2022年10月9日日曜日

臨床は分からないことも多い、だが進まなければならない

 40歳 男性 主訴:蕁麻疹?と痙攣?

(※症例は修正・加筆を加えてあります)


皮疹は結局、よく分からないまま治ってしまうことが多く、

「何だったんだろう〜???」で終わってしまうことがあります


今回の症例のように臨床は分からないことも多いですが、進まなければなりません

その時の進み方が難しい症例でしたね




蕁麻疹と痙攣発作は、あまり聞かない主訴ですね
まず考えることは、アナフィラキシーとショック(痙攣発作)です

ただ、患者さんのいう「蕁麻疹」は真の蕁麻疹ではないことが多いです
患者さんのいう「蕁麻疹」は、「皮疹」くらいに読み取って聞くことが大事です


来院したら「皮疹」が本当に蕁麻疹なのかを確認しましょう




このような症例の場合、病歴(H)と身体所見(P)を順序立ててとるのではなく、
ABCアプローチが重要になります

まずはABCの安定を確認してから、H and Pにうつるのが良いでしょう

ということで、皮疹をみつつバイタルをチェックします


バイタルは問題ありませんでした

痙攣発作のふれ込みでしたが、痙攣発作は止まっており、意識も清明です


血圧がやや高めであり、illegal drugの使用や頭蓋内疾患はないかを考えたくなりますね

ABCは問題なかったので、ゆっくり病歴と身体所見をとります


皮疹をみると「播種状紅斑丘疹(macula-popular eruption)」でした

macula-popular eruptionの鑑別はたくさんあります

病態はこの3つを考えます

①薬剤(重症薬疹、SJS、DIHS)
②感染症(ウイルス、細菌)
③免疫疾患(AOSD、SLE、川崎病など)


ただ、皮疹をみただけでは鑑別は進みません

病歴や他の症状を聞いて進めていきます


よく出会う4つの疾患の鑑別の表を載せておきます










病歴を聞いてみると、最近、蜂に刺されたことがあるようですが、
それ以外には目立った曝露はありませんでした




蜂刺されはLLRという概念を知っておくと、余計な抗生剤を処方しなくてよくなるかもしれません

痙攣発作については、全身の筋肉が硬くなり突っ張ってしまったようです
意識はあり、強直性発作とも違うようです

抗ヒスタミン薬はてんかん発作の閾値を下げて、
小児では痙攣発作が起こりやすいという報告もあります

この方の場合、3剤も抗ヒスタミン薬を内服されているので、
小児ではありませんが、てんかん発作が誘発された可能性もあります








痙攣発作はとりあえず置いておいて、皮疹の鑑別を進めていきましょう


ただ病歴上は皮疹と微熱以外には全く症状はなく、
身体所見上も鑑別が進むような所見はありませんでした

となると、血液に頼るしかありませんが・・・



血液検査でも目立った異常はありませんでした

ここまでの情報をまとめると・・・

生来健康な40歳男性が来院の3日前から出現した皮疹(MPE)と痙攣発作で救急車にて搬送されました

来院時はバイタルは安定しており、痙攣発作は頓挫しており、意識は清明です
ただ発熱と皮疹(MPE)がありました

抗ヒスタミン以外に新規に使用された薬剤はなく、
感染のfocusを示唆する症状や所見はありませんでした

血液検査では軽度の炎症反応高値のみで、好酸球増多や肝酵素上昇、異型リンパ球上昇はありませんでした


情報が出揃ったところで、この後どうしましょう?




色々な意見が出ましたね

皮疹のアプローチは、皮疹+αで考えるのが大事です

有名なのは、fever and rashですね

JHOSPITALIST Networkより

こちらでは・・・

Fever & generalized rashをみたら

 1 shockの有無を確認
 2 2ヶ月以内の薬剤歴を確認 
3 海外渡航歴を確認 
4 性交渉歴を確認
 5 その他のウイルス性疾患の可能性を確認
 6 問診だけでは診断困難な疾患を想起

という流れで解説されています

今回の症例では・・・

 1 shockの有無を確認:なし
 2 2ヶ月以内の薬剤歴を確認:抗ヒスタミン薬のみ(アレグラ®︎) 
3 海外渡航歴を確認 :なし
4 性交渉歴を確認:なし
 5 その他のウイルス性疾患の可能性を確認:発熱と皮疹以外に症状なし、明らかな曝露もなく、特定の感染症を想起できない
 6 問診だけでは診断困難な疾患を想起:??

でした



feverもない場合、一般的な外来で皮疹を見た時の考え方を示します


感染症の三角形と似ていますが、
真ん中に患者さんの背景や全体像があります


部位では皮疹の分布(マクロとミクロ)を考えます

病態では病理をとったらどうなっているかを考えます

そして治療を考えます




参考:誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた



背景:生来健康
 免疫(体内):体外から入った何かが、免疫機序を介して皮膚を攻撃しているパターン?
 曝露(体外):明らかな曝露はない
 余力:全身状態は悪くはない、皮疹以外には微熱、痙攣発作


部位:マクロは顔面、体幹の全身に紅斑丘疹型
   ミクロは表皮は問題なし、真皮の問題

→この時点で「中毒疹」ということができます
 「中毒疹」は病名ではなく、症候群です

病態(病理):MPE型藥疹の病理組織像の特徴は、空砲型の境界型皮膚炎、海面状皮膚炎です
       表皮真皮境界部には空胞変性を認め、真皮浅層の血管周囲に
       リンパ球や組織球、好酸球の浸潤がみられることが多いです
       通常、角化細胞の壊死像はありません
       角化細胞の壊死があると多型滲出性紅斑(EM)の病理像になります

治療:皮疹の原因となった疾患の治療がメインになりますが、
   それが分からない状況です

   被疑薬があればもちろん中止します

   対処療法としては、外用薬と内服薬、点滴があります

   表皮の問題ではないので、外用薬は効果は乏しいでしょう
   今回は真皮の問題であり、内服薬や点滴での治療が望ましいです

   ですが、アレグラ®︎が被疑薬になっており、
   抗ヒスタミン薬でのてんかん発作の可能性も否定できないので、
   使いにくいのが現状です



ということで、原疾患が不明であり、特異的な治療は難しく、
対処療法の抗ヒスタミン薬も投与しにくい状況です

強いて言えば、抗ヒスタミン薬を中止することが治療になるかと思われます


では、dispositionやmanagementはどうしましょうか?

この場合、薬剤性の可能性が下がったので、ウイルス性の可能性が上がっています


<ウイルス性疾患(ウイルス性にみえる細菌を含む)を疑った時の考え方>

①致死的な疾患を考える :SFTS、日本脳炎、出血熱系のウイルス(デング)、腸チフス、リケッチア、レプトスピラ

②感染対策が重要な疾患を考える:新型コロナ、麻疹、風疹、パルボ、水痘、梅毒、HIV
→同居者に妊婦と免疫不全者がいるか
 予防接種歴を確認する
 隔離するのであれば、解除はどのタイミングか

③治療可能なものを考える:水痘、新型コロナ、梅毒、マイコプラズマ、リケッチア、溶連菌、ヘルペス

④すぐに検査できるものを考える:麻疹、風疹、EBV、CMV、パルボ、梅毒、HSV、溶連菌、リケッチア、肝炎ウイルス、HTLV1、HIV

⑤治療できない・検査も容易ではない:エンテロ、エコー、コクサッキー


①は誰しも考えると思いますが、問題は②です

今回の症例は奥さんが妊娠していたため、dispositionやmanagementを迷います

風疹やパルボ、CMVであった場合、
先天性疾患のきっかけになってしまうので、注意が必要です

今、妊娠何週目か?
妊婦さんのワクチン接種歴や抗体価、既往はどうか?
同居しているのかどうか?
他の代替疾患があるかどうか?


などを聴取する必要があります


③に関しては、自然に治ってしまうものも多く、必ずしも治療は必須ではありません

④の検査結果を見てからの治療でもよいと思います

ただ、疑った疾患の検査を全て出すわけにもいきません
病歴や症状から疑わしいものから順に検査していきます

診断する価値があるもの、つまり、practiceが変わるものだけ検査します




今回の症例は結局、入院して皮膚科の先生にコンサルトし、
アレグラを含めた抗ヒスタミン薬は中止となり、
「中毒疹」の診断でジスロマックが導入されました

翌日には皮疹は軽快傾向であり、退院となりました


結局、皮疹がなんであったかは不明で、
マイコプラズマやHSVの抗体は陰性でした
ジスロマックが効いたかも謎です





冒頭に述べましたが、臨床では分からないことも多いのが現実です

ですが、医師は分からないながらに、何かを決めなければなりません

その時の大事な考え方としては、
北海道を目指すのであれば、南にさえ行かなければよい」という考えです


最短距離で北海道を目指す必要はなく、多少間違って東や西へ行ったとしても途中で修正して、北を目指せばよいのです


ですが・・・

極論、南に行ったとしてもよいです


一番やってはならないのは、修正しないことです

「やりっぱなし」はご法度です

南に行ってしまったという自覚があれば、それも情報の一部であり、
診断に有用です


例えば今回の症例であれば被疑薬であるアレグラ®︎の服用を続けることで、
皮疹が悪化してしまうことです

間違って服用させてもよいですが、皮疹が悪化した場合に再考して、
途中で修正することが大事です



CQ、抗ヒスタミン薬で皮疹は出るのか?

出るようですね

特に最近はディレグラ®︎のAGEPが話題のようです

ディレグラには、アレグラも入っているので、
アレグラ®︎だけでもAGEPや皮疹は起こります







アレグラ®︎の添付文書にも蕁麻疹の副作用の記載があります

蕁麻疹に使う薬で蕁麻疹が出るなんて勘弁してほしいですね 笑








まとめ
・臨床は分からないことが多いが、進まなければならない
→「反対側へ進まなければよい、途中で修正すればよい」と考えると、
 一歩を踏み出しやすくなる

・皮疹のアプローチは色々ある
→fever and rashで考える
 三角形で考える

・ウイルス性疾患を疑った時の5つのアプローチ
→①致死的な疾患を考える 
 ②感染対策が重要な疾患を考える
 ③治療可能なものを考える
 ④すぐに検査できるものを考える
 ⑤治療できない・検査も容易ではない


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