2023年5月23日火曜日

ある日の在宅とグラム染色 前半

<ある日の在宅診療 〜なんだかいつもと違う〜>


自分が在宅診療に行く日は、雨が降っていることが多いです
この日も大雨が降っていました

16時半 すでに約束の時間が過ぎており、ご家族から病院に連絡があり
先生はまだ来ませんか?と催促が入る

交換を通して、「もう着きました!」と答える自分
診察前からやや焦っていたと振り返って思う

自宅に入ると、診療後に入るはずの訪問入浴の人が揃っていた
もうお風呂の準備しますよ、と言わんばかりにこちらを見ている

プレッシャーを感じながら、患者さんの診察を始める

「〇〇さん、こんにちは。遅くなってすいません。
 先週、ワクチンで注射した時はお元気そうでしたね。
 先日、会ったばかりなので、大丈夫ですよね?変わりありませんか?」

と矢継ぎ早に話しかける自分

「・・・・はい」



あれ?

いつもと違って反応が鈍い

旦那さんからは、「ワクチン打っていただきありがとうございました」と言われるが、
そんなことよりも、本人の様子がなんだかおかしい


顔色が悪い・・・


血圧や酸素を測ろうと橈骨動脈や末梢を触ると、橈骨動脈の触れが弱い
そして、じっとり汗をかいている


あれ?具合悪そうだ


橈骨動脈は何度もICUに入りAラインをとってぼろぼろになってしまったので、
触れが弱いことはいつものことだと知っているが、本当に血圧大丈夫か?



バイタルは体温36度、血圧125/80、脈80、呼吸数は早くはない

酸素はうまく測定できない・・・機械の問題か?


反対の手で訪問入浴の方が測ってくれると99%とれた


目をつぶっている本人にもう一度、話しかけてみる

「汗、びっしょりかいてますね?具合悪いですか?」

本人は別に・・・と、痛いところもないとのことであった



みると、暑い日にもかかわらず、毛布と布団がかぶっていた

急いで毛布をはぎ取ってあげる

毛布をかぶっていて、汗をかいてしまって、脱水になったのであろうか?

(だといいな・・・)と心の中で思う

脱水であってくれと思う


暑いとはいっても、雨も降っており、そんなに暑くなかったと振り返る

こうあって欲しいバイアスは恐ろしいものだ・・・





診察しても呼吸音は問題なく、腹部にも圧痛はなく、
関節や皮膚所見も問題なし mottlingもなし


診察中にも訪問入浴の人たちは、部屋の中のベッドの横に、
即席の浴槽をこしらえ、お湯を入れはじめている



そういえば、これからお風呂に入るのだ



いやいや、ちょっと待って・・・


この状態で入っても大丈夫か?


「旦那さん、なんだか〇〇さん、具合悪そうですけど、
 熱とかなかったですか?」

「熱は全然なかったですね」


「痰多くなかったですか?」

「昨日は少し口から取りましたけど、いつもと同じくらいです」


「そうですか・・・」


他のROSを聞いても、下痢や腹痛、吐き気、嘔吐はないとのこと
いつもと同じバイタルで、会話もなんとかできる状態


うーん・・・と悩んでいる自分に旦那さんが、


「昨日、ショートステイから帰ってきましたが、
 ただいまーと元気そうに帰ってきましたよ。
 大丈夫だと思いますがね。」


うーん、本当に大丈夫なのであろうか・・・


頸静脈をみると、外頸静脈すら見えない
臥位でも虚脱している

脱水・・・血管内hypoであろう



「旦那さん、脱水は間違いなくありそうなので、
 水分は補ってあげましょう。」


末梢の点滴は非常に取りにくく、
すぐにできることとしては、胃瘻からの水分補給と塩分補給だった


急いで胃瘻から水分300mlと塩分3gを入れてあげた

そうすると、少し元気を取り戻し、顔色もよくなってきた

これなら、短時間のシャワーくらいなら良いかと思い、シャワーだけは許可した


隣の部屋で旦那さんと雑談するが、本人の様子が気になって仕方なくて、
会話の内容が頭に入ってこない




さて、この後どうしよう・・・・


状況を整理すると、バイタルは問題なさそうだが、なんとなく具合が悪そう

「なんとなく具合が悪い」を言語化すると、

顔色がいつもより悪い
末梢が冷たく、汗をかいていた
血管内はhypoが疑われる


以前、同じように傾眠の状況で低Na血症だった
CO2ナルコーシスにもなったことがある
誤嚥性肺炎だったこともある




そうだ

採血しよう


採血するつもりはなく、スピッツを持ってこなかったが、
普通は往診バックに入っている


今すぐ救急車を呼ぶような状況ではないが、

採血の結果によっては入院した方が良い状況かもしれない


(病院にいれば、採血はすぐに思いつくが、在宅診療だとつい忘れてしまう・・・)



シャワーが終わった本人に断りを入れて、採血させてもらう
腕の血管は全くないので、やむなく動脈採血


何度、この患者さんから動脈採血したか分からないが、
全く痛がらないのが、逆に怖いといつも思っていた


この日も全く痛がらない
具合が悪いのであろう・・・


採血の色は、薄い赤色ではなかった
凄まじい貧血の人は採血の色で貧血がわかるが、
著明な貧血ではなさそうな色であった


さて、病院へ戻って採血を出すことにしよう

何が出るか・・・







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