2023年5月23日火曜日

ある日の在宅とグラム染色 〜後半〜

 採血結果が出た


WBCが26000もある、CRPは8


それ以外は目立った異常はない


やはり感染症、それも敗血症になっているのであろう

focusは誤嚥性肺炎か、尿路感染症か


すでに夜になってはいたが、旦那さんに結果をお伝え

「採血の結果は、炎症反応の値が高く、何らかの感染症を起こしているものと思われます。

 誤嚥性肺炎や尿路感染症が疑われますが、これ以上は詳しく検査してみないとわかりません。

 具合も悪そうでしたので、できれば入院で調べて治療した方がよいかと思います。

 今の具合はいかがでしょうか?」



「さっきと変わりないです。血圧や酸素の値も同じです。

 普通に会話もできます。

 救急車呼んだりはしたくないって本人も言ってますね。

 この時間だから、介護タクシーもないので、このまま家で様子みたいです」



うーん・・・困った


〇〇さんは長期入院歴があり、痰や尿からは多剤耐性菌が検出されまくっている


抗生剤治療になると、ブロードに点滴で治療しないといけない


だが、本人の意思表示もできており、バイタルがいい状況では病院受診は拒否される



今日抗生剤を入れないと急変する、と直感したので、

やむなくキノロンの内服を処方した


明日、血圧が100をきったり、意識の状態が悪くなったり、

酸素の値が下がってきたら、救急車よんで病院にいきましょうねとお伝え



翌日、やはり血圧が90台になった

訪問看護も診てくれて、病院受診の方針となった


「先生の言った通りになった。やっぱり早めに行かなきゃだめだね。これから病院行きます」と旦那さん


そして介護タクシーを使い救急へ


病院到着後、血圧低めは相変わらずであり、すぐに血液培養や尿培養、痰培養を採取し、

輸液や抗生剤の点滴が開始となった


幸い輸液のみで血圧は上がってきた


採血ではWBCは18000まで低下しており、クラビットが多少効いている印象であった


そして熱源評価のためCTへ

CTでは膀胱は張っているが、それ以外に熱源となるような部位はなし


尿は膿尿、細菌尿であり、やはり尿路感染症が疑わしいか



ん?



よくよくみると、これ膀胱じゃない



これは子宮の中だ


なるほど、子宮留膿腫だ!



改めて腹部診察しても全く痛みの訴えはなし


子宮留膿腫はほとんどが無症状である

発熱はあっても尿路感染症と間違えられることで有名だが、やはり間違いそうになった


急いで産婦人科のDrにドレナージを依頼


経膣ルートにて1Lの大量の排膿を認めた


膿は異臭を放ち、いかにも嫌気性菌がいそうな膿であった




大量に膿がドレナージされると、

本人は元気になって顔色も良くなった


「先生、ありがとね」


という口癖のいつもの〇〇さんに戻っていた





Take home message

・バイタルがよく見えても、具合が悪そうな時は何かがおかしい

→自分の直感を信じる


・多分こうだろう・・・バイアスに負けない

→自分の頭の中に「楽観的に考える小人」が登場したら、危ないサイン


・子宮留膿腫は病歴や診察ではfocus不明だが、画像で一発

→大きいと膀胱と間違えられる

 画像を見間違うと、尿路感染症と誤診される


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