40歳 男性 主訴:蕁麻疹?と痙攣?
(※症例は修正・加筆を加えてあります)
皮疹は結局、よく分からないまま治ってしまうことが多く、
「何だったんだろう〜???」で終わってしまうことがあります
今回の症例のように臨床は分からないことも多いですが、進まなければなりません
その時の進み方が難しい症例でしたね
蕁麻疹と痙攣発作は、あまり聞かない主訴ですね
まず考えることは、アナフィラキシーとショック(痙攣発作)です
ただ、患者さんのいう「蕁麻疹」は真の蕁麻疹ではないことが多いです
患者さんのいう「蕁麻疹」は、「皮疹」くらいに読み取って聞くことが大事です
来院したら「皮疹」が本当に蕁麻疹なのかを確認しましょう
このような症例の場合、病歴(H)と身体所見(P)を順序立ててとるのではなく、
ABCアプローチが重要になります
まずはABCの安定を確認してから、H and Pにうつるのが良いでしょう
ということで、皮疹をみつつバイタルをチェックします
バイタルは問題ありませんでした
痙攣発作のふれ込みでしたが、痙攣発作は止まっており、意識も清明です
血圧がやや高めであり、illegal drugの使用や頭蓋内疾患はないかを考えたくなりますね
ABCは問題なかったので、ゆっくり病歴と身体所見をとります
皮疹をみると「播種状紅斑丘疹(macula-popular eruption)」でした
macula-popular eruptionの鑑別はたくさんあります
病態はこの3つを考えます
①薬剤(重症薬疹、SJS、DIHS)
②感染症(ウイルス、細菌)
③免疫疾患(AOSD、SLE、川崎病など)
ただ、皮疹をみただけでは鑑別は進みません
病歴や他の症状を聞いて進めていきます
よく出会う4つの疾患の鑑別の表を載せておきます
病歴を聞いてみると、最近、蜂に刺されたことがあるようですが、
それ以外には目立った曝露はありませんでした
蜂刺されはLLRという概念を知っておくと、余計な抗生剤を処方しなくてよくなるかもしれません
痙攣発作については、全身の筋肉が硬くなり突っ張ってしまったようです
意識はあり、強直性発作とも違うようです
抗ヒスタミン薬はてんかん発作の閾値を下げて、
小児では痙攣発作が起こりやすいという報告もあります
この方の場合、3剤も抗ヒスタミン薬を内服されているので、
小児ではありませんが、てんかん発作が誘発された可能性もあります
痙攣発作はとりあえず置いておいて、皮疹の鑑別を進めていきましょう
ただ病歴上は皮疹と微熱以外には全く症状はなく、
身体所見上も鑑別が進むような所見はありませんでした
となると、血液に頼るしかありませんが・・・
血液検査でも目立った異常はありませんでした
ここまでの情報をまとめると・・・
生来健康な40歳男性が来院の3日前から出現した皮疹(MPE)と痙攣発作で救急車にて搬送されました
来院時はバイタルは安定しており、痙攣発作は頓挫しており、意識は清明です
ただ発熱と皮疹(MPE)がありました
抗ヒスタミン以外に新規に使用された薬剤はなく、
感染のfocusを示唆する症状や所見はありませんでした
血液検査では軽度の炎症反応高値のみで、好酸球増多や肝酵素上昇、異型リンパ球上昇はありませんでした
情報が出揃ったところで、この後どうしましょう?
色々な意見が出ましたね
皮疹のアプローチは、皮疹+αで考えるのが大事です
有名なのは、fever and rashですね
JHOSPITALIST Networkより
こちらでは・・・
Fever & generalized rashをみたら
1 shockの有無を確認
2 2ヶ月以内の薬剤歴を確認
3 海外渡航歴を確認
4 性交渉歴を確認
5 その他のウイルス性疾患の可能性を確認
6 問診だけでは診断困難な疾患を想起
という流れで解説されています
今回の症例では・・・
1 shockの有無を確認:なし
2 2ヶ月以内の薬剤歴を確認:抗ヒスタミン薬のみ(アレグラ®︎)
3 海外渡航歴を確認 :なし
4 性交渉歴を確認:なし
5 その他のウイルス性疾患の可能性を確認:発熱と皮疹以外に症状なし、明らかな曝露もなく、特定の感染症を想起できない
6 問診だけでは診断困難な疾患を想起:??
でした
feverもない場合、一般的な外来で皮疹を見た時の考え方を示します
感染症の三角形と似ていますが、
真ん中に患者さんの背景や全体像があります
部位では皮疹の分布(マクロとミクロ)を考えます
病態では病理をとったらどうなっているかを考えます
そして治療を考えます
参考:誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた
背景:生来健康
免疫(体内):体外から入った何かが、免疫機序を介して皮膚を攻撃しているパターン?
曝露(体外):明らかな曝露はない
余力:全身状態は悪くはない、皮疹以外には微熱、痙攣発作
部位:マクロは顔面、体幹の全身に紅斑丘疹型
ミクロは表皮は問題なし、真皮の問題
→この時点で「中毒疹」ということができます
「中毒疹」は病名ではなく、症候群です
病態(病理):MPE型藥疹の病理組織像の特徴は、空砲型の境界型皮膚炎、海面状皮膚炎です
表皮真皮境界部には空胞変性を認め、真皮浅層の血管周囲に
リンパ球や組織球、好酸球の浸潤がみられることが多いです
通常、角化細胞の壊死像はありません
角化細胞の壊死があると多型滲出性紅斑(EM)の病理像になります
治療:皮疹の原因となった疾患の治療がメインになりますが、
それが分からない状況です
被疑薬があればもちろん中止します
対処療法としては、外用薬と内服薬、点滴があります
表皮の問題ではないので、外用薬は効果は乏しいでしょう
今回は真皮の問題であり、内服薬や点滴での治療が望ましいです
ですが、アレグラ®︎が被疑薬になっており、
抗ヒスタミン薬でのてんかん発作の可能性も否定できないので、
使いにくいのが現状です
ということで、原疾患が不明であり、特異的な治療は難しく、
対処療法の抗ヒスタミン薬も投与しにくい状況です
強いて言えば、抗ヒスタミン薬を中止することが治療になるかと思われます
では、dispositionやmanagementはどうしましょうか?
この場合、薬剤性の可能性が下がったので、ウイルス性の可能性が上がっています
<ウイルス性疾患(ウイルス性にみえる細菌を含む)を疑った時の考え方>
①致死的な疾患を考える :SFTS、日本脳炎、出血熱系のウイルス(デング)、腸チフス、リケッチア、レプトスピラ
②感染対策が重要な疾患を考える:新型コロナ、麻疹、風疹、パルボ、水痘、梅毒、HIV
→同居者に妊婦と免疫不全者がいるか
予防接種歴を確認する
隔離するのであれば、解除はどのタイミングか
③治療可能なものを考える:水痘、新型コロナ、梅毒、マイコプラズマ、リケッチア、溶連菌、ヘルペス
④すぐに検査できるものを考える:麻疹、風疹、EBV、CMV、パルボ、梅毒、HSV、溶連菌、リケッチア、肝炎ウイルス、HTLV1、HIV
⑤治療できない・検査も容易ではない:エンテロ、エコー、コクサッキー
①は誰しも考えると思いますが、問題は②です
今回の症例は奥さんが妊娠していたため、dispositionやmanagementを迷います
風疹やパルボ、CMVであった場合、
先天性疾患のきっかけになってしまうので、注意が必要です
今、妊娠何週目か?
妊婦さんのワクチン接種歴や抗体価、既往はどうか?
同居しているのかどうか?
他の代替疾患があるかどうか?
などを聴取する必要があります
③に関しては、自然に治ってしまうものも多く、必ずしも治療は必須ではありません
④の検査結果を見てからの治療でもよいと思います
ただ、疑った疾患の検査を全て出すわけにもいきません
病歴や症状から疑わしいものから順に検査していきます
診断する価値があるもの、つまり、practiceが変わるものだけ検査します
今回の症例は結局、入院して皮膚科の先生にコンサルトし、
アレグラを含めた抗ヒスタミン薬は中止となり、
「中毒疹」の診断でジスロマックが導入されました
翌日には皮疹は軽快傾向であり、退院となりました
結局、皮疹がなんであったかは不明で、
マイコプラズマやHSVの抗体は陰性でした
ジスロマックが効いたかも謎です
冒頭に述べましたが、臨床では分からないことも多いのが現実です
ですが、医師は分からないながらに、何かを決めなければなりません
その時の大事な考え方としては、
「北海道を目指すのであれば、南にさえ行かなければよい」という考えです
最短距離で北海道を目指す必要はなく、多少間違って東や西へ行ったとしても途中で修正して、北を目指せばよいのです
ですが・・・
極論、南に行ったとしてもよいです
一番やってはならないのは、修正しないことです
「やりっぱなし」はご法度です
南に行ってしまったという自覚があれば、それも情報の一部であり、
診断に有用です
例えば今回の症例であれば被疑薬であるアレグラ®︎の服用を続けることで、
皮疹が悪化してしまうことです
間違って服用させてもよいですが、皮疹が悪化した場合に再考して、
途中で修正することが大事です
出るようですね
特に最近はディレグラ®︎のAGEPが話題のようです
ディレグラには、アレグラも入っているので、
アレグラ®︎だけでもAGEPや皮疹は起こります
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