NEJM の「 Going Down the Rabbit Hole」のCPSを読みました
最後まで読んでわかりましたが、タイトルが秀逸ですね
title based medicineでいくと野兎病です 笑
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症例は8歳の女の子です
12日間続く発熱、咽頭炎、頚部リンパ節炎で
Nantucketからボストンの病院に転院となりました
時期は夏です
溶連菌の迅速検査やモノスポット(EBVの迅速検査)、ライム病の抗体は陰性でした
細菌感染が疑われ、アモキシシリンが使われましたが解熱せず、
ダニ介在性疾患を疑われ、ドキシサイクリンが処方されました
それでも改善せず、扁桃膿瘍の可能性を疑われ、デキサメサゾンが投与されました
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やたらとNantucket(マサチューセッツ州の近くの島)や夏であることを意識させていますね
地域の風土病を想起して下さいといっているような気がします
モノスポット検査は日本では馴染みはありませんが、
StatPearls にも解説がのっていますね
EBVのIMの診断補助のために使われるようですが、日本では使えません
4歳以上では感度70-90%、特異度は95-100%と非常に高いですが、
サイトメガロウイルス、HIV、風疹、単純ヘルペス、他のウイルス、リンパ腫でも
偽陽性の報告はあります
4歳未満では感度27-76%と低いので使えません
この検査は血液サンプルを採取する時期によっても感度は異なり、
発症2〜6週の間にピークとなります
つまり発症から1-2週で検査された場合は、偽陰性率が高くなります
ということで、
この症例では発症からまだ4日目でモノスポットの検査をしているので、
陰性では何も除外できません
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その後、ステロイドが切れた後、発熱が再燃し頭痛も出てきました
両側の扁桃炎や滲出物があり、両側の頚部リンパ節が腫れています
白血球は25000と上昇しており、好中球優位です
CTでは扁桃周囲の浮腫が見られ、両側の軟部組織が腫れていました
頚部リンパ節は2.4cmと腫脹しています
アンピシリン・スルバクタムが一回だけ投与され、
クリンダマイシンに変更となり入院となりましたが、
扁桃周囲膿瘍の可能性があり、外科的処置の必要性が出てきたため転院となりました
患者はワクチン接種が不完全であり、
特にジフテリアを含めたTdapは1回しかうたれていませんでした
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GASの咽頭炎は今の日本でもとても流行していますね
GASの咽頭扁桃炎が最も多いので治療としては適切かと思われますが、
扁桃炎の改善が見られません
明らかに細菌感染症が疑われるものの、抗菌薬で改善がない場合は、
抗菌薬が当たっていないか、移行性の問題か(膿瘍、前立腺、髄液)
抗菌薬の投与経路や量の問題か、
病気の影響(治療効果が出るのが遅い)か、
基礎疾患の影響(免疫不全)か、考えます
今回であれば菌の同定のための検査は行われていますが、菌がわかっていません
治療的診断のためでしょうか・・・
エンピリックに治療が開始となっています
すでに何剤も抗菌薬が入ってしまっていて、
何が何だかわからなーい・・・と嘆くのではなく、
このスペクトラムで外している菌を考えれば良いんだ!とポジティブに考えましょう
もしくは、細菌ではない微生物か、非感染症かですね
抗菌薬がたくさん入った時のイメージは100-〇〇を延々としているような感じです
100-アモキシシリン=60
60-ドキシサイクリン=20
20-アンピシリン・スルバクタム=10
10-クリンダマイシン=8
これで外していている菌は・・・何なのでしょうね
結核くらいしか思いつきません 笑
ドキシが効いていそうな気もしますが、投与期間が短かったので
ドキシでカバーできている菌が除外できているわけではないと思います
例えば、マイコプラズマ、野兎病、猫引っ掻き病など
本症例ではジフテリアのワクチン接種が完了しておらず、
ジフテリアの懸念があります
ジフテリアは日本での報告は稀ですが、
海外(特にワクチン未接種地域)では発生しています
ジフテリアはCorynebacterium diphteriaeですが、
Corynebacterium pseudotuberrculosis、Corynebacterium ulceransもヒトに病原性を持っています
そしてこれらの菌は、偽膜形成するジフテリア様症状を引き起こします
中でも本邦で注意しなければならないのは、Corynebacterium ulceransです
近年、Corynebacterium ulceransの症例報告が欧米や日本から相次いでいます
特に50歳以上になると、ジフテリア抗体値の低下が認められ、
Corynebacterium ulceransの感染の原因と考えられています
またCorynebacterium ulceransはペットの飼育歴が特徴的です
猫の飼育歴が多いので、
猫を飼っている人の咽頭炎を見たらCorynebacterium ulceransを疑うことが大事です
頚部リンパ節腫脹や発熱なら、猫引っ掻き病を疑います
Corynebacterium ulceransはマクロライド系やペニシリン系での治療が行われます
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その後も発熱や頚部痛、頭痛、咽頭痛は持続しました
CTではドレナージが必要な部位はなく、
転院後のチームのメンバーの見解は、単純な細菌性の咽頭炎やIMのような印象でした
CTでは脾腫がありました
EBV,CMV,SARS cov2,adeno,Anaplasma,末梢血のスメア検査が行われましたが陰性でした
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流石にここまでくると、細菌感染症ではないのでは?と思いたくなります
かといって、めぼしいウイルスでもなさそうなので、
自己免疫性疾患や腫瘍性病態を疑いたくなります
つまり、リンパ節生検をいつ行うか?ということが主眼になってきます
奇しくも、日本人の名前がついた川崎病と菊池病が疑われる状況です
川崎病は5歳未満がほとんどでありますが、稀には5歳以上にも発生します
非典型例もあるので川崎病の診断は難しい時があります
冠動脈瘤という重大なアウトカムがあるので閾値低めに治療や検査が行われます
今回の症例でもUCGや腹部のUSで胆嚢水腫の有無が確認されていましたが、
問題ありませんでした
川崎病は画像検査にて咽頭後壁の滲出液や浮腫が見られることがあります
咽後膿瘍と間違えそうになるような画像もありますので、
知っておいた方が良いでしょう
川崎病ではなさそうであれば、菊池病を狙って、
ついにリンパ節生検か?と思われますが、大事な情報が抜けています
病歴です
感染症の三角形の一番大事なものは何だったでしょうか?
真ん中の患者背景です
患者背景は3つに分けられます
免疫と曝露と余力です
曝露歴が今回の症例では、全然出てきていません
ということで、生検する前に(というか最初から)
もっと病歴を聴取をして下さい 笑
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追加で病歴をとると、
トカゲや犬を飼っていた
6ヶ月以内でのニューイングランドより外の旅行はなかった
家の周りにたくさんの兎が死んでいたのを彼女の親が気づいていた
そして、彼女は家の外で過ごすことが多かった
夏にはダニに何度も噛まれていた
彼女の家の水は井戸水からきている
Nantucketに旅行に行った時に彼女は自然の泉の水を飲んでいた
という曝露歴があったため、野兎病を疑いゲンタマイシンを投与した所、
症状は改善し、抗体価も上昇していたため、野兎病の診断がついた
最終診断:oropharyngeal tularemia
(口咽頭型の野兎病)
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きましたね〜
今回の症例は野兎病でした
個人的に今回の症例の学びポイントをあげてみます
・稀な細菌性咽頭炎の起因菌を挙げられるようにしておく
common:GAS、マイコプラズマ、フゾバクテリウム
rare:Arcanobacterium. haemolyticum、ジフテリア、
Corynebacterium ulcerans、
マイコプラズマ・ウレアプラズマ、淋菌、梅毒、
野兎病、ペスト
→考え方は曝露歴:動物曝露や海外渡航歴、人(性行為)で分ける
抗菌薬のスペクトラムで分ける考え方もあり
実際はGASの頻度が多いので、まずはGASとして治療
サワシリンの効果がなかった時に、
扁桃周囲膿瘍を懸念して、造影CTを撮影することになる
膿瘍がなかった場合、嫌気のカバーにいくか
DOXYやマクロライド、キノロンを使ってマイコのカバーにいくのか悩むところ
やはりその分岐点は病歴や流行状況にかかっている
サワシリン以外の抗生剤を使う時には、
咽頭培養やマイコの検査は行っておいた方が良いであろう
・アンピシリン・スルバクタムやクリンダマイシンで効果がない細菌性咽頭炎として、
マイコプラズマ(ウレアプラズマ含む)
結核
野兎病
今回はドキシサイクリンが中途半端に入ったので、ややこしくなりました
日本だとキノロンがすぐに入ってしまうので、全てカバーされてしまいます💦
・壊死性リンパ節炎を来すのは菊池病だけではない
感染症であれば、結核、猫ひっかき病、野兎病を考える
リンパ節生検前には、必ず鑑別にあげておく
・野兎病の第一選択はゲンタマイシン!
軽症例での他の選択肢はフルオロキノロンやドキシサクリン
治療期間は治療反応性がよければ、
10日間のゲンタマイシンやシプロキサシン
CDCではドキシイクリンの治療失敗例が
フルオロキノロンに加えて多いので、
ドキシを使う時は14-21日間を推奨しています
・治療反応性が悪い時は治療までに時間がかかっていることが多いです(特に16日以上)
その場合は外科的な処置(デブリやドレナージ)が必要なことがあります
・気候変動によって疾患を媒介する動物や昆虫の生活域に影響を与えています
ダニ関連疾患や動物由来感染症の発生場所や発生率が変化しています
今回鑑別に出てきたCorynebacterium ulceransや
野兎病、猫ひっかき病、ペストは動物由来感染症です
いかがでしたでしょうか
治らない咽頭炎に対して、多くの抗菌薬と検査を行ってきましたが、
最後は病歴一本で診断!という、非常に教育的な症例でした
最後まで読んでから、タイトルに戻ってみると秀逸なタイトルだと思いませんか?
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