうかの判断が非常に難しいです


そこで有用なのは、もともとのベースとの比較です


小児診療の時に大事なフレーズがここでも生きてきます

「いつもと比べて、どうですか?」


これが超高齢者の診療でも非常に重要です


超高齢者の場合、認知症や脳梗塞の影響で意識レベルのベースは色々です

今、目の前の患者さんが、もともとの意識レベルなのかどうか我々にはわかりません


なので、「意識障害」の有無を確認するために、普段をよく知る人から話を聞きますが、

普段を知る人は、家族とは限りません


月に1度しか会わない家族よりも、ケアマネや訪問看護、ヘルパーさんの方が、

普段の状況をよく知っていることもあります


普段をよく知っている人から、「いつもと様子が違う」ということを聞き出せたら、

今度は具体的に「何が違うのか」を聞き出します

特にADLや食事量、行動、発話量に注目します






「いつもと様子が違う」=「意識障害」ではありません

高齢者の場合、「意識障害」というカテゴリーで考えた方が良いのか、一度立ち止まる必要があります


私たちは、目の前の患者さんのプロブレムを「あるカテゴリー」に入れることで、

そのカテゴリーの中で、診断までアプローチしていきます


胸が重苦しい・・・と言っている患者さんの場合、

我々は「胸痛」というカテゴリーで考え、「心筋梗塞」まで診断していきます


ここにピットフォールがあります


「失神」のカテゴリーで考えていたら、実は「意識障害」だった

「意識障害」のカテゴリーで考えていたら、実は「失語」だった

「認知症」のカテゴリーで考えていたら、実は「高度難聴」だった

「急性の意識障害」のカテゴリーで考えいてたら、実は「慢性の意識障害や認知症(そもそも変化なし)」だった


というように、

「カテゴリー」を入れ間違えてしまうと、我々は診断を誤ります


超高齢者の場合は、意識障害に見えて実は違うカテゴリーのものがたくさんあるので、
実は〇〇じゃないか・・・と自問自答してみてください


よくあるのは、失語や視野障害、難聴の場合に、意識障害と間違えてしまいます




超高齢者の意識障害はかなり非特異的な所見です
正直、これで診断に迫れるかというと難しいです


なぜなら、老年症候群の一症状として出現していることも多く、
脱水や感染、消化管出血、薬、心筋梗塞などでも意識障害が前面に出てくることもあります


つまり、意識障害だけであれば、なんでもありな状態です


そのため、超高齢者の場合の意識障害では特に、+αを探す必要があります


頭か頭以外かを見極めるためには、focal signを探します
arm dropや筋の収縮、トーヌスの左右差を見ることで、軽微な麻痺を見つけることができます


感染症による意識障害かを見極めるためには、発熱に注目しますが、
発熱がないことも多いので、原因不明の意識障害の場合は、感染症を隅々まで探す努力が必要です

そして、他に原因がなければ、血液培養は必ず採取します
抗生剤まですぐに投与するかは、ケースバイケースです


発熱+意識障害で、頭をよぎるのは、髄膜炎や脳炎です
頭の中に思い浮かべるだけでよく、全例に髄膜炎対応をする必要はありません

ただ、どうなったら髄膜炎をより積極的に疑い検査や治療するかは考えておく必要はあります




超高齢者の意識障害で、救急外来のセッティングで行き着く先は、非痙攣性てんかんです

非痙攣性てんかんはよく見ると、小さな震えやぴくつきがみられることが多く、

その目で見ることが重要です



実際の対応


超高齢者診療で大事なことは、結局、よくわからなかったけど、

時間が経ったら治ってしまうことが多い、という事実です


救急外来の対応としては、

①〇〇対応(tPA対応、髄膜炎対応、緊急カテ)や敗血症のような緊急で処置や治療が必要になる疾患を除外する

老年症候群としての意識障害の場合、

胸痛がなくて心筋梗塞だったり、発熱がなくても敗血症ということはよくあります

やや網羅的になるかもしれませんが、緊急事態でないということは確認しましょう


②緊急で対応が必要な疾患ではない場合は「時間」に身を委ねる

緊急で処置や治療が必要な疾患ではなければ、

軸足をどこかに置いて、ゆっくり腰を据えて待ちます


例えば、尿路感染症疑いで脱水傾向もあり、意識障害を起こしていると思われるので、

輸液と抗生剤をして、明日まで待とう

老年症候群の一症状としての意識障害なら、明日には今日よりもよくなっているはずだ

もし、意識障害が遷延するようなら、髄膜炎も考慮して髄液検査も考慮しよう

あとはfocal signは目立たない視床梗塞の可能性もあり、MRIを検討しよう

それらが問題なければ、非痙攣性てんかんの可能性もあり、脳波やセルシンをトライしよう


みたいな感じで待ちます


ただ入院させて時が過ぎていくのではなく、これは時間が解決してくれるはず!という感じで、

受け身の姿勢で待つのではなく、積極的に待つイメージです



まとめ

・超高齢者の意識障害を認識するためには、普段をよく知る人から「いつもと様子が違う」ということを聞き出すことから始める

→次に、普段のADLや行動、食事量、会話内容、発話量が、元々と比べて、何がどう違うかということを聞く


・超高齢者の場合、意識障害だと思ったら、実は〇〇ということがある

→実は失語だった、実は視覚障害や半側空間無視だった、実は難聴だったというのは、

 実は詳細に診察すればわかる


・超高齢者の意識障害の診療は「時間」を意識する

→救急外来では、タイムリミットがあるもの、緊急で対応が必要なものをとりあえず除外する

 入院後は「時間」が経つと、見えてくるものがあり、積極的に待つ


0 件のコメント:

コメントを投稿