2021年6月27日日曜日

朝カンファレンス 〜誰が何に困っているか?イシューからはじめよ〜

 今回の症例は病態も興味深いですが、

外来での考え方、鑑別疾患のあげ方について主に解説していきます




90歳女性の血圧が高い、脈が早いという主訴というか、

開業医の先生からの紹介ですね


ではこの情報だけで何を考えますか?





患者さん本人が血圧が高くて、心配で救急外来受診することはよくありますが、

血圧が高いだけで開業医の先生から紹介されることは稀です


これは「誰が何に困っているか」を考えた方が良さそうです


本人が血圧が高くて困っているのか

ショートステイの施設職員が、血圧が高くて困っているのか

開業医の先生が血圧が高くて困っているのか


まずは問題の本質がどこかを探さないといけません

まさに安宅和人さんが書かれた「イシューからはじめよ」ですね

みなさん読まれましたか?


簡単にまとまっています →  イシューからはじめよ まとめ



簡単にいうと、問題を見つけていきなり解決しようとしないことが大事です

問題の見極めからはじめます



この状況では・・・


高血圧が問題なのか?

脈が早いことが問題なのか?

開業医さんではできない検査をして欲しいのか?

それとも他に器質的な疾患(褐色細胞腫など)があることを心配しているのか?

それとも・・・・


という感じで、このケースの問題の本質を探ることが重要です



みなさん、プロブレムリストあげるようにトレーニングされていますよね

ですが、プロブレムリスト方式の弱点がここにあります


プロブレムリストをたくさんあげて、今後のプランを考えれば万事解決というわけでもありません


プロブレムリストにあがらないことの方が大事だったりします


例えば、

・家族の不安:一人暮らし大丈夫か心配

・薬をどうやって飲ませればいいか

・ショートステイに行くストレスや移動が大変

・開業医の先生の心配

・フレイル進行

・引きこもり


実はこういったニーズに応えることが救急や外来現場では求められています


恥ずかしながら、自分が研修医だった頃はそんなことは全くわからず、

とりあえず医学的に病気を診断して、治療することが絶対の正義だと思っていました


その考え方は間違いではないと思いますが、

今、考えればイシューの選択を間違っていたケースはたくさんあると思います


医学的なトラブルを解決することだけでは片手落ちで、

関係者が抱えている困りごとを解決しなければ、一人前ではないのだと今は思います



この紹介状だけでは本当のイシュー(問題、困りごと)が、どこにあるかわかりません

こういった場合は、話を聞いてみるしかありません


話を聞いた上で、何が最も重要な問題かを探ります



話を聞いてみると、どうやらacute on chronicな病態のようです


chronicな病態は、慢性心不全はありそうです

歩行障害や元気がないことからは、CSDHも鑑別になります


acuteな病態は、心不全の急性増悪なのでしょう

心不全の原因としては、腎不全や高血圧、Af、ACS、貧血などが考えられます






高齢者が具合が悪い時には、

薬剤による影響をまずは考えます


そして大事なことは網羅的に考えることです

心不全+貧血+甲状腺機能亢進症+CSDH+高Ca血症+腎不全など


病態は一つではないことがあります

そういった時の考え方ですが、獨協医大の志水先生が提唱していた

Horizontal-Vertical tracing というものがあります


この考え方は薬剤や疾患の鑑別をあげるときに有用です


薬剤の場合

水平の軸では、NSAIDsに潰瘍予防でPPIが入りますよね

垂直の軸では、NSAIDsで浮腫が出て、ループ利尿薬が入ります

そうするとさらに脱水や腎機能障害につながっていきます


こんな感じで芋づる方式でストーリーが出来上がります

そして高齢者の場合は、線が複雑に網のように絡まっています


臨床推論はこの網を解きほぐすようなイメージです



はい、では症例に戻って診察をしてみましょう





診察をすると、下腿の浮腫と労作時の呼吸苦があるようですね
歩行はwibe baseです

さて、診察した結果で皆様ならこの症例どうマネージメントしますか?




はい、ということで、心不全+αという感じですね
αは腎不全や甲状腺、電解質異常、CSDHなどなんでもありですね

一つの病態に絞らず網羅的に検査が必要な時もあります


その中でも特に見逃したくないのは、ACSやCSDH、頸椎症性頸髄症です


CSDHは高齢者が歩けなくなったり、食欲が減ってきた、
フレイルが進行してきたという多彩なプレゼンテーションできますので、
閾値低めに検査することをお勧めします


そしてCSDHまで思い浮かべたら、頸椎症性頸髄症も鑑別にあげてください

同じようなプレゼンで来ることがあります



いつの間にか転倒しているかもしれません
病歴で転倒歴がないからといって安心はできません

転倒がなくても、CSDHは発症します
特にこの症例はリクシアナ内服しており、硬膜外血腫もあり得ます



さて実際はどうなりましたか?


はい、ということで、
UCGでgranular sparkling signがあり、
そこからググッと心アミロイドーシスへと鑑別が進んでいった感じですね


granular sparkling signを見つけられたことは素晴らしいですね
ただし、心室中隔がきらきらしているように見えることはたまにあります

そして、きらきらしているかな?と思って、技師さんにエコーしてもらっても、
所見としてgranular sparkling signを拾ってもらえないこともあります


何が言いたいかというと、granular sparkling signはやや非特異的な印象を持っています

アミロイドーシスを疑ったのであれば、あとはやることは一緒です
何アミロイドーシスかを探ることです

これは教科書に書いてあるので、みなさん復習してください 笑



今回の症例で気になるのは、心嚢水が著明にあることです
心嚢水から心不全になる場合があり、心嚢穿刺が必要かもしれません


これこそ、「イシューからはじめよ」です

心不全はありそうですが、心不全の原因の根本的な問題はなんなのか?です

正直、心アミロイドーシスはできることが限られますので、早めに診断しても治療は難しいです
ただ、心嚢水による心不全は心嚢穿刺を行わない限り改善しません


今回の症例は、最初から最後まで
イシューの優先度」つまり、
今、この人にとって何が一番の問題なのか?


ということを考えさせられる症例でした


人によって症例の見える風景が異なります


みなさんはどのような風景がみえましたか?



0 件のコメント:

コメントを投稿